[イベント,ブルワー]2018.12.30

狛江 和泉ブルワリー(Izumi Brewery)公開醸造イベントレポート

2018年12月16日(日)東京都狛江市の「和泉ブルワリー(Izumi Brewery)」にて、併設のタップルーム&ボトルショップ「Beer Cellar Tokyo」1周年記念ビールの公開醸造が行われました。筆者はこのイベントに参加し、満喫しましたのでレポートいたします。

ブルワリー紹介

「和泉ブルワリー(Izumi Brewery)」は、小田急電鉄 小田原本線 狛江駅から徒歩約10分、もしくは喜多見駅から徒歩約10分の住宅地にあるブルワリー。オーナー兼醸造家の「和泉俊介」氏は、ある企業の会社員ですが、会社の許可を得て、醸造家としてビール造りを行っています。そのため、平日は会社員として業務をこなし、週末はビールの仕込みを行うという、二足の草鞋を履きこなしている人物です。ビール醸造については、 アメリカの醸造家育成プログラム「American Brewers Guild」の通信教育プログラム後、アメリカ オレゴン州のポートランドのブルワリー「Commons Brewery」で、実施研修を受けて学びました。「和泉俊介」氏の好きなビアスタイルはセゾン・スタイル。フラグシップであるオリジナルビール「3A Farm house Ale」もセゾンスタイルです。 2018年3月22日醸造免許取得。

(左)IZUMI BREWERYロゴ、(中)醸造設備、(右)オーナー兼醸造家「和泉俊介」氏

オリジナルビール「 3A Farm house Ale」。スタイルはセゾン。外観は透明感ある淡い琥珀色。セゾン酵母由来のフルーティなエステル香。口に含むと、その風味とスパイシーさ、そしてほんのりとした甘みを感じます。苦みはあまりなく、後味はスッキリしています。とても飲みやすいビールの印象。ABV(アルコール度数):5.2%、IBU(国際苦味単位):28。

3A Farm house Ale

「Beer Cellar Tokyo」は、ブルワリー併設のタップルーム&ボトルショップ。店に入ると、カウンターおよび壁面の10個のタップが目に入ります。 タップには、オリジナルビールや国内および海外ブルワリーのゲストビールが繋がっており、店内で気軽に味わえます。入口左手の冷蔵庫では、オリジナルビール、(アメリカ)ポートランドを中心としたオレゴン州の輸入ビールやハードサイダーをボトルで販売しています。さらに、グラウラーによる量り売りも行っており、フレッシュなビールを自宅に持ち帰り、味わうことが出来ます。「Beer Cellar Tokyo」は、北海道札幌市でポートランドのクラフトビールを扱う、インポーター(輸入業者)「 有限会社ファーマーズ」が運営する 「Beer Cellar Sapporo」の姉妹店でもあります。

(左)カウンターから見える10個のタップ、(右)ボトル販売の冷蔵庫

公開醸造イベント内容

公開醸造イベントは、「和泉ブルワリー(Izumi Brewery)」のオーナー兼醸造家の「和泉俊介」氏を含めた2名、「Beer Cellar Tokyo」から2名、合計4名により行われました。公開醸造でつくられるビールは、「Beer Cellar Tokyo」1周年記念ビール「American Saison W-IPA」。イベントは、発酵タンク前のスペースに関係者が集まり、「和泉俊介」氏の醸造開始の号令で始まりました。

1.麦芽(モルト)~麦芽破砕(ミリング)

最初の工程は、ビールの原料である麦芽(モルト)の破砕です。破砕機(ミル装置)に麦芽を投入し、荒く破砕します。破砕機の下からは壁を貫き、糖化槽(マッシュタン)の上部への繋がる筒が見えます。破砕された麦芽は、この筒の中にあるオーガーというドリルの回転運動により、 糖化槽(マッシュタン)へ移送されます。

(左)麦芽を破砕機に投入、(右)壁面を貫き、破砕機から糖化槽上部へ破砕麦芽を移送する筒

2.糖化(マッシング)

