[コラム,ブルワー]2018.3.3

「らしさ」で魅了し続けるブルワリー 【ブルワリーレポート Y.MARKET BREWING編】

Y.MARKET BREWINGブルワリーレポート中西正和氏加地真人氏名古屋市

2014年1月に愛知県名古屋市に誕生した「Y.MARKET BREWING(以下、Y.MARKET)」。醸造開始からすぐに彼らのビールは人気を集めた。それは4周年を迎える現在もとどまることはない。なぜ、これほどまでファンの心をつかむのか。ブルワリーを訪れることにした。

タイミングが合った2人の男の挑戦

Y.MARKETの母体は約80年続く酒屋「岡田屋」。代表取締役である山本康弘氏が酒屋として他社との差別化を模索していたときにクラフトビールの味わいやそのシーンに感動を覚えた。今から約10年前より取り扱いをはじめ、「自分のところで造ったお酒の販売をしたい」との思いが芽生えたことがきっかけとなった。

しかし、お酒の販売は長けていても醸造に関しては素人。造り方は当然のことながら、どんな設備が必要なのかもわからない。そこで、長野県にある「木曽路ビール(2018年3月で閉鎖予定)」に視察に赴いた。そのときに出会ったのが、現在ヘッドブルワーを務める加地真人氏だ。

「山本代表が設備について詳細に聞かれて。事情を聞くと『ビール造りを始めたい』と。話をしていくうちに新規立ち上げに関心が湧き、意気投合しました」。当時、新たな世界を見ることを考えていたこともあり、立ち上げを一緒にすることになった。

偶然にも同時期に新しいことに足を踏み出そうとしていたことがY.MARKET誕生となったのだ。

JR名古屋駅桜通口より徒歩約10分。アクセスも良好な地にある。近くには「柳橋中央卸売市場」もあり活気のある場所だ。

ホップの供給不足が飛躍のきっかけに

加地氏は立ち上げに際し、醸造に関しては「一任してほしい」と希望を伝えた。それに対して、山本代表は「わかりました」と返したという。「これは面白いことができるぞと思いましたね」と笑顔で話す。ちなみに現在もこの方針は変わっていない。

当初は定番商品を造るなど方向性は何も決まっていなかった。「ちょうどその頃ホップが効いたビールの人気が高まっていました。どのブルワリーもホップの調達が難しい状況でした。幸運にも私たちは、アメリカのサプライヤーから必要以上の量を購入できる関係を築けました。他は十分に使えず、目指すビールが造れないときに『この状況を活かさない手はない』と、ちょっと突きぬけたものを造ろうと考えました。そうしたら『Y.MARKETがとんでもないもの造ってきたぞ』と言われました」と振り返る。今も「ホッピーなビールを造る」というイメージをもつ人が多いのは、それだけ最初の衝撃が凄かったからだろう。

まだ市場にIPAが少なく、飲食店が欲しい商品であったところに登場したことも人気に火をつけた要因だと加地氏は分析する。結果として売れすぎることで品薄状態となり、購入しにくくなったことが余計に勢いをつけることになった。

今も貯蔵タンクはフル稼働だという。取材時はちょうど洗浄作業中だった。

ゴールを見据えたビール造り

数多くの驚きを与えてきたが、それは物珍しいからではない。「美味しさ」が伴っているからだ。彼らはどんなことを考え、醸造をしているのだろうか。

「美味しいビールは明確に考えてレシピを組み立てないとできません。ゴールを定めて造ります。そのゴールラインを見る努力することにチャレンジをしていきます」という。みんなが知らない情報を集め、理解することに挑戦するが、やみくもに新しいことや珍しいことに挑むのではなく、明確な計画を立てて進めている。

「醸造工程のポイントをしっかり押さえていけば、変なビールにはなりません」といい、それらをさぼることは許せないと語る。確かな醸造技術があるからこそ突きぬけていても「美味しい」と評価されるのだ。

オーバーしたキャパシティと強力戦力の加入

「当初は500Lの設備を導入予定でしたが、満足できる機器ではなく、鳥取の廃業したブルワリーから買い取った1,000Lの設備を入れました」。自分が納得いくビールを造るために導入した機器は計画当初よりも大容量であったが、勢いはそれ以上だった。「1人でしばらくやる予定でしたが、すぐに限界になりました。数か月後に山本代表に「今日からすぐに働ける人がいないと無理です」と相談しました。ここですぐに強力な戦力が加入する。それが「伊勢角屋麦酒」でヘッドブルワーを務めていた中西正和氏だ。

