[コラム,ビアバー,ブルワー]2019.10.26

インドといえばIPA? – ムンバイで話題のブルワリー「Gateway Brewing」を訪ねて

IPAの「I」はインドの「I」である。

IPAはインドが英国に統治された時代に生まれたといわれている。筆者が初めてインドのクラフトビールを飲んだのは2017年のインド訪問時である(前回インド訪問時の記事)。当時、インドでクラフトビールが飲めること自体が新鮮であった。また、現地の若い人たちがこぞってブルワリーパブに集っている光景に、クラフトビールが世界中で広がっているのを実感した。

2019年に何度かムンバイを再訪した際、比較的新しいレストランのタップに現地のクラフトビールが繋がっていた。その中で印象的だったGateway Brewingのタップルームを訪ねてみた。店舗を構えるのは、バンドラ・クラ・コンプレックス(Bandra Kurla Complex、略称BKC)で、旧市街の少し北側に位置する新しく開発された地区にあり、Google社を始め国際金融機関の多くがオフィスを構える複合商業施設である。Gateway Brewingの創業メンバーであるナビン・ミッタル氏(以下、ナビンさん)にタップルームで話を伺った。

Founder of Gateway Brewing

日本から持参したよなよなエールを試飲するナビン・ミッタル氏

米国で体験したクラフトビールがずっと忘れられなかった

筆者:クラフトビールとの出会いについて教えてください
ナビンさん:2000年に米国西海岸で初めてクラフトビールを体験しました。その後インドに戻ってからもその味が忘れられず、海外から帰国する友人にはいつもクラフトビールを買ってきてもらっていました。それからしばらくたった2006年頃のある日、自宅でビールを飲みながらふと「ビールって何なのか?」、「どこからきたのか?」、「何を使ってどのように作られているのか?」と気になりました。自分で色々調べたところ、ジョン・パルマ氏の著書「How to brew」という本に出会いました。その後もビールについて勉強しながらクラフトビールを作りたいと思っていましたが、当時のインドにはクラフトビールは存在せず、認知度も低い状況でした。

Gateway brewing

タップルーム内の壁に描かれたZenのキャラクター

消費者にもっとビールの選択肢を与えるべき、そのマーケットが必ず広がると確信した

筆者: Gateway Brewingを創業したきっかけをお聞かせください。
ナビンさん:2009年頃、ムンバイが属するマハーラーシュトラ州に最初のクラフトブルワリー「Doolally」が誕生し、その後立て続けにブルワリーが生まれました。私は、その様子をみて一般の消費者にクラフトビールを通じて、もっとビールの選択肢を与えるべきで、そのマーケットが必ず広がると確信しました。2011年に英国の醸造学校で本格的にビール醸造を学びました。その後、ムンバイでブルワリーを立ち上げるビジネスプランを作り、ビジネスパートナーを募りました。しかし、ビール醸造とその販売を行うための州の法律は厳しく、なかなか思い通りに進めることができませんでした。2014年1月、粘り強く交渉した結果、やっと正式に醸造と販売許可を得ることができました。醸造場所や設備の準備を整え、早速バイツェン、カスケードホップを使ったIPA、そしてブロンドエールの3種類を作り始めました。しばらくの間は、醸造に専念し州内のバーやレストランへの提供を行なっていましたが(※)、2017年8月に、自前のブルワリーパブをオープンしました。
※現在までにムンバイ・プネの約100件のバーやレストランにビールを提供している

