[イベント]2013.7.24

【BJAレポート】グローバル視点で見えた日本のクラフトビールの現在(いま)とこれから 〜JBJA facebook1周年記念イベントより

「コピーのビールを作って売っているようでは日本のビールは売れない。」

先日行われたJBJA facebook1周年記念イベント「日本のクラフトビールは世界で通用するのか? 〜世界に誇る日本のクラフトビール二大メーカー!『コエドvsネスト』緊急トップ対談」で交わされた会話は印象的なものばかりだった。
エキサイティングなパネルディスカッションの主役は、木内酒造合資会社 取締役 木内敏之氏、株式会社共同商事 コエドブルワリー 代表取締役社長 朝霧重治氏、そして我らがJBJA会長 藤原ヒロユキ氏だ。

パネラーの皆様。写真左は木内敏之氏、右は朝霧重治氏、中央は藤原ヒロユキ氏

パネラーの皆様。写真左は木内敏之氏、右は朝霧重治氏、中央は藤原ヒロユキ氏

なぜ日本のクラフトビールは世界を目指さないのか? 5つの課題

世界の多くの国で飲まれている常陸野ネスト、COEDO。それ以外の日本のビールが世界へ羽ばたくにあたって課題はあるのか。

まずは言葉の課題。「ランゲージバリアというのは逃げになっていると思う」と藤原氏。木内氏、朝霧氏もその意見には同調。英文法はさほどでもないドイツ人がアメリカ実業界で活躍している例なども紹介しつつ、本当に話せないなら通訳をつければいいという解決策も。確かにその通り、と納得させられる。言葉は課題ではないようだ。

次に価格の課題。これはかなり深刻な事情だと感じた。木内氏によると、アメリカでは大手メーカーの缶ビールが1ドル程度、クラフトビールが2ドル程度で約2倍の価格帯。これを日本で換算してみる。大手ビールが210円程度だとすると、うち酒税が80円弱なので残り130円が酒税を除いた価格。クラフトビールはそれを2倍して酒税も戻すと約340円。つまりこの価格帯以下で売られているビールでは単価あたりの利益が(アメリカに比べ相対的に)少ないことになる。消費者が選ぶ価格と醸造所が望む利益はまだ一致しておらず、海外進出するための余力が生まれないのかもしれない。

そして品質の課題。つまり、十分品質も高く美味しいのに売れないのはなぜかという課題だ。海外のトップブランドのコピーは売れない。木内氏はそう一刀両断する。消費者が選ぶのは、同じビアスタイルのトップの商品であって、コピーではないのだと。ビアスタイルガイドラインに則った製品は確かにコンペティションで賞を取りやすい。ブランドの認知力を高めるという点では効果があるものの、その一方で、スタイルの枠を超えたオリジナリティは出せない。それは、ビールのストーリーを説明できないという次の課題にもつながる。

「なんでベルギービールを飲むかっていうと、美味しいからでしょうか? たぶんストーリーがあるからだと思うんですよね。このビール工場は修道院で、こんなストーリーがあって、・・だから美味いわけだ、と」と木内氏。多少の誇張はあるかもしれないが、実際我々消費者が考えていることは確かにその通りだ。美味しいというのは味覚だけではない、もっと総合的な体験である。どこでも買えるビールよりも限定発売のレアなビール。いつでも手に入るものではなく、季節や販売店舗が限られたビール。料理と抜群の相性のビール。造り手のこだわりが見えたり、過去からの長い歴史を持つビール。そういったものがビアラバー達の垂涎の的となり、実際美味しいのだ。

コエドブルワリーにはオンリーワンのストーリーがある。朝霧氏は語る。「当社の出発点は有機農業。農家の方と農産物を有機栽培でつくって、産直といいまして、小売店さんにおつなぎする商社が起源なんです。ビールを造り出したのも、地元の農産物、農家をどういうふうに盛り上げていくか、拡大解釈していくかといったところがルーツ。(中略)川越市は江戸時代からサツマイモの名産地でして、当時はサツマイモは形が悪い、細いといったものはB品扱いで廃棄されているものがたくさんあった。こういうものを有効活用できないか、ということでアイデアが変わって、イモからビールにトライしてみようと。まずはじめに取ったのは発泡酒免許でした。」いまやこれが海外ではこれがジャパニーズビールとして認知されているのである。

