[JBJA活動,イベント,ビアバー,ブルワー]2018.9.5

「1杯のビールの価値」を育てる。 京都が取り組む新たな経済エンジン【京都産原料100%ビールプロジェクト】

K100SVB京都京都京都与謝野ホップ組合

2018年8月30日、京都の歴史を見守ってきた京都府庁旧本館にて一大プロジェクトが発足した。


「京都産原料100%ビールプロジェクト」

通称「K100」の立ち上げ発表会。

このプロジェクトは、原料生産者と加工業者、醸造者、飲食店や小売業、そこから広がる周辺産業まで、ビール関連産業が密接につながることで、京都府全域を活性化させる長期的なプロジェクトだ。

▲会場は京都府庁の敷地内にある旧本館旧議場。西洋の迎賓館を思わせる美しいルネサンス様式の建物

▲明治37年竣工、昭和46年まで本館として使用。国の重要文化財に指定されているが、現在でも執務室や会議場が使われている日本最古の官公庁

この歴史と格式ある会場に、プロジェクトの参加者と報道各社が集った。
プロジェクトのスタートメンバーは以下19団体。

■原料生産者
農事組合法人河原林(亀岡市)、並河農家組合(亀岡市)、馬路町農作業受託組合(亀岡市)、京都与謝野ホップ生産者組合、JA全農京都、JA京都、

■醸造者
黄桜京都麦酒、京都町家麦酒醸造所、丹後王国クラフトビール、一条寺ブリュワリー、西陣麦酒、スプリングバレーブルワリー京都、ウッドミルブルワリー・京都、Kyoto Beer Lab

■研究機関
京都学園大学、キリンビール

■自治体
京都府、亀岡市、与謝野町

※上記スタートメンバーに加え、その他の醸造者、原料生産者、自治体、販売店など、広く参加者を募っていく予定。

13時30分、京都府副知事、山内修一氏の挨拶で発表会がスタート。
K100の発起人であり、プロジェクト事務局代表を務める京都学園大学 発酵醸造学研究室 篠田吉史准教授から、プロジェクトの概要が説明された。

「近年のクラフトビールブームによって、京都においても小規模醸造所のこだわりのビールが幅広い層に支持され、今後も発展が期待されています。ビールは大麦やホップのほかに、果物やスパイスなど幅広い農作物が使われる『自然の恵み』であると同時に、印刷、パッケージ、広告、流通、観光など、さまざまな地域産業への波及効果が見込まれるもの。しかし、原料のほとんどを輸入に頼っているのが現状です。歴史ある亀岡産のビール大麦や、最近注目されている与謝野町のホップも、収益性や品種拡大などの課題を抱えています。そこで、原料生産者と研究者、醸造所が連携して課題解決に取り組み、原料すべてを地元で供給。消費者に提供されるまでの各業界間の距離を縮め、地域の農業や環境を守りつつ、それぞれの担い手の顔が見える関係で、『ビールを軸とした産業の高度化』を目指します。地域の食文化や歴史を高いレベルでビールづくりに反映させて、ローカルビール産業を盛り上げたいと考えています」 

▲京都学園大学バイオ環境学部 発酵醸造学研究室准教授 篠田吉史氏 

「Field to Glass (畑からグラスまで)」をキャッチフレーズに


「ビール原料の京都地産化100
%」を目指すK100は、まず原材料を100%調達可能にするための方策を話し合い、研究や他業種とのコラボレーション、自治体のサポートを得ながら条件整備を段階的に実現していくというもの。トレーサビリティ、フードマイレージの観点からも、府内の地産地消を推進している。具体的な推進計画としては、以下が掲げられた。

・麦芽の100%京都産化
→各生産農家団体やJA、メーカー、研究機関と連携して大麦やホップの栽培技術を改善。亀岡市と連携して圃場整備を進め、作付面積を拡大して大型化や機械化を促進。製麦可能な大麦品種を導入し、収量増と安定化を目指す。目標はビール大麦「サチホゴールデン」の収量150トン/年

・現地製麦への挑戦「京都モルトハウス構想」
→キリンビールの協力により、スペシャリティモルト製麦など京都産麦芽のバリエーション拡充と、現地製麦を実現するための体制を整備する。京都学園大学や亀岡市と連携した「京都モルトハウス」の設立。

