一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会

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株式会社BETの西中明日翔さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは? 日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.16レポート

月に1度ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。2023年7月は、元カケガワビールのブルワーで現在は醸造設備をはじめビール造りをサポートする株式会社BETに勤務する西中明日翔さんを招いて開催した。

母親がベルギー出身の西中さん。自身も学生時代やブルワーとしてベルギーで過ごした経験をもっている。そんな彼は、どんなものに日本オリジナルの可能性を感じているのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめてレポートする。

ビアスタイルありきではなく、造りたいビールを造る

「ベルギーは、ビアスタイルは深く考えられていないです。ビール評論家のマイケルジャクソンが後付けでつくった代表的なビアスタイルがありますが、形ありきで造っていません」

今回、最も聞いてみたかったのがベルギーにおけるビアスタイルの考え方。自分達が造りたいビールを完成した後に「ビアスタイルに当てはめている程度」の考えだと言う。

「ベルギーのブルワリーは、輸出ありきで醸造をするので日本のように数多くの商品を造りません」と西中さん。国外に向けて造るため、自分達の特徴を表現したビールを2~3種類に絞って生産量を確保している。

一方で、帰国後に日本のクラフトビールシーンは、どのように感じたのだろうか。

「ブルワーがビアスタイルに振り回されている印象を受けました。売れ筋のビールを造ることは悪いことでありませんが、自分達の個性を打ち出しているブルワリーは少ないと感じました」

ビールの特徴を説明したり購入したりする時の指標になるビアスタイル。帰国後に感じたのは、「売る」ことや「人気のビアスタイル」への強い意識で、ビアスタイルに捉われてブルワリーのキャラクターが伝わりにくかったと言う。

西中さんは、そのような雰囲気を感じながらカケガワビールでもベルギーと同様に「ビアスタイルにこだわらず自由に造っていた」と言い、ビアスタイルは完成後に必要に応じて付けていたと話す。

「おいしい」「造りたい」から広まっていく可能性

「ビアスタイルは、売り手や飲み手が自由に当てはめてくれて良いと思います。飲んだ人が『おいしい』『面白い』と広まっていけば結果として新しいビアスタイルとして確立するのではないでしょうか」

形ありきから生まれるのではなく、造ってみて良かったものが広まって形になっていく。

「現存のビアスタイルも新しいものを確立しようとして生まれたのではなく、造りたいもの、飲みたいものが広まって生まれたと思います」と、日本オリジナルのビアスタイルなら日本のブルワーが独自のビールを造り、海外のブルワーが真似をして広まっていくと日本オリジナルになる可能性があると西中さん。

CRAFT BEER BASEの谷さんも「これまでのゲストも様々なビールが造られていく過程で、『広まることで将来的にビアスタイルとして確立する可能性がある』と話をされる方もいました。そう考えると、まだ日本は明確にビアスタイルを打ち出すのではなく、可能性を探る時期なのだと思う」とビールの創造性を広げていきたいと話していた。

日本らしさを広めるポイント

海外に日本らしさを伝えるポイントはあるのだろうか。

「品質が良いだけではだめです。日本の場合、輸出するには海を渡らないといけません。輸送コストがかかるので海外で売るには価格が高くなります。高い価格で購入してもらうには個性が際立つものでないと難しいでしょう」

海外で認知してもらうためには飲んでもらう必要がある。そのためには購入しやすさも重要だ。そうなると輸送コストでハンデのある日本のクラフトビールは難しくなる。

「逆手にとって海外では造らないビールを高級路線で売ったら面白いと考えています。海外には日本のクラフトビールに興味がある人が一定数います。マニアから広めてもらう手法は効果があると思います」と海外事情に詳しい西中さんならではの考えに、「その路線はありですね」と谷さんも賛同していた。

確かに日本でも海外の注目ブルワリーのビールが輸入されるとビールマニアは価格が高くても購入する。そこで評価を得ることができれば多くの人に広まっていく。輸送環境による劣化も課題となるが、「知ってもらう」ための方法として高級路線は有効かもしれない。

具体的にはどのようなビールに可能性があるのだろうか。

「希少性と高級感のあるビールでしょうか。日本特有の樽で熟成させたビールは、注目されるでしょうし、麹や米など日本酒の要素を取り入れたビールは面白いと思います」と西中さん。これに対して谷さんは、「通常版と特別版の2つを醸造して比較できるようにしてアピールすると興味をもってもらいやすいのではないでしょうか」とアイデアを出す。

ペアリングで攻めるなら売り込む国の食文化を理解する必要あり

「日本人は繊細な味覚をもっています。口内調理は日本人特有の能力です。そうしたところも合わせて日本らしさのあるビールとのペアリングを伝えていきたい」とペアリングで日本の独自性をアピールしたい思いをもつ谷さん。

その話を聞いて、西中さんがベルギーの大学に在籍していた時のことを話してくれた。

「ベルギーの大学で学んでいた時に、日本人とベルギー人に協力してもらい『日本食とビール』を卒論の題材にしました。寿司とベルギービールで自由にペアリングをしてもらったところ、日本人は『ラガー系のビールだと寿司の味も分かる』と、魚の生臭さが感じやすいことも含めて、両方の特徴についての回答が多くみられました。一方でベルギー人は、ブラウンエールなど濃色系のビールと組み合わせる回答が多かったです。理由として、『寿司の生臭さをビールが消してくれるから』と、魚の味について全く触れられていませんでした」

国によって食に対する考え方が異なる。西中さんは「その国々の食文化を理解しないとペアリングからオリジナルが生まれることは難しい」と話す。

西中さんの話を聞いて、日本と似た食文化をもつ国であれば伝えやすいが、率直に異なる国では難しいと感じた。

今回、初めて海外での居住経験やブルワリー勤務経験のあるゲストに話を聞いた。様々な角度から物事を見て感じてきた西中さんの話はとても興味深いものが多かった。日本オリジナルのビアスタイルに関係なく、海外で日本のクラフトビールをアピールする時の参考になる内容だったと思う。

コロナ禍も一区切りとなり、訪日外国人旅行者も戻ってきており、日本のクラフトビールを飲む機会も増えてくるだろうし、逆に話を聞いたり、リクエストをされたりすることもあると思う。異文化に触れることで編み出されるものもあるだろう。西中さんの話は大きなヒントになるのではないだろうか。

次回の「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の開催は2023年9月末を予定している。イベントの情報は「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページを中心に告知する。イベントは無料で参加できるので関心のある方は参加してほしい。

今回のイベントの様子は、Podcastで配信しています。

 

日本オリジナルのビアスタイルを探る旅

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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こぐねえ(木暮 亮)

ビアジャーナリスト