[コラム,ビアバー,ブルワー]2018.1.18

【TKBrewing】川崎にまたひとつ新しい醸造所が誕生しました

TKBTKBrewingunico川崎高林亮一

川崎に新しいブルワリーが昨年2017年12月末オープンした。TKBrewingである。

TKBrewing代表取締役・醸造責任者 高林亮一さん【写真提供:TKBrewing 写真撮影:谷口雅彦氏】

JR川崎駅東口から、京急線の高架を左に見ながら線路沿いに横浜方面へほぼ10分。そろそろ駅前のにぎわいが途切れた所にあらわれる日進町の横断歩道を渡り、高架沿いからひとつ右寄りの道を辿った先に、TKBrewingの入る複合施設「unico(ウニコ)」は、ある。

TKBrewingの入るunico。倉庫の並ぶ街並みに突然あらわれる。

高度経済成長期には簡易宿泊所が軒を連ね「ドヤ街」と呼ばれにぎわった川崎・日進町エリア。現在、川崎市が川崎駅周辺総合整備計画で既存施設を活用したにぎわい創出のサポートを行っているエリアである。周りにあるのは倉庫やマンション。駅前のにぎわいとは異なる空気が流れている。

既存の建物をリノベーションした「unico(ウニコ)」は、1・2階にはカフェや3次元(3D)の木工加工機など最先端の工作機械を備えた木工工房などが入る。3・4階にはシェアオフィス、5階はフリースペースとなるらしい。

透明なカーテンでの向こうに温かい色の明かり。ふと足を止めたくなるunico入り口

看板をたよりに建物をのぞき見た。

入口には冬のオープンテラスなどによく使われている厚手で透明なビニールのカーテンがかけられていた。カーテンの中には、正面に明るい色の木製カウンターがコの字にあるのが見える。

そっとカーテンを開けて入ってみる。床も天井も打ちっぱなしのコンクリート。小さい子どもを連れたお母さんが数人、となりの木工エリアを出入りしている。カウンターには一人でまたは二人で、散歩の途中に立ち寄ったように見える人たち。本を読んだり、ビールを片手に語り合ったりしている。

1階カフェスペースの真ん中にはコの字のカウンター。奥にはテーブル席もある。

視線を回すと左手の壁際、木製カウンターの手前に小さい窓があった。「TKBrewing」の文字が見える。窓の脇にビールのメニューが貼り出されていた。

現在提供されているのは4タップ。すべてTKBrewingのオリジナル醸造ビール。

この日のラインナップは以下の4種類。

新春セゾン
新春にふさわしいスッキリとした飲み口
Old-fashioned Pale Ale
なんとなく昔を思い出すペールエール
Simcoe Tripel
ベルギーの高アルコールビールとアメリカの華やかなホップを融合
WCIPA
アメリカ西海岸的なIPA

事前にFacebookでビールリストをチェックして、“なんとなく昔を思い出す”というフレーズに心惹かれていた。
(最初の一杯はこれにしよう。)
と決めていたのだが、残念ながらすでにSOLD OUT。
(むむむ、残念。)

ビールの購入はキャッシュオンで

気をとり直して「新春セゾン」をお願いする。注いでいただいている間に、ちょっと中を覗き込む。
壁際にタップ、全部で8つ。奥に見えるのは熟成タンクが2台。
(ん?なんだかずいぶんスリムなタンクじゃない?)

プラカップに注がれたビールを受け取りながら、
「ずいぶんスリムなタンクですね。一回の醸造はどのくらいですか?」
とお尋ねする。
「200リットルです。ボトルだとだいたい600本くらいになりますね。」

それをきっかけにお話をうかがい、設備を見学させていただいた。

TKBrewing代表取締役であり醸造責任者である高林亮一さんは、50歳で前職を退職し、1年3ヶ月に渡る準備期間を経て52歳の誕生日に醸造所をスタートさせた。

同世代の私としては、(ずいぶん思い切った決断だなぁ)と正直驚いたと同時に踏み出す勇気を羨ましくも思った。

昨年秋ごろ、地元である川崎エリアで醸造所を起ち上げる場所を探していた時、たまたまタイミングよくここのリノベーションの話が見つかったという。「ほんとうはもっと自宅に近い駅の周辺で場所を見つけたかったんですけどね。(笑)」と高林さん。

私の気になってたスリムな発酵タンクは、代々木にあるビアバー「ウォータリングホール」に並んでいたもの。特注で製作されたスリムなものでそれを譲り受けて設置した。高林さんを慕うビール好きな仲間たちが力を合わせて代々木から川崎へ運び設置。スペースを有効に使うことに成功している。

ブルワリーのロゴが入った前掛け。職人っぽくてかっこいい!