ブルワーだけでなく、醸造設備も新天地へ。以前、この設備を使っていた関係者をご存知の方は相当なマニアだ。

もう1人のブルワーである中西氏は同年3月に「伊勢角屋麦酒」を退社後、山本氏や加地氏と同様に新たな道を探していた。旧知の仲であった2人と話をする機会があり、「色々なことが試していける環境がいいなと。それと工場の上がレストランなので、お客さんの反応が直に感じられることも魅力でした」と、瞬く間に飛ぶ鳥を落とす勢いとなったY.MARKETに合流する決意をした。

「本当にキャパシティを越えていました。それだけ多くの注文をいただくことは嬉しいことです。しかし、レストランや直営店がありますから外販できる量に限りがあります。それでは申し訳ないので、2~3種類の新商品を同時にリリースするなどして対応をしていますが、それでもまだ十分に供給できていない状況です」と中西氏は話す。

「レシピ、仕込みは僕が概ね行い、中西さんにフォーカスした特集時や僕の出張中などにたまに彼が担当するのが基本」と加地氏は語り、中西氏も「その際はY.MARKETのカラーに沿った造りを意識している」という。

ヘッドブルワーの加地真人氏(左)とブルワーの中西正和氏(右)。アーチストな2人が生み出すビールはこれまで多くの人を魅了している。

1つ1つに物語がある

取材時の時点(2018年2月)で145種類のビールを造っている。単純に計算しても年間36種類の新作を醸造していることになる。これだけの数をどのようにして編み出しているのだろうか。「基本的には自分が造りたいテーマです。以前、勤務していたところでは定番ビールを造っていたので、限定ビールを仕込む機会が今よりも少なく、レシピの蓄えがたくさんありました。でもこの勢いで4年も経つと『次、何にしようか』と悩みますね。ネーミングも苦労しています」という。

2階のレストランでは最大10種類のビールが楽しめる。バラエティに富んでいるので、どれから飲もうか悩むところだ。

「レシピはいきなり降ってくるものもあれば、興味があるスタイルだったりします。使う酵母から考えることもあります。すべてのビールにはストーリーがあって、『パープルスカイペールエール』は、カナダに滞在中、夏の強い湿気の空を見上げると暗い紫色が広がっていました。そのときにすごくシトラが効いたゴクゴク飲めるペールエールが造りたいと思ったのがきっかけです」。ここから「スカイエール」シリーズが派生していった。

「前職の色っぽさを感じるビールを造ってみたりもします」と遊び心をもったものもときおり造るという。こうしたところも魅力の1つだ。

Y.MARKETらしさを裏切らないビールを造る

「最初は『なんだ、これ?』『こんなものも造るの?』と驚かれましたが、今はお客さんからワイマーケットらしいと言われるようになりました。これからもその気持ちを裏切らないようにしていきたい」と話し、「ビール造りは楽しいですね。あとは飲み始めから終わりまで1種類のビールだけで完結できるくらい完成度が高いものを造りたいです」と今後の抱負について2人は語る。

「こんな楽しいブランドがあると多くの人に知ってほしいです。『ビールって楽しいな』と思ってもらえるビールを造り続けたいです」と加地氏が言うと、「楽しいビールがそろっていますので飲みにきてください!」と中西氏もいう。

2階にある「Y.MARKET BREWING KITCHEN」では3月11日(日)から18日(日)の期間、「周年ウィーク」として営業する。そこでは記念ビールも登場予定だ。今後もイベントに出店予定とのことだが、現地でしか飲めないビールもあるので、ぜひ名古屋まで足を運んでほしい。近くには名前の由来となった「柳橋中央卸売市場」もある。近くで一泊し、翌朝に市場めしを堪能するのもおススメだ。

「Y.MARKET KITCHEN」の風景。3階は完全予約制のBBQレストラン「柳橋TERRACE」がある。

★SPECIAL THANKS 山口紗佳

◆Y.MARKET BREWING Data

住所:〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅4-17-6

電話・FAX:052-533-5152

Homepage:http://craftbeer.nagoya/

Facebook:https://www.facebook.com/y.market758/

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05007木暮 亮

この記事を書いたひと

木暮 亮

ビアジャーナリスト

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは2000種類以上。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

【メディア出演】
テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」

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