[ビアバー]2019.6.2

ビア女の酒場放浪記(52)広島の「ビールスタンド重富」で温故知新

セカツタ2020ビールスタンド重富広島県重富寛

飲み屋の看板が並ぶ広島市の繁華街、銀山町(かなやまちょう)に、三代にわたってビールの注ぎ方にこだわり、ビール好きをうならせてきた酒販店があります。

営業時間は17時から19時までのわずか2時間。
オツマミはなくひとり2杯までしか注文できないのに、他県からもお客さんが訪れるほどのうまさ、という噂を聞きつけ私も行ってきました。

ビールは1種類、注ぎ方は5種類

そのお店は「ビールスタント重富」
電停の銀山町駅から徒歩5分ほど。原爆ドームまでは徒歩15分ほどの場所にあります。

お店の前に着くと「重富酒店」の看板と空瓶ケースと樽が綺麗に並ぶ倉庫。
実は酒販店「重富酒店」が、時間限定で行っているビールスタンドなのです。

左の扉の奥がビールスタンドになっている

発券機で番号を取って待っていると、扉が開いて「どうぞ」と、スマートな紳士が中に招き入れてくれました。
このお店のオーナーで、“ビール注ぎ名人”と呼ばれる重富寛(しげとみ ゆたか)さんです。

店内は10人も入れば、いっぱいになるほどの狭さ。
雰囲気は昭和レトロ。そして壁には地元愛溢れる広島カープとサンフレッチェ広島のグッズが飾られています。

古い写真やユニフォーム、テーブル代わりの樽が並ぶ店内


ビールは1種類のみ。(この日はアサヒ生ビール)
なぜかピールサーバーは2つ、ビールのメニューは注ぎ方によって5種類あります。
これってどういうこと!? この謎は後程わかります。

☆喉を駆け抜ける爽快さ「一度つぎ」

まずは、1杯目におススメという「一度つぎ」をお願いしまーす。

85年前の設計図を基に起こしたという“昭和のビールサーバー”で勢いよく一回で一気に注ぎきります。
見るだけで心躍る黄金色の液と、肌理の細かな泡!
喉を駆け抜けていく爽快感がたまりません!
喉と食道がカッパーっと開くおいしさ。一口が大きくなります。(コレ本当に!)
最初の一口でグラスの半分が無くなってしまいました。

☆ビールサーバーが生まれたころの味「二度つぎ」

お次は「二度つぎ」
一度つぎと同様、“昭和のビールサーバー”から、思い切り泡立てながら注ぎます。
この泡が液体に戻っていくのは2分ほど待ち、泡が落ち着いたら上からでゆっくりと注ぎます。
これが、ビールサーバーが誕生したばかりの頃に行われていた注ぎ方なのだとか。
一度注ぎに比べて炭酸が弱く、麦芽の甘みとコクがプラスされています。
これも喉が喜ぶ爽快感。

☆麦芽の甘さが際立つ「三度つぎ」

さて、喉の渇きが癒えたところで「三度つぎ」を注文。
先ほどの工程を3度に分けて行うため、1杯つくるのに4分程度かかります。
泡はミルクシェークのようにクリーミーかつ苦みが凝縮。
炭酸はさらに弱くなり、ビールの中の深みのある甘みが際立っています。
心が落ち着く優しい味わいです。

☆まろやかにスーッと喉を滑り落ちる「マイルド注ぎ」

「マイルド注ぎ」は、3度注ぎの苦みのある泡を、なめらかな泡ですべてこぼします。
苦みや炭酸は弱く、滑らかな口当たり。さらに麦芽のニュアンスが強く感じられます。
もう「一度つぎ」とは別物のおいしさです。
同じビールとは思えないくらい!

☆現代と昭和のサーバーのいいとこどり「シャープ注ぎ」

最後は「シャープ注ぎ」を。
ここでもう一つの注ぎ口が登場します。
日本の居酒屋でも多く使われているタイプの注ぎ口で“現在のサーバー”です。
コックを押すとビールが静かにゆっくりと出てくるので“昭和のサーバー”のようにグラスの中で泡が立ちません。
泡が立たないということは、炭酸や苦み成分がそのまま残っているということ。
ここに、“昭和のサーバー”の滑らかな泡をそーっと浮かべて完成です。

“昭和のビールサーバー”の柔らかくて優しい泡の心地よさと、“現在ビールサーバー”のキレのあるのど越しと苦みがマッチしています。
“昭和”と“現代”のサーバーが同時に存在しないと造れない、時代を超えた至極の一杯です。

「お風呂上り牛乳を飲む姿勢で飲むとより爽快感が増します」と重富さん。 お作法に乗っ取り、いただきまーす!

