[コラム]2020.1.19

2020年ビール市場予測(前編)ー酒税法改正に向けた各社の戦術

おそらく日本の歴史の中でも記録と記憶が残る2020年がスタートした。
そんな年に描くビールの未来に向けて、ビール各社も動き始めている。主な各社が1月に発表した事業方針などから透けて見える、2020年の具体的な戦術をまとめる。(前編)

2019年を振り返る

2019年の国内ビール類総市場(※1)は前年比98%程度と推定される中、ビール4社が発表した2019年の販売実績は、アサヒビール 14,196万ケース(前年比96.5%)、キリンビール 13,550万ケース(前年比100.3%)、サッポロビール 4,138万ケース(前年比96.75% ※2)、サントリー 6,365万ケース(前年比101% ※2)だ。

キリンビール

キリンビール株式会社代表取締役社長 布施孝之氏(2020年キリンビール事業方針発表会にて)


各社注力したのは、主力商品の強化だ。アサヒビールは『アサヒスーパードライ』の中長期のブランドテーマを “THE JAPAN BRAND” と設定し、“最高品質の提供” と “飲用機会の拡大” を見据えた取り組みを強化、キリンビールも主力ブランドである『キリン一番搾り生ビール(以下、一番搾り)』『本麒麟』などの主力ブランドへの集中投資を実施し、特に『本麒麟』の売り上げは前年比160.6%という過去最高の販売数量を叩き出す。サッポロビールは『サッポロ生ビール黒ラベル(以下、黒ラベル)』の缶商品が5年連続の売り上げアップを実現し、サントリービールは「泡」にフォーカスした徹底訴求や、発売13年目にして初のリニューアルを施した新ジャンルの『金麦』がブランド全体で前年比111%に伸長している。

※1 ノンアルコール市場を含む  ※2 ビール、新ジャンル合計

2020年。まず注目すべきは酒税法改正

2020年10月に酒税法改正が実施される。現在は「ビール」「発泡酒」「第三のビール」にわかれている酒税が、2026年10月〜すべて55円程度へと一本化されるその前段階として、「ビール」「第三のビール」の税率がそれぞれ350ml缶で「ビール」が7円の減税、「第三のビール」は約10円の増税となり、価格差が縮まる。

つまり、「ビール」の小売価格は下がり、安価なことが大きなメリットの「第三のビール」に割高感が生じるということになる。各社がそれに対して取り組み強化することは、それぞれの主力ブランドへのクオリティアップと、その飲用体験を増やし、各ブランドへの信頼を高めていくことだ。

〔アサヒビール〕
ビールメーカーで唯一の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の「東京2020ゴールドパートナー(ビール&ワイン)」として、大会の盛り上げを図る他、年間を通じて『アサヒスーパードライ』の取り組みを強化する。2019年11月にブランドメッセージ「ビールがうまい。この瞬間がたまらない。」を新たに設定し、工場をコンセプトとした三大都市での期間限定ショップやコンセプトカーによる飲料体験を増やすなどを実施する。

〔キリンビール〕
引き続き『一番搾り』『本麒麟』を中心に集中投資を継続。税率は上がるものの、2019年の消費税増税による節約トレンドは継続するという見込みから、新ジャンルで躍進を続ける『本麒麟』は “本格的なうまさ” をさらに追求。ニーズ+味わい強化で前年比126%の販売数量を目指す。また、ノンアルコール・ビールテイスト飲料カテゴリーでは、お腹まわりの脂肪を減らす機能性表示食品である『キリン カラダFREE』などで健康ニーズに応えていく。

〔サッポロビール〕
ビールは「ブランド&味覚」の多様性になると睨むサッポロビールは、多様化ポートフォリオの確立とタッチポイントの強化を図る。
具体的には、缶商品で伸長を続ける『黒ラベル』の外食市場での活性化をにらみ、飲食店の専用サーバー「パーフェクトチェンジャー」によって生成するフロスティミストを楽しめる『パーフェクト黒ラベル』の飲用体験を強化。

パーフェクトチェンジャーによって、泡とビールの境界にもう一つのごく細かな泡の層を作る。それによって飲むたびに泡を再生し、泡持ちが良くなる


また、誕生から今年で130年を迎える『ヱビスビール』に関わるイベント展開。そして、新ジャンルでは、2月4日に、黒ラベルの麦芽とヱビスのホップを贅沢に使用するサッポロビールの全てを注ぎ込んだ自信作『サッポロGOLDSTAR』を新発売。また、登場当初からビールと間違うクオリティとして大人気の『サッポロ 麦とホップ』を4月にリニューアルし、新ジャンルに勝負をかける。

〔サントリービール〕
『ザ・プレミアム・モルツ』ブランドは、好評の “神泡” マーケティングを継続。さらなる “おいしさ” と “泡品質” を追求して『ザ・プレミアム・モルツ』『ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール』を同時リニューアルする。また、『金麦』ブランドは、“四季の金麦”を展開。『オールフリー』ブランドは、中味・パッケージともに刷新するとともに、健康意識の高まる時節を中心に機能性表示食品「からだを想うオールフリー」の大々的なプロモーションを展開し、“高機能系”市場のさらなる拡大を図る。

次に注目するのは、クラフトビールだ。(後編へ続く)

2020年ビール市場予測(後編)ークラフトビールをフックに若者を巻き込む

<参考>
国税庁 酒税法等の改正のあらまし(平成29年4月)(PDF/485KB)
アサヒビール:ニュースリリース ~2020年 アサヒビール事業方針~
キリンビール:2020年 キリンビール事業方針
サッポロビール:2020年 サッポロビール 事業方針
サントリー:2020年 サントリービール(株)事業方針

※掲載はアイウエオ順

アサヒビールキリンビールサッポロビールサントリービール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

宮原 佐研子

ビアジャーナリスト/ライター

ビアLover 宮原佐研子です。 ビールの大好きなトコロは、がぶがぶ飲める、喉ごし最高、大人の苦味、世界中でも昼間でも飲める、 果てしなくいろんな味わいがある、そしてぷはぁ〜っとなれる、コトです。
ライターとして、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)/『じゃらん酒旅BOOK 2023』(リクルート)/『うまいビールの教科書』(宝島社)/『クラフトビールの図鑑』(マイナビ)、ぐるなびグルメサイト ippin キュレーター など

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