そんな話をお聞きしながら設備を見せていただいていると、にぎやかな声がして二人の男が入ってきた。京急川崎駅近くの「cube bar」のマネージャー村山さんと常連さんだった。お二人ともTKBrewingのファンで高林さんに会いにこられたのだ。村山さんは次週から自分の店にTKBrewingのビールをつなぐということで、打ち合わせもかねての来店。お二人とも高林さんのビールについての話が止まらない。

実際、彼がブルーイングを始めてくれるのを心待ちにしていたビールファンは多い。高林さんは醸造を志す人たちのカリスマの一人であり、彼のレシピに魅せられた人たちは数えきれないほどなのだ。例えば、2011年に高林さんがレシピ提供をして千葉ロコビアさんが醸造した「WCIPA(ソラチエース)」。このビールは、第9回日本リアルエールフェスティバル(現:NIPPON CRAFT BEER FESTIVAL)の人気投票で二位を獲得している。

そんな仲間やファンに支えられ、醸造所開設となったその日、高林さんはファーストバッチの紹介に以下のようなコメントを添えていた。

醸造所立ち上げにあたっては、ビジネスプランを立て始めてから2年あまり、以前の会社を引退してから1年3ヶ月。この間、たくさんの方々に支えられ、助けられ、励ましていただきました。ようやくビールを提供できる状態まで来ることができました。この場を借りてお礼を申し上げます。そして家族にもありがとう。
TKBの始まりです。入魂のBatch#1 SMaSH Saison、ご賞味あれ。

多くの期待を集めて醸造を開始した高林さん。人が集まり語り合う、自分の醸造所がそんな場所になっていってほしいと話す。

TKBrewingはこれからどんなビールを造ってくれるのだろう。
彼のビール醸造との出会いを彼自身のFacebookから紹介しよう。

1998年、サラリーマン時代にトロントに駐在していた時まで遡ります。それまでブラックな働き方をしていたのが9時〜5時の生活になって暇すぎるあまり何気なく始めたホームブリュー。現地ではクラフトビールの黎明期であったのと同時にホームブリューが趣味として盛んに行われていました。それをきっかけに帰国後もビール造りの研究を細々と続けていました。
そんな時に出会ったのがJamil Show。これは、2006年頃に始まったアメリカのラジオ番組で隔週放送されていて、Podcastで配信もされています。Jamilさんは今でこそHeritecの創業者ですが、その頃はアメリカのカリスマホームブルワーとして有名で、コンペで十数エントリー入賞していたりしてました。Jamil showでは、毎回、BJCPのスタイルガイドラインの中から1種類選んでそのビールスタイルの文化的な背景や造り方のポイント、典型的なレシピを語り、ある醸造テーマに関するディスカッションをすると言った内容でした。ヒヤリング力も大してないので、通勤中に同じ内容を何回も聞き直して理解していきました。このことが醸造知識の基礎を築いたことは間違いありません。この他にも基本的にアメリカの文献で勉強してきました。直接誰と面識があるわけではありませんが、アメリカのクラフトビールカルチャーから影響を受けているわけです。

“アメリカンクラフトインスパイア”、それがTKBrewingになるようだ。

アメリカンクラフトビールの本質は、ホームブリューをバックグラウンドにした多様性や開拓精神に象徴されると思います。既存のスタイルにとらわれず、世界の伝統から学び、新たなスタイルを開拓していく。そんな精神を川崎から発信していきたいと思っています。ただ当面は、フルーツを入れたりとか木樽を使ったりとか酸っぱいビールにしてみたりはしません。至ってオーソドックスな手法で多様なビールを造っていきます。

2018年1月現在、オープンから3週間でTKBrewingからリリースされたビールは以下のようなラインナップだ。たしかにオーソドックス。だけどちょっとひねりが効いている。
リリース時の高林さんのコメントと共に紹介する。

“Batch #6 Kawasaki Common Alc.5.0% IBU 40 6バッチ目が完成しました。川崎といえばフロンターレ、フロンターレといえば派手ではないがシブく強い、ついでにやっとこさ去年はリーグ優勝。TKBもやっとこさ去年は開業。と言うことでいぶし銀なビールを造ってみました。シブくモルティーで泥臭く土っぽい、そして飲み飽きない。そんな感じのビールです。 あまりメジャーではないCalifornia Common(あるいはSteam)というスタイルをベースにフロンターレ的なアレンジをしてみました。”

