[コラム,ブルワー]2020.4.15

【ビールのある風景in岩手⑥】銀河高原ビールに感謝を込めて西和賀町へ…

岩手県の中西部に西和賀町という町があります。人口は5,000人余り。三方を標高1000m級の奥羽山脈に囲まれている特別豪雪地帯です。私事ですが、岩手での生活でスタッドレスタイヤが初めて役にたったのが、昨年12月にこの西和賀町に足を踏み入れたときでした。
西和賀町には、この雪が地下に浸透してろ過され、地中のミネラル分が加わった天然水が豊富にあります。
ここで1996年に当時の沢内村の村おこし事業として生まれたのが、銀河高原ビールです。紆余曲折があり、2017年にはクラフトビール製造メーカー最大手の株式会社ヤッホーブルーイングの完全子会社となりました。

昨年(2019年)9月、創業当初からのロングセラー商品「ヴァイツェン」の販売を終了すると発表がありました。製造過程で熱処理をしていない製品だったためチルド配送のコストがかさんだことが原因とされていました。発表の直後は、県内ではまだ在庫が売られていたため、慌てて購入し、まろやかで正統派とも言えるヴァイツェンを最後に改めて味わうことが出来ました。

そして、12月には、翌年(2020年)3月に沢内醸造所における生産を終了し、グループ会社へ生産を委託することが発表され、岩手県のビールではなくなることになりました。さらに、2020年1月の発表は、数々あった製品の中で残るのは「銀河高原ビール小麦のビール(缶)」のみで、その他の製品については、2020年3月31日の出荷をもって販売終了となるという内容でした。
岩手のクラフトビール製造メーカーの中で最古参だった銀河高原ビールは、こうして岩手から姿を消すことになりました。

銀河高原ビールの主なラインアップ(沢内醸造所での生産時)
[定番] ・小麦のビール ・ペールエール ・ヴァイツェン(2019年末まで)
[季節限定] ・白ビール ・そよ風のケルシュ ・デュンケルヴァイツェン
・ヴァイツェンボック

[地域限定] ・椀子麦酒 ・ユキノチカラ白ビール

種類は限られていたものの、東京に住んでいた頃から、スーパーでも見かけることがあった銀河高原ビール。東京でも「岩手のビールが好き」と言うと、「銀河高原ビール?」と聞かれることがかなりありました。
岩手で生活するようになってからは、近くのスーパー、コンビニ、駅の売店やおみやげ物屋さんではもちろん、ホテルの自動販売機にも入っていたことがあり、さらに日常でいつも目にするビールになっていました。それがなくなることなど考えもしていませんでした。

沢内醸造所における生産終了を知ってからは、意識して見つけると銀河高原ビールを買っていました。その結果、幸い、ラインアップのほぼすべてをもう一度味わうことが出来ました。
そして、やはりこのビールが生まれた場所を最後に見ておきたくて、製造中止も近い3月下旬に、西和賀町の沢内醸造所がある場所を訪ねてきました。
沢内醸造所までは、県庁所在地の盛岡市から40キロ。車はずっと自然豊かな山間を走りました。今から20年以上も前によくここでビール造りを始めたなあ…と感じるぐらい、市街地からは遠く離れています。

沢内街道からの曲がり角


3年前までは同じ敷地内のホテルも営業していて、その場でビールを味わえたとか…


一番奥に工場の出入り口がありました。

帰りはさらに南下して同じ西和賀町の湯田方面へ出て道の駅「錦秋湖」へ。

「3月いっぱいで西和賀町での生産が終了」との表示が寂しい…


これだけまだあったので、もちろん何本か購入

寂しいけれど、こんな美味しいビールが岩手で生まれ、長い間味わえたことはとてもありがたく思っています。
西和賀町でビールを造ることを決めた方、造ってきた方、売ってきた方…銀河高原ビールに関係してきた皆さまに、本当に感謝します。ありがとうございました!

そして4月…
販売者が株式会社ヤッホーブルーイングとなった新しい銀河高原ビールの販売も始まっていますが、場所によっては、まだ沢内醸造所で造られたビールが売られているかも…こんな新旧飲み比べの家飲みも楽しいかもしれません。(ただしこのご時世なので、わざわざ探しに行くことは避けてください!)
新しいものは「本製品は株式会社銀河高原ビールが開発し…」の表示となり、アルコール度数も、5%→5.5%に変わっています。味わいも若干違います。

また、すでに、沖縄のヘリオス醸造所が沢内醸造所を今月取得しています。西和賀町の豊かな天然水を利用して、今後どんな新しいビールが生まれるのかも楽しみにしたいと思います。

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

きただ ともこ

ビアジャーナリスト

ビールと旅と野球観戦が大好きです。
主に、ビールがどんな土地で造られてどんな感じで飲まれているかに関心があり、気になるビールが出来るとその地元を訪ねたくなります。日本全国たまには海外にも足を運び、特に国内は岩手、海外は韓国のクラフトビールに注目してきました。
ビール好きがきっかけで岩手にどっぷりはまり、2019年4月から岩手沿岸の仮設住宅に住みながらの仕事を経験。現在も岩手に拠点を置き、得た情報を実際にこの目で確かめながら、岩手中心に東北地方のビール事情を発信してきました。最近は、日本語での情報が少ない韓国のビールについても、現地に足を運んで手に入れた情報をもとに記事にしています。

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