[ブルワー]2014.12.11

サントリー『ザ・プレミアム・モルツ』に脈打つ 熱い〝挑戦〟

 サントリーの『ザ・プレミアム・モルツ』は2014 年6月10日の出荷をもって累計販売本数が40億本を突破した。2003年に、前身である『モルツ スーパープレミアム』から名称を変更して以降、2013年までの10年連続で前年比を上回る販売実績を更新し続けている。

 その背景には、長く、熱い〝挑戦〟の歴史があった。
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苦渋の撤退 ―鳥井信治郎

 サントリーが初めてビールに着手したのは、鳥井商店をへて寿屋の時代。1928年に日英醸造を買収して『新カスケードビール』を製造販売したことに始まる。1930年には田中義一前首相の愛称にちなみ、『オラガビール』として発売したが、大手各社の前に歯が立たず、1934年、ビール事業からの撤退を強いられることとなった。赤玉ワインの成功、本格的な国産ウイスキーの製造、そしていよいよビールへ、と事業を拡大してきた創業者鳥井信治郎にとって、まさに苦渋の選択であった。

エトヴァス・ノイエス ―佐治敬三(1)

 1945年、鳥井信治郎の次男である佐治敬三がサントリー前身である寿屋に入社。大学では化学を専攻、その権威である小竹無二雄教授の研究室で学んだ。
 小竹がドイツ・フライブルグ大学のノーベル化学賞を受賞したウィーランド博士のもとで研究を重ねていた頃、朝に夕に博士に「エトヴァス・ノイエス?」と聞かれたそうだ。その意味は〝サムシング・ニュー〟。日常にも目をこらし、日々進歩を探し求める好奇心溢れる言葉である。小竹からその話を聞いた敬三は、そんな好奇心こそが未来を拓くのではないかと感銘し、この言葉を胸に、常に革新をめざしていこうと決意したという。
 それが1961年の敬三の決断の後押しをした。トリスやオールドなどの人気に成功をおさめていた当時、敬三はこれに甘んじることに危機感を抱いていた。新しいことに挑戦することが今こそ必要である、と、彼は父の悲願でもあったビール事業に着手する決意をする。

やってみなはれ ―佐治敬三(2)

 敬三は 父 信治郎を訪ね、ビール事業への決意を告げた。
 戦後間もない入社したての頃の敬三に、父はよく「そないなこといわんと、まあ、やってみなはれ」と言っていたそうだ。まずは理屈より行動、そして現実にぶちあたったらその対策を講じろ。そのあとの骨は拾ってやる…。
 そして今、社長としての決断を語る敬三に、父は言った。
「わてはウイスキーに命を賭けた。あんたはビールに賭けるというねんな。人生は賭けや。わしは何も言わん。やってみなはれ。」
 ここから敬三のいばらの〝挑戦〟がはじまった。

世界最高峰のビールをつくる ―山本隆三

 『ザ・プレミアム・モルツ』の生みの親と言われるビール醸造家山本隆三は、サントリーがビール事業を始めてから7年後の1968年に入社した。敬三は父から受け継いだ〝やってみなはれ〟の精神で研究者に自由な研究の機会を与えることに尽力し続ける。上下の隔たりの無い意見交換、利益の全く無い中での十数億円とも言われるミニブルワリーを建設など…。その恵まれた環境に応えるべく、山本が決意したのは、「世界最高峰のビールをつくること」。
 世界のビールをテイスティングし、そのスタイルをピルスナータイプに決定する。しかし、すでにあるものの物真似ではなく、自らの理想とするビールづくりに取り組み、前身となる『モルツ・スーパープレミアム』が1989年に誕生。

そして、10年以上の歳月を経て、2003年『ザ・プレミアム・モルツ』が登場する。

終わりのない〝最高峰〟をめざす ―岡賀根雄

 『ザ・プレミアム・モルツ』は2005年モンドセレクションで最高金賞を受賞。そしてそれから3回連続受賞という快挙をなす。2008年にはヱビスビールの売り上げを抜き、プレミアムビールNo.1ブランドの地位を確立。同年、初のビール事業の黒字化を達成する。

 だが、それに甘んじないのが「サントリー」である。

 2012年、人々に〝プレモル〟の略称ですっかり親しまれた『ザ・プレミアム・モルツ』のリバイタライズをおこなう。それは〝さらなる活性化〟の意。決してマイナーチェンジやリニューアルではない。その開発を担当したのが岡賀根雄(かねお)だ。まずベンチマークである世界の伝統ビールの美味しさを改めて調査し、原料などの見直しを図る(詳細はこちら)。何もないところからのスタートの難しさはもちろんだが、すでに知られていることにあえて手をいれることの難しさは、計り知れないプレッシャーであったと思われる。

 そして、ようやく出来上がったビールを、誰よりも先に山本に試飲してもらった。「まあ、いいんじゃないか」。滅多に褒めることのない山本の、最大の賛辞に、心の底から安堵したという。

 現在、岡は武蔵野ビール工場の工場長に就任。『ザ・プレミアム・モルツ』の未来にこれからも挑戦していくはずだ。
 もちろん、〝プレモル〟の未来は彼だけが担っているのではない。彼を取り巻く社内の仲間たちも、わくわくしながら力を合わせていくだろう。

この先も続く熱き血潮。 ― そのすばらしい〝挑戦〟に、乾杯!
プレモルグラス

参考文献:
『なぜザ・プレミアム・モルツは売れ続けるのか』(片山修/小学館)
『サントリー知られざる研究開発力』(秋場良宣/ダイヤモンド社)
『サントリー・佐治敬三伝 新しきこと 面白きこと』(廣澤昌/文芸春秋)
『ザ・メッセージ 今蘇る日本のDNA 佐治敬三』(NHK DVD)

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

宮原 佐研子

ビアジャーナリスト/ライター

ビアLover 宮原佐研子です。 ビールの大好きなトコロは、がぶがぶ飲める、喉ごし最高、大人の苦味、世界中でも昼間でも飲める、 果てしなくいろんな味わいがある、そしてぷはぁ〜っとなれる、コトです。
ライターとして、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)/『じゃらん酒旅BOOK 2023』(リクルート)/『うまいビールの教科書』(宝島社)/『クラフトビールの図鑑』(マイナビ)、ぐるなびグルメサイト ippin キュレーター など

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