[コラム,ブルワー]2020.1.15

【ビアライゼ】ドイツ – オーバープファルツ地方のビール Zoigl(ツォイグル)

ビアライゼ、それは美味しいビールを求めて、日本や世界各地をめぐる旅。筆者はビールを求め、ドイツやベルギーなど欧州をよく旅しています。2019年末から2020年始にかけてドイツを旅した際、バイエルン州オーバープファルツ地方で、Zoigl(ツォイグル、もしくはゾイゲル)というビールに巡り合いました。その魅力をお伝えします。

ドイツ バイエルン州 オーバープファルツ地方

ドイツの南東部に位置するバイエルン州には、7つの行政管区(オーバーバイエルン、ニーダーバイエルン、オーバープファルツ、オーバーフランケン、ミッテルフランケン、ウンターフランケン、シュヴァーベン)があります。中央東に位置するのが、オーバープファルツ行政管区。区都のレーゲンスブルクは、ドナウ川とレーゲン川の合流点近くに位置する水運の要衝であり、1世紀頃にローマ帝国の駐屯地カストロ・レギーナが置かれた歴史ある都市です。2006年には、ユネスコの世界遺産「レーゲンスブルクの旧市街とシュタットアムホーフ」として登録され、美しい歴史的な景観から、多くの旅行客を集める魅力的な街でもあります。

区都レーゲンスブルクより、(左)レーゲンスブルク大聖堂、(右)レーゲンスブルクを流れるドナウ川

Zoigl(ツォイグル)に巡り合ったのは、オーバープファルツ地方のWindischeschenbach(ヴィンディッシェッシェンバッハ)およびNeuhaus(ノイハウス)です。レーゲンスブルクの約100Km北に位置し、レーゲンスブルクからは鉄道oberpfalzbahnで約1時間10分ほどのWindischeschenbach駅が最寄り駅です。Windischeschenbach駅からは、Windischeschenbach中心部まで徒歩約15~20分、Neuhaus中心部までは徒歩約20~25分。いずれも閑静な町の印象です。

(左)Neuhausの史跡 ノイハウス城、(右)Windischeschenbachの街並み

オーバープファルツ地方のビール Zoigl

500年以上の伝統を持つ、Zoigl

Zoigl(ツォイグル)は下面発酵に分類され、オーバープファルツ地方で500年以上にわたり醸造されている伝統的なビール。現在、「Oberpfälzer Zoiglkultur(オーバープファルツのツォイグル文化)」として、無形文化遺産と登録されています。伝統的なZoiglは、下記の5つの町のKommunbrauhaus(共同醸造所)で醸造されます。場所によっては、「ビール純粋令」が公布された1516年4月23日より古い文化です。

・Neuhaus(ノイハウス) 1415年~

・Windischeschenbach(ヴィンディッシェッシェンバッハ) 1455年~

・Falkenberg(ファルケンベルク) 1467年~

・Mitterteich(ミッターテイヒ) 1516年~

・Eslarn(エスラーン) 1522年~

NeuhausのZoigelの歴史は、1415年から始まる

伝統的なZoiglは、Zoiglstuben(ツォイグル醸造者の家、店)にて提供されます。外観は金色や明るい茶色などで、無濾過のため濁りが少しあります。モルトの優しい香りと風味。苦味は弱めで、モルトの甘味をやさしく感じます。炭酸感は弱め。軽い飲み口で、とてもドリンカブルなビールの印象です。

Zoigl(ツォイゲル)

Kommunbrauhaus(共同醸造所)で醸造する、Zoigl

Zoigl(ツォイグル)の醸造は、醸造権を持つ市民グループによって、各町の旧市街中心部付近にあるKommunbrauhaus(共同醸造所)で行われます。Kommunbrauhausは、Falkenberg(ファルケンベルク)、Eslarn(エスラーン)、Mitterteich(ミッターテイヒ)では、地元のコミュニティが所有しています。一方、Windischeschenbach(ヴィンディッシェッシェンバッハ)とNeuhaus(ノイハウス)では、醸造者による共同所有。いずれも、醸造所を使用するたびにKesselgeld(ケッセルゲルド)というケトルマネーを支払います。このKesselgeld(ケッセルゲルド)は、醸造所の改修や維持に使用。この様なKommunbrauhausは、かつてはバイエルン州では一般的でしたが、現在は一部の町のみとなっています。

