[イベント]2013.7.24

【BJAレポート】オリジナリティと物語性を切り口に世界へ。JBJA FBページ1周年記念公式イベントを終えて

BJAJBJAコエド外国人記者クラブ常陸野ネスト朝霧重治木下敏夫藤原ヒロユキ
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左から木内敏夫氏(常陸野ネスト)、藤原ヒロユキ氏、朝霧重治氏(コエド)

2013年7月17日、木曜日。有楽町、電気通信ビル北館20階。ニュースでしか見ることなかった場「外国人記者クラブ」。そこにクラフトビール好き200名あまりが集まった。

日本の二大ブランド、「コエド」を展開する株式会社協同商事代表取締役社長・朝霧重治(あさぎり しげはる氏と「常陸野(ひたちの)ネスト」を有する木内酒造合資会社取締役・木内敏之(きうち としゆき)氏の両氏が壇上でディスカッションするという日本ビアジャーナリスト協会(JBJA)の公式イベント「日本のクラフトビールは世界で通用するのか 世界に誇る日本のクラフトビール二大メーカー コエド vs ネスト緊急トップ対談」が開催されたのだ。
その場を仕切るのは、日本ビアジャーナリスト協会会長の藤原ヒロユキ氏。

日本では今クラフトビールが注目されてきている。新しいビアパブも次々にオープンしている。ビアフェスに大勢の人が詰めかけ、1990年代後半の地ビールブームとは異なった盛り上がりを見せている。

日本のクラフトビールは海外のコンペティションでもさまざまな賞を獲得。評価もされている。「コエド」「常陸野ネスト」の受賞歴を挙げれば切りがないほどだ。

 

輸出先は「コエド」6か国。「常陸野ネスト」20か国余り

「コエド」も「常陸野ネスト」も輸出を始めたのはほぼ同時期。今や「コエド」は6か国。「常陸野ネスト」では20か国余りに輸出している。「常陸野ネスト」は年間生産量1,500KL(500万本相当)のうち、約900KL(300万本)分のビールを輸出に回している見当だ。

この二つのクラフトビールはどのようにして海外進出を果たし受け入れられていったのだろうか。朝霧氏に「常陸野ネスト」のホワイトエールが、木内氏に「コエド」の伽羅が振る舞われたあと、お二人の話は日本のナノ・マイクロブルワリーの歴史を紐解くところから始まった。

 

出自の異なる二社の小規模醸造所としてのスタート

1994年、ビール醸造免許取得に必要な年間最低製造量が、2,000KLから60KLに引き下げられた。多少の前後はあるものの両社ともこの法改正を機にビール事業に参入する。

しかしながら両社の出自は全く異なる。「コエド」は有機農産物の飲食店向け産直を手がける商社が地元の農業、農産物を拡大解釈していく中で生まれてきた事業であるのに対し、「常陸野ネスト」は日本酒の蔵・木内酒造の新規事業として始まったブランドである。

 

ラベルには夢が託されていた

「常陸野ネスト」はブランド立ち上げ時から、「コエド」は2006年のリニューアル時から、ブランド表示は欧文のみだ。それは両者の思いの表れでもある。

「創業当初からラベルは一か所も変わっていません。最初からアメリカ仕様のラベルをつくった。それは私たちの夢の表れなんです。ウチみたいな小さな会社でも、将来、海外で勝負できるんじゃないかという可能性をクラフトビールにみてとっていたんです」(木内氏)

「地元の土産物としてしか見てもらえない状況から脱することができずに、非常に苦労した時代。そこからステップアップするために、私たちは地域性ということよりも良質のクラフトマンシップによって生み出される品質を訴求しなければ駄目だと思いました。だから川越を示す小江戸ではなく欧文表記を採用したんです」(朝霧氏)

 

求められるのはオリジナリティと物語性

「常陸野ネスト」は1998年のワールド・ビア・カップ・イン・ニューヨークで賞を取ったことがきっかけで、ニューヨークでの販路が開ける。2006年にリニューアルし5銘柄に絞った「コエド」も、iTQi(国際味覚審査機構)で評価されたことをはじめ、いくつもの賞を獲得して海外へ進出していく。