最後に醸造教育環境の課題。日本では、ビールが美味しいと思ってから醸造を学ぶためには「弟子入りシステムしかない」(藤原氏)。「それはもちろん良いとは思うけど、そうすると師匠のやり方しか分からない。お笑いの世界が昔そうやった。落語にしろ漫才にしろ面白いと思ったら師匠について。それを吉本とかが専門教育の組織を作って、飛躍的に若手が伸びたと思っている。醸造学に関しても、20才過ぎてビール飲んで感動して、習いにいくようなアカデミーや専門学校があると面白いかなと思ってる。」こちらについてはビジネスとして成立するかという課題もあるものの、今後の動向にも期待したいところである。

ブレイクスルーとしての”食”とのペアリング

コピー製品は売れない、とは先ほども書いた通りだが、ではどういったアプローチでクラフトビールは世界を目指せばよいのだろうか。

「和食にこそ多彩なビールを合せるのがいい。」オリジナリティのある製品を作る、という大きなテーマの中で、藤原氏が話題として選んだのが食とのペアリングである。

「世界の料理界ではいまフレンチかジャパニーズ(和食)なんです。」世界中を飛び回る朝霧氏の実体験から話が広がる。「どうせ楽しむんだったらクラフトマンシップが宿るもの。ライトラガーで硫黄臭があるようなものが赤身に合わないところで、我々が作っている小麦のビールなどがばっちり合ってしまう。(中略。日本ではまだまだペアリングを行っている機会が少ないが、)もっともっとペアリングで楽しんで頂く機会を作っていくのは、やはりメーカー(ブルワリー)が音頭をとって、飲食店のオーナーさんたちとやっていくのが責務かもしれません。」

メーカーとしてだけでなくレストラン経営にも手腕を発揮している木内氏からは、ビアバーで飲むビールではなく、レストランで飲むビールを目指す旨のコメントもあった。「(常陸野ネストのインポーターの多数が)レストラン事業に進出したいと言っている。なぜかと言ったら、うちのビールを売るために、際立った食でビールを(合わせて)売ってみたいということ。」また、質疑応答の際にも、劇的にクラフトビールが伸びてきたアメリカを例に取って非常に示唆的な話があった。「いまアメリカでは(クラフトビアバーは)メジャーではない。一般的なレストランがメジャーになっている。ビアバーではいかに珍しいものを集めるかになる。それが日本のブームになっている。アメリカではそれを卒業した人たちが、本当に美味しいものをフレンチと合わせて飲む、和食と合わせて飲む。」ペアリングにはクラフトビールをさらに起爆する力があるようだ。

グローバルに展開している和食をベースに、それを一番知っている日本人がクラフトビールやそれを提供するレストランをプロデュースする。それは現実的で、かつ夢のある話ではないだろうか。ジャパニーズビールが飛躍的にプレゼンスを増すための大きなヒントがあると感じた。

再生のエピソードから

いま現在目にする”COEDO”ビールは実は2006年に「再生」を経たビールである。それまでは、地域性を表面に出したラベルデザインがされていたという。朝霧氏が語ったエピソードを最後に紹介したい。

「紅赤というサツマイモを使ったビールが、欧米の方たちに変なレッテルを貼らないで飲んでいたときにすごく評価が高かったんですね。(それで思ったのが)再度再生するときに、評価して頂ける方たちにダイレクトにお伝えしていくのもひとつの道だと。それでグローバル対応のラベルに変えました。」

日本の”地ビール”は冬の時代を経て、いまや一定の品質以上のビールがたくさん生まれ、切磋琢磨している状況である。”日本のクラフトビール”とは何か、という今一度問いかけ直すべき点もさることながら、クラフト(craftmanship/craft-beer)であるという強みとその味をどこで誰に届けるのか、を意識してみることが大切ではないかと感じた贅沢な一夜であった。

BJA2期生 西林達磨

JBJAイベントレポート

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

ニシバヤシ タツマ

ビアジャーナリスト/びあけん1級(2013,2015)

大学時代に自転車旅行でビールのうまさを知る。ほどなくしてベルギービールにカルチャーショックを受け、 世界のビールの虜に。ビールは大人の趣味の1つ。その一期一会を記事やビアポエムとして伝えていきたい。

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