[コラム]2015.9.25

クラフトビールとは? クラフトビールの定義とは? 

クラフトビールとは?クラフトビールの定義

クラフトビールとは? 
クラフトビールの定義とは? 
<一般社団法人日本ビアジャーアナリスト協会代表理事 藤原ヒロユキ>

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 ここ数年、クラフトビールという言葉が日本でも市民権を得て、一般誌や新聞、コンビニの店頭POPでも見かけるようになった。
 しかし、この“クラフトビール”とはどのようなビールなのか? 非常に曖昧である。 
 はたして、“クラフトビール”にはどのような定義があるのか?

●クラフトビールとは?
 多くのメディアで、「クラフトビールとは小規模な醸造で造られるビール」と記されているが、私は、「クラフトビールとは、1960年代中頃にアメリカの西海岸で始まり全米に広がっていった小規模醸造の流れをくんだブルワリーが造るビールとそれらのビールに影響を受けた醸造所が造るビール」だと考えている。

●アメリカのクラフトビールとは?
 現在のクラフトビール運動のルーツとなるアメリカの小規模醸造所の歴史は、1965年にフィリッツ・メイタグ氏が買い取ったアンカー・ブルーイング、1976年にカリフォルニア州ソノマで誕生したニュー・アルビオン・ブルーイングなどに端を発する。その後、シェラネバダ・ブルーイングやブルックリン・ブルワリーといった醸造所が追随していった。
 これらのムーブメントの根源には、アメリカの大手ビールメーカーの造る“コーンなどの副原料を使ったライトな量産型ビール”よりも “ヨーロッパの伝統に基づく味わいの深いビール”を造るべきだという考えがあり、1960年代中頃からの自然回帰運動、ナチュラル思考、自然食ブーム、さらにはホームブルー(自家醸造)解禁という背景もあり全米に広がっていった。
 さらに、軸足を“伝統的なヨーロッパのビール”に置きながらも、“独自の発想と想像力で新たなビールを生み出す(アメリカンスタイルIPAなど)”や、“ヨーロッパでは歴史の中に埋もれていたり一部のローカルビールとなっていた古典的なビールを復古させる(木樽熟成ビールやサワービールなど)“という次元に達していった。単なる物真似ではなく”ヨーロッパよりもヨーロッパらしく。そしてアメリカ的解釈によって進化させる“というところがアメリカン・クラフトビールの凄いところと言えるわけだ。
 だからこそ、アメリカン・クラフトビールは、アメリカ以外の国にも広がっていったのである。発生的なビール文化を持たない国(日本も含む)の人々はその鮮烈な味わいに、ヨーロッパのビール大国はその進化に驚き、影響を受けていったのだ。

●クラフトビール=小規模醸造なのか?
 それでは、なぜ日本の多くのメディアが「クラフトビールとは小規模な醸造で造られるビール」と語っているのか?
 幸か不幸か、日本では“クラフト”という言葉が“工芸”を表す言葉として広く浸透している。そこにビールが付くと“工芸的ビール”と認識することとなる。
 しからば、“工芸的“とはどのようなイメージか? 
たとえば”工芸家具“ならば、”少人数(多くても10人程度?)の職人が小規模な工房でコツコツと手作りしている家具”といったところである。
 日本人の多くは、“クラフトビール”という言葉から“工芸的ビール=小規模な醸造所で手造りされたビール”と認識し、多くのメディアで“クラフトビールとは小規模な醸造所で~”と語られているわけだ。
 また、クラフトビールメーカーが3000社以上あるアメリカのブルワーズ・アソシエーションが、『クラフトビールとは「小規模であること」「独立していること」「伝統的なビール造りをしていること」である』と述べていることから“クラフトビールとは小規模な醸造所で~”と語られようにもなっている。
 しかし、アメリカのこの定義をそのまま日本に持ち込むことは難しいと考える。
 特に、「小規模であること」の定義だが、アメリカの場合「年間の生産量が600万バレル以下」となっている。約70万キロリットルということだ。日本の最大手クラフトビールメーカーの生産量が年間3000キロリットルと発表されているので、その約230倍ということになる。アメリカのクラフトビールメーカーを訪れると、日本の大手ビールメーカーの醸造所と遜色のない大きさであることに驚かされることがよくある。小規模の概念が全く異なっているのだ。

●地ビール=クラフトビールなのか? 
 日本でクラフトビールという言葉が市民権を得るまで、小規模醸造所のビールは「地ビール」と呼ばれていた。“地ビール”とは1994年の酒税法改正により、年間60kリットル以上の醸造量(それ以前は、年間2000kリットル以上)で免許が取得できるようになって生まれた小規模醸造が造るビールのことである。
「クラフトビールとは小規模の醸造所で~」という解釈ならば、地ビール=クラフトビールということになるが、はたしてそうなのだろうか?
 結論から述べると、私は「クラフトビールと地ビールはイコールではない」と考えている。現在日本にある200弱の地ビールメーカ(小規模醸造所)の20~30%ほどは、アメリカン・クラフトの流れを理解したうえで(“理解して”というのは、必ずしもアメリカンクラフトそのものを模倣しているということではない。かたくなにドイツやチェコなどのヨーロッパスタイルのビールを造り続けている場合も含め)ビール造りをしていており“クラフトビールと呼ぶに値する”が、残りの70~80%は残念ながら未だに“観光地や観光施設に依存したお土産ビール”に他ならない。

●はたして定義は必要なのか? ビールはビールにほかならない。
 つまり、クラフトビールは規模の問題でも、造られている場所の問題でもないということだ。
 クラフトビールに必要なことは、造り手(ブルワー)がビールと真摯に向き合っているかどうか? ということである。
『クラフトビールとは、“ビールおたく”と呼ぶにふさわしい、“年がら年中ビールのことで頭がいっぱいな連中”が造りだすビール』なのである。そんなビールおたくなブルワー達が造る「伝統的なスタイルを厳守または踏襲したビール、独自の解釈でスタイルを進化させたビール、ユニークな副原料や醸造法を使った独創的なビール」である。
 そして、今後は「このビールはクラフトビールなのか? クラフトビールではないのか?」といった問答すら無用になると考えている。大手メーカー、小規模醸造所、地ビール、クラフトビール……。すでに、それらはマーケティングのための言葉遊びになりつつある。
 現に、ブルワーのなかには、「クラフトビールと呼ばれようが地ビールと呼ばれようがどーでもいい」という人が増えてきている。ビール愛好家は“定義づけ”というラビリンス(迷路)から抜け出すべきなのである。
 私は、クラフトビールはアートビールに進化していく必要があると考えている。芸術家が自分が描きたい絵を描くように、醸造家自身が飲みたいビールを造る。そんな醸造家=アーティストが増え、アートビールが並ぶ日を待ち望んでいる。ビア・バーのタップやリカー・ショップのケースが展覧会(エキシビジョン)のようになる日を。
 そして、そんなすべてが“ビール”という一言でくくられる日が来ることを願っている。
 旨いビールに定義づけは必要なのだろうか? 
 ビールはビールにほかならない。それでいい。

*なお、この件に関しての記事は3年前の2012年10月、2013年の年頭にも触れている。

クラフトビールとは? クラフトビールの定義とは? に関する過去の記事
2012年10月16日付け  
2013年1月02日付け  
2013年1月3日付け  
2013年1月4日付け  

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001藤原 ヒロユキ

この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。日本外国特派員協会会員。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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