[イベント,ブルワー]2021.4.8

ブームから文化へ! 日本の未来のブルワーも育くむ醸造所 北海道「Brasserie Knot」(ブラッスリー・ノット)クラウドファンディング進行中

タンチョウの飛来で有名な北海道東部の鶴居村に、新しいブルワリー(醸造所)が立ち上がろうとしています。その名も「Brasserie Knot」(ブラッスリー・ノット)。代表は、植竹大海氏。COEDO BREWERY(埼玉)~うしとらブルワリー(栃木)~忽布古丹醸造(北海道)などでさまざまなビールを造り上げてきたベテランブルワー(醸造家)です。2021年3月下旬よりクラウドファンディング(CAMPFIREによる)がスタート。当記事執筆時点で70%超を達成し、順調なスタートを切っています。

しかしこの支援は、早期の満額達成を目指すとか、単に北海道の醸造所の立ち上げを応援するとかだけのものではありません。これは日本のビール醸造界が抱える大きな課題、「次世代を担う醸造家の育成」の解決のための支援でもあるのです。

この記事は単にクラウドファンディングを紹介するものではなく、「醸造家不足」というクラフトビールシーンが抱える問題を振り返るとともに、その解決方法と、その先のビールの未来についても見ていきます。

 

ブラッスリー・ノット クラウドファンディング

ブラッスリー・ノット クラウドファンディング(by CAMPFIRE)

「道東に新たなクラフトビールカルチャー発信基地を創設し、共に文化を育てましょう!」
https://camp-fire.jp/projects/view/379882
期間:2021年3月28日(日)~2021年5月21日(金)

醸造家を育てる場の必要性

3年前のことになります。2018年の酒税法改正で発泡酒の制約が増えることが決まり、「駆け込み」の発泡酒醸造免許申請が多発しました。その結果、東京・横浜などの大都市圏を中心に「ブルーパブ」新設ラッシュが起きました。

このとき奇妙な現象が起きます。「箱」(醸造設備)はあるが「人」(醸造家)がいない、というのです。

北海道にいる筆者のもとにさえ、「どなたか知り合いに醸造できる人はいないか」という相談が来たくらいでした。(註:醸造家がいなければそもそも免許申請ができないので、これはかなり「こじれた」案件だったのでしょう)

現在になっても、地方で醸造所設立の案件は増え続けています。しかし、それに対して醸造家の数は少なすぎるのです。

この「醸造家不足」には、いくつかの原因があります。

まず、日本では「自家醸造」が認められていないこと。
1%以上のアルコールを造ること自体が酒税法により犯罪なので、「君の造るビールは美味しいからプロになれよ」というコースが断たれています。ビールを造るためには、いきなりプロの醸造家になるしかないのです。

また、人材の流動性が低いこと。
その「プロの醸造家」になろうとしても、醸造所自体の規模が小さいので、募集自体が少なくかつ不定期です(もちろん「大手」の醸造家になるためには、応募者の中で抜きんでた知識と成績が必要)。「醸造家になりたい」という素朴な願望は、入口が狭くハードルが高い現実に当たってしまいます。

そして、ビール醸造を学べる場がないこと。
ビールに限らず「酒造り」は人間の文化の一端です。料理や音楽や芸術のように、「自分でつくりたい!」と欲する者は気軽に創作できるべきです。実際に「自家醸造禁止」の制約がない諸外国では、専門的に醸造学を学べる場がたくさんある上に、「ホビー(趣味)」としての酒造りも業界団体による定期的な講習会やセミナーが盛んに開催されています。

ビール学校イメージ

とくにこの3つ目の解決策として、今回の植竹氏のプロジェクトが起きています。単に新たな醸造所を増やすことだけが目的なのではありません。むしろその大きな特色は、「醸造家を育てる場を創ること」です。

この日本でビール醸造を学べる「場」を作り、またそれを望む者に醸造をする機会を与えることで、人材の流動性を活発なものにするのです。

代表・植竹氏のプロフィールと「ビールを文化へ!」という思い

ブラッスリー・ノット代表の植竹大海氏は、すでに十分すぎるほどの実績を持つブルワー(醸造家)です。

ブラッスリー・ノット 植竹大海氏

埼玉県の「COEDO BREWERY」でキャリアをスタートさせ、定番ビール「毬花」のレシピを開発。続けて下北沢の老舗ビアバーうしとらが栃木県に設立した「うしとらブルワリー」へ移り、200種類を超えるビールを醸造。さらに北海道に移住し「忽布古丹醸造」で醸造長として数々のビールを醸造。コロナ禍の影響で短期間に終わってしまったものの、カナダの「Godspeed Brewery」で北米のビール造りにも従事していました。

現在は北海道・忽布古丹醸造へ復帰し、醸造アドバイザーの仕事を中心に活躍しています。

旅とアウトドアを愛する植竹氏は、以前より「雄大な道東に新たな醸造所を!」との思いを持っていました。今回の「ブラッスリー・ノット」のクラウドファンディングはその実現に向けた大きな一歩です。

 

植竹氏は、クラウドファンディングの中でこう訴えます。

例えば料理人を志した時に、自宅で全く料理もせず、経験も無いままにレストランをオープンすることなど、ありえるでしょうか。

私はこの大きな問題を解決すべく、人材を育てられるブルワリーを設立しようと決意したのです。

そしてクラフトビール・自然と共にある豊かなライフスタイルを、まず自分達で体現してゆきます。

その先にはきっとブームではない、文化として根付いたクラフトビールがあるはずです。

 