“Batch #5 新春セゾン あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 今年最初のリリースはBatch#5 新春セゾンです。新年の透き通った空にふさわしい、スッキリとした仕上がりスッキリとした飲み口”

“Batch#4 WCIPA アルコール7.0% IBU 81 アメリカンホップがガツンと効いたアメリカ西海岸的なIPAを造ってみました。記録を辿ると2011年に千葉ロコビアさんにレシピ提供をしてWCIPAを醸造所していただきました。その再現醸造となります。”

“Batch#3 Simcoe Tripel シムコートリペル アルコール9.0%。 高アルコールのベルジャントリペルをベースにシムコーを中心としたアメリカンホップをドッサリ入れてみました。飲みやすくてスイスイいけてしまうかもしれませんが、9%ありますので気を付けてください。これは醸造所を始めたら是非とも造りたかったビールのひとつです。 それにしても3バッチ目にして少々攻めすぎました。毎週1バッチリリースのペースで行こうと想定していたのですが、高アルコール過ぎて発酵に時間がかかり、2週間ぶりのリリースになってしまいました。”

“Batch#2 Old-fashioned Pale Ale オールドファッションペールエール アルコール5.5%。20年前のペールエールってこんな感じじゃなかったかな? なんてことを思いながら造ってみました。初めてクラフトビールに出会ったのが約20年前、スーパードライが上り調子でビールと言えばキレ至上主義的な時代に、モルティーなビールは自分にとって衝撃でした。ホップの品種も今みたいにジャンジャン新しい品種が出てくる時代ではなく、柑橘系ホップを派手に効かせるなんてのはあまり記憶にありません。今や古典と言ってもいいかもしれないセンテニアルをおとなしく効かせ、モルトの主張がやや強いペールエール。 寒い日の夜に、過去に思いをはせながらゆっくり飲む、そんなノスタルジーなビールです。”

“Batch#1 SMaSH Saison SMaSH(Single Malt and Single Hop) とは読んで字のごとく、一種類の麦芽と一種類のホップのみを使用したビール造りのひとつのアプローチ。通常は複数種類の材料を使用して複雑性を出すのですが、SMaSHは極限まで単純化したアプローチです。 ドイツ産の麦芽、アメリカ産のホップであるカスケード、ベルギー原産のイースト、ついでにエチオピア産のコリアンダーを使用しました。アルコール5.5%、すっきり飲みやすく、ほのかにカスケードが香ります。 世界各地の材料を使用していることは、TKBが目指している多様性の象徴です。シンプルにして繊細。だからこそ素材の質と造り手の技術がダイレクトに伝わるビール。これは、納得できないビールは出さないと言ったTKBのマニフェストでもあります(当たり前のことではありますが)。”

高林さんとの会話を楽しむ

TKBrewingを訪れた日に私が飲んだのは#3, #4, #5。個人的なお気に入りは「WCIPA」。きれいですっきりしたベースに薫り高きホップ。スパイシーなハムと合わせてさらに香りが膨らみ、また、ラム酒風味のフルーツケーキと合わせてもケーキの甘味とビールの苦みがバランスして、ついつい笑顔になる。

次はどんなビールに出会わせてもらえるのか。ビールとの、そして人との出会いを楽しみに集まる人々をつなぎ笑顔にしてくれる、とても楽しみな醸造所である。


<TKBrewing直売所・営業時間>
神奈川県 川崎市川崎区 日進町 3-4
(金) 17:00 – 21:00 (土) 13:00 – 20:00
*営業時間は変更されることがあります。TKBrewingのFacebook に最新情報が掲載されています。

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よしのたま

この記事を書いたひと

よしのたま

ビアジャーナリスト

1965年、南信州生まれ。峻険な南アルプスと中央アルプスに囲まれた自然豊かなリンゴ農家に育つ。1女1男の母。大学卒業後1年間、まだ東西に分裂していた時代に南ドイツに遊学し、各街々の地ワインにハマる。帰国後は、翻訳会社、雑誌編集、組紐製造など好奇心のままに仕事を転々とし今に至る。その好奇心はビールにも顕れ「好きなビールは?」と訊かれた際の返事が同じだったことがない。目下のところ友人のフォトグラファーが連載中のビアエッセイの影響で、アジアのビールに興味津々。趣味は着物だが、茶道や華道といった着物っぽいことには一切通じていないため、結局のところ着物を着てビールを呑みに行くというのが趣味になっている。

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