[イベント]2019.10.29

多様な空間作りの面白さ~居場所の数だけ楽しみ方は広がる~「つくばクラフトビアフェスト2019」 参加レポート

去る2019年10月4日(金)~6日(日)「つくばクラフトビアフェスト2019」がつくば駅前のつくばセンター広場で開催された。8回目となる今年は、国内外のブルワリーが25店舗、フードはつくば界隈を中心に16店舗出店と、いずれも過去最大規模の出店店舗数となった。会期中は10月ながら30度近い暑さを記録したこともあり、ビールを求めるお客さんで大変賑わい、好評のうちに幕を閉じた。今回はこのイベントの空間作りの面白さを中心に参加レポートをお届けしたいと思う。

プリツカー賞受賞の建築家が設計した広場

本イベントの会場となった「つくばセンター広場」を設計した世界的な建築家をご存じだろうか。リチウムイオン電池の開発で吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞したニュースは記憶に新しいが、建築界のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」についても、日本人建築家が今年3月に受賞している。オリンピックに向けた新国立競技場のコンペの参加条件の1つでもあるこの賞を受賞したのは磯崎新氏。実は会場であるつくばセンター広場を含む、「つくばセンタービル」は、この磯崎新氏の代表作のひとつである。

この「つくばセンター広場」は、つくば駅を出てすぐの場所にあり、付近のショッピングモールや筑波大学などをつなぐペデストリアンデッキ (歩行者専用道路)と接続していて、アクセスがよい立地となっている。この空間を5つのエリアに区分けし、賑わいや盛り上がりを見せる場所、仲間と落ち着いて飲める場所、ライブなどの音楽を楽しめる場所など、お客さんの楽しみたいスタイルに合わせた多様な空間作りがされていた。

人が行き交うペデストリアンデッキからつくばセンター広場を見下ろす眺め。上から会場内部やメインステージ(右奥の赤マットエリア)の様子を眺めることができる。

会場図左下部の楕円形の場所が広場。その広場を囲むペデストリアンデッキや階段部もエリアの一部であり、人の流れや高低差を考慮してエリアを配置したとのことだ。

子どもたちも楽しめる「つくばクラフトビアフェスト」

人の往来が多いペデストリアンデッキ (歩行者専用道路)には、ミートエリアとカフェ&スイーツエリアを配置している。ミートエリアは、肉料理の出店とクラフトビールに慣れていない人でも選びやすいラガー系ビールが得意なブルワリーが並び、カフェ&スイーツエリアは、女性の興味を引くようなブルーやグリーンのビールを出すブルワリーやショコラなどのスイーツを楽しめる出店が並んでいた。偶然通りかかって立ち寄るお客さんにも気軽にビアフェスを楽しんでもらいたいという考えからのレイアウトとのことである。さらに、駅から会場への経路を考え、最初に目にするブースの周囲にはテーブルやベンチを集中的に配置することで、人が集まるようにしている。これはイベントの活気を演出し、来訪したお客さんに「つくばクラフトビアフェストに来た!」という気分を盛り上げることを狙ったとのことだ。

カフェ&スイーツ エリアにはハンモックが設置されていて、こどもたちの遊ぶ声でにぎわっていた。

ハンモックに揺られてクラフトビールを飲む贅沢。ぜひ一度体験してもらいたい。

世のビールファンの中でも、小さなお子さんを持つお父さん・お母さんには、ビアフェストへの参加に躊躇されている方もいるかもしれない。大人はビールを楽しめても、こどもが楽しめるコンテンツがなければ、家に帰りたいとダダを捏ね始め、もっと他のビールを飲みたいと思いつつも渋々帰路につく、なんてシナリオは想像に難くない。そんな悩みを持つお父さん・お母さんの強い味方になってくれるのが、このつくばクラフトビアフェスト。ジャグリングやヒーローショーなど、こどもが楽しめるコンテンツが豊富に用意され、子どもたちが楽しんでいる姿を見守りながら大人はゆっくりビールを楽しんでいるという光景が多く見られた。そのような工夫もあり、ペデストリアンデッキ周辺のエリアは、常に人で賑わっていた。人が人を呼び、イベントを知らずにたまたま通りがかった、楽しそうだからちょっと一杯飲んでみようというお客さんも多かったのではないだろうか。

