[コラム,ブルワー]2018.11.17

ろまんちっく村クラフトブルワリーが、ビール麦栽培に取り組む訳

ろまんちっく村クラフトブルワリー山下創氏栃木県宇都宮市

日本でビール麦(二条大麦)の生産量が最も多い県はどこでしょう?

正解は栃木県。平成29年度の収穫量は36,200tで、全国シェアは30.2%。日本産ビール麦の3割は栃木県で栽培されている(※1)。

※1 地域の入れ物HPより(https://region-case.com/rank-h29-product-two-row-barley/)調べより

その栃木県にある「ろまんちっく村クラフトブルワリー(以下、ろまんちっく村)」では、毎年10月下旬に「ビール麦の種まき」を開催している。ホップの栽培や収穫は見たことがあるが、麦は未体験だったこともあり、10月28日(日)に開催されたイベントに参加してきた。

 前日の大雨により無念の中止

ビール麦の種まきにあたり、2日前から雨が降らないことが開催条件であった。生憎、天気予報では前日が雨予報。しかし、「あまり降らなければ決行されるのでは?」と期待をしていたが、前日の朝に工場長である山下創氏より「予想以上の大雨で畑がぬかるんでおり、日曜日の朝までに回復が見込めないため中止とさせていただきます」と連絡が……。残念であるが、自然によるものなので諦めるしかない。だが、同時に開催する「麦芽燻製祭り」については予定通り開催するとのこと。どのように麦芽を燻製するのか見てみたかったので、予定通りブルワリーのある宇都宮へ向かうことにした。

ろまんちっく村敷地内にあるビール麦畑。面積は10a程度で約300kgの麦が収穫できるという。

ちなみにビール麦の種まきをこの時期にするのは、種を蒔く時期が早すぎると出芽・苗立ちが良くなり茎数の確保できる長所がある反面、過剰生育になりオオムギ縞萎縮病(※1)の発生原因や凍霜害を受けやすくなる短所があること。逆に時期が遅れると発芽・苗立ちが不良となり茎数の確保がむずかしいこと、オオムギ斑葉病(※2)の発生原因となる短所があるため、種まきに適した時期として11月上旬から中旬とされている(北海道は9月。東北は10月)。

※1 土壌伝染性のウイルス病害。症状は草丈が低くなり、出穂しても麦がならなかったり、発育が悪かったりするものが多くなる。症状の強い株は黄化枯死することもある。

※2 カビによって起こる。生育は遅れ、草丈は低くなる。穂は抽出しても奇形で、株全体が枯死する。発芽時の地温によって病原菌の感染は大きく左右される(10~15℃で感染が多い。20℃以上では発病しない。種を蒔く時期が遅れたものに発生が多い。

麦畑の奥にあるホップ畑。カスケードをはじめ、数種類のホップを自家栽培している。

JR宇都宮駅からブルワリーのある「ろまんちっく村」まで路線バスで約40分(運賃640円)。集合場所である里のエリア堆肥プラントへ向かうと既に麦芽の燻製が始まっていた。

「3〜4時間かけて麦芽を燻製していきます。せっかくなので燻製している間、畑や製麦施設を見に行きませんか?」と山下氏。ご好意で見学させてもらった。

自家製燻製器。

きっかけは地元の名産品をアピールするため

「ろまんちっく村クラフトブルワリー」を運営する「株式会社ファーマーズ・フォレスト」は、46ha(東京ドーム10個分)という広大な面積の中に、体験農場や森遊び、ドッグラン、温泉やプールに宿泊施設がある滞在体験型ファームパーク。「農と食」によるおもてなしをコンセプトとしている。

ここで簡単に栃木のビール麦について触れておく。栃木市大平町に生まれた田村律之助が、1868年(明治元年)地域農村の安定した収益確保を目的に米の収穫を終えた田んぼにビール麦を植え、さらにビールメーカーとの契約栽培を確立させたことがはじまり。歴史は古く、今では日本一の収穫量を誇るが、「地元の方はこのことをあまり知りません。私たちは、これだけ対外的に誇れるものがあることを体験作業によって、もっと知ってほしいと思い開催しています」。

