[コラム,ビアバー]2021.2.9

街は今、ビアバーは今

2度目の緊急事態宣言が発出されてから約1カ月、先週には10都府県での延長が発表された。飲食店にとっては厳しい状況がまだまだ続くことになる。今、街の様子はどうなのか、ビアバーの雰囲気はどうなのか。ふと気になって自分の目で確かめてみたくなり、かつて自分が居酒屋を経営していた神田の街と、昔からのお気に入りのビアバーを訪ねてみた。

2月5日金曜日、17時過ぎの神田駅西口商店街。飲食店が立ち並ぶ狭い通りに、家路を急ぐ人の流れがある。シャッターを閉じた居酒屋には「2月7日まで休業」の掲示がある店が多い。今頃は「3月7日」と書き換えられているかもしれない。営業している飲食店も「閉店は20時」を知らせる掲示が入り口にある。

普段なら駅に向かって足早に歩く人と、今夜の店定めをするサラリーマンのグループが混在する場所なのだが、後者の姿はほとんど見かけない。営業している店を覗いてみると、まだ時間が早いとはいえ、ほとんど客の姿は無くひっそりとしており、これから週末のピークタイムを迎えるという空気は感じられない。

その足で中央通りに出て、東京駅方向に歩く。再開発された巨大な複合ビルや老舗の百貨店などが立ち並ぶエリアだが、やはり人通りは少ないように感じる。東京の西の郊外で暮らす私だが、久しぶりに都心に出てこのような景色を見ると、テレビで聞き飽きた「テレワーク」や「外出自粛」などの言葉が改めて脳裏をめぐり、それらが飲食店に与える影響を改めて考えさせられる。

暗くなった気分を少しでも晴らすべく、行きつけのビアバーへと足を向けた。東京駅につながる地下街にあるそのビアバーは、某大手ビール会社が経営する「3回注ぎ」を売りにするチェーン店である。フードメニューも豊富なので、ビアレストランと言うべきだろう。学生時代から通う、私のビール好きの原点のような店だ。

その店は、18時45分にラストオーダー、19時30分に閉店との掲示があった。時計を見ると18時ちょうど、3杯くらいは楽しめるだろうと思い、入ってみた。

一人客は通常ならカウンターに案内されるはずだが、お好きな席にどうぞと言われたので、入口近くのテーブル席に陣取る。その席からは店の入口と、地下街の通路の様子が一望できるため、人の流れを観察できそうだったからだ。

店内は客の姿はまばら。予想通りである。私の過去の経験からしても、この営業時間では商売にならないことは明白だ。大手資本のチェーン店だからこそ、何とか営業できているのかもしれない。

ここで驚くべき光景を目にした。1杯目のビールを飲みながら何気無く入口の方を見ていると、次から次へと新規の客が入ってくるのである。通常なら18時台はそのような時間帯なので何の不思議も無いのだが、今は、逆算すればラストオーダーまで30分少々しか無いのである。なんと最後に入った客は18時35分頃、あと10分でラストオーダーという時刻だ。ビール1杯と料理1皿くらいしか頼めないだろう。

家に帰ってのんびり飲めばいいのにと思うのは、「ビール」が目的の私だからである。多くの客は、「そこで過ごす時間」が何よりも貴重なのだ。仕事帰りに仲間と、親しい友人と、デートの帰りのカップル、もちろん一人でも。金色に輝くタップの並ぶカウンター、グラスに注がれた美しい泡のビール、季節ごとのおいしい料理、店員の元気な声。たとえわずかな時間でも、この空間でしか体験できない時間を求めて人々は集まり、その価値に満足してお金を払うのだろう。

幸いにも、日々のニュースで報じられる数字は減少傾向にある。しかし私たちが以前のように、気軽に一杯ひっかけることができる日がいつになるのか、まだわからない。ただ、今回改めて確信したのは、ビアバーは、飲食店は、私たちの日常を豊かにしてくれる、かけがえのない場所であるということだ。

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

津田 敏秀

ビアジャーナリスト

1972年、東京都出身。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。
外食チェーン企業に15年間勤務の後、独立。串揚げとクラフトビールの店を7年間経営。今までの経験を活かし、飲食店の経営に関する記事を得意とする。
好きなビールはスタウト。趣味は乗り鉄。

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