[テイスティング,ビアバー]2020.9.7

硫酸イオンと塩化物イオンは、ビールの味にどう影響するのか? CRAFT BEER BASE Brewing Lab(大阪市西区)の実験的ビールを飲み比べ

CRAFT BEER BASE BRANCHCRAFT BEER BASE Brewing Lab塩化物イオン水質調整硫酸イオン硬度

CRAFT BEER BASE Brewing Lab(大阪市西区)が、仕込み水の硫酸イオンと塩化物イオンの濃度によってビールの味がどう変わるのか、という興味深い「実験」を行っています。

2020年9月4日(金)にCRAFT BEER BASE Brewing Labからリリースされたのは、以下の2種類のアメリカンペールエール。

  • session 009「SO4 : Cl = 4 : 1」
  • session 010「SO4 : Cl = 1 : 4」

その名の通り、仕込み水に含まれる硫酸イオン(SO42-)と塩化物イオン(Cl)の濃度が、「009」は4:1、「010」は1:4になるように水質調整されています。水質以外の醸造条件は揃えてあるため、2つを飲み比べることで、水の違いがビールの味にどう影響するのかを知ることができます。

組成の異なる仕込み水。(画像引用元:CRAFT BEER BASE Brewing LabのFacebook投稿

陽イオンではなく、陰イオン

水の硬度がビールの色や味に大きく影響するすることは、よく知られています。
例えば、バートン・オン・トレント(イギリス)の硬水がホップの香りや苦味が特徴的なイングリッシュペールエールを育て、また、ピルゼン(チェコ)の軟水が黄金色でシャープな味わいのピルスナーを生んだといわれています。

しかし、「硬度」といったときに注目しているのは、陽イオンであるカルシウムイオン(Ca2+)とマグネシウムイオン(Mg2+)の濃度。
一方、CRAFT BEER BASE Brewing Labが今回着目したのは、硫酸イオン(SO42-)と塩化物イオン(Cl)、つまり陰イオンの方です。

飲み比べると、確かに違う!

CRAFT BEER BASE BRANCH(大阪市北区)で、2種類のビールを実際に飲み比べてみました。

2種類の飲み比べ。右がsession 009「SO4 : Cl = 4 : 1」、左がsession 010「SO4 : Cl = 1 : 4」。

色は大差なし。「009」の方がわずかに濃い程度です。
香りも、グラスに鼻を近づけた程度では違いがわかりません。

しかし、飲んでみると、確かに差がありました!
「010」の方が甘く、口当たりが柔らかく感じます。一方、「009」には少し角のある苦味があり、飲みこんだ後に鼻に抜ける香りはよりフルーティー。

硫酸イオンと塩化物イオンの濃度が、ビールの味に影響を与えていることがよくわかる、実に興味深い飲み比べでした。

この飲み比べは、CRAFT BEER BASE BRANCHでまだしばらく楽しめます。
皆さんもぜひ、試してみてください。

 

<店舗概要>
店名:CRAFT BEER BASE BRANCH
所在地:〒531-0075 大阪市北区大淀南1丁目3-17
アクセス:JR 大阪駅から徒歩約9分
営業時間:
 (月~水・金曜日)11:30~14:00、17:00~21:00(L.O. 20:30)
 (土曜日)11:30~21:00(L.O. 20:30)
 (日曜日)11:30~19:30(L.O. 19:00)
定休日:木曜日
Facebookページ:https://www.facebook.com/CBBBRANCH

 

味の違いはどこから?

ところで、この味の違いはどこからくるのでしょうか。
まだはっきりとした証拠はなく、仮説でしかありませんが、私は、以下の3点が効いている可能性があるのではないかと考えています。

  1. 陰イオン自体の味の影響?
  2. 仕込み時の成分の溶け出し方が変わっている?
  3. 酵母による代謝?

順番に説明します。

1.陰イオン自体の味の影響?

硫酸イオンは「多量に含むと渋味があり、ピリッとした感じがする」(*1)、塩化物イオンは「多量に含むと食塩と同じ塩辛い味がする」(*1) のが特徴です。
したがって、硫酸イオンを多く含む「009」では、硫酸イオンの渋味によってホップの苦味が強められたと考えることができます。また、塩化物イオンを多く含む「010」では、塩化物イオンの塩味によって「スイカに塩」の原理で甘みが引き立てられたものと思われます。
この仮説を検証するためには、例えば、できあがったビールに塩化カルシウムや硫酸カルシウムを加えて味の変化を調べる、といったことが考えられます。

(*1) 一般財団法人 上越環境科学センターのwebページ「おいしい水について」より。

2.仕込み時の成分の溶け出し方が変わっている?

はじめに記したように、軟水を用いたことが黄金色のピルスナー誕生のきっかけの1つといわれています。お茶やコーヒーも、軟水と硬水のどちらで淹れるかによって、色や香り、渋味が変わります。
陰イオンについても同様に、組成の違いによって、仕込み時の麦芽やホップからの成分の溶け出し方が変わる可能性があるのではないでしょうか。
この仮説を検証する方法としては、ガスクロマトグラフィーなどの機器分析によって、発酵前の2種類の麦汁に含まれる成分とその量を調べることが考えられます。

3.酵母による代謝?

微量の金属イオンが酵母の活動に影響することはよく知られていますが、陰イオンも代謝に大きく関与しています。硫酸イオンが酵母に取り込まれると、その一部は含硫アミノ酸を経由して各種の硫黄化合物に変換されます。(*2)
硫黄化合物は、それ自身が様々な香りをもつほか、微量の存在が香りの奥行きを広げる効果をもつ場合もあります。今回の「009」についても、硫黄化合物がフルーティーな香りを強めている可能性があります。
この仮説の検証にも、機器分析が有効でしょう。例えば、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーによって、2種類のビールに含まれる揮発成分とその量を調べることが考えられます。

(*2) 独立行政法人 酒類総合研究所 日下一尊氏の報告書「硫酸塩添加仕込によるアミノ酸の少ない酒造り」より。

 

はたして、これら3つの仮説のうち、どれがどの程度効いているのでしょうか。はたまた、私が予想できていない別の効果があるのでしょうか。
CRAFT BEER BASE Brewing Labの「実験」の今後の進展に期待したいところです。

 

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大橋万紀(おおはしまき)

この記事を書いたひと

大橋万紀(おおはしまき)

ビアジャーナリスト

1982年大阪市生まれ。大阪府立大学大学院修了、博士(工学)。専門は有機化学。趣味は合唱。関西のビールシーンを盛り上げるべく活動中。
キリンビールが2007年に実施した、歴史的ビール復元プロジェクトの「復元ビール味覚評価会」にたまたま参加。ビールの奥深さ・幅広さに圧倒され、ビール好きとしての第一歩を踏み出す。
2012年、新婚旅行で訪れたドイツ・ミュンヘンのビアガーデンで飲んだビールの爽快さに感激。以降、ビール愛にあふれた生活が始まる。
目下の悩みの種は、自宅の冷蔵庫がビールで占有されていっていること。レアなビールを開栓するきっかけと勇気、そして一緒に味わってくれる仲間を募集中。

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