ビールを注ぎながらもお客さんひとりひとりに、色々と説明をしている重富さん。
サーバーの仕組みから注ぎ方まで惜しみもなく教えてくださいます。
軽快な語り口で、それを聞くのがまた面白いこと!

どれも美味しそうでどれを注文するか迷ってしまわれることでしょう。
でもひとり2杯までしか注文できませんから、県外からお越しならお友達とシェアするのがおススメですよ。
ひとりで何度も通うのもいいなぁ。

こんなにも違う昭和のビールサーバー

昭和と現在のビールサーバーが並ぶビアスタンド重富。
ふたつのビールサーバーの違いって何でしょう?

“昭和のビールサーバー”は、日本のビール注ぎの原点となる『生ビール讀本』(大日本麦酒株式会社・昭和8年頃刊行)をもとに、重富さんが当時の設備を再現したものです。

エビス麦酒記念館にも展示『生ビール讀本』。当時のビールサーバーの仕組みや取り扱いについて絵付きで解説


電気のない時代に使われていた木製の旧式冷蔵庫を改造し、試行錯誤を繰り返して再現したビールサーバーを天板に取り付けています。

“現在のビールサーバー”では、樽とこの注ぎ口を繋ぐビールホースは内径5ミリ。
ビールの流量が一定で扱いやすいのが特徴です。

対して“昭和のビールサーバー”のビールホースは内径9ミリ。
ビールの流量は約4倍にもなります。
そのためホースを30メートルの長さにしてサーバーの下で巻いています。
この30メートルでブレーキをかけてビールが出てくるスピードを落としています。

左が現在のビールサーバー、右が昭和のビールサーバー

また、“昭和”の注ぎ口は、水道の蛇口のようなスイングカランになっています。
横に捻れば捻るほどビールの流量が大きくなります。
わずかな差で、泡だけが出たりビールが勢いよく出たり。
扱いは大変難しいのですが、“現在のビールサーバー”ができるまでは、どのお店でもこのようなサーバーが使われていました。

どこに行ってもおいしいビールが飲めるように

“現在のビールサーバー”でビール注ぎが簡単になった反面、勉強不足な店がマズイビールをお客さんに提供できるようになってしまいました。
“現在の私たち”はそんなビールを飲んできたのかもしれません。

ビールはただ注げばいいというものではありません、
管理、メンテナンス、洗浄ができて初めておいしいビールが飲めます。

「この店だけが流行ればいいとは思いません。ビールの正しい管理方法を広く伝導するのが私の役割だと考えています。おいしくビールを注げる飲食店が日本全国に増えて、どこに行ってもビールがおいしいというのが理想。ここで1,2杯飲んでから次のお店にも行って欲しい」と重富さん。

ビアスタンド重富で2杯までしか飲めない理由は、ここにありました。

重富さんは、ホームページ上で樽のガス圧や適性温度、洗浄方法まで詳しく公開されています。
また、「生ビール大学」を随時開校するなどして、本当においしいビールを日本中に広める活動をされています。

嫌なことがあった仕事の後でも、こんなおいしいビールが飲めれば「また明日から頑張ろう」という気になれそうです。
みんながビールを飲んで上機嫌でいられたら、日本は元気になるかもしれませんね!

私も楽しい気分いっぱいで、次のお店へと向かいました。

【ビールスタンド重富】
住所:広島市中区銀山町10-12(ブルーウェーブインホテル広島南側)
営業時間:17時~19時(休日は延長することもあり)
WEB:http://sake.jp/

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この記事を書いたひと

コウゴ アヤコ

ビアジャーナリスト

1978年東京生まれ。杏林大学保健学部卒業。看護師を経て、旅するビアジャーナリストに転身。旅とビールを組み合わせた「旅ール(タビール)」をライフワークに世界各国の醸造所や酒場を旅する。ドイツビールに惚れこみ1年半ドイツで生活したことも。海外生活情報誌「ドイツニュースダイジェスト」や、雑誌「ビール王国」(ワイン王国)、雑誌「an・an」(マガジンハウス)、「クラフトビールの図鑑」(マイナビ)などさまざまなメディアで活躍中。

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