海外に進出して感じることは、「日本オリジナル」であることや「物語性」が強く求められることだという。

「本家のスタイルを真似るだけでは、コンペティションで賞は取れても、市場では受け入れられません。お客さまは一番のブランドを選ぶからです。たとえば、ヒューガルデンを真似たそれなりのビールをつくっても、みんなヒューガルデンを選ぶんです。当たり前ですよね。ウチでいえば、Nipponia(ニッポニア)というビールがどこにもないビールだということができます。日本産ビール麦『金子ゴールデン』を5粒発見したところから復刻させ、さらに明治に北海道で育成されていたソラチエースというホップをつかったビールです」(木内氏)

「なんで日本でビールなんだ、日本は酒の国だろう?っていわれたときに、その壁を越えて納得させるストーリーがないと受け入れてもらえません。紅赤というサツマイモを使ったビールは世界のどこにもない。そしてサツマイモは川越という地域と深く結びついた産物です。自らの足もとにあるものを再発見し、ビールというカタチに取り込んでいく。そういう物語性が世界に認めてもらうための一つの要素だと思います」(朝霧氏)

 

ビールと料理とのペアリングがトレンドになってきた

今、世界の食はフレンチと和食がトレンドだという。フレンチはヘルシー志向を受け、バターやオイル、塩を減らし、ハーブや出汁を使う方向へ変容していっている。和食の世界では“旨み”の概念や抽出技術、使い方などの輸出が盛んだ。

アメリカではフレンチレストランでクラフトビールを常備することが当たり前になっているという。

「ビアパブでレアなクラフトビールを飲んで喜んでいた時代は、少なくともアメリカでは過去のものになりつつあります。そういう経験を経て、舌の肥えた人たちがレストランで料理とのペアリングを楽しむようになってきている。健康志向のフレンチはワインと合わなくなってしまった。そのときに、アメリカ人はクラフトビールとフレンチとの相性を発見したのです。今や、クラフトビールを楽しむ場の主流はレストランへとシフトしています」(木内氏)

「たとえば刺身とあわせるならラガーよりも小麦系のビールの方が合ったりします。和食の繊細で多様な味の世界に、クラフトビールのさまざまな味を合わせてみることで新たな可能性が開けると思っています。日本のクラフトビールを飲んでもらうきっかけとして、やはり和食とのペアリングは大きな意味をもつと思うのです。われわれはメーカーに専念したいという思いからレストラン事業を展開していませんが、国内外の料理人の方や飲食店の方々と一緒になって、クラフトビールと料理のペアリングを考えていきたいと思っています」(朝霧氏)

 

デッサン力を身につけろ!

ファシリテイター・藤原ヒロユキ氏からも非常に示唆に富む話があった。

「たとえて言うならば、日本人はデッサン力が足りないと思う。模写も大事ではあるけれど、表面的な真似に終わっていないか。寺山修司がかつて『書を捨てよ』と言ったが、そういう気構えが今必要なのかも知れない」

ここで藤原氏が言った“デッサン力”は、物事の本質をつかみ取る力とでも解釈すればよいのかも知れない。木内氏によれば、「イタリアにはワインの力があり、食の力があり、デザインの力があって、今やイタリアのクラフトビールは世界が注目するところになっている」という。ワインや食やデザインを見極める力がクラフトビールを醸し出す時の基礎体力になっているということだろう。

 

海外に出たものだけがわかる

朝霧氏は、日本を想起させるものが何もないフランスのアルルという街のビストロで、フランス人が「コエド」を飲んでいる写真を友人から送ってもらったことがあるという。そのシーンは、木内氏がいうところの「レストランでクラフトビールを楽しむ」ことをまさに体現していると言っていいし、“世界に通用する”とはこういうことであるはずだ。

先達「コエド」と「常陸野ネスト」が世界で見ている地平は、国内で断片的な情報に接しているだけでは決してわからない世界。そこを自ら体感しに行き、もがくことがビール文化を本当に理解することだと考えたい。もちろん、海外に進出するには、莫大な設備投資も必要だろうし、よりいっそうの品質・衛生管理も求められる。生半可なことではできない。それでも二社に続く生きのいいブルワリーの出現を期待したい。

 

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ビア・ジャーナリスト・アカデミー卒業生との質疑応答(要旨)は以下の通り。

(1)ブルワリーの世代交代、育成はどう考えているのか。

木内:ビール事業は数値化、マニュアル化、定量化されたビジネス。我が社の場合、ほぼ無人で仕込めるだけのシステムを構築している。あとは衛生管理がどうできるか。その総合力がビールをつくる。クリエイションは個人の感覚だと思っています。

朝霧:ドイツのブラウマイスターに職人的気質や技術を5年間にわたって教わりましたが、食品製造の現場ではやはり数値でバックアップすることが大切。継承というのはOJTにならざるを得ません、学校のような機関がないので。あとは海外ブルワリーとのコラボレーションで異なるスタンダードから学ぶということでしょうか。

(2)地域密着のためにやっていること、世界に出るためにやっていることとは。

朝霧:どんなに海外に需要が生まれても工場は埼玉に維持していきたい。それが地域のためにわれわれができること。一方で日本から世界のスタンダードを生み出したい。それは職人の中から出てくると嬉しいなと思っています。

木内:茨城のこの地域に昔あった「金子ゴールデン」というビール麦を、たった5粒から年間20トン生産するまでに回復させ、海外に出すためにそれを使っている。同時に日本発のホップ「ソラチエース」をアメリカで栽培し、日本で使う取り組みもしています。

 

(3)今、注目している他社のビールは?

木内:イタリアのラバーズビア。非常に酸っぱい。穀物が乳酸発酵するとオフフレーバーが生まれるんですがこれはまるっきりない。今、ラバーズビールをヒントにやっているプロジェクトもあります。

朝霧:度数の低いビールに積極的に関与していきたい。セッションはいいかな。出自のキャラクターをちゃんと引き継いでいるというセッションは面白いかなぁと。

(4)コピー能力の高さによってあるレベルのビールがつくれるとしても、海外のビールにかなわないと思うことがあるか?

木内:中国ではメルセデスベンツのコピーを売っているそうです。それを買いますか。もし買うということだったら、日本のコピービールも売れるはずです。

朝霧:ビールの文化ですね。エジプト・メソポタニアで発達した、麦を保存する技術がヨーロッパでビール文化として花開いた。史実として日本ではビールは生まれなかった。そこにはちょっとジェラシーを感じますよね。

(5)自分のビールに海外で出会った時の感動、おもしろエピソードがあれば。

木内:アルコール製造メーカーはレストラン等にお土産をもって行けないんです。景品とみなされて。だからネストを扱ってもらっているお店に行くときは、Tシャツやトレーナーを重ね着していって一枚一枚脱いでサインして渡します。これは受けますね。

朝霧:フランスのアルルという街のビストロのテラスで、コエドを飲んでいるフランス人を見たと友人が写真を送ってくれたんです。そこには日本を連想させるものは何もなかったそうで、ビールの品質だけで選択してもらったことを知って、うちの職人たち、やるじゃんと感動しましたね。

(6)輸出先によってビールのローカライズを考慮するか。

朝霧:2006年に今のブランドで再出発してから、愚直に5種類のビールしかつくっていない。国は違っても人間の味覚として、普遍的に旨いものは旨いんじゃないかと思っています。なので変えるということはしていません。

木内:中身はすべて一緒です。ラベルは表示の規定によって多少違いますが。

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*このディスカッションではここに記載していない、人間味あふれる面白いやりとりもたくさんお聞かせいただいた。それは藤原ヒロユキ氏とお二人が長年の間に築いてきた信頼関係の上に発せられるジョークであったり、ときに本音だったりしたが、それはあの場を共有した者のみが知るべきものとして敢えてここでは記さない。

*この記事は必ずしも話の流れに則したものではなく、それによって誤謬が生じているとすれば責任は筆者にある。ご指摘いただければ速やかに訂正したい。長文、お付き合いいただきありがとうございました。

 

(BJA 1期生 高山伸夫)

 

 


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この記事を書いたひと

高山 伸夫

ビアジャーナリスト

神奈川県出身。早稲田大学第一文学部卒。高山広告編集所代表。広告・販促・PRの分野でコピー・プランニングを手がける。ビアジャーナリストアカデミー1期生。 ブルワーにフォーカスしたルポルタージュがテーマ。

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