[イベント,ビアバー]2020.8.8

『Sapporo Beer Map』約5年ぶり改訂。「多様なビールを日常で楽しんでほしい」制作者たちの思い

2011年初版の「横浜クラフトビアマップ」を嚆矢として、全国各地でさまざまな「ビアマップ」が発行され、現地のビールファンや旅行者に重宝されています。「ビールのまち」北海道・札幌市でも2015年に「Sapporo Beer Map」が発行されました。

その後、しばらく改訂版が出なかったのですが、2020年3月「Sapporo Beer Map 2020」としてリニューアル。実に約5年ぶりの改訂でした。

「旧版」の制作者でもあった筆者が、「新版」の制作委員会にお話を伺いました。新しい「Sapporo Beer Map」の魅力に迫ります。

*注:『ビール王国』vol.19掲載記事「すべてのクラフトビールファンに捧ぐ 全国ビアマップ」のとおり、2015年版の「Sapporo Beer Map」は本記事執筆者が制作しました。しかし今回の2020年版には関わっておりません。

「Sapporo Beer Map 制作委員会」(以下「制作委員会」)は、写真左から、松井広行氏(代表)、橘史子氏、吉野隆司氏、吉田敏幸氏、大阪匡史氏の5名。

Sapporo Beer Map製作委員会

Sapporo Beer Map製作委員会

おことわり

この記事は2020年3月に取材したものですが、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症流行のために掲載を見送っておりました。

発表時の現在、COVID-19は依然として猛威を振るっております。しかし、札幌市は比較的小康状態にあること、また掲載各店の経営状況が非常に厳しいままであることを踏まえて、このタイミングで掲載する決断をいたしました。

マップを使用してのパブクロールは、感染防止に各自が最大限ご配慮の上で楽しまれるようお願いいたします。

「ビールのまち」の人が地元の良さに気が付くマップ

-:まずは代表の松井さんから、制作委員会の発足のきっかけを教えてください。

松井広行氏:私は、大阪のクラフトビール専門店で働いてきて、2019年5月に故郷である札幌へUターンで帰ってきました。BEER CELLER SAPPOROBeer Bar NORTH ISLANDへ勤めながら、札幌のビールファンとの交流を築いていく中で「札幌にはビアマップがないの?」とお客様の声を聞きました。「昔あったよ」ともお話を聞いたのですが、どうやらその後4年以上も更新されていないらしい(筆者のことを見て微笑む)。そういうことをデザイン関係者と繋がりのあるお仕事をされている大阪さんと、大学院生ながらもお酒への愛が強い橘さんと話しているうちに、制作したい気持ちが強くなりました。

-:大阪さんはこれまでにもクラフトビールにまつわる活動をいくつかされてきたのでしたね?

大阪匡史氏:はい。上富良野町の忽布古丹醸造のクラウドファンディングをサポートしたり(1)、札幌市とアメリカ・ポートランド市の姉妹都市提携記念の「60人ビール サッポートランダーズ 」を企画する(2)などしてきました。

自分はビールの専門家でもなんでもなかったのに、ビールにまつわる活動が多