他の多くの酒類と同様に、ビールは酵母が糖を分解し、アルコールと炭酸ガスをつくるお酒です。麦芽に含まれるでんぷんを酵母は直接分解できないので、糖に変える必要があり、糖化槽(マッシュタン)にて一定の温度に保つことで実現します。破砕された麦芽を移送しつつ、貯湯タンク(ホットリカー)からの配管により、湯も断続的に移送します。これは、麦芽が玉になるのを防ぐ目的があり、湯の流量調整は手動で行います。

(左)糖化槽外観、(右)糖化槽にて、破砕麦芽と湯を投入、糖化の煮込みへ

糖化槽(マッシュタン)に入れた破砕麦芽と湯の攪拌は、マッシュパドル(櫂)により人手で行われます。設備によっては、自動攪拌装置のオプションもあるそうですが、「和泉ブルワリー(Izumi Brewery)」には無いので、人手で行っているとのことです。この作業には見学者も参加でき、麦芽の甘い香りが漂う中、交互に作業をしました。ビール造りに参加している実感がわきます。糖化槽(マッシュタン)には、ジャケットが設置されており、保温など温度管理はしっかりしています。また、熱源もありますが、普段は使用しないとのことです。

(左)マッシュパドルによる攪拌作業、(右)糖化槽近くには、水と湯の流量調整の弁と計器が設置されている

3. 循環、濾過、スパージング

次の工程は、糖化槽(マッシュタン)から、麦汁を循環濾過する作業です。糖化槽(マッシュタン)は、濾過装置である濾過槽(ロイター)を兼ねています。金属の網であるロイター板に麦芽の殻を溜め、フィルターとして使うことで濾過を行います。また、循環させることで、麦汁をしっかり搾り取ります。この時に取れる麦汁が、一番麦汁と呼ばれます。約400Lの麦汁が取れました。

(左)循環濾過中、(右)濾過されていく麦汁の色合い

濾過した麦汁は、煮沸槽(ボイルケトル)へ移送します。糖化槽(マッシュタン)の循環としていた配管を、煮沸槽(ボイルケトル)への移送配管に手動で組み替えます。糖化槽(マッシュタン)には、まだ麦汁を取れる麦芽が残っており、移送により麦汁が減りはじめたら、お湯をかけて回収します。この工程を、スパージングと呼びます。一番麦汁とあわせると、約700Lの麦汁が取れました。

(左)煮沸槽外観、(右)麦汁移送開始直後の煮沸槽内部 中央に熱源、右の突起はセンサー

4.煮沸、ホップ投入

次の工程では、煮沸槽(ボイルケトル)で煮沸を行います。煮沸による殺菌とホップのキャラクター付けが目的です。この工程の中で、ビールの苦味や風味の元となるホップを複数回に分けて投入します。なお、煮沸は1時間半~2時間かけて行うので、公開醸造イベント参加者との歓談の時間にもなりました。

(左)煮沸中、(右)ホップ投入 「和泉俊介」氏とBeer Cellar Tokyo 2名との共同作業

5.ワールプール

煮沸が終わった後、トルーブ(ホップ粕など)を取り除く必要があり、遠心力を用いて固めるワールプールと言う工程を行います。煮沸槽(ボイルケトル)は、ワールプールも兼ねています。煮沸槽(ボイルケトル)の側面には、麦汁を勢いよく流し込める構造の配管があり、回転する液流を容易に起こせます。この液流により、ワールプールを実現しています。

(左)煮沸槽側面に繋がるワールプール用の配管、(右)煮沸槽中央部に堆積したホップ粕

6.冷却、発酵タンクへ移送

次の工程では、麦汁を煮沸槽(ボイルケトル)から、冷却しながら発酵タンクに移送します。 冷却し、温度が下がると雑菌感染のリスクが高まるので、以降は気を使う工程となります。そのため、移送前に発酵タンクと移送ラインの殺菌洗浄を行います。この作業は、ホップバッグの装置を使って行われます。ホップバッグは、本来ドライホッピングに使う装置ですが、殺菌剤を循環させることで、効率よく発酵タンクの殺菌洗浄を行っています。

