[コラム]2017.4.15

やさしいホップのかいじゅう「ダブルホップモンスターIPA」―ビアレポート(140)

落ち着いた私です。

本日発売の『ビール王国』Vol.14の制作作業も終わり、やっと落ち着いてきた感じもありますので、久しぶりにビールをご紹介。

今回ご紹介するのは、イギリスのグリーンキング「ダブルホップモンスターIPA」です。グリーンキングは、「オールドスペックルドヘン」「ベルヘイヴン」などのブランドを持つブルワリー。その中のどのブランドに属するわけでもなく、同ブルワリーで「Craft beers」というカテゴリに入るビールです。

Double Hop Monster IPA

Double Hop Monster IPA

どんなビールなのか、ブルワリーのウェブサイトを調べてみても、詳しい情報はあまり載っていません。これくらいです。

Colour: Blonde, light gold.
Aroma: Fresh hop with tropical fruit.
Taste: Fresh herbal and balsam hop with a hint of tropical fruit.
Malt: Pale malt.
Hops: Challenger, Pilgrim, First Gold, Target, Styrian & Cascade.
A great beer bursting with aromatic hop character and aroma, with a refreshing bitter finish.
Perfect with: Thai cuisine, lemon grass, spicy but not hot curries.

ラベルを見ると、「LATE HOPPED FOR MAXIMUM AROMA & A REFRESHINGLY BITTER FINISH」と書いてあります。気になるのは「LATE HOPPED」という文字。レイトホップ(レイトホッピング)とは何でしょうか。

レイトホッピングだけでなく、似たような「◯◯ホップ(◯◯ホッピング)」という言葉を聞くことがあると思います。通常は麦汁の煮沸時に何回かに分けてホップを投入するのですが、それとは異なるタイミングでホップを投入するものです。いくつか紹介してみましょう。

レイトホッピングは、煮沸の終了間際でホップを投入。一般的に、苦味付けのためのホップ(ビタリング)は煮沸の初期、香り付けのためのホップ(アロマ)はその後の段階で投入します。これはホップの香りが熱に弱いので、香り付けの場合はできるだけ熱を加える時間を短くするためです。レイトホッピングは煮沸の最終段階でホップを投入するため、より香りを強く付けることができます。

ドライホッピングは、煮沸ではなく発酵段階もしくは熟成段階でホップを加えること。比較的聞いたことのある言葉だと思います。熱による影響が少ないため、ホップのキャラクターをより麦汁に付けることができます。

そして、キリンビールの「グランドキリン」で採用しているのがディップホップ。発酵中にホップを漬け込むこと、だそうですが、ドライホッピングと何が違うのでしょうか。具体的なホップの漬け込み方はわかりませんが、発酵中に漬け込むのはある意味でギリギリのタイミング。

どういうことかというと、ホップを投入するのが発酵中か発酵終了後かで、日本の酒税法上では別の種類の酒になってしまうのです。

酒税法上、ビールがビールとして完成するのは主発酵が終わった段階。その後にも熟成やパッケージングなどもあり、商品としてはまだ完成とはいえませんが、酒税法上は主発酵が終了してアルコールができてしまったらそこでビールの完成です。

では、発酵終了後にホップを加えたらどうなるのか。酒税法上は、完成したビールに新たな原料を加えるわけですから、それがホップであろうと何であろうと、「ビール」ではなく「麦芽又は麦を原料の一部とした酒類で発泡性を有するもの」になります。

つまり「発泡酒」です。

そういう意味で、「ビール」と表記したい場合にはギリギリのタイミングなんだろうと推察します。今後、日本の酒税法が改正されていく中で、これもまた変わっていくのではないかと思われます。

そんなことを考えながら、飲んでみました。「ダブルホップモンスターIPA」という名前もあり、アメリカンスタイルのダブルIPAを想像してしまいますが、非常にフラワリーでやさしいアロマ。弱いということではなく、しっかりした香りですが、キツさのないアロマです。また、確かに苦味も強いのですが、後味としていつまでも残るということではなく、ホップ疲れしない適度な後味。

『やさしいかいじゅう』という絵本がありますが、そんなイメージでしょうか。ラベルのイラストも、モンスターというよりも愛嬌がある感じですからね。

【BEER DATA】
ダブルホップモンスターIPA
生産地:イギリス
醸造所:グリーンキング
スタイル:IPA
アルコール度数:7.2%

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

富江 弘幸

ビールライター

1975年、東京都生まれ。法政大学社会学部卒業後、出版社でライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経てビールライターとして活動中。ビアジャーナリストアカデミーの講師も勤める。

【著書】
教養としてのビール(サイエンス・アイ新書、SBクリエイティブ)
BEER CALENDAR(ワイン王国)

【執筆・監修】
和樂web(小学館)
Discover Japan(ディスカバー・ジャパン)
東京人(都市出版)
ビール王国(ワイン王国)
ビール大全(楽工社)
るるぶキッチンmagazine 秋冬号(JTBパブリッシング)
あなたのしらない、おいしいビール(cakes)
他多数。

【出演】
金曜たまむすび(TBSラジオ)
ちきゅうラジオ(NHKラジオ第1)
すっぴん!(NHKラジオ第1)
浜美枝のいつかあなたと(文化放送)

Twitter:hiroyukitomie
Website: 地域とビール
Weblog: 地域とビールとブログと

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