[JBJA活動]2013.7.11

目白田中屋 ビール担当 北山義嗣氏インタビュー②

BJA2期生の池田です。北山さんインタビューの続編をお届けします。

地上1階にあった店舗から地下に降りてからの話、北山さんとビールの距離感といったテーマになっています。

前回と同じく、楽しんで頂けたら嬉しいです。

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(前回までのあらすじ)

1949年(昭和24年)創業の目白田中屋。果物屋や高級スーパー・喫茶店など多角的な経営をしていたこの店についていろいろ伺いました。田中屋のシュークリーム、食べてみたいですよね。その後、2006年(平成18年)に地下に店舗を移し酒専門店として再スタートします。今日はそこからのスタートです。

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★地下への移動

北:でも、はじめは相当お客様が少なくて。

-移転間も無く?場所が分からない?

北:あの、今と同じで全く宣伝もせず、移転のお知らせも何もなく、こっそりと地下で、ちょっと引っ込んだ所にわかりにくい看板がついてるだけで。もう1年かそれ以上は、ずっと田中屋潰れたって言われてて(笑)。

-久しぶりに来た時、場所が解らなくて3回位往復しましたから。

北:(笑)今の場所を認知してもらうまでにすごく時間がかかった。

-移って何年ですか?

北:今で6年…もうちょっとで7年かな。圧倒的に、上にいた頃よりお酒の取扱量は増えたので、今いらっしゃってるお客様には喜んでいただけてると思います。

-ビールももともとかなりスペースはありましたよね?前(の店)で400種類位?

北:あ、その位はありました。輸入ビールをいれてるリーチイン(ドアつき冷蔵庫)の面数は、昔は6面でしたけど、大手国産ビールと、その下に国産クラフトビールを入れてるオープンケース※(注:スーパーの冷蔵棚のようなもの)がありましたし、途中で、日配品を入れていた平の※(注:画像をどうぞ)もビール用に回してくれたので、相当、最後の方はビールコーナーは充実してたかと。

※現在でも国産クラフトを並べているケースです。これが今の店に残っている理由も後で出てきますが、面白いです。

-そうですよね。オープンケースにベアード(ブルーイングのビール)とか入れてましたよね。

北:はい。

グラス ランプシェード

左・グラスも多数販売。 右。奥に見えるでしょうか。前回出てきたランプシェード。

★取材を受けない理由

北:あの、実は、この前お話しした通り、殆ど取材はお受けしてないです。

-はい。

北:色んな理由があるんですけど、簡単に言うと、既に、有難いことに僕が対応しきれない位認知頂いているので、これ以上別に知られなくても。

-(笑)

北:逆に、今でもサービスが悪いのに、対応しきれなくなると、サービスの質まで落ちてしまう。

元々田中屋というのは、品揃えをサービスだと思ってもらえれば、というところがあるんですけど、ビールコーナーに関しては、僕の信念を守って、とにかく気持ちよく買い物して頂こうというのがあります。

-はい。

北:今でも、もう、ギリギリなんですよ。寝てる時間以外ほとんど対応してます。そうしないと間に合わないので。だから、これ以上になっちゃうと、とてもじゃないですけど対応しきれなくって、それぞれのお客様に対しての時間のかけ方が少なくなってしまいますし…。

来て頂いたお客様と直接、自分の言葉でコミュニケーションを取りたいんです。

-そこで伝えたいから、取材は受けたくない。

北:・・・なんですけど、金曜日に、料理通信さんの最新号が出てまして、結構ビールが特集されてて。

実は僕も少し出てます。料理通信さんは、他のお酒で深いつながりがあって、ライターさんがお世話になっている方だったので、逃げられないというか(苦笑)。

繰り返しですけど、たまに依頼もありますが、基本的に全てお断りしています。たまたまインタビューが続いたので、受けると思われると困ります。書いておいてください(笑)。

-了解しました!