Gateway Brewing Taproom

タップルームのカウンターのようす

インドでは州ごとに法律が異なり、ムンバイで醸造したビールは、ボトル化・州外そして海外で販売できない

筆者: ビール醸造と販売する許可を得ることが難しかったとのことですが、具体的にどのような制限があったのか教えてもらえますか?
ナビンさん:インドでは州ごとにお酒の醸造に関する法律があり、マハーラーシュトラ州ではブルワリーパブ等でのビール醸造は、20万リットル/年までしか醸造できませんでした。しかし、私たちは、州とさらに交渉を行い、50万リットル/年まで醸造を増やす許可を得ました。現在も様々な法規制があり、醸造したビールのボトルでの販売が禁止されていたり、マハーラーシュトラ州以外での販売や海外への輸出も禁止されています。しかし、他の州、例えばリゾート地のゴアでは、州の法規制が緩くボトルでの販売も、州外・海外での販売も可能です。現在、私たちは継続的に州政府と交渉を続けて規制緩和されるよう働きかけていますが、同時にゴアでの醸造も計画しています。

Gateway Brewingのテイスティングセット

Gateway Brewingのテイスティングセット

ビールを通じて様々な人々との架け橋「Gateway」になりたい

筆者: インドのクラフトビールシーンについて教えてもらえますか?
ナビンさん: 現在、インドではクラフトビールの普及が急速に広がっています。2014年に開始したころは、インドには25程度しかなかったマイクロブルワリーも、現在150以上に増えています。また、大手ビールメーカーとマイクロブルワリーの中間に位置づけられ、Bira 91を生み出したB9ビバレッジ社がピルスナー以外のビールを大量ボトル生産したこともクラフトビールの普及を手伝っていると思います。これまでバドワイザーやキングフィッシャーしかなかったビール銘柄に、クラフトビールが加わることで、消費者もビールに様々な味と違いがあることを理解しはじめています。現在、インドのビール市場全体でクラフトビールが占める割合は、1%程度です。

筆者: 社名はムンバイの象徴、インド門 (Gateway of India)が由来ですか?
ナビンさん: その通りです(笑)。ムンバイでビール造りを始め、何か地元に関連する名前にしたかったのと、自分自身がいろんなビールを通じて、様々な人々との架け橋(ゲートウェイ)になりたいと思いました。

定番のベルジャンウィットの「White Zen」

定番のベルジャンウィットの「White Zen」

スパイス、フルーツ、モルト、ダージリンティーに至る地元素材へのこだわり

筆者: 地元の原料をビールに取り入れたりしていますか?
ナビンさん: ベルジャンウィットには、コリアンダーとオレンジピールに加えて、地元産のタマリンドを加えることで酸味を引き立てています。モルトは全般的にインド産のものを使用しています。また、地元のカフェ「The Bombay Canteen」とのコラボレーションで、ダージリンティーを使ったビールや、南インド産のコーヒー豆を使ったスタウトなども作ったことがあります。インドといえば、スパイスを想像すると思いますが、南インドのサフランやチャイでおなじみのスパイス「カルダモン」を使ったビールなど様々な試みをしています。

インドのスパイス

インドのスパイス「カルダモン」

 


今回は、ナビンさんに貴重な話を伺うことができた。法律の規制によって思うように進められないなかビールづくりへの強い思いが、規制緩和につながってきたのだと思う。いつかは、州外や海外でGateway Brewingのビールが飲めるようになってほしい。またムンバイを再訪する際には立ち寄りたいと思う。

<ブルワリー & 店舗情報>

Gateway Brewingのタップルーム

Gateway Brewingのタップルーム

Taproom (Gateway Taproom, BKC)
住所:Ground Godrej Unit No. 3, G Block Road, Bandra Kurla Complex, East, Mumbai, Maharashtra 400051, インド
電話:☎ +91 81045 90734
営業時間:
毎日営業 12 pm – 1:30am
公式ホームページ

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

モリイクオ (ikuo mori)

ビアジャーナリスト / Beer journalist

大阪出身。東京在住。ビアジャーナリスト&ビアテイスター。
学生時代に滞在した北米やヨーロッパで初めてピルスナー以外のビールと出会う。まだ見ぬビールの世界があると思うとワクワクする。主に旅先で出会ったビール、ビールにまつわる話を紹介している。

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