[コラム]2020.2.29

消極的だったTap Marchéの参入。「いわて蔵ビール」佐藤航氏が新たな道を決意したわけ

Tap Marchéいわて蔵ビールみちのくレッドエールキリンビール株式会社

「Tap Marché」。「キリンビール株式会社(以下、キリンビール)」が開発した1台で4種類のビールの提供が可能な小型ディスペンサーだ(※1)。2017年4月の首都圏1都3県での展開をスタートさせ、2018年には全国展開を開始。2019年末の時点では約13,000店に展開しており、ラインナップは2020年2月10日時点で合計14ブルワリー28銘柄まで拡大している。

※1 1台で2種類のビールが提供できるタイプもある。

2019年12月13日(金)には東北で初となる「いわて蔵ビール」の参入が発表となり、2020年1月14日(火)より「みちのくレッドエール」の取り扱いがスタートした。

着実に取り扱いを増やしている「Tap Marché」。参入したブルワリーは、どんな思いで取り組んでいるのだろうか? 「いわて蔵ビール」ブランドを販売している「世嬉の一酒造株式会社」の佐藤航代表取締役社長にお話を伺うことにした。

未知の世界。自分たちにできるか不安な気持ちしかなかった

「最初は自信がなく、お断りするつもりでした」

最初に話があったのは2018年10月。キリンビール仙台工場で行われたIBUKIブルワーズミーティングでキリンビールは、いわて蔵ビールに対してビールの未来について話をするなかで、「ブランド・品質ともに素晴らしく、弊社のワクワクするビールの未来の創造にも共感いただいている」と、話は「Tap Marché」参加にも及んだ。

その後、正式に話がきたが、「わからないことに挑戦する自信がなかったこと。東北にはもっと大きなブルワリーもあり、私たちでいいのかと疑問だったこと。工場を増設したとはいえ、少ないスタッフで『Tap Marché』に参入することで醸造が間に合わなくなり、追われるように日々を過ごすことになるのではないかと様々な不安がありました」と、自社の状況への不安から積極的な姿勢になることができなかった。

新しい価値を生み出す可能性に光を感じて参入を決意

参加には消極的だったが情報を集めるため、同業者に印象を聞いたり、経営指導を受けている方々にアドバイスを求めたりしたほか、自身の目で空港や居酒屋、カフェなど、すでに導入しているお店を視察した。

経営指導者たちからは「製造が安定しているので、無理して参入をする必要があるのか」と反対意見もあった。

しかし、最終的に参加を決断したのは、「日常的にクラフトビールを飲まないだろうお客様や、提供してこなかっただろうお店の方々にとって『新しい価値を生んでいるのでは?』と目に映ったから」だという。

「これから先、大量生産や営業スタッフが充実している地方のブルワリーは、どんどん出荷ができると思います。しかし、私たちは醸造量の上限もありますし、営業スタッフもいません。高騰する配送料、新規に誕生してくるビール会社に埋もれてしまう可能性など、様々な課題があります。参入することで、東北のブルワリー『いわて蔵ビール』を認知してもらえる機会になること。『Tap Marché』に見合った製品を出せる努力をし続けること。大量生産ではなく、今ある商品をどこに出荷すると思ったら、ここにも加えようと思いました」

ビアパブをはじめとするビール専門店以外で提供されることで、今まで自分たちを知らなかった人たちに「いわて蔵ビール」の味を体験してもらえる機会を生み出せると感じたことが参入の決め手となった。

スタッフの意識改革にもなり社内のレベルアップになった

参入を決めてから約1年の時間をかけて「Tap Marché」の対応に務めた。

「私たちはまだまだ整っていなかった醸造所です。キリンビールさんの品質管理の方々から、HACCP(※2)対応の工場管理の仕方を指導していただきました。工場長の後藤(孝則)さんを筆頭としたスタッフの考え方がすごく変わりました。意識の変化が得られるまで期間が大変でしたが、振り返ると良い時間になりました。今では工場の制服もでき、仕事に対する姿勢も変わったと思います」

※2 Hazard Analysis and Critical Control Pointの略。食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程のなかで、それらの危害要因を除去または低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法。この手法は 国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格 (コーデックス) 委員会から発表され,各国にその採用を推奨している国際的に認められたもの。(厚生労働省HPより)

工場管理基準を高め、品質を一定レベルに保つことができるよう設備だけではなく、スタッフ教育にも注力した。日頃から品質を向上させるため、スタッフの教育には力を入れている佐藤氏だが、「Tap Marché」へ参加するために要した時間は「自分が指導するよりも安定的に美味しいビールをつくる意識が高くなり効果的だった」と語る。

自分たちを表現するビール「みちのくレッドエール」

参入に選んだのが、International Beer Cupで銀賞を受賞したこともある「みちのくレッドエール」だ。「ジャパニーズスパイスエール山椒」「オイスタースタウト」と同社を代表するラインナップのなかからこのビールを選んだ理由を次のように話す。

「私が好きなビールだったこと。いわて蔵ビールの創業以来ずっと醸造していること。そして、『FRESH HOP FEST』で遠野産ホップ『IBUKI』を毎年改良しながら醸造してきていることです。クラフトビールを知らない方々にお伝えしたいビールの1つでした。それと料理とのマリアージュの汎用性が広いことも理由でした」

料理とのペアリングも意識する「Tap Marché」。いろいろな料理に合わせやすいことは、選ばれやすくなり、結果的に認知度を高めるきっかけとなるかもしれない。

参入でどんな未来が待っているのか。不安のなかにある期待感

未知の領域に不安を抱えながらも挑戦を選んだ佐藤氏。悩みながらも新たな道に期待も寄せる。

「クラフトビールを知らない方にも飲んでいただけることは、業界を広げることにもつながります。『いわて蔵ビール』を知らない人ともつながれる可能性は楽しみです」

まだ世間的に飲用機会が少ないクラフトビール。購入や提供される場も限られている。佐藤氏は「Tap Marché」によってクラフトビールに触れてもらい、そのなかで「いわて蔵ビール」のことも知ってもらいたいと考えている。さらには地元「岩手」にも関心をもってもらい訪れてほしいと願っている。

提供を開始してからまだ日が浅いが、「お客様からの評判も良く、大変好評を頂いている」と「Tap Marché」担当者は話す。

ビール専門店以外でもいろいろなブルワリーのビールが味わえるのが「Tap Marché」の魅力。しかし、その最大の役割は、多様性を伝える、楽しむだけではなく、日本の様々な地域にあるブルワリーを通じて、その土地に関心をもってもらうことなのかもしれない。

佐藤氏の決断が将来どのように岩手に還元されていくのか。動きを見つめていきたい。

いわて蔵ビール工場長の後藤孝則さん(左)と代表取締役社長の佐藤航さん(右)

◆Tap Marchéについてはこちら

https://www.tapmarche.jp/

◆Tap Marchéでクラフトビールが楽しめるお店の検索はこちらから

◆世喜の一酒造株式会社 いわて蔵ビール Data

住所:〒021-0885 岩手県一関市田村町5-41

電話:0191-21-1144

E-mail:staff@sekinoishi.co.jp

Homepage:http://sekinoichi.co.jp/beer/

Facebook:https://www.facebook.com/IWATBEER/?fref=ts

Twitter:https://twitter.com/SEKINOICHI

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05007木暮 亮

この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビアジャーナリスト/ビールイベントプランナー

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは2000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

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