[コラム]2022.1.3

コールドIPAとは?ヘイジーへのアンチテーゼとしてのビール

コールドIPA

2021年の日本におけるビールシーンのキーワードのひとつとして、コールドIPAが挙げられると思います。日本では2021年前半から話題になりはじめ、強烈なムーブメントとなるにまでは至っていませんが、いくつかのブルワリーがコールドIPAを醸造するようになりました。

しかし、コールドIPAがどのようなビールなのかについては、日本ではあまり明確に解説されていないように思われます。コールドIPAの詳細について、少し深堀りして紹介します。

ホップのフレーバーとアロマを強調したコールドIPA

コールドIPAとは、ホップのフレーバーとアロマを強調するために、ラガー酵母を使用してドライな仕上がりにしたビールです。一般的なIPAは当然のことながらエール酵母を使用していますが、コールドIPAはラガー酵母を使っている点で異なります。

ラガー酵母を使用した理由は後述しますが、一般的なIPAを造るエール酵母よりも低い温度で発酵するラガー酵母を使ってIPAのようなビールを造ったため、コールドIPA(Cold IPA)と名づけられたと言われています。

コールドIPAが造られた経緯

コールドIPAは、アメリカ・オレゴン州ポートランドのWAYFINDER BEERというブルワリーが2018年に創り出したビールです。同ブルワリーのブルーマスターであるKevin Daveyが「ニューイングランドIPAとは対照的なビールを造りたい」と考えて造ったもので、WAYFINDER BEERのウェブサイト「Cold IPA is the anti-thesis of NEIPA.」(コールドIPAはニューイングランドIPAのアンチテーゼだ)と書かれていることからも、その考えがわかります。

そして、Kevin Daveyは純粋にホップのフレーバーとアロマを感じられるビールを目指しました。そこで使われたのがラガー酵母です。

なお、コールドIPAはエール酵母を使っていないため、正確には「インディアペールエール」とは呼べないものですが、ウェブメディア「Racket」の記事によるとKevin Daveyは下記のように述べているようです。

“I called it a cold IPA mainly as a marketing term, but also as like, it’s a refreshing version of an IPA,” Davey says.
(私はそのビールを主にマーケティング用語として「コールドIPA」と呼びました。それは、IPAをリフレッシュさせたものでもあります)

Cold IPAs are the Hot New Style in Craft Beer. If You Believe They’re Real. – Racket

新しいスタイルのビールを造るだけならIPAと名づけなくてもよかったはずですが、IPAでないものにあえてIPAと名づけているところから、やはりKevin DaveyはニューイングランドIPAに対するアンチテーゼという気持ちが強かったのでは、と想像されます。

コールドIPAの醸造における特徴と他のビアスタイルとの違い

コールドIPAはラガー酵母を使用して造ります。また、通常のラガー酵母を発酵させる温度よりも高めの温度で発酵させるのが特徴です。これだけ聞くと、カリフォルニアコモンやIPL(インディアペールラガー)と何が違うのかがわかりにくいですが、そもそもの理念が異なります。

コールドIPAの醸造における特徴の部分で、他のビアスタイルと異なる点について紹介しましょう。

カリフォルニアコモンとの違い

ラガー酵母を高めの温度で発酵させるという点でカリフォルニアコモンとは共通点がありますが、目指すところは異なります。

Kevin Daveyは、純粋にホップのフレーバーとアロマを感じられるビールを目指しました。そこで邪魔になるもののひとつが、エール酵母由来のエステルです。ホップのフレーバーとアロマを最大限に感じられるようにするためには、より軽くクリーンなベースが求められます。

ラガー酵母を使用したのは、エール酵母よりもエステルが少ないという理由によるものです。また、温度を高くして発酵させたのは、発酵をより早めることでエステルをできるだけ抑えるためだとされています。