(左)ホップバック装置、(右)発酵タンク殺菌洗浄中

発酵タンクへ移送する麦汁は、煮沸槽(ボイルケトル)を出た直後は高温のため、酵母の発酵に適した温度に冷却する必要があります。冷却設備としては、熱交換機と冷却液循環装置(チラー)を使います。高温の麦汁が熱交換器内の配管を通る際、金属越しに水を流すことで、麦汁の熱を水に移し冷却する仕組みです。熱交換器は、水道水の配管とチラーの冷却水循環配管の2つに分かれており、夏場以外は水道水の配管のみで冷却します。夏場はチラーの冷却水循環配管も使用し、狙いの温度まで冷却します。そうして、冷却された麦汁が発酵タンクへ送られます。この移送作業は、30~40分かかります。約600Lの麦汁が発酵タンクに移送されました。

(左)熱交換器、(中)冷却液循環装置 チラー、(右)麦汁移送作業中の発酵タンク

7.酵母投入~発酵~熟成

酵母投入以降の工程は、公開醸造イベントでは省略されます。酵母により発酵が行われることで、アルコールと炭酸がつくられ、その後の熟成期間を経てビールが完成します。なお、酵母の投入方法はケグを用いて、発酵タンクに直接繋げるとのことです。麦汁が空気に触れないので、雑菌感染のリスクを極力減らせる方法でもあります。

発酵タンク3基、公開醸造でつくられたビールは中央のタンクにて発酵・熟成される

8.掃除

醸造設備の掃除も大切な作業です。公開醸造では、糖化槽(マッシュタン)に残った麦芽粕(モルトカス)の掻き出し作業を見学でき、さらに参加することが出来ます。ビール醸造で大事なのは、洗浄・掃除とも言われており、その一部を体験できる貴重な機会です。水分を含んだ麦芽粕(モルトカス) は重く、負荷の高い作業でもあり、協力して行えることを「和泉俊介」氏も喜んでいました。

(左)麦芽粕の掻き出し開始、(右)糖化槽上部から見た、掻き出し作業風景

麦芽粕(モルトカス)の掻き出しが終わると、 糖化槽(マッシュタン)には、濾過で使われる金属網のロイター板が見えます。公開醸造イベントの一連の作業は、ここまでです。

(左)麦芽粕が掻き出された糖化槽、(右)ロイター板の網目

公開醸造を見学して

公開醸造イベントは、 朝8時からという早い時間から開催。それでも、10名以上が集まるという盛況ぶり。イベントの中で「和泉俊介」氏は、ビールの原料・ビール造りの工程・醸造設備などについて、情熱的かつ親切に参加者に説明をされておりました。説明内容も非常に詳細で、他の醸造所の見学や公開醸造で見聞きするものより、様々な情報を公開していました。参加者の中には、現役の醸造家や醸造家を目指す方もおり、盛んに質問が飛び交い、ビール造りについて語り合う場でもありました。「和泉ブルワリー(Izumi Brewery)」の公開醸造は、非常に貴重な体験が出来る良いイベントとの印象です。「和泉ブルワリー(Izumi Brewery)」および「Beer Cellar Tokyo」の皆様、素敵なイベント開催ありがとうございました。
この記事が素敵なビールとの出逢いに役立てれば幸いです。


■ 和泉ブルワリー(Izumi Brewery)
https://www.facebook.com/izumibrewery/

■Beer Cellar Tokyo
営業時間:
[月] 定休日
[火] 定休日
[水] 16:00~21:00
[木] 定休日
[金] 16:00~2200
[土] 12:00~21:00
[日] 12:00~21:00
WEBサイト:
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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

Atsushi Taguchi(田口 篤史)

ビアジャーナリスト/ビアライター

ビール大好き!ビールを求めドイツやベルギーを中心にヨーロッパをよく旅していました。
世界にも日本国内にも、素敵なビールはまだまだたくさんありますので、巡りたいところは尽きません。
ビールの素晴らしさ、楽しさを多くの人に伝えていきたいと思います。
Enjoy!Beer!

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