[コラム]2021.7.13

【緊急寄稿】お酒って、そんなに悪者なんですか? 〜私達に問われているものは何か?〜

 コロナ禍において、常に槍玉に挙げられてきた「飲酒」問題。
 はたして、お酒はそんなに【悪者】なのでしょうか?
 酒を断てばコロナは収束するのでしょうか?

《因果関係は数値ではなく……》

ここに面白い資料があります。
愛知県で去年7月から今年の5月まで【コロナの感染経路】を調べたところ、家族間・家庭内26%、医療福祉施設8%、職場6.8%、会食3.2%、接待を伴う飲食店1.8%とのことでした。
会食と飲食店の合計は5%にしか過ぎません。家庭内の5分の1以下です。
この数字を踏まえ、愛知県知事に対して「会食や飲食店は感染経路としては低いのではないか?」との質問が寄せられましたが、「根っこを辿れば、会食や飲食店で拾ってきて(家庭内で)広がるパターンが多い」との返答がなされています。
たしかに、その可能性もあります。しかし、すべて会食と飲食店で拾われてきたのでしょうか?
それは推測に過ぎません。知事の説が正しいとすれば、家庭内感染の根っこを調査し直すべきです。
会食や飲食店で拾ってきて、家庭内で広がったというのは、「多分そーゆーことでしょ」という憶測に過ぎません。
結局は、「お酒を飲むと酔っ払って緊張が緩む」→「大声で話をしたりソーシャルディスタンスを保つことを忘れる」→「飛沫感染するリスクが上がる」という【風が吹けば桶屋が儲かる的な三段論法】でお酒を悪者にしているわけです。
お酒はスケープゴートに過ぎないのです。
感染とお酒の因果関係は、数値ではなくイメージです。

《悪いのはお酒ではなく……》

酒類の提供を禁止すれば感染が防げるという論理の根本には「酒を飲むと酔っ払って、理性を失う」というイメージが根強いと考えられます。
お酒を飲むと理性を失い、ハメをはずし、タガがはずれ、「マスクの着用を忘れ」「ソーシャルディスタンスを守らなくなる」と考えられているのです。だからお酒が悪者なのです。
たしかに、お酒を飲むと酔います。
しかし、酔って理性を失ったり、ハメをはずしたり、タガがはずれるのは、お酒が悪いわけではありません。
酔って理性を失ったり、ハメをはずしたり、タガがはずれるのは、その人が悪いのです。
悪いのはお酒ではなく、【人】なのです。

《私達も反省する点は……》

東京都は「お酒は酔ってハメをはずすためのツール」と考えています。だから禁止しようとしているのです。
しかし、私達は「お酒は単に酔っぱらうだけのものではなく、ちゃんと味わうものだ」と考えています。
もちろん私達も反省しなければならないことはあります。たしかに、ハメをはずしすぎたこともありました。
ビアイベントで泥酔してセキュリティーにつまみ出された人もいましたね。
お酒を悪者にしたい人にとって格好のターゲットです。
私達も反省すべき点は、多々思い当たります。

《今、問われているものは……》

今回の「酒類の販売禁止」や「午後**時まで」といった処置は愚策だと思います。
お酒を全面的に禁止した例としてあげられるのがアメリカの禁酒法ですがその結果はどうだったのでしょうか?
密造酒とモグリの酒場がギャングやマフィアの資金源になり市民を巻き込んだ抗争が繰り広げられたのは有名な話です。
また、飲酒は禁止されていなかったため(アルコールの製造や販売、運搬などは禁止されていたが、飲酒自体を禁止する項目はなかった)、買いだめしてあったお酒を自宅で飲む人が増え、飲酒による家庭内暴力が増えたとの報告もあります。(自宅での飲酒は飲食店で飲むより安くつくので、一度に飲む量が増える傾向があります)
お酒を全面的に禁止したり、閉店時間を制限することは根本的な解決になりません。
問題は、お酒の飲み方です。これを機に、私達も適正な飲酒マナーを身につける必要があると思われます。

昔は(今もあるかもしれませんが)「酔客お断り、酒は2本まで」というルールのある酒場がありました。
酔った客が訪れると「今日は帰りな」と入店を拒否し、酔った客には「今日はそのへんにして帰りな」とたしなめたものです。
一気飲みや飲み放題が横行し、お酒の飲み方を間違ってしまう人が増えたことが【酒悪者論】の一因と言えます。
私達は東京都と政府に、【正しく適切な飲酒を心がける】ことを示し、【酒類提供の全面禁止の撤回】を訴える必要があると思います。
例えば、お店側としては「すでに酔っている客の入店は許さない」「ビールは2パイントまで」「回し飲みの禁止」「飲食中以外はマスク着用を義務づける」「パーテーションの設置」などの条件を満たせば酒類の提供を許可するように、団結して要望するなどの対抗策を講じる必要があると思います。
今、私達に必要なのは、【美しく酔う】姿勢を見せるということではないでしょうか?
お酒は悪くありません。お酒を禁止しても問題は解決しません。
悪いのはお酒ではなく人です。だから、人が変わらなければならないのです。

今、私達に問われているものは、正しく飲む。美しく酔う。という美学・美意識ではないでしょうか?
酔うためではなく味わうために飲む。適正な飲酒を真剣に考え、体現する機会なのかもしれません。

藤原ヒロユキ

正しく適切な飲酒を心がける酒類提供の全面禁止の撤回

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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