[テイスティング]2016.5.12

路上でよく見るあの花が描かれた酸っぱいビール―ビアレポート(120)

ベルギービール

花粉症の季節が終わった私です。

ここ最近はずいぶんと暖かくなり、春も終盤になってきました。桜の花もとっくに散ってしまい、青々とした葉を付けていますが、そんな時に思い出すのがこの歌。

花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに (小野小町)

大意としては、こんな感じです。

桜の花の色がすっかり色あせてしまったと同じように、私の容姿もすっかり衰えてしまったなあ。桜に降る長雨を眺め、むなしく恋の思いにふけっている間に。(※)

「恋の思い」にふけっているわけではありませんが、年をとったせいか、ただボーッと過ごしている間に時間だけが過ぎてしまったな…と思うようになってきました。ただボーッとするだけでなく、何か実のあることをしないと、と思うわけですが、ひとまずビールを飲んでおこうと思います。

さて、今回のビールはベルギーのカンティヨン醸造所「カンティヨン・グース」。

カンティヨン・グース

カンティヨン・グース

カンティヨン醸造所のビールのラベルをよく見てみると、こんな花が描かれています。

カンティヨン醸造所では有機栽培の原料を使用しているということで、農薬を使った土壌では栽培しにくいと言われる花をその象徴として描いています。

ところで、この花、最近あちらこちらでよく見かけるようになったと思いませんか? これです。

ナガミヒナゲシ

ナガミヒナゲシ

カンティヨンのラベルに描かれているのは、実はケシの花。アヘンやヘロインの原料となるアルカロイドを含んでいる、あのケシです。品種によってはアルカロイドを含まないものもありますが、ラベルに描かれたケシの品種は不明です。

そして、最近よく見かける花はナガミヒナゲシといいます。カンティヨンのラベルに描かれている品種とは違うようですが、名前の通りケシの仲間です。アルカロイドは含みません。

桜の花が散った頃から5月末くらいまで見られます。1961年に日本に入ってきて雑草化したのですが、繁殖力が強くここ数年で爆発的に増えています。周辺の草花の生育を阻害するため、生態系を破壊する恐れもあるそうです。ケシの花言葉は「いたわり」「思いやり」などがあるそうですが…。

「カンティヨン・グース」も初めて飲む人には驚きの酸っぱさで、「いたわり」はなかなか感じられないかもしれません。獣臭とも言われるような香りもあります。が、徐々に軽い渋味などの複雑な味わいが現れ、甘味も出てきて軽い「いたわり」も。

汗をたっぷりかくような暑い日には、特にこの酸っぱさが体をいたわってくれると思いますが、それはナガミヒナゲシの花が散った頃のお話。だんだん酸っぱいビールが飲みたくなる季節になってきましたね。

※「時雨殿」 (小倉百人一首文化財団)より

【BEER DATA】
カンティヨン・グース
生産地:ベルギー
醸造所:カンティヨン醸造所
スタイル:グース
アルコール度数:5%

 

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この記事を書いたひと

富江 弘幸

ビアライター

1975年東京生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。卒業後は出版社・編集プロダクションでライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学を経て、新聞社勤務。現在は日本ビアジャーナリスト協会ウェブサイトや『ビール王国』などで記事を執筆するほか、ビアジャーナリストアカデミーの講師も務める。
著書:BEER CALENDAR』(ワイン王国)
連載:あなたのしらない、おいしいビール』(cakes)
執筆:ビール王国』(ワイン王国)、『日本のクラフトビール図鑑』『ビールの図鑑』(マイナビ)、『東京人』(都市出版)など

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