[コラム]2017.8.7

一歩進めたビール雑学(2) フランスをビール大国でなく、ワイン大国にしたのは誰!?

「フランスからイメージするお酒って何ですか?」と聞かれたら、恐らく多くの方がビールではなく、ワインと答えるでしょう。実際に、一人当たりのワイン消費量を見てみると、ワイン大国であることがわかります(図1参照)。他の国に比べて、圧倒的にワインを飲んでいます。また、他国は、ワインよりもビールを飲んでいることを考えると、本当にワインが好きなお国柄だということがわかります。

図1 フランス、ドイツ、アメリカ、日本の1人当たりの年間消費量

「ブドウが取れる地域はビールでなく、ワインが流行るのでは?」との声が聴こえてきそうですが、そう単純な話でもありません。
図2にワインベルトというブドウの栽培に適した場所を示しますが、アメリカも日本もワインベルトに属しています。この両国はブドウが取れますが、図1を見る限り、どちらかというとビール優勢です。したがって、ブドウが取れるからワイン大国とはならないのです。

図2 ワインベルト(赤紫の網掛け部)。ブドウの生育に適した地帯を示している

さらに、歴史を紐解くと、フランスはビール大国になっても全くおかしくないのです。今回は、フランスとワイン、ビールに関する雑学を一歩進めてみたいと思います。

フランスはビール好きなゲルマン系部族が作った国

現在のフランスがある地域は、元々ガリアと呼ばれる土地で、ガリア人、ケルト人の住んでいた土地でした。その後、ローマのユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)に征服され、ローマ帝国の属州になります。
ローマでは、ワインがもともと好まれ、また、ワインはキリストの血であると考えるキリスト教が普及していたので、ガリア地域の人(ガリア人、ケルト人など)も次第にワインを飲むことが文化となっていきました。
したがって、この時点のガリアがそのままフランスになったのなら、フランスがワイン大国になるのも頷けます。
しかし、実際はそう単純ではないのです。
現在のフランスの骨格ができたのは、5世紀のことで、ゲルマン人系の一部族、フランク族のクローヴィスがフランスの基礎となる国を作ります。その後、若干の紆余曲折を経て、8世紀に、ビールファンにはお馴染みのカール大帝(シャルルマーニュ)の治世により、大王国となります(図3参照)。その領土は、現在のフランス、ドイツ、イタリアを集めたほど大きなものでした。
つまり、フランスはワインが好きなガリア人が作った国ではなく、ビールが好きなゲルマン人系のフランク族が作った国なのです。
カール大帝と言うとドイツだけの王様に思えますが、実際には、フランス、ドイツ、イタリアの王様なのです。歴史の教科書では、フランス名のシャルルマーニュと呼ばれることも多いくらいです。

図3 カール大帝が治めたフランク王国の領土(緑の網掛け部)。現在のフランス、ドイツ、イタリアにまたがる広大な王国だった

そして、このカール大帝こそ、ビールを振興したと言われている人物です。
「封建化が進む中世ヨーロッパで、カール大帝の出した荘園令により、各荘園はビール醸造所を設置しなくてはならなくなり、ワインより低く見られていたビールのヨーロッパにおける地位が向上した」
これは、非常に有名なカール大帝にまつわる雑学です。
ビール好きなゲルマン民族が作ったフランス。ビールを推奨するカール大帝が統治するフランス。そのまま行けば、ワイン文化が駆逐され、ビール大国になってもおかしくありません。
実際、ゲルマン民族がヨーロッパに大移動した4世紀から6世紀は多くのブドウ園が放棄され、ヨーロッパではワインが作られなくなりました。ワイン文化にとっては暗黒の数百年だったのです。
では、フランスはどうしてビール大国にならなかったのでしょうか?

救世主あらわる!?

そんなガリアのワイン文化の危機を救った救世主的人物がいたのです。
それは、他でもない「カール大帝」です。
なんと!
灯台下暗しといった事実です。
カール大帝は、ビールも奨励しましたが、実は、ワインも再生させたのです。荒廃したブドウ園を立て直し、ワイン醸造も奨励したのです。
カール大帝は、ビールだけでなく、ワインにとっても偉大な人物だったのです。
カール大帝の寛大な政策により、ワイン文化が主流な土地はワインを、ビール文化が主流の土地はビールを飲むようになっていきます。
もともと、ガリア地域に入ってきたゲルマン人は、統治を行う人々だけで、人口の5%程度と言われています。したがって、フランク王国ができた後も、現在のフランスに当たるガリア地域の人々はラテン系のガリア人たちが主流でした。カール大帝が、ワインを保護すれば、元々ワイン文化を作ってきたガリア人はワインに戻っていきます。こうして、フランスはローマ以来のワイン文化を継続し、ワイン大国になったのです。一方、同じフランク王国と言えど、ゲルマン民族が主流のドイツはビール文化になっていきます。

ここで、一歩進めた雑学です。
「フランスをワイン大国にしたのは、意外にも、ビールを振興した、カール大帝だった」

何か逆説的なものを感じますね。
ビール、ワインを振興したカール大帝は、フランク王国の最盛期を築いただけでなく、ヨーロッパのお酒の文化に多大な影響を与えた偉大な人物と言えるでしょう。カール大帝は、トランプのハートのキングでも知られています。トランプのハートのキングを見るたびに、何か感慨深い思いを抱きそうです。

実はフランスビールも凄いんです!

これまで述べたように、フランスはワイン大国です。しかし、フランスにも美味しいビールはいっぱいあります。フランスビールを専門に扱っている「F.B.JAPON」という会社もあります。この記事をキッカケにフランスビールに興味を持っていただけたなら、ぜひ飲んでみてくださいね!

*)本記事は、著者が書籍、Web記事等を独自調査し、事実と考えられている事をまとめたものです。学会等の定説になっているわけではございません。また、著者の若干の推察が入っている部分もございます。

カール大帝シャルルマーニュフランスビール雑学

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

小川 雅嗣

ビアジャーナリスト/ビール研究家

1966年、東京生まれ。これまでずっと企業の研究員として過ごしている。
ビールの好きなところは、美味しいところ、自由で多様で何でもありな懐の深いところ、そして、飲むとみんなが笑顔になるところ。そんなビールには、まだまだいろいろな楽しみ方、美味しさがあるのではないかと思っていて、ビールについて疑問に思ったことを調べたり、思いついたことを試したりする中で、ビールの楽しさが伝えられるといいなと思っている。
人生やりたいことは、とにかく全部やろうと思い、ビアジャーナリストに。その他、音楽、映画、小説などの活動も、大したレベルではないが、いろいろやっている。

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