[コラム,ビアバー,ブルワー]2017.6.9

【完全復旧】本日6/9(金)”ロックの日”に全面開業! 開拓者魂で復活を遂げた「ROCK」と「八ヶ岳タッチダウンビール」

夏を感じさせる晴朗な空の下、彩り豊かな季節の草花に囲まれたROCK。
まるで、はるか昔から萌木の村を見守っているかのようにそこに静かにたたずむROCKは、1年前の7月も、競い合うように咲く花の色であふれていました。店を訪れる多くの観光客が、手入れのゆき届いたガーデンに目を細め、澄んだ清里の空気を胸いっぱいに吸い込みます。明るい店内はいつも活気と笑顔に満ちあふれ、カレーやビールを楽しむ人々でにぎわっていました。だれもが清里・萌木の村の顔ともいえるROCKの存在を、いつもと変わらぬ日常として過ごしていました。

まさかこの直後、日常が突然なくなってしまうとはつゆほども思わず。

2016年7月29日撮影。この10日後に火災が発生

2016年8月8日未明に発生した火災により、山梨県北杜市清里の観光施設、萌木の村内にある「ブルーパブレストランROCK」は全焼。火災によりレストランはもちろん、地下の醸造施設も被害を受け、「八ヶ岳タッチダウンビール」を醸造する八ヶ岳ブルワリーは操業停止せざるを得ない状況でした。

【復興支援】「八ヶ岳タッチダウンビール」と「ブルーパブレストランROCK」リスタートに向けてのご支援のお願い
※2016年8月15日掲載

この突然の災禍にまず耳を疑い、事実だと知るといてもたってもいられずに駆けつけた8月13日。多くのROCKファンと同じように10年前からたびたび訪れていた筆者は、まだ手付かずの無残な現場を目にして、言葉では言い表せないショックを受けました。真っ黒な煤まみれになった店内は、散乱したカトラリーの上に屋根材が焼け落ち、天井や壁の鉄骨が剥き出し。火事とはこれほどまでに、あらゆるものを乱暴に奪ってしまうものなのかと。

後に残るものは虚無感と無力感。
大事に積み上げられてきたものが、一瞬でなくなってしまう火事の残酷さを目の当たりにして途方に暮れました。みんなのROCKがなくなってしまった……。
記者としてその姿勢が正しいのかはわかりませんが、あまりに生々しくて痛ましい姿に、当時の様子は写真に収めながらも記事で使用することはできませんでした。その姿がずっと残ってしまうことが、なんだか不吉なことのように思えたからです。

2016年8月28日撮影。仮設テントでの営業が始まり、看板は多くの寄せ書きで埋め尽くされていた

しかしながら、ひどく感傷的になってしまった筆者とは正反対に、火災5日後のこの日には再出発に向けての歩みが始まっていました。火災直後から解体前の店舗前には仮設テントとテーブルが設営され、冬は寒さをしのげる観光バスのレストランカーを食事場所に。再建に向けての準備を進める一方で、今あるものを活用して少しでも楽しんでもらおうと、スタッフが一丸となって日常を取り戻そうと精一杯の努力を重ねていることがわかりました。

【初夏再オープン!】火災から半年を迎えた「八ヶ岳タッチダウンビール」と「ブルーパブレストラン ROCK」の今
※2017年2月16日掲載

そして、「2017年のゴールデンウイーク頃に再オープンを目指す」という舩木社長の言葉通り、火災からわずか9カ月という驚異的な復旧スピードで、4月27日にプレオープンを遂げたROCK。完成が間に合ったビールは「ヴァイス」1種類のみでしたが、そこから約1カ月を経て、ようやくピルスナーをはじめとした清里ラガー、デュンケル、ロック ボックのレギュラービールがそろいました。

こうして八ヶ岳タッチダウンビールのフルラインナップを携えて、
2017年6月9日(金)、本日「ロックの日」にグランドオープンを迎えます。

本格的な再出発を控えて、復興までの歩みと生まれ変わったROCK、そして八ヶ岳タッチダウンビールの様子をお伝えすべく、現地に足を運びました。


 

「地ビールレストラン」として再出発

「あの日は夜中の3時頃に(舩木)社長から電話があって、『ROCKが燃えてるぞ!』って。最初は何を言っているのかさっぱりわかりませんでしたが、現場に駆けつけて呆然としました。9時頃に鎮火しましたが、『これはもうダメかもしれない』と思いましたね。煤まみれの大量の水が地下フロアに流れ込み、電気系統も水浸し。ものが落ちてタンクが物理的に損傷するような事態は免れましたが、ビールを冷却するチラー冷却水循環装置)のメーターガラスは溶け落ちていました。いくらタンクの中のビールが無事でも、冷却システムが使えなければ劣化は防げません」

