[ビアバー,ブルワー]2015.9.4

台湾クラフトビールを訪ねて 〜台湾のビア・シーンを牽引する「北台湾ビール」訪問と、台北ビア散歩

 

台湾一の老舗ブルワリー、北台湾ビールへ

 

2015年6月、最新クラフトビール事情をリサーチすべく、台湾へと渡った。まず訪れたのは、台湾北西部の桃園(タオユェン)市にある北台灣麥酒有限公司(以下、北台湾ビール)。ここは、台湾で最も歴史のあるクラフトビールブルワリーである。一般の見学は受け付けていないのだが、今回は台湾の知人の取り計らいで特別に訪問を許可された。桃園市といえば、台湾の空の玄関口である台湾桃園国際空港のある場所。首都・台北から台灣高速鐵路(台湾新幹線)で19分ほどの、工業地帯を抱える人口 200万人の都市だ。ブルワリーは桃園空港から 1Km、新幹線桃園駅から 8kmほどで、やはり工業地帯にある。台湾ではブルワリーも工業地帯に立地しなければならないのだ。

北台湾ビールのブルワリー。正面が事務棟、右が倉庫、右奥が醸造所になっている。

北台湾ビールのブルワリー。正面が事務棟、右が倉庫、右奥が醸造所になっている。

ブルワリーではオーナーの溫立國さん、醸造責任者の段淵傑さんに話を伺った。

台湾では、2002年にWTO(世界貿易機関)への加入にともない、商業的な個人醸造が合法となった。溫立國さんはそれを機に「これからはクラフトビールの時代」と確信し、2003年10月に北台湾ビールを設立。溫さんのポリシーは、「台湾国産素材で台湾らしいクラフトビールをつくること」だという。従業員は4人で、年間醸造量はおおよそ60トン。発酵タンクは2000リットルが 5釜、1000リットルが 2釜稼働している。

溫立國さん(右)と段淵傑さん(左)。溫立國さんは、大同大學生物工程学部教授で、段淵傑さんの叔父でもある段國仁先生からビールの醸造知識を習得した。

溫立國さん(右)と段淵傑さん(左)。溫立國さんは、大同大學生物工程学部教授で、段淵傑さんの叔父でもある段國仁先生からビールの醸造知識を習得した。

■醸造設備見学

話を伺った後は、醸造責任者の段淵傑さんの案内でブルワリーの中へ。衛生的な環境の中で近代的な設備が稼働していたのが印象的で、工場内には酵母の培養室もあり、酵母の管理もなされていた。

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醸造設備。

醸造設備。

培養室では酵母を培養している。

培養室では酵母を培養している。

テイスティングする醸造責任者の段淵傑さん。

テイスティングする醸造責任者の段淵傑さん。

こちらは、出荷準備をしていた「5五 BEER」。北台湾ビールでは多くのコラボビールをてがけているが、これもそのひとつで、「台北一のおしゃれホテル」ともいわれるWホテル向けに限定醸造されているアメリカンIPAだ。

こちらは、出荷準備をしていた「5五 BEER」。北台湾ビールでは多くのコラボビールをてがけているが、これもそのひとつで、「台北一のおしゃれホテル」ともいわれるWホテル向けに限定醸造されているアメリカンIPAだ。

事務所には北台湾ビールで醸造しているビールのボトルがディスプレイされていた。

事務所には北台湾ビールで醸造しているビールのボトルがディスプレイされていた。

会社のロゴマークやボトルデザインに猫が使われているのは、オーナーの溫立國さんが猫好きだからだとか。

会社のロゴマークやボトルデザインに猫が使われているのは、オーナーの溫立國さんが猫好きだからだとか。

■いよいよ試飲!