★北山さん、田中屋入社

-そういうなかで、北山さんは、まずシニアビアテイスターをお取りになって、ひとつひとつの商品に対するコメントも細かく書いておられるじゃないですか。で、この間聞いた限りだと、プライベートではビールは飲まない。

北:はい。

-っていうところは、要するに、好きじゃないものを仕事として売るっていうのが100%なのか、それとも他の思いっていうのがあるのか。

北:基本的には、ビールが好きでこれを仕事にしたのじゃないっていうのは100%正解ですね。

-就職したらビール担当になったっていう。

北:そうです。以前お話ししたか分からないですけど、僕は、結婚するまで芝居をやってた。

-はい。

北:社会で生きる術というかスキルを全く身につけていない。一般社会で通用しないスキルはあったかもしれないですけど。芝居小屋を建てて芝居をやるとか、腰にガチ袋を下げてトントンやったりしてましたので。

-へえー!

北:でも、嫁を食わせなきゃ、どうしよう、となった時に、実家が青森の小売酒販店で、手伝ったりしていたので、お酒だったら少しは分かるかな、と思って探したら、田中屋が募集していて。

で、入りまして、引き継ぐ前任の担当がビールと、ブレンデッドスコッチとバーボンとブランデーの一部。何年かはウイスキーの方にも携わってました。

★ビール売り場が広がっていく

北:そこから、ビールを少しずつ増やしていくにつれて、お客様の反応とか、あとは評価っていうのが少しずつ出てきたんですね。

-いいぞ、っていう。

北:外部から、なんか凄いんじゃないの、いいんじゃないのっていうのがチョロチョロと聞こえ始めたっていうのと、オーナー自身が面白いと思ってくれたのもあって、「北山君、ここもいいよ、そこもいいよ」って、どんどんビールを置けるスペースを僕に与えてくれたんです。

下に降りる時も、ビール売り場を拡張することに一番積極的だったのはオーナーです。僕なんかは、これ以上増やしても、もう扱えない、賞味期限の問題もあるので回していける自信がないっていうのもあったんですけど。

周りからは反対の声も上がったんですけど、一番の味方がオーナーだったので。

★仕事とは

北:仕事の話に戻ると、本当に好きな仕事をできている人ってそんなに多くないと思うんですよね。僕がどんな仕事をやりたいのって言われると、当然、最後までお芝居をして暮らしたかったですけど。

でもそれでは食えない中で、じゃあどうするかって言ったら、与えられた仕事の中で気持ちよくというか、楽しんで仕事をしないと、一日の中で仕事に取られる時間って相当量あるので。そこに取られる時間をずっと嫌な思いばっかりして、別に好きじゃないんだけどな、って言ってやっているのでは面白くない・・・

基本的にビールは、飲んでもそんなに好きではないし(笑)、アルコール耐性も無いんですけど。

-じゃあ、普段は全然飲まない?

あ、でも、いろんなインポーターさんが持ちこんでくるサンプルを飲んでるので、実は一般の方よりは、種類はたくさん飲んでる。週4~5日は必ず何かしら飲んでますね。

でも、造って下さってる方には申し訳ないんですけど、結局このボトル全部を一人で空けることができないので、ちょっとずつになってしまうんですけど。

それはやっぱり、仕事をする上で、飲んでもいないのに説明も出来ないですし、なんとなくの聞きかじりだけで語っても、まあばれますよね。絶対。

-そうですよね。

ので、嗜好品なので僕の意見を押し付けはしないですけど、共通言語を持っていると思うような方、ずっとお話しして、その方がどういうものが美味しいと思ってるかとか、僕がいつもどういうのを美味しいと言ってるか、まずいと言ってるか分かってる方には、簡単に僕、「あんまり美味しくないです」とか「不味いです」とかって言います。

ですけど、公の場では絶対やってない。「美味しい」はたまに言いますけど、ネガティブなことは絶対出さない、あと他のお店に迷惑がかかるので価格も絶対出さないというのが僕のポリシーです。

そんなに僕にテイスティング能力があるわけじゃないですけど、田中屋のビール担当がまずいって言ってしまったことで、あくまで嗜好品なのに、僕個人の意見が飲む前にいろんな方に情報として回ってしまって、もしかしたら試すチャンスまでも潰してしまうかもしれない。なので、そういうことは意図的に出さないようにしてます。

