[テイスティング]2014.1.7

沈思酒考-01

AlesmithHORNY DEVILエールスミスハイアルコールベルジャン・スタイルホーニー・デビル大瓶

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photo by pakutaso.com *写真はイメージです。


沈思酒考 〜それはビールを飲みながら、溶け出す輪郭なき駄考の戯れ〜

家族が出払った年初の週末。新聞を広げてのんびりと過ごす。すると社会面で大きく取り上げられていた記事が目についた。
「一杯50分待ちのコーヒー」(*1)
大阪府にある喫茶店が出すコーヒーだという。ゆっくりゆっくり雑味が出る寸前のコーヒーをネルドリップで抽出するので、50分もかかるらしい。一杯2,000円前後。へぇ。コンビニコーヒーがヒットしているこのご時世にね。

さて、ホームセラーに放り込んでおいたエールスミスを飲むとしよう。一人でじっくり飲んでみたかったのだ。

このビール、クラフトビール好きならご存じの方も多いだろう。関係者を集めて行われたローンチパーティの模様や、エールスミス醸造所に関する基本的な情報は富江氏の「ビアレポート(34)」に詳しい。

そのとき、一番気に入ったように感じた「ホーニー・デビル」。渋谷の東急本店で購入しストックしておいた。750mlで3,465円(税込)。ワインのような外観のこのビールは、値段もワイン並である。アルコール度数は10%(現在、サイトでは11%と表記されている)。ハイアルコールシリーズ5銘柄の中の一つだ。

エールスミスのマークは、鍛冶屋が使う金床の上にビールが乗っているものだ。これは何をメッセージしているのだろう。ハンドメイドだということか。職人がそこにいることを告げているのか。なぜか私には産業革命をイメージさせる。金床の左右に「EST. 1995」の文字。HORNY DEVILのロゴの中には「Belgian-Style Ale Brewed With Coriander」とある。ボトルの左肩あたりに瓶詰めの時期が印字されている。それによると手元の「ホーニー・デビル」は2013年の7月9日にボトリングされたものだ。ほぼ半年経ったことになる。東急本店では常温で置かれていた。それがどう影響を及ぼすのかはわからない。家ではホームセラーに入れていたのだが、冷蔵庫よりは庫内温度は高い。そのことがどう出るかもわからない。ちなみにワイングラスに注いだ「ホーニー・デビル」の温度は15度だった。ボトル裏面に記された飲み頃の温度からはやや高めである。

エールスミス醸造所のオーナー、ピーター・ザイアン氏は輸入元(株)ジュートのインタビュー(*2)でこう話している。
「私たちは、何も新しいビールを発明しているわけではありません。きちんとビアスタイルに則り、そこにエールスミスらしさを加えているのです」

その言葉通り、ベルジャンスタイルとしてまず真っ先に思い浮かべるエステル香がグラスから立ち上ってくる。いい香り。色味はほんのわずかにくすみを帯びた金色とでも言うのだろうか。ザイアン氏は「若干、銅色寄り」と表現している。一口「ホーニー・デビル」含むと、バナナのような香りやクローブを想起させる香りに支配されるかと思いきや、スパイシーさがまず口中全体を捉える。その後、鼻腔を圧迫するようにアルコール感が攻めてくる。色味とアルコール感にギャップがあるとザイアン氏が言っていたが、まさにその通り。

温度が20度近くになると、甘さが引き立ってきた。これはこれで旨い。こういう変化は楽しいなぁ。この一杯目はまだボトルの首あたりのビールである。以前、ベルギービールに詳しい方に教わったボトルの最初と中程、そして底の部分でビールの味わいが違うということ。これを「ホーニー・デビル」で味わってみたいが、どうやら今回は時間がなさそうだ。

二杯目を注ぐ。16.5度。きめ細やかな泡立ち。発砲感は微量だ。まだ二杯目だが、10%のアルコールがほんのりと染みてきた。

ロールスロイス……。

そうそう、このブルワリーはビール界のロールスロイスを目指すと宣言している。ロールスロイスと言えば、その真偽のほどはともかく、伝説的なエピソードの数々が有名である。

アイドリング中なのにボンネットに硬貨がたったとか、主人が運転手に「エンジンをかけてくれ」というと、すでにエンジンはかかっていたとか、あるいは砂漠にヘリコプターで修理に来たとか、その修理代を受け取らなかった際のロールスロイス側の言い分が「ロールスロイスはけっして故障しません」だったとか。実際に、アメリカでは「高速走行中に聞こえるのはダッシュボードの時計の音だけ」という広告コピーが有名になったという。カタログのスペックに「十分」とだけ書いてあるというのも聞いたことがある。

ロールスロイスって、イギリスっぽいよなぁ(実際はもうイギリスにはないらしいけど)。お金があれば買えるだろうけど、ロールスロイスが似合うためには家柄が必要だよなぁ。白洲次郎とかね。あ、彼が乗っていたのはベントレーだったか。

エールスミスの伝説が同じようにこれから流布していくのだろうか。

三杯目。18.5度。

などとつらつら思っていたが、ザイアン氏は件のインタビューの中で、こんなことを言っていた。
「クルマ、飛行機、ボトリングマシン、靴……、どんな分野であれ、そこには最高級のものが存在します。それを私はロールスロイス・セグメントと呼んでいます。エールスミスは、マイクロブルワリーのロールスロイスになりたいのです。
そのためには、印象的な外観デザイン、最高品質のビール、そして真実の物語が必要です」

「ホーニー・デビル」の物語とは何か。ベルジャンスタイルに則るために、すべての材料をベルギー産のものにしたということ。イーストに至っては、ベルギーの修道院から採れたものを使用しているんだとか。ならばベルギーでつくっちゃえば、とビールの話だけどちょっとだけ茶々を入れてみたくなる。

四杯目。19度。といってもワイングラスの底にちょっと注いでいるだけです。

さて、3,465円のこのビール。家柄もなければ、お金もない私はターゲットではないのか。いやいや、そうでもないだろうと気持ちをもちなおしてみる。誰にでも特別な時はあるものだ。ちょっと贅沢をしようという気分にさせる時が。

大阪の喫茶店。その記事は店主のこんな言葉で結ばれている。
「みんな時間に追われすぎ。無駄に見える時間も、ちゃんと意味があるんです。そんな時間を提供するのも、僕の仕事かもね」

エールスミスは、インスタントな欲求を満たすものではないと思う。かけがえのない無駄の中に身をゆだねるときに、ゆっくりと楽しむのに向いている。

次はグラン・クリュかな。

¡Hasta la Vista!

*1
2013年1月5日付 朝日新聞 社会面39頁「脱・主流派宣言4  1杯50分待ちですが」

*2
エールスミス輸入元 (株)ジュート ピーター・ザイアン氏インタビュー


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01003高山伸夫

この記事を書いたひと

高山 伸夫

ビアジャーナリスト

神奈川県出身。早稲田大学第一文学部卒。高山広告編集所代表。広告・販促・PRの分野でコピー・プランニングを手がける。ビアジャーナリストアカデミー1期生。 ブルワーにフォーカスしたルポルタージュがテーマ。

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