全ての醸造工程をKommunbrauhaus(共同醸造所)で行うのではなく、発酵などの工程は個々のZoiglstuben(ツォイグル醸造者の家、店)で行います。Kommunbrauhausでは、煮沸釜で大麦麦芽とともに、木材または石炭により沸かした水を混合し、煮沸した麦汁を作成。麦汁にホップ投入後、大型のクールシップ(開放型冷却容器)で一晩かけて冷却します。

(左)WindischeschenbachのKommunbrauhaus、(右)NeuhausのKommunbrauhaus

冷却した麦汁は、Zoiglstuben(ツォイグル醸造者の家、店)の発酵タンクに移し、酵母を添加。その後、発酵タンクで約10日間の発酵期間、貯酒容器で数週間の熟成期間を経て、Zoigl(ツォイグル)が完成します。完成したZoiglは、Zoiglstubenにて、無濾過で提供。Zoigl醸造者は、個々で独自レシピを持っているので、同じ醸造方法でも各Zoiglの味は異なります。なお、Zoiglを醸造できるのは、Zoiglstubenの所有者のみではありません。Zoigl醸造権「Zoiglbraurecht」が運用されている地域内の世帯主は、その施設が公式の土地登記簿にある限り、Kommunbrauhaus(共同醸造所)を利用することが可能です。

WindischeschenbachのZoiglstubenの1つBeim Binner

Zoigl(ツォイグル)のシンボルは、Zoigl Star(ツォイグルスター)という上向きと下向きの2つの正三角形で構成された六芒星です。1つの三角形は、火、土、空気の要素を象徴。もう1つは、水、麦芽、ホップの要素を象徴しています。酵母については、19世紀後半まで詳しく知られていなかったため、Zoigl Starには表れていません。なお、ユダヤ教の「ダビデの星」と類似していますが、関係はありません。また、「Echter Zoigl vom Kommunbrauer」のロゴは、Zoiglstuben(ツォイグル醸造者の家、店)で提供されるビールが、同じ町にある共同醸造所で伝統的な方法と材料で醸造され、提供されていることを保証するものです。

Echter Zoigl vom Kommunbrauerのロゴ、Zoigl Starが使われている

Zoiglを味わうには

伝統的なZoigl(ツォイグル)を味わうには、Kommunbrauhaus(共同醸造所)のある町を訪れ、Zoiglstuben(ツォイグル醸造者の家、店)に行く必要があります。Zoiglstubenは地域に複数ありますが、営業日は個々に差異があり、通常は複数あるうちの1~2店舗が週末(金曜日~月曜日)のみに営業します。営業中の店舗は、看板や軒先に「印」が吊るされているので、一目で分かります。「印」は、Zoigl Star(ツォイグルスター)の六芒星が多いですが、店舗により差異があります。

営業中のZoiglstubenには、Zoigl Starなど「印」が吊り下げている

Zoiglstuben(ツォイグル醸造者の家、店)を訪れる際は、事前に営業日カレンダー「Zoigltermine」を確認しましょう。

2020年の営業日カレンダー(店舗にて、紙で配布されているものより抜粋)

Zoiglstuben(ツォイグル醸造者の家、店)の雰囲気は非常にフレンドリーであり、地域の人や旅行者に限らず、初めて会った人でも気軽に会話できます。もちろん、Zoigl醸造者にビールの感想を伝え、質問をすることも可能。提供するビールは、Zoigl(ツォイグル)の1種のみ。サービング方法は、タップによる提供や木樽から重力による提供など、店によって差異があります。いずれも新鮮で品質の良いZoiglを、安価で味わえることは変わりません。

店舗によりサービング方法は異なり、木樽から重力による提供を行うところもある

ドイツのバイエルン州オーバープファルツ地方を訪れる際は、Zoiglstuben(ツォイグル醸造者の家、店)を訪れて、Zoigl(ツォイグル)を味わうことをおススメします。

Windischeschenbach(ヴィンディッシェッシェンバッハ)およびNeuhaus(ノイハウス)のZoiglについての記事は、リンク先参照

この記事が、素敵なビールとの出逢いに役立てれば幸いです。


Zoigl Bier(ドイツ語)

Web Site:https://zoiglbier.de/

OberpfalzZoiglオーバープファルツツォイグルドイツドイツビールビアライゼ

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

Atsushi Taguchi(田口 篤史)

ビアジャーナリスト/ビアライター

ビール大好き!ビールを求めドイツやベルギーを中心にヨーロッパをよく旅していました。
世界にも日本国内にも、素敵なビールはまだまだたくさんありますので、巡りたいところは尽きません。
ビールの素晴らしさ、楽しさを多くの人に伝えていきたいと思います。
Enjoy!Beer!

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