★重労働のなかの楽しみ

-田中屋さんの場合、あれだけ品数が揃ってると、一人じゃないですよね、普通。

北:(笑)ああ、コーナーの担当者。

-はい。凄い仕事ですよね。。。

北:結局、あの値段で提供しようとすると、田中屋がそんなに営利追求集団でないと言っても、会社に損をさせるわけにはいかないじゃないですか。あの値段で提供しつつ、損もさせないとなると、削れるコストは人件費なので。やむを得ないかなと。

ただ、体力的にもかなり厳しくなってきてますね。

-ははは。

北:実際やってみないと分からないと思うんですけど。1日に500本売れて、500本品出ししながら、接客しながら、荷物が来たら荷受して。来る量も、1回100ケースとかのものもあるので。それを一人で受けなきゃいけない。

うちって、パレットごと受ける機材もないですし、全部トラックから台車で何箱か運ぶのを繰り返して、1箱か2箱ずつ手で下ろすのを繰り返さなきゃいけない。プラス、事務作業もあるので。間に合うわけがない。

とはいえ、一応、仕事は楽しむようにはしてます。一番はどこかって、やっぱりお客様の喜ぶ顔です。恥ずかしいので近くでは見ないですけど、僕が好きなのは、裏にいて品出しをしてる時に、ビールの隙間からお客様の顔が見えるってことですよね。

お客様は僕が中から見えているのはお気づきにならないので、見てると、顔がにやけてるのがわかるんですよ。喜んでもらってるな、っていうのがわかると、また、来てもらった時に喜んでもらいたいという気持ちになるので、それがモチベーションにはなってます。それが楽しみです。

★田中屋を田中屋たらしめているもの

北:意思決定が僕一人で出来る、って言うのはほかの会社にはなかなかないですよね。責任もありますけど、やりがいもある。プラス、一番いいのは、それによってお客様に迅速に色々な提案ができることですね。多くの新商品は、田中屋が一番最初に紹介できてると思うんです。それは僕がこれまで培ってきた信頼関係によって、メーカーさんやインポーターさんからの情報が早いということもあると思います。

-うん。

北:何が僕の誇りかって言うと・・・ビールの知識はマニアの方には敵わないですね。嫌々仕事にしてるか(笑)、本当に好きでビールに熱を持ってるかの、そこの差が大きいので、ビールに掛ける情熱や時間が、マニアの方のほうが圧倒的です。

毎日ビアパブに行って、最新ロットのビールを飲んでる。僕が同じものだと認識して、お客様に嘘をついているかもしれないものを、常に新しいものを飲んで、今を知っている人が、すごく多い。

-このバッチ(※注:製造ロット)うまいよね、って言っている人もいますもんね。

北:そうです。やっぱり敵わないので、そういう方たちには頭を下げて教えを請います。自分一人で何でも出来る訳じゃないので。

-なるほど。

北:その代り、信頼してもらえる仕事をするってことはずっとやってきている。お客様の信頼もそうだし、せっかくの少ない商材をだれに任せるか、北山に任せておけば、ていう周りの信頼が財産だと感じてます。

情報とか知識は、毎日触っていれば、ある程度は蓄積していきますよね。信頼って言うのは、ビールが詳しいからって偉そうにしているだけでは、今みたいにはできない。そこは意識してます。

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考えてみれば、商品のキャラクター、ロットごとの味を確かめる機会の多い飲食店に比べ、酒屋さんがその味を口にする機会は少ない。ボトルは当然閉じているものだからです。宿命的な制約の中で、どれだけ誠実に商品、また消費者と向き合うか、というところは考えさせられるものがあります。

次回は最終回。温度管理について、試飲の苦労について。これからのトレンドについての話もちょっと出るかもしれません。楽しみにして頂ければ嬉しいです。


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この記事を書いたひと

池田 大輔

ビアジャーナリスト

ビールを造る人、売る人、飲む人に興味があって、突撃取材で話を聞くのが好きです。 取材を通して、ビールを楽しむシーンがもっと広がる楽しみを皆さんと共有できたら嬉しいです。

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