そう語るのは、醸造責任者の松岡ヘッドブルワー。
地下のタンクには、夏の最盛期に備えて大量のビールが眠った状態でした。火災直後で電気関係の復旧の見通しがつかない中、冷却ユニットの停止はビールの廃棄を意味します。

1階部分から流れてきた放流水によって発生した錆

壁には煤交じりの水でできた黒い筋が残る

しかし、一度は諦めかけたチラーは心臓部まで被害を受けておらず、なんとか稼働。1日かけて補修修理を行い、翌日には冷却システムが復旧しました。奇跡的に守られたビールのおかげで、臨時営業の間は在庫でしのぐことができたのです。そして、ブルワリーの復活、新しいROCKの構想について、9月の解体工事が始まったころから話し合いが重ねられてきました。

「新しいROCKは、まず地ビールレストランとしての原点をPRしたい。それがスタッフ共通の思いでした。20年前に日本屈指のビール職人である山田一巳醸造長を迎えて設立された八ヶ岳ブルワリーと、小さな喫茶店時代から愛されてきたROCKの柱がビールであることが伝わるように、『見せるタンクとサーバー』を意識したんです」
(松岡ヘッドブルワー)

こうしてビール造りを身近に感じられるアイテムとして導入されたのが、こちら。

光による劣化を防ぐため、紫外線を含まないLEDの照明を採用している

まるでガラスのオブジェのように目を引くタンクです。
外観こそ以前のROCKと似ていますが、一歩店内に足を踏み入れるとまず目を奪われるのがこのタンク。 コアなビアファンなら既視感のある設備かもしれません。
そう、これはキリンビールが手掛けるクラフトビールブランド、代官山の「SPRING VALLEY BREWERY TOKYO(スプリングバレーブルワリー東京、以下SVB)」に並ぶシースルータンクと同型。昨年、研修を兼ねて同店を訪れた舩木社長やスタッフがこの斬新なタンクに惚れ込み、ROCK再建への思いを直接伝えて交渉を重ねた結果、初めてSVB以外の醸造所に導入されることになりました。

「SVBでは発酵タンクとして使われていますが、ROCKではこれを完成したビールの貯蔵タンクとして使います。お客様にはこのタンクから直接サーバーを通してビールが提供されるシステムです」
(松岡ヘッドブルワー)

つまり、大きなケグとして用いられることになります。
ゲストはガラスを通して、自分が飲むビールを眺めながら味わうことができるのです。さらにサービングユニットも一新。

 


左右に腕を広げたようなパイプラインから、インパクトのある大型のタップハンドルが10本連なっています。ハンドルはすべてデザインが異なるオーダーメイドです。これは萌木の村にあるオルゴール館「ホール・オブ・ホールス」の館長であり、手回しオルガン制作の第一人者である脇田氏が1本ずつ彫った完全オリジナルハンドルだとか。

肝心のビールについては、定番のピルスナー、清里ラガー、デュンケル、ロック ボックの他に、新種のホップ「ザーツスペシャル」を使用した「プレイミアム ピルスナー」を7月上旬にリリース予定。

「通常のザーツより、上品で穏やかに香るのがザーツスペシャルの特徴です。これで仕込んだピルスナーのでき具合を見ながら、8月には20周年を記念したビールも予定しています。レシピの完成図はできているので、あとは経験をもとに工夫していきます」
(松岡ヘッドブルワー)

松岡ブルワー自身がドイツのブルワリーを訪ね、最もおいしいと感じたドルトムンダースタイルのビールを追求して試行錯誤を重ねているそうです。この機会に、数年前から密かに感じていたことを尋ねてみました。

2016年開催のWBA(ワールド・ビア・アワード)の「Speciality Beer」部門で「World Best Rice beer」として1位を受賞した清里ラガー。マイルドな苦みと爽快なのど越しが特徴

長年、定期的に八ヶ岳タッチダウンを飲み続けてきて、あるときを境に緩やかに、しかし確実にピルスナーの味が変化しました。初めて飲んだときの驚くほどクリアで雑味のないジャーマンピルスナーから、より麦の甘みを感じるモルティな味わいへ。当時は自分の体調不良やコンディションを疑い、変化にいまひとつ自信が持てませんでしたが、松岡ブルワーの回答に疑問が氷解しました。