筑波大学のジャグリングサークルなどの協力により、子供向けのコンテンツが豊富にそろう。

ヒーローアクション同好会の「研究学園戦士ツクバダイン」もイベントを盛り上げた。

2種類の容器とオリジナルビール

ビアフェスではプラスチック製の使い捨てカップが利用されることが多いが、その度にゴミが大量に出てしまう。これは収集、処分するのも大変であるし、環境にもいいことではない。そこで、以前からつくばクラフトビアフェストではガラス製のオリジナルグラスを販売することで、ゴミの量を削減するとともに、お客さんには記念品として持ち帰ってもらうという工夫を行っていた。さらに今回は、パナソニックとアサヒビールが共同開発した、新開発樹脂を活用したリユース可能なオリジナルカップを採用。この樹脂は、間伐材などのチップをナノ~マイクロレベルに微細化する処理を施した「セルロースファイバー」を主原料とする。説明員に話を伺うと「カップを試作してビールを注いでみると、きめ細かいビールの泡が生成されるという効果が発見されたんです。これには開発者も驚きました。微細なセルロース繊維の凹凸がきめ細かな泡を作るのではないかと考えています」と話す。

このカップにイベント限定のオリジナルビール「Green Night Neon」を注いで300円。手ごろな価格設定もあり、多くの来場者がこのカップを使って様々なビールを楽しんでいた。

森のタンブラーの外観は木の風合いが特徴的。手に持った時の木目の感触が再現されている。

昨年同様、記念グラスも用意。オリジナルビール付きで販売されていた。

夜祭の雰囲気を醸し出す宵の時間

ロゴ入りオリジナル提灯

夕方以降のつくばクラフトビアフェストは、昼の顔とはまた違った雰囲気を見せるのも印象深い。ペデストリアンデッキからつくばセンター広場へ降りるルートは、ゆるやかな階段と広い通路で接続されている。その通路に沿って立ち並ぶのが横丁エリアだ。夜になると横丁エリアの提灯に明かりが灯り、階段部に座って、買ってきたビールやフードを楽しむお客さん、出店の行列、往来者などで人がごったがえす。まさに屋台が立ち並ぶ夜祭を歩いている気分を味わえる。

高低差のある開けた空間で見通しがよく、動線もきちんと整理されているためか、
人で賑わっていても、人ごみのストレスは感じにくかった。

横丁エリアを抜けた広場の中心部はメインステージである。このステージではバンドの演奏や学生アイドルのライブなどで、大きな盛り上がりを見せた。また、メインステージ向かいのチルアウトエリアにはDJブースがあり、ライブの合間にはまったりとした音楽がかかりスローな時間が流れる。そのDJブースの前はあえてイスやテーブルを置かないことで、人がまばらな「疎」の空間を作り出していた。

夜のメインステージ周辺の盛り上がりはまさに学祭の雰囲気

学生アイドルのライブではファンが集い熱気は最高潮に

ネオンサインを彷彿とさせる装飾のDJブース

テーブルなどを置かないことで生まれる「疎」の空間も面白い

オリジナルビール「GreenNightNeon」のポスターもチルアウトの雰囲気を漂わす

居場所の数だけ楽しみ方は広がる

つくばクラフトビアフェストは多様な居場所を創出している点が特に秀逸であると感じた。デッキから広場を見下ろしてライブを眺めながらゆっくりビールを飲む楽しみ方、レジャーシートや簡易的なイスなどを持参して、ピクニックやキャンプのような気分でビールを飲む楽しみ方、様々なエリアを散歩するように渡り歩きながら飲む楽しみ方。どんなお客さんにとってもビール、フード、音楽を楽しめる居場所がある。

飲めるビールはおよそ100種類、地元のお店を中心に出店している40種類のフードもハイレベルであった。

これだけのアイデアが詰め込まれているにも関わらず、まだまだやりきれていないアイデアがあるとのこと。次回の開催時は、きっと更に進化した姿を見せてくれるに違いない。地元の方はもちろん、多くの遠方の方にもこのつくばクラフトビアフェストの空間づくりを味わってみてほしいと思う。

◆つくばクラフトビアフェスト 2019

日時:10 月 4 日 (金)~10 月 6 日 (日)

場所:つくばセンター広場 (〒305-0031 茨城県つくば市吾妻1丁目10−1)

主催:つくばクラフトビアフェスト実行委員会

共催:つくば市(つくばぺデカフェプロジェクト)

後援:つくばセンター地区活性化協議会

公式サイト:https://www.tsukuba-craftbeerfest.com/

運営スタッフへインタビューを行った前回の記事はこちら

つくばクラフトビアフェスト2019つくば市森のタンブラー

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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