[イベント,ブルワー]2017.12.19

ガチンコ勝負の舞台裏

 もう何年も昔のように感じるのだが、あれは今年の1月だった。ジャパンブルワーズカップの審査を手伝うというボランティアに参加していた私はバックヤードの膨大な雑務にぽかんと口を開けたまま立ち尽くしていた。

 ご存じない方のために説明すると、ジャパンブルワーズカップとはビアコンペティションとビアフェスを融合したイベントだ。通常、審査会のようなスタイルではビアジャッジなど評価をするに値するとされる舌を持っていると認められた多数の有資格者や評価に実績のある人が審査を行う。よりビアスタイルとして正しい姿を追求するというストイックな審査方法だ。しかし、このジャパンブルワーズカップにおいては評価するのは作り手たちだ。作り手たちが上手いと思うビールが入賞するのだ。ビアスタイルから色や香りなどが多少規格外でも美味しいと思うビールをガチンコで相対評価し、選ぶ。どちらがいいとか悪いとかではない。色々な評価方法があることが業界の健全さを物語っているのだということも飲み手として知っておかなくてはいけない。
 そうは言っても作り手たちは顔見知りばかりである。多少の「忖度」が働くものだろうと思い、どこまで「忖度」しているのかを見極めようといういやらしい根性丸出しで私はボランティアに応募した。審査会場からビールを置いてあるバックヤードまで20メートルほど。大きな声を出せば聞こえないわけではない。「次、〇〇ビール出します。」とでも叫べば充分「忖度」することは可能だ。
 しかし、その期待にも似たやじうま根性はすぐに消え去った。100種類以上もある樽やボトルがスタイルごとに通し番号が振られて床に置かれている。ボランティアスタッフは15人ほどいただろうか。そのうちのほんの数人だけが審査に出すビールを把握している。その人たちの指示に従い樽をつなぐ人、提供用のプラカップを用意する人、繋いだ樽からビールを注ぐ人、注がれたビールを提供用のウエイティングテーブルに運ぶ人、審査員にビールを運ぶ人、審査の終わったビールのプラカップを回収する人、審査の終わった樽をサーバーから外して洗浄する人…。一人が何役もこなさなくてはいけない。

樽に躓かないようにするだけで一苦労


しかも、予選では6種類のビールを審査員に一斉に提供すべく全員が同時に作業を開始するので、自分以外のだれが何の作業をしているのかを見極めて動かなくてはならない。そんなカオスな状況の中でほとんどの運ぶ人は目の前のビールが何であるかもわからないままに審査員のもとに「Aのビールです」、「次のBのビールです」と間違えないようにアルファベットで配布順を口に出して運んでゆく。もちろん、注いでいる樽のそばに行って銘柄を確認することは可能だが、そこかしこで「早くして!」という怒号が飛び交っているなかで悠長に確認することなどできるはずもない。

W-1というのはヴァイツェンの出品のうちの一杯目の意味。これで提供間違いもなくせるし、運ぶ順番が狂ったとしても審査員も気付くことができる。


もし、審査会場に漏れ聞こえたとしても「〇番のビール用意できた?」という番号のみなので、忖度するためには番号を割り振った一覧表を事前に入手して番号によって照らし合わせるしかない。しかも、テーブルの上には余計なものを置いていたらすぐにばれてしまうので100種類を超えるビールの番号を覚えておく努力が必要となる。しかし、それも無駄な努力だ。なぜなら、その番号ですら審査会場に聞こえないように「ピルスナー1回目、Aのビール」という出す順番のアルファベットで確認するという配慮がされているからだ。戻ってくればその前に終わった審査の集計結果を反映して樽を並べ替える。それも番号で呼ばれる。一般のスタッフはその樽を運び出すときにようやく目の前にある、運び出すビールが予選落ちしたことを知ることが出来る。そう、情報が漏れるのは予選落ちしたビールなので意味がないのだ。

 そんなふうにリアルなガチンコ勝負で決勝戦を終え、結果が出るまでの間に答え合わせともいうべき時間が審査員には設けられている。決勝戦に残ったビールの銘柄が公開されるのだ。納得する人、意外だという顔をしている人などさまざまだが、みな、どこか満足げなのが印象的だった。とある入賞者が「前回は美味しいと思ったから自分のビールではなく、他人のビールに投票したら入賞できなかった。」と笑顔で語っていたのだが、そんなところにも作り手の矜持をかけてビールを選んだという気概が感じられる。手伝ってよかった、と心の底から思えた瞬間でもあった。そして審査が終わり、バックヤードも後片付けに入る。その日の朝に「初めまして」と挨拶したのが嘘のような絆を感じられた。たった半日の戦友。しかし、戦友は戦友だ。いい経験といい仲間を得られた実りある一日。いま、思い出しても胸には熱いものがこみあげてくる。

 そう、この熱いイベントがまたやってくるのだ。今年は審査員が審査に集中できるようにビアフェス前日の木曜日に審査をするという。ビアフェス初日には表彰式が行われるので審査結果も確認できる。ボランティアとして飲み手から一歩先んじたり、お気に入りのビールや入賞したビールなど様々な角度からビールを愉しんだりしたいなら1月最後の週末はこれで決まりだ。

■JAPAN BREWERS CUP 2018
日 時 2018/1/26(金) 16:00-22:00
    2018/1/27(土) 11:00-21:00
    2018/1/28(日) 11:00-19:00
場 所 横浜大さん橋ホール
    神奈川県横浜市中区海岸通1-1
入場料 500円(ビール代は別途必要)

JapanBrewersCupジャパンブルワーズカップ横浜大さん橋ホール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

川端 ジェーン

ビアジャーナリスト

ベルギービールをこよなく愛しています。笑顔でビールを酌み交わせば世界平和は実現すると考えています。ビールが好きすぎてたまに他人と知人の境目がなくなってしまいます。ビールの美味しいお店で見ず知らずの人に話しかけていたら、それは私かもしれません。
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