「そのころに使用するモルトを変えました。すっきりとしたタイプから、麦の甘みと香気が立つ品種に。そして、水の影響もあったのかもしれません。実は、7年ほど前から仕込みに使っている八ヶ岳の伏流水の水質が変化しました。原因は不明ですが硬水から軟水に、今は弱アルカリ性の水質であることがわかっています。当時は水質を維持するために乳酸を加える調整も行っていましたが、めぼしい効果もなかったので、ありのままの水を受け入れることにしました。地の水を使うことに『地ビール』の意味があるのだと考え直したんです」
(松岡ヘッドブルワー)

充填前のクリアタンクと八ヶ岳ブルワリーの松岡ヘッドブルワー

地ビールとは、その土地の気候や風土、人が醸すもの。
個人的にはそう考えています。八ヶ岳タッチダウンビールは抗いようのない自然の変化を拒まず、ゆるやかに受け入れて共存する道を選びました。気候や風土にとけあい、なじむこと、つまりローカリティ(地域性)を強みとするのが地ビール文化。松岡ヘッドブルワーの言葉には、清里を代表するビール職人としての責任と矜持が感じられます。


「昨夏の火事では、本当に多くの方に励まされ、応援していただきました。『ビールはROCKの要だから』という舩木社長の言葉を受け、これまで以上のROCKと八ヶ岳タッチダウンビールを造り上げなければならないと思っています。個人的にもビール職人として成長するためには、同じものを造るだけではなくチャレンジを続けていきたい。今は3名の醸造チームで手一杯ですが、将来的には人手を増やしてイベントなどにも積極的に出店して、多くの人に八ヶ岳タッチダウンビールを味わってもらいたい。そう思っています」
(松岡ヘッドブルワー)

 

開拓者魂を象徴する新しいROCKへ

 

20周年の節目に生まれ変わったROCKですが、そのまま残された部分もあります。奇跡的に倒壊を免れたフロアの柱は補強して再利用。全体の空間イメージは大きく変えず、柱や壁、床材には清里の開拓者精神の象徴でもあるROCK(石、レンガ)をふんだんに使い、広々とした空間に負けない重厚感が加わりました。

残された柱を活かしながらも、モダンな雰囲気へ

窓から美しい緑が眺められる団体用個室。火災直前に増築されたが幸い被害を免れた

八ヶ岳をモチーフにした鉄刀木製の円形テーブル。中央の暖炉では、冬場は以前と同じように焼きマシュマロが楽しめる

アンティークなミルク缶をイメージしたステンレス製ピッチャー。ゴムパッキンの蓋があるのでビールの炭酸や香りがキープできる

カウンターには庇を思わせる屋根があり、和のエッセンスも感じられる

洞窟のような雰囲気のトイレは広々として快適。個室授乳室も完備

世界トップクラスのサウンドシステムを導入

インテリアと同時に音響照明設備もリニューアル。
プロのミュージシャンが大規模なライブで使用するという、メイヤーサウンド社の最高級のスピーカーと大型スクリーンを備え、イベント会場としても利用しやすいように整えました。音響設備には特に力を入れたと語るのは、三上ホールマネージャー。

「ROCKのお客様層はさまざま。音楽ライブやパーティ、ハロウィンに記念行事など、多種多様なイベントで利用しやすいように一新しました。大きな投資になりましたが、このタイミングでしかできないリニューアルだと思います。これからも愛されるお店として、どんなニーズにも対応できるようにしたかったんです」
(三上ホールマネージャー)

とはいえ、先の火災で最もショックを受けたのは舩木社長とスタッフ。
そこからどのようにして気持ちを立て直し、再建へと切り替えることができたのでしょうか。

「当初は気持ちの整理がつかないこともありました。さらに自分たちが思う以上の支援が寄せられて、その反響の大きさが逆にプレッシャーになることもありましたが、お店の再生というめったに経験できないような機会を与えられたことで、責任感が一層増したと言いますか。何としてもこの苦境を乗り切って、お店を立て直さなくてはならないと気持ちが奮い立ちました。再建にあたっては何度も話し合いを重ね、ときには舩木社長やスタッフと意見がぶつかることもありましたが、最終的には舩木社長に任せていただき、今できる最高のROCKに仕上がったと思います」
(三上ホールマネージャー)

「試してみたいことがまだまだある」と、新しいROCKについて語る三上ホールマネージャー

レストランの料理は今までと同じように名物のオリジナルビーフカレーを中心に、みずみずしい信州野菜をふんだんに使ったサラダや前菜、麦芽を飼料にした北杜市産の「甲州麦芽ビーフ」のグリルやローストビーフ、煮込みなど、幅広いメニューがそろいます。