「クラフトビールを文化に」というお題目は、以前より多くの人が唱えています。しかし、それは単純にたくさんの量のビールが消費されるだけでいいのでしょうか? ビールを消費するだけではなく、ビールを造る人たちを育てていくことも同じくらい大切です。

文化の一端であるビールを造るということが、人生や世界に良い影響を与えていく。そこまで来てようやく「ブームではない、文化」としてのクラフトビールが達成されるのではないでしょうか。

その礎となる「場」を造ろうとしているブラッスリー・ノットのクラウドファンディングは、日本のクラフトビールの未来へのクラウドファンディングでもあるのです。

村が応援するビールの醸造学校

醸造家の仕事はビールを造ることだけではありません。日々の発酵管理、衛生管理、パッケージング技術、マーケティング、デザイン、受発注、税務、流通…などなど、仕事は非常に多岐に渡ります。

それを短期間で覚えることは非常に難しいことです。たとえ1か月をかけた研修でも、それは1サイクル分しかできていないのです。時間的にも物理的にもある程度腰を据え、長期間的な感覚を身に着けることが必要となってきます。

ブラッスリー・ノットでは、醸造所を立ち上げることと同時に、長期間に渡ってビールのことを学べる環境と仕組みづくりを構築しようとしています。

その舞台となるのが、北海道東部の鶴居村です。鶴居村では、ブラッスリー・ノットのために全面的なバックアップを約束してくれました。

北海道鶴居村の位置

北海道鶴居村の位置

旧・茂雪裡(もせつり)小学校

旧・茂雪裡(もせつり)小学校

廃校になった旧・茂雪裡(もせつり)小学校を利活用し、体育館を改修して使用します。学校跡というのも、「ビールの学校」の場としてとても象徴的な立地となります。

村にとってもメリットがあります。地域の雇用促進、新たな名物や観光資源の創出はもちろん、釧路湿原国立公園が近く、北海道の東部を訪問する人の増加で地域の活性化も図れます。

醸造の過程で出る麦芽カスを牛の飼料として活用したり、排水も有機物を処理して自然に返したりなど、大自然の中でのサイクルを直接的にイメージしながら、自然と共存するブルワリーも目指していくそうです。

クラフトビールは「ローカル性」と密接な関係があります。地元のバックアップを得ながら成立し、そして地元を大切に慈しむブルワリー、それがブラッスリー・ノットの特色と言えるでしょう。

もちろんおいしいビールも! リターンも!

もちろん、立ち上げ間もなく出来上がるビール自体にも大いに期待ができます!

ブラッスリー・ノットでは、定番ビール4種類をメインに据えてしっかりと造っていきます。スタイルは「ベルジャン・ウィット」「ペールエール」「IPA」「ダブルIPA」の4種類。定番がメインというところも「教育の場」ということを意識してのことでしょう。もちろん季節限定のビールもあり、季節ごとにそれぞれ2種類ずつ、年間12種類のビールを製造する予定です。

そして、クラウドファンディングと言えばリターンも気になるところ。醸造免許の関係でビール自体でのリターンができないため、大きく二つのプランがあります。

ひとつは、クラウドファウンディング限定デザインのさまざまな「外遊び」グッズ。北海道のイメージ通りのアウトドアで使用できるグッズ(エコボトル、シェラカップ、ワークシャツなど)が多種用意されています。

またもうひとつは、ちょっとマニアックなブルワリーツアーに参加できるプラン。「ビア玄人」達の「知りたい!見たい!」欲求を満たす魅力的な内容です。醸造所自体も広大な道東の大地の中にあるのですから、訪れるだけで北海道の自然を直接満喫できることも、ブラッスリー・ノットならではのリターンかもしれません。

クラウドファンディングリターンリスト

他に「設立応援プラン」「ブルワリーさんサポートプラン」もあります。

日本のビール界になくてはならない醸造家による、日本のビールの未来を見据えた新しい場の創設。醸造所の新設ということを越えた、「ブラッスリー・ノット」の行く先にご注目ください。

ブラッスリー・ノット

「道東に新たなクラフトビールカルチャー発信基地を創設し、共に文化を育てましょう!」(CAMPFIRE)
https://camp-fire.jp/projects/view/379882
期間:2021年3月28日(日)~2021年5月21日(金)

 

◆Brasserie Knot(ブラッスリー・ノット)Infomation

クラウドファンディングブラッスリー・ノット北海道植竹大海

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

坂巻 紀久雄

ビアジャーナリスト

東京都葛飾区出身。1998年ビアテイスターを取得。2000年に北海道札幌市へ移住。ビール専門店勤務で経験を積み、2013年にビールとモルトウイスキーの専門店「Maltheads(モルトヘッズ)」を開店。
https://maltheads.net/

店は「クラフトビールのお店」でも「世界のビールのお店」でもなく、「ビールの広い世界を実感できる店」をコンセプトとしている。

ビアジャーナリストとしては、北海道の記事を中心に執筆しているが、国内外を問わずビール全般を追っている。

札幌は、日本のビールの発祥地のひとつ。さらに「ビールの都」ドイツ・ミュンヘンと「ビール天国」アメリカ・オレゴン州ポートランドと姉妹都市でもある。そこを「日本のビールの首都」として盛り立てるべく奮闘中。

ビア検(日本ビール検定)1級(2013-14 初の2年連続合格者・2022年3度目の合格)/クラフトビアアソシエーション(CBA)認定ビアテイスター/ウイスキー検定2級

立ち上げから2023年まで「サッポロ・クラフト・ビア・フォレスト」実行委員
http://www.sapporo-craft-beer-forest.com/

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