[イベント]2023.2.23

《金山尚子さん》女性ブルワー 連載取材 「彼女がビールを造る理由」vol.5

クラフトビールのブルワリーで働く女性を取材するこのシリーズ。
第5回は北千住の「さかづきBrewing」金山尚子さんにお話を伺いました。

さかづきBrewing 金山尚子さん

お店の玄関前。改装前の建物の柱に使われていた赤を活かし、あえてドアも赤に。かわいいアクセントになっています!

2023年3月に7周年を迎える「さかづきBrewing」。合同会社さかづきの代表であり、ヘッドブルワーの金山さんの日々の生活をご紹介しつつ、周年にあたりブルワリーとして大切にしている信念や、今後に向けての思いを取材しました。

 

「ヘッドブルワー」&「ママ」全力の毎日

金山さんの仕込みが無い日の1日のルーティン。ブルワーの任務に加え、税務・経理・人事・総務のお仕事も担います。さらに元気一杯の2歳のお子さんを持つ、ママの顔も。1日は目まぐるしく終わり、寝かしつけが終わると日中できなかった残務処理。でもその前に寝落ちしてしまうことも多々あるそうです。

飲食店と醸造所の運営は事務仕事だけでも相当なボリューム。

ビール造りは人生を豊かに生きるための手段

忙しい日々を送りながらも、子育てについて楽しそうにお話しする金山さん。ママになってから働き方に変化はあったのでしょうか。

「元々、子供を産みたいという気持ちは強かったです。でも会社が決めた制度の中で子育てをする事も、会社の都合で定年で突然職を失うことも嫌でした。なので、会社に勤務していた30歳の頃から辞めて独立しようと決意していました。」

女性としての理想の生き方とブルワーとしてのキャリアプラン。沢山思い悩み、実際に退社に至ったのは35歳になる年でした。

「私にとって、ビール造りは人生の目的ではなく、人生を豊かに生きるための手段。いつか子供を迎え、育てて行くことを考えても、全てを1人でやることはできないので、安定的にビールを造り、生活していくためにも、会社という組織にする必要があったんです。」

いよいよ2015年に創業し、会社としての歩みが始まりました。(ブルワリーオープン時の紹介記事はこちら

ブルワリーも軌道にのり、さらに自分の理想のビールを造るため、新たな醸造設備も備えた新店舗をオープンを計画していたちょうど2020年、その年に金山さんはお子さんを授かることになります。
「すでに高齢でしたから、ありがたいことでした。でも、大変でした・・・!大きなお腹で、醸造場の立ち上げ開店準備、8月にオープンした後はコロナ対応しながらの店舗運営、そして12月に出産、という激動の2020年でした。」
これほどの人生のビックイベントが一気にやってくる事も、それをやってのけてしまう金山さんにも驚くばかりです!そして、彼女はこう続けます。
「何を思ったかというと、とにかく「体力」が大事です!!12月に出産して産後も1週間後にはお店に戻り、保育園に入れる4月まで授乳しながら現場で仕事をしていました。30代はよくランニングに励んでいましたが、今思うと、その頃から体力作りをしておいて本当に良かったです。」

地道な仕事から美味しいビールが生まれる

激動の2020年を経て、醸造設備もパワーアップしさらなる飛躍が楽しみなさかづきBrewing。今は醸造スタッフの育成に力を入れる。現在2名の社員が醸造スタッフとして勤務してますが、現在はレシピを考えているのは金山さんとのこと。
「レシピを書くことが目的になりがちですが、私はビール造りについてゼロから教えています。例えば、設備のメンテナンス。正常を知り、異常に気づく力、そして異常に気づくための掃除の必要性。そういうことを学んだ先に、レシピを書くという作業があるのかな、と。そんな話をすると、理想とのギャップや、実際の仕事のまどろこしさに、不満を持つ方もいるかもしれません。」
金山さんのこういったブルワーとしての心得は、ビールメーカー時代に“死ぬほど叩き込まれた”そうです。
「大手ビールメーカーの醸造って花形っぽく見えるかもしれないですけど、入社一年目の仕事はタンク下の掃除と、設備のメンテナンス。ある時は炭酸ガスの漏れをチェックするため広大な工場の配管を全部確認し、ひたすらレンチで閉めて回る事も。でもそういう作業のうえにビールが健全に造られているという事を知りました。自分の店でもそういうことを知って欲しいと思うので、そこはしっかりと伝えます。」