なお、コールドIPAには米やコーンなどの副原料が使われることもありますが、クリーンなベースを造るために使われていると理解しておくといいでしょう。

その意味で、ラガー酵母でフルーティーな香りを造り出すカリフォルニアコモンとコールドIPAでは、共通点はありつつも目指すところはまったく逆だといえるかもしれません。

IPLとの違い

ラガー酵母を使ったIPAのようなものという意味では、IPLとコールドIPAは似ているといえるでしょう。

しかし、コールドIPAは一般的なIPAを目指したものではなく、純粋にホップのフレーバーとアロマを感じられるビールを目指したものです。一方で、IPLはラガー酵母を使ってIPAを造ることを目指したものが多く、ホップの特徴を感じられはしますが、モルトや酵母由来のフレーバーとの複雑性を楽しむものでもあります。

ブリュットIPAとの違い

さまざまなIPAの種類の中でも、味わいの面ではブリュットIPAはコールドIPAに近い位置にあるといえるかもしれません。ただし、ブリュットIPAとコールドIPAは使用する酵母が異なり、目指すところも違っています。

ブリュットIPAは麦汁の糖分を発酵によって極限まで減らしたIPAで、ドライでキレのある味わいが特徴です。シャンパンの「辛口」を意味するブリュット(Brut)と名づけていることからわかるように、目指しているのは辛口です。

コールドIPAの味わいも似ていますが、目指すところはホップのフレーバーとアロマを最大限に引き出すことで、そのために軽くクリーンなベースが必要だということ。そのベースを造るために、ラガー酵母や米、コーンを使い、ドライでキレのある味わいになったのがコールドIPAです。

ブリュワーのクリエイティビティを味わう楽しさ

ここまで紹介してきたとおり、コールドIPAは特徴的なビアスタイルである一方、カリフォルニアコモンやIPL、ブリュットIPAなどと共通点もあり、違いがわからないということもあるでしょう。

しかし、新しい味わいやスタイルが生まれるときには、ブリュワーの既存概念に対するクリエイティブな思いがあるはずです。例えば、コールドIPAを造ったWAYFINDER BEERのウェブサイトには、こう書かれています。

It’s Wester than West Coast.(ウェストコーストよりももっと西だ)

クリーンでホップのフレーバーが強烈に感じられるウェストコーストスタイルのIPAよりももっと西、つまり、コールドIPAはもっとクリーンかつドライでホップの魅力が強烈に感じられるビールだとWAYFINDER BEERは主張しているのです。それが、いまやどのブルワリーでも造っているヘイジーなビールに対する、WAYFINDER BEERなりのアンチテーゼだといえるでしょう。

ビールを飲んでみて感じることは人それぞれです。しかし、新しいスタイルを創り出すことで何かを打ち破ろうとしたブリュワーが世界には数え切れないほど存在し、そのひとつが形になって自分たちの手元に届いていることは忘れてはいけないように思います。そんなブリュワーの努力に思いを馳せながら味わってみるのも、ビールの楽しさのひとつだと考えています。

コールドIPA

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

富江 弘幸

ビールライター

1975年、東京都生まれ。法政大学社会学部卒業後、出版社でライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経てビールライターとして活動中。ビアジャーナリストアカデミーの講師も勤める。

【著書】
教養としてのビール(サイエンス・アイ新書、SBクリエイティブ)
BEER CALENDAR(ワイン王国)

【執筆・監修】
和樂web(小学館)
Discover Japan(ディスカバー・ジャパン)
東京人(都市出版)
ビール王国(ワイン王国)
ビール大全(楽工社)
るるぶキッチンmagazine 秋冬号(JTBパブリッシング)
あなたのしらない、おいしいビール(cakes)
他多数。

【出演】
金曜たまむすび(TBSラジオ)
ちきゅうラジオ(NHKラジオ第1)
すっぴん!(NHKラジオ第1)
浜美枝のいつかあなたと(文化放送)

Twitter:hiroyukitomie
Website: 地域とビール
Weblog: 地域とビールとブログと

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