・ホップの100%京都産化
→与謝野町ホップ生産組合や亀岡市の農家と連携して、収量や品質拡大、加工処理方法を検討し、生産農家の拡大と与謝野ホップの継続的発展を目指す。

・京都産酵母の実用化
→キリンビールの協力により、京都由来の試料を分離源とするオリジナルビール酵母の開発と実用化を行う。清水寺周辺に自生する樹木の樹皮から野生酵母を採取するなど、サンプリング実験中。

・ビールの醸造技術の向上
→これらの原料を使い、メーカーや醸造所で研究開発や技術交流を図りながらビールの質的向上を目指す。

▲それぞれの担い手の顔が見える近さと関係性=トレーサブル(Traceable)、地域に根差した農業や環境を守りながら=サスティナブル(Sustainable)、地域住民や訪れた人が高品質で個性的なビールを楽しみ、地域の食品文化を高いレベルで反映させる=ローカル(Local)を掲げる

K100のゴールイメージとタイムスケジュールは以下(資料より一部抜粋)。

2018年:京都産原料を一部使用したビールをSBV京都で限定醸造
2019年:製麦所設立、現地製麦開始。京都酵母の醸造研究
2020年:京都産100%ビール醸造。ローカルビール産業の施設整備開始
2023年:ローカルビール産業が経済エンジンとして稼働。関連産業への効果波及
2026年:京都が国際的なビールコミュニティとして認知、国内各地へ展開する

最終的には、ローカルビール産業が地域の新しい経済エンジンとして稼働し、「地域の殖産興業」として京都府全域での経済発展を目指すのがK100のビジョンだ。

 

ビールが経済の「エンジン」として稼働する未来

冒頭の挨拶では、山内修一京都府副知事が次のようにスピーチした。

「京都では明治3年に京都舎密局(せいみきょく)で醸造研究が始まり、明治10年に全国的にも早い段階で産業としてビール醸造が始まった地です。それから140年の時を経て、京都の歴史を見守ってきたこの旧本館で、京都の原材料を使って新たなビール文化の創造を目指すプロジェクトが発足されたのは大変光栄なことだと思っております。農家と研究機関、そして醸造者や産業に関わる多くの人々が手を取り合い、新しいビール文化が再びこの京都で花開くことを期待しています」 

▲「亀岡市に建設予定の『京都スタジアム』でサッカーやラグビーを観戦しながら京都産100%のビールを飲みかわすなど、さまざまな文化交流の場でK100ビールがフックとなるだろう」と期待を語る山内副知事

高品質なビール大麦「サチホゴールデン」の開発者である河田尚之教授とともに、ビール大麦の栽培支援と製麦研究に携わる篠田准教授。京都学園大学では、醸造プラントやモルティングシステムを導入し、現在は「京都モルトハウス」設立に向けて、亀岡産大麦の製麦条件を検討している。

続く質疑応答では、報道各社から次のような質問が寄せられた。

日刊工業新聞:想定される事業規模は?
―― 時間軸にもよるが最終的には「1杯のビール全部が京都産」を目指している。まだまだ原料が足らないので、何年後に何Lという具体的な数値目標や金額目標は掲げられないが、まずは今年1キロリットル、1バッチの一部京都産から始めて、徐々に原料を拡充していきたい。計画を進めながら量産体制を整えていく。

産経新聞:他の地方でも同様(国産100%)の動きがあるのか?
―― ブルワリーレベルでいえば、畑で麦やホップを自家栽培している醸造所は国内各地にある。ただ、京都のように自治体や生産者、数多くのブルワリーが集まって、全体の取り組みとして推進するのは新しい試みである。

朝日新聞:東京産でも大阪産でもなく、「京都産」で行う意義は?
―― 遠隔地での消費は輸送や管理にコストがかかる。トレーサビリティやフードマイレージの観点からも、地元で消費されなければ産業は続かない。持続可能な社会のためには、対価をきちんと地域に還元することが重要。また、ローカルビールの魅力や価値は、消費者がビアパブでつくり手の顔が見れることにもある。京都には歴史やブランド力があり、京都であることの優位性や訴求力は大きいと考える。