細かい箇所も清掃には徹底しています。

金山さんは地道に仕事を覚えながら、お客様目線のビール造りができるようになって欲しいと言います。

「自己満足のレシピで造ったビールをお客様に提供して欲しくないと思っています。あのお客様がこの季節にこういうビールを飲んだらきっと喜んでくれるのではないか、そんな風に真摯に考えて造ったビールに対して、対価をいただいている。さかづきBrewingではそういう姿勢でいてほしいと伝えています。」

そして、7年経った今、やっとその考えに賛同してくれる後輩が現れたそうです。

「どんな細かい仕事もコツコツと取り組む姿に“この方ならお客様の喜ぶビール造りを一緒に頑張ってくれるのではないか”と思う担当者が2名在職してくれています。偶然ですが2人とも女性です。

そのうち1人は現在育休中。金山さん自身の経験も活かしながら、女性の働きやすい環境づくりに気を遣う。産休育休制度があることは大前提ですが、その上で経験者がいるということが一番のサポートになるのだと思います。

左)醸造スタッフの方 右)金山さん

「戻ってきてほしいし、戻ってきたいと言ってくれる関係が築けたことが嬉しいです。」

これからもお客様とのコミュニケーションを大切に。

創業の時に最初に仕込んだヴァイツェンのエピソード。

「鍋を直火にかけて炒る際に麦がこびりついて焦がしてしまって、、なんと焦げ臭いヴァイツェンができてしまったんです。それが賛否両論ありまして。批判的なご意見を頂いた一方で、「初めての味だけど美味しい」と言ってくださる方もいらっしゃいました。クラフトビールは“手作り”ですから、アクシデント含め、造ったそばからお客様の反応がわかるのがブルーパブの良さだな、と改めて感じました。」

店頭での接客は「お客様とコミュニケーションがとれる貴重な時間。」

お客様との距離感の近さを活かして、7周年を記念した面白い企画も用意されています!

最後に、8年目をスタートするに当たって今後への意気込みを伺いました。

「新しい手法にチャレンジする年にしたいです。元々微生物学が専攻なので、酵母に興味があります。今まではそこまで余裕がありませんでしたが、今後は酵母の可能性をもっと掘り下げるビール造りをしたいと思っています。バレルエイジドも気になっているので、バレルをおけるスペースも確保しなくては、と思っています。都内で仕事帰りに立ち寄ったブルワリーで、バレルエイジドビールが飲める、なんて素敵ですよね!」

7周年イベントについて

●日時 3/3(金)、3/4(土)、3/5(日)の3日間
※営業時間は通常営業時間に則します

●イベントの企画内容
・過去1-3回程度しか仕込んでいないビールについて、お客様による”一発屋ビール人気総選挙”を年末年始に実行し、結果、上位3液種となったビールの再醸造とご提供
・シェフ考案、上記3液種のペアリングフードをコース仕立てにてご提供
・ハズレなし!レストランご利用のお客様には記念ロゴグッズが当たるくじ引き実施
内容
①1等賞
オリジナルビール醸造権
②2等賞
7周年限定ロゴ入り昭和レトロビアグラス
③3等賞-250個
7周年限定ロゴ入り缶バッジ

  • さかづきBrewing
    所在地 :東京都足立区千住1-20-11
    TEL : 03-5284-7676
    営業時間:2Fレストラン 平日16:00~22:30(L.O. 22:00)土13:00~22:30(L.O. 22:00)日13:00~21:30(L.O. 21:00)定休日:月曜日・火曜日
    Instagram / Facebook

 

さかづき Brewingクラフトビールブルワーブルーパブ女性ブルワー

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

アバター画像

この記事を書いたひと

五十嵐 糸

ビアジャーナリスト

化粧品会社で16年間にわたり、営業・宣伝・PR業務等を経験。
楽しい時も辛い時も毎日ビールを飲んでサラリーマン時代を駆け抜ける。
大好きなビールについて勉強するうちにどんどんその魅力にはまり、PR経験を活かしてフリーに転身。ビールの美味しい飲み方や魅力を日々SNSや協会HPで発信。ビールを通したローカルコミュニティの活性化や、街の復興を目指し、渋谷の街のオリジナルビール「渋生」をプロデュース。

ストップ!20歳未満者の飲酒・飲酒運転。お酒は楽しく適量で。
妊娠中・授乳期の飲酒はやめましょう。