料理長でもある輿水店長がイタリア修行で培ったという本格的なナポリピッツァ

プレオープン時のメニュー(グランドオープン時に変更あり)

そして、オーガニックコーヒーや各種オーガニックティー、ジャージー牛乳、フレッシュジュースなどの豊富なソフトドリンクはそのままに、ワインやウイスキー、地元の焼酎や日本酒も拡充。ドリンクメニューには地ビールレストランでありながら、ビールが飲めない人も好きな飲み物を選べるような配慮が見られます。「どんなお客様にも愛されるお店を」という三上マネージャーの言葉が脳裏に浮かびます。

「Do Your Best and It Must Be First Class」

 

「私の場合、復興の原動力の80%はお客様や地元の方たちの支援のおかげ。それがなければ、途中で気持ちが折れていただろうし、こんなに早く立ち上がれなかったと思います。この場所で46年も営んできたROCKは多くの人の思い出が宿る場所。それを次の世代につないでいくためにも、この機会にブラッシュアップをして、あらゆる面で質の高いROCKに生まれ変わることが目標でした」
(輿水店長)

 

ボトルのジャケットもリニューアルして直売を開始(HP販売は準備中)

生涯をかけて清里で社会事業に身を尽くしたポール・ラッシュ博士が、日本の若者に残した有名な言葉があります。

” Do Your Best and It Must Be First Class “
――「最善を尽くし、一流たるべし」

この教えの通り、苦難を乗り越え、復興を成し遂げたレストランROCKと八ヶ岳タッチダウン。全焼から約10カ月で再建できたことに、スタッフの並々ならぬ努力や地元の支援があったことは言うまでもありません。
しかし、数多くのブルワリーやビアパブ、飲食店が全国各地のビールイベントで八ヶ岳タッチダウンの樽をつなぎ、自身のブースやお店でビールを提供しました。この支援の輪によって、守られたビールを飲んでくれたビアファンのサポートも、このスピーディな復旧を後押した要素です。

火災の灰は被ったものの奇跡的に生き残った仕込み釜

あの日、あのイベントで八ヶ岳タッチダウンビールを手にしてくれた方へ。
そして、まだROCKに訪れたことのない皆さんへ。

この夏は、20周年の記念すべき年に不屈の精神で復活したROCKで、是非とも清里のフロンティアスピリッツが宿るビールを味わってみてください。
きっと、思い出に残る場所として心に刻まれるはずです。

右から八ヶ岳タッチダウンピルスナー(L/780円)、デュンケル(S/580円)、ベーコンカレー(レギュラーサイズ/1,510円)※いずれも税込み価格

 

 

■ブルワリー情報
八ヶ岳ブルワリー 醸造部
電話:0551-48-2521
FAX:0551-20-7551
Mail:beer-td@moeginomura.co.jp

 

■店舗情報
ブルーパブレストランROCK
住所:山梨県北杜市高根町清里3545 萌木の村
電話:0551-48-2521
アクセス:JR小海線「清里」駅から徒歩10分、中央道「須玉」ICより国道141号経由、佐久方面へ車で20分
営業時間:10:00~23:00(22:30.L.O)
定休日:なし
席数:250席
駐車場:約230台(無料)
公式HP:http://www.moeginomura.co.jp/ROCK/
公式Facebook:https://www.facebook.com/restaurant.ROCK

八ヶ岳タッチダウン八ヶ岳ブルワリー山梨県清里

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

山口 紗佳

ビアジャーナリスト/ライター

1982年愛知県知多半島出身、大分県大分市在住。中央大学法学部卒業。
名古屋で結婚情報誌制作に携わった後、東京の編集プロダクションで企業広報、教育文化、グルメ、健康美容、アニメなど多媒体の編集制作を経て静岡で10年間フリーライターとして活動。現在は大分拠点に九州のビール事情をお伝えします。

【制作実績】
フリーペーパー『静岡クラフトビアマップ県Ver.』、書籍『世界が憧れる日本酒78』(CCCメディアハウス)、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)、グルメ情報サイト『メシ通』(リクルート)、ブルワリーのウェブサイトやPR制作等

【メディア出演】
静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」
静岡FMラジオ局k-mix「おひるま協同組合」
UTYテレビ山梨「UTYスペシャル ビールは山梨から始まった!?」
静岡新聞「県内地ビール 地図で配信」「こちら女性編集室(こち女)」等

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