工場見学の後は、待ちに待った試飲タイム。ここでは主なアイテムを試飲させていただいた。北台湾ビールは、2014年のアジアビアカップにおいて、「ベルジャンビール」カテゴリーの金賞と銀賞を受賞。各国から多くのビールが出品されるこのカテゴリーで、金、銀の独占受賞は快挙である。では今回試飲させていただいたビールをはじめ、北台湾ビールのラインナップの一部をざっと紹介しよう。

「經典(八)」Belgian Dark Strong Ale

まずはベルジャン・スタイルのアビービール、「經典(八)」。余談だが、「經典」はいわゆる仏教の経典ではなく、「クラシック」という意味。こちらはアルコール度数8%。しっかりとしたモルトと、アビービールらしい複雑でスパイシーなフレーバー魅力的。スパイスは使っていないらしいので、ベルジャン酵母に由来していると思われる。このビールは金賞を受賞している。

經典(八)

經典(八)

「經典(六)」Belgian Ale

アルコール度 6%の「經典(六)」もある。こうしたアルコール度数によるネーミングは 「Rochefort」 を彷彿させる。酵母は8%の「經典(八)」と同じものを使用。色は薄く、 SRM 6ぐらいだろうか。こちらもスパイシーなフレーバーが魅力的でモルトの甘味も感じられた。段さんが最も好きだというビール、「Orval」に通じるものを感じる。

經典(六)

經典(六)

銀賞を受賞したウイートエールの「雪藏白啤酒」を試したかったが、ブルワリーでは在庫切れ。こちらは夜の台北の街で楽しむことに(後述参照)。

 

「喜願小麥工藝啤酒」 Belgian White

「喜願小麥工藝啤酒」は喜願小麦50%と大麦50%を使ったベルジャンホワイト。小麦は100%台湾産のものを使用。「喜願」というのは台湾の代表的な小麦栽培組織で、食料自給率の向上を目指して活動している。色はヒューガルデンホワイトよりも濃く、SRM 6 程度。しっかりした小麦のフレーバーとベルジャンホワイトらしいスパイス感を感じたが、こちらも特にスパイスは使っていない。ちなみにこれ、段さんの自信作なのだそうだ。

喜願小麥工藝啤酒

喜願小麥工藝啤酒

「穀雨 (Taiwan Tea ale) 」Belgian-Style Pale Ale

副原料に台湾産のウーロン茶を使用したペールエール。ホップとウーロン茶のバランスがよい。実はこのビール、「北台湾ビール」のブランドでは販売されておらず、「啤酒頭 (Taiwan Head Brewers Brewing Company)」として流通。「啤酒頭」とは、特定の醸造所を持たない、いわゆるファントムブルワリーで、北台湾ビールもこれに参加している。

穀雨

穀雨

啤酒頭ではこの他に、アメリカンペールエールの「立夏」も販売しているが、これは北台湾ビールが醸造するアイテムではないためブルワリーには置いていなかった。(台北のビアカフェで飲むことができたので、後述参照。) 「穀雨」「立夏」など、二十四節季にちなんだネーミングがユニークだ。続いて「夏至」「立秋」もリリースが予定されているという。そのうち「立秋」については北台湾ビールが醸造を担当している。

さらなるビールを求めて台北の夜の街へ

 

充実の工場見学の後は、台北市内へ。ブルワリーで飲めなかった北台湾ビールと、啤酒頭の「立夏」を求めて夜の街に繰り出した。台北のビア事情はなかなかにアツい。店それぞれに個性があり、扱うビールには店主の好みが現れているようにも思う。今回目的のビールを求めて歩いた3軒をご案内する。

「家途中啤酒屋」 (Way Home Beer House)

まずは、MRT台北小巨蛋駅から5分ほどの、いわゆる角打ちできるボトルビールショップ、「家途中啤酒屋 (Way Home Beer House)」 に行ってみた。店名の通り、「家に帰る途中にちょっと寄って飲む」というコンセプトの店だ。こちらでは、冷蔵庫で気持ちよく冷えたビールを軽食とともに楽しむことができるのだが、残念ながらドラフトビールは置いていない。ラインナップとしては海外のビールが目立つが、棚の一角はしっかり北台湾ビールが占めていた。

家途中啤酒屋

家途中啤酒屋

棚の一角を占める北台湾ビール。左の「鳳梨(パイナップル)」と「柳丁(オレンジ)」はフルーツビールだが、訪れたときは、果物の旬が過ぎていたので生産は中止されており、在庫限りとなっていた。一番右の「獨立」(閃靈獨立啤酒)は、台湾のロックバンド「閃靈(ソニック)」が台湾独立建国のコンセプトで創作した際、その考えに共鳴して造ったコラボビール。ビアスタイルはヴァイツェン。第二弾のコラボビールはセゾンが予定されている。

棚の一角を占める北台湾ビール。左の「鳳梨(パイナップル)」と「柳丁(オレンジ)」はフルーツビールだが、訪れたときは、果物の旬が過ぎていたので生産は中止されており、在庫限りとなっていた。一番右の「獨立」(閃靈獨立啤酒)は、台湾のロックバンド「閃靈(ソニック)」が台湾独立建国のコンセプトで創作した際、その考えに共鳴して造ったコラボビール。ビアスタイルはヴァイツェン。第二弾のコラボビールはセゾンが予定されている。

こちらの店にも啤酒頭の「穀雨」は販売していたが、「立夏」は売り切れ。ということで、ブルワリーで飲めなかった「雪藏白啤酒」を飲んでみた。小麦が爽やかなヴァイツェンに近いビールだ。

雪藏白啤酒

雪藏白啤酒 (Wheat Ale)

「北義極品咖啡」(North Italy Ratting Coffee)

次はMRT小南門駅から10分ほどのビアカフェ「北義極品咖啡」で、「經典(八)」と「經典(六)」を。「北義」は「北イタリア」の意味で、イタリアンテイストのコーヒーにこだわっていることからつけた店名なのだそうだ。ここは、海外のビールを中心にドラフトで6タップほどを提供している。ボトルビールの販売も多く、冷蔵庫の中の物は店内で飲むこともできる。軽食もあり、台北ではお勧めのビアカフェのひとつだ。

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北義極品咖啡

北義極品咖啡

經典(八)經典(六)

經典(八) 經典(六)

「啜飲室」

夜のビア散歩はまだまだ続く。次はMRT忠孝復興駅から5分ほどのところに今年オープンした「啜飲室」。「啜」は日本語で「すする」と読むので、名前をからはあまり上品な印象を受けないが、台湾では「ゆっくり味わって飲む」という意味もあるらしい。20代~30代の若者が多く、モダンでおしゃれな店内。キャッシュ・オン・デリバリーでカジュアルに飲むことができる。ここでは啤酒頭の「立夏」のドラフトをオーダー。ホッピーで爽やかなビールだった。

立夏  (American Pale Ale)

立夏 (American Pale Ale)

さて、これで目的のビールはほぼ制覇。そしてなお、夜の台北のビアバー巡りはまだまだ続くことになるが……。台北ビアバーの詳しいレポートはまた次の機会にとっておこう。

台湾クラフトビール、今後の展開は?

 

1994年の日本の地ビール解禁から遅れること 8年、2002年に台湾でも地ビールが解禁された。それから10年以上が経ち、現在では 10社以上のクラフトビールメーカーがしのぎを削っている。食べ物が全般的に安くて美味しい台湾だが、クラフトビールは日本と同等以上の値段。つまり台湾ではまだまだ高級品なのである。それでも多くの若者がクラフトビールを楽しんでいる状況を目にして、もしかすると3年後には、日本よりも活気あるビア・シーンが展開されているかもしれないと感じた。クラフトビール愛好者としては、台湾の素材を使い、台湾の食事、気候、風土にマッチしたビールが今後ますます増えることを願うばかりだ。

啜飲室でクラフトビールを楽しむ若者たち

啜飲室でクラフトビールを楽しむ若者たち

●関連リンク

北台灣麥酒有限公司
https://www.facebook.com/NorthTaiwan

啤酒頭 Taiwan Head Brewers Brewing Company
https://www.facebook.com/taiwanheadbrewers

家途中啤酒屋 Way Home Beer House
https://www.facebook.com/wayhomebeerhouse

北義極品咖啡
https://www.facebook.com/NORTHITALYRATINGCAFE

啜飲室
https://www.facebook.com/chuoyinshi

北台湾ビールの買える店
https://www.facebook.com/notes/10151175438672689/

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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