[ブルワー]2019.9.2

一人当たりのビール消費量全国第4位高知に種まき育つTOSACOビールの未来

平成29年度成人1人あたりの酒類販売(消費)数量(都道府県別 ※)で、ビールの消費量が北海道を抜き第4位に君臨する高知県。しかし、2010年に土佐黒潮ビールが醸造終了した後、意外にも長い間ブルワリーがない状態が続いていた。そして、2018年に満を持して登場したのが「TOSACOビール」だ。

高知に住みたい、そしてビールが造りたいの夢を叶える

「大阪生まれの大阪育ちなので、自然豊かな故郷のような場所に憧れていたんです」と代表の瀬戸口信弥さん。大阪出身で親戚も皆、大阪在住だ。当時お付き合いをしていた奥様の香帆さんの兄が高知大学に進学したことがきっかけで高知を訪れたことで、四万十川の清流に代表される豊かな自然に魅了され、どんどんその魅力に引き込まれていく。

TOSACO代表社員兼ブルワー 瀬戸口信弥さん


大学では電気工学を学び、大学院でバイオサイエンスを研究していた瀬戸口さん。卒業後就職したメーカーでの在職時に憧れの高知県への移住を具体的に考え、そしてその高知で大好きなビールで事業を興そうと、ブルワリーの創設を決意する。その間もなく大阪で開催された高知県主催の移住促進会を通して高知県香美市で移住者と現地の人を結ぶ役割をしている「NPO法人いなかみ」と知り合い、共催という形で現地で事業説明会を開催したことで高知県香美市土佐山田町でスーパーマーケット「バリュー」を展開するの株式会社土佐山田ショッピングセンター代表取締役社長 石川 靖さんと知り合った。ビール造りは石見麦酒で学び、2017年、高知県ビジネスプランコンテストで優秀賞受賞。それをきっかけに石川さんの計らいでその食品工場の一角に場所を借りてブルワリーがスタートした。

会社の名前は、合同会社高知カンパーニュブルワリー。カンパーニュの語源であるカンパニオという言葉の「パンを分けあう人々」という意味に感銘し、夫婦二人で力を合わせてモルトを育てる姿をロゴにした。

モルトを育てる瀬戸口さんと奥様をイラストに


「ぼくら夫婦の大好きな映画『幸せのパン』(大泉洋主演)にも影響を受けているんですよ」と瀬戸口さん。

皿鉢料理のようなビール造りを目指したい

高知の名物料理に皿鉢料理がある。大皿に鰹のたたきをはじめ、おかずやつまみ、寿司から子どもが大好きなスイーツまでを盛りだくさんに盛り合わせる。親族が集まったり来客があった時に、家族の誰かが料理作りやもてなしに縛られることなく、最初に大皿でドーンとテーブルに用意して、みんなが一緒に食事を楽しむことができる文化だ。
「すごくいい文化だと思います。そして、自分が目指すビール造りのコンセプトととても共通すると感じました。私の妻はビールはちょっと苦手なんですが、そんな妻がおいしいと思うビールが造りたいと思っていましたし、いずれはノンアルコールや子どもでも飲める ”こどもビール” のようなものをつくったり…。そんな様々なビールで家族や仲間が誰でも一緒に楽しめる、まさに皿鉢料理のような ”皿鉢ビール” がつくれたらと考えています」

瀬戸口さんと奥様の香帆さん


ちなみに高知には「おきゃく文化」がある。おきゃくとは宴会のことを指し、友人や仲間、家族とワイワイ一緒に盛り上がる。そんな席に皿鉢料理が欠かせないが、そんなおきゃく文化を観光客も体験ができるのが春に毎年開催されるイベント「土佐のおきゃく」。土佐のお酒の神様 ”べろべろの神様” に見守られて酒食を分かち合う。今年の春開催で、イベント用にオフィシャルラベルのビールも限定販売した。

おきゃくイベント用の限定ビールとべろべろの神様(by デハラユキノリ)

新たなスタッフも入社し、パワーアップ

「高知で造ることに意味のあるものを造っていきたいと思っています」と瀬戸口さん。例えばゆずや近隣で育った米など、地元の原料を使うのはもちろん、さらに地元に還元できるビール造りをしていくことこそがあるべき姿だと話す。また、高知に魅かれた理由の一つである清流や、室戸岬の海洋深層水など、高知だからこその水を活用したビール造りも夢に描く。

さらに、創業2年目にして新たなスタッフ、高知市生まれの濱田雄太郎さんが入社した。

瀬戸口さん(左)と濱田さん(右)


大学院で麹菌の研究を行い、前職では酒類の商品開発を行っていた濱田さん。もともとジンが好きなこともあって、今年8月には早速濱田さんのアイデアで、120klの仕込みにドライジュニパーを500g入れた『ジュニパージンジャービア』を限定でリリースした。

限定醸造にはタグをつけて出荷する


「いいチームワークでやっていけるのが楽しみです。もちろんこれからも創業からのコンセプト、家族で楽しめるビール造りをどんどん形にしていきたいですし、体にいいものを提供していきたいと考えています」

そんな思いが伝わり、TOSACOビールのファンから感謝の手紙も届いている。

感謝の気持ちが綴られたお客様からの絵手紙

地元とともに一歩ずつ歩むTOSACOビール。
酒豪県だからこそのクラフトビールの芽は、たくさんの栄養を吸収しながら大きく育ちつつある。今年8月には、高知県立大学にある高知県産学官民連携センターでの起業や経営の現場の生の声を伝える経営者セミナーの講師にも招かれ、また、県内ではさらに二つのブルワリーも始動を始めている。
今後の展開がさらに楽しみだ。

「酒のしおり」平成31年3月国税庁課税部酒税課より

TOSACOビール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

宮原 佐研子

ビアジャーナリスト/ライター

ビアLover 宮原佐研子です。 ビールの大好きなトコロは、がぶがぶ飲める、喉ごし最高、大人の苦味、世界中でも昼間でも飲める、 果てしなくいろんな味わいがある、そしてぷはぁ〜っとなれる、コトです。
ライターとして、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)/『じゃらん酒旅BOOK 2023』(リクルート)/『うまいビールの教科書』(宝島社)/『クラフトビールの図鑑』(マイナビ)、ぐるなびグルメサイト ippin キュレーター など

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