【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 120~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ拾肆
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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喜兵寿と直がいない間、麦芽をつくるためにつるがどれだけ頑張っていたかは、夏から聞いていた。温度と水分量を確認し、何か異変がないか心を砕く。出来上がった麦芽をみた瞬間、つるがどれだけ真摯に麦芽と向き合ってきたかは、すぐにわかった。
そして。聞けば、村岡が柳やに突如押しかけてきた際には、その身を挺して麦芽を守ったというではないか。喜兵寿が鬼の形相で村岡を罵っていた傍らで、直は「愛がすげえ!つるめちゃくちゃかっこいい!」と叫んだことを思い出した。
「あれ?米を使ってビールを醸造しようとしていること、つるはどう思ってるんだ?」
つるが命をかけて守った麦芽。それを「これは使えなかった」と脇において、新たな方法を話し合っていたとき。つるは一体どんな顔をしていただろうか?
直は必死で記憶を振り絞ろうとしたものの、どうしてもその表情を思い出すことはできなかった。
「つるってさ、自分の人生変える決意してまで、ビール造ろうって決めたんだよな……?」
直はぼそりと呟く。
「兄ちゃんのこととかいろいろあってさ、それでも酒造りたいって夢があってさ。だから俺『一緒にやろうぜ』って言ったんだよな」
「やっべ……」そう呟くと直は立ち上がった。
「俺つるのこと迎えに行ってくるわ!」
「はぁ?何言ってんだ!」
勢いよく麹室を飛び出そうとする直を、喜兵寿が慌てて止める。
「急に何を言ってるんだ!どこで誰が見てるかわからないんだぞ?!つるは死んだことになっている。それをよく考えろ」
喜兵寿の言葉に、直は「でもつるだって仲間だろ!」と叫ぶ。
「俺たちが酒蔵でビールを造るって話をしたとき、あいつがどんな気持ちだったか……一緒に造ろうって約束したのに、何も言わずに出てきちまった」
「仕方ないだろう!つるは麹がつくれるわけでもない。日本酒を醸造できるわけでもない。危険を冒してまで、ここに来る意味なんてないだろ!」
「そんなんわかってるよ!」
直はぐうっと唇を噛みしめた。
「でもつるは自分の子供を育てるように麦芽をつくってくれたんだ。それが不要だって言われて、どんな風に思ったか。つるだって人生かけてビールを造るって決めたんだ。危ないからあとはずっと家の中で指をくわえて見てろって……そんなの可哀そうすぎるだろ」
「そんなこと言って、つるに何かあったらどうするつもりなんだ!」
今にも取っ組み合いが始まりそうな二人の間に、小西は「まあまあ」と割って入った。
「だったらワシが籠を手配しよう。下の町には馴染みの籠屋が数件あってな。口は堅いよ」
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。