ろまんちっく村の取り組みについて話すクラフトブルワリー工場長の山下創氏。

長い間、世間にアピールできるものがあったにも関わらず、地元での認知は低かった。山下氏たちは、ビールづくりをしている自分たちが主体となり、もっと身近に感じてほしいとビール麦の種まき体験を4年前から開催している。

栽培する大麦は「ニューサチホゴールデン」。サチホゴールデンの優れた品質や収穫量を継承し、麦のなかに含まれる脂質を酸化させる酵素「リポキシゲナーゼ」を持たないのが特徴。これによりビール中の不快臭や泡持ち低下を防ぐことが可能となり、注目されている新品種である。

 製麦まで自社で行う

自ら栽培をするブルワリーが、まだまだ珍しいなか「ろまんちっく村」では、麦から麦芽にする製麦まで行っている。「特注の機械を使い、9日間かけて大麦を水に浸して発芽させ、ある程度発芽したら温風を当てて乾燥させて根を取り除きます。この機械1つで製麦までしています」。

機械メーカーが「人が作業する手間がかかり過ぎると面倒になりいつしかやらなくなってしまう」と、1つの機械で全工程ができるようにした。

ろまんちっく村の製麦機器。この機械1つですべての工程を行うことが可能。

それでも製麦をする時期は、農業知識に長けているスタッフがかかりっきりで行うという。

温風も出すことが可能なので、収穫したホップをすぐに乾燥させることができる。

行政の協力を得ながら品質の良い麦づくりを目指す

ビール麦の栽培が盛んとはいえ、品質が良くなければビールづくりには使えない。

「幸いにも同じ市内にビール麦の品種改良をしている栃木県農業試験場があり、麦芽の成分分析に協力してもらっています」。毎年の経験をデータとして分析することで品質は確実に向上。昨年は流通している麦芽に劣らない品質までになった。

こうした成分分析は、検査機器にかかる費用や専門知識が必要になるため、専門スタッフがいないブルワリーには難しい。山下氏も「高品質の製品まで高めていくには、行政の協力が必要」と話す。

宇都宮産麦芽を使用した「麦太郎」(左)と麦太郎から酵母を濾過した「麦次郎」。

 初の自社製麦芽を使ったビールはラオホ

冒頭にでてきた燻製している麦芽は、昨年、畑で収穫されたもの。自分たちで栽培・収穫・製麦まで行った麦芽で、今年はラオホビールを仕込む。燻製に使うチップは、バレルエイジビールで使用したウイスキー樽を使用している。

今回、燻製に使用したのは、昨年収穫し、製麦した自社栽培の麦芽。

燻しているときは香りをあまり感じることができなかったが、ビールになったときにどのようなアロマを感じられるか。今から楽しみである。仕込みは12月を予定し、順調に行けば、来年1月の「ふるさと祭り東京2019」で飲めるとのこと。

燻製している間は、ビール片手に参加者と談笑(画像は、取材に同行してくれた神山タクロウビアジャーナリスト【左】とビアジャーナリストアカデミー修了生の大木祥平さん【右】)。

今回は悪天候のため、麦まきを体験することができなかったが、そのかわり「ろまんちっく村」の取り組みを聞くことができた。麦まきは天候をみながら行われ、年内に1~2回麦踏みを行い、来年の梅雨入り前に収穫をする予定。今後も定期的に現地を訪れ、大麦の生育状況を追っていきたいと思う。

◆ろまんちっく村クラフトブルワリー Data

住所:〒321-2118 栃木県宇都宮市新里町丙254

電話:028-665-8800

FAX:028-665-8678

Homepage:http://www.romanticmura.com/brewery/

Facebook:https://www.facebook.com/Romanticvillage.craft.brewery/

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05007木暮 亮

この記事を書いたひと

木暮 亮

ビアジャーナリスト

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは2000種類以上。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

【メディア出演】
テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」

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