日経新聞:今年の「一部」はどのレベルか? モルトハウスの建設地は?
―― どういったビールをつくるかによっても比率は変わってくるが、まずは現在入手できるベーシックなピルスナーモルトからスタートして拡大していきたい。モルトハウスの建設地は決定ではないが、亀岡市に予定している。

▲フォトセッション後も取材を受ける篠田准教授。「スタートラインなので具体的な数値目標は難しいが、歴史的にも京都の影響力は大きい。それに京都は『日本初』が好きですから(笑)」

2020年、東京五輪で世界からの注目度が高まる年に照準を合わせ、日本の文化創造の発信地として、京都が世界に誇れる日本ならではのローカルビールを目指すK100。京都をロールモデルとして国内各地への展開が期待されるところまでが、K100プロジェクトの全容だ。

▲「与謝野クラフトビール醸造事業」に取り組む与謝野町の山添藤真町長。年々収穫量を上げている与謝野産ホップ。今後も町をあげてクラフトビール事業に向き合いたいと話した

▲与謝野クラフトビール醸造事業のアドバイザーである当会の藤原ヒロユキ代表も出席

 

「大麦農家とビールを飲むことなんて、なかったでしょう」

発表会後、SVB京都で行われた懇親会にも大勢の関係者が出席。
SVB京都の限定ビールで与謝野町産のホップを使った「京都YOSANO IPA」や、一条寺ブリュワリーで醸造した亀岡産麦芽100%を使ったシングルホップのペールエールがふるまわれた。


懇親会では関係者同士の熱心な情報交換が行われ、熱気あふれる会場の様子に篠田准教授は、

「今までこういった場に大麦やホップの生産者が同席することはなかったと思います。生産者と醸造者、そしてローカルビールにさまざまな角度から関わる人が一堂に介して、手掛けたビールを一緒に飲みかわすことができるのもローカルビールの醍醐味」

と、目を細める。

「好きなビールは目の前に出された1杯のビール」と答えてくれた篠田准教授。「それが自分にとっておいしくないビールであれば、なぜおいしくないのか、原因を探る機会を得ることができるから」と、探求心にあふれた研究者らしい言葉を重ねた

▲小麦麦芽と京都産コシヒカリ使った「Kyoto 2017」を手に、ビール大麦の収量や圃場について熱心に説明してくれた大麦栽培農家。健康的に日焼けした笑顔が印象的

参加者はそれぞれの立場と視点から、京都に端を発した地方創世の新しい経済モデルに期待を寄せている。
「ビールを軸にしたまちづくり」では、岩手県・遠野エリアでも官民一体の試みが着々と進んでいるように、ビールが成長産業として存続していくためには、単体の企業努力のみならず、各自治体と産業、企業間の枠を超えた連携によって地域活性とブランド化を底上げしていく必要がある。

各産業間での価値を地道に積み重ねるバリューチェーンの結果、2020年にどのような価値を1杯のビールに落とし込めるのか。世界中から自分のほしいものを見つけ出し、自由に手に入れられるようになった時代に、「K100」がどのような価値を育て、私たちに見せつけてくれるのか。

伝統文化を守るだけではなく、時代とともに新しいものに挑み、柔軟に取り入れる先進性を持ち合わせてきた京都。古都で旗揚げされた試みは、ビール事業で地域活性を目指す各地の起爆剤になりそうだ。

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この記事を書いたひと

山口 紗佳

ビアジャーナリスト/ライター

1982年愛知県出身、静岡県在住。中央大学法学部法律学科卒業。
名古屋で結婚情報誌制作に携わった後、東京の編集プロダクションで企業広報、教育文化、グルメ、健康美容、ライフスタイル、アニメなど多媒体の制作経験を経て静岡でフリーライターに。休日はグラウラーを積んでオートバイでツーリング。猛禽と赤も好き。

実績:『世界が憧れる日本酒78』(CCCメディアハウス)、『東京カレンダー』(東京カレンダー)、『ビール王国』(ワイン王国)、グルメ情報サイト『メシ通』(リクルート)、ダッシュエックス文庫(集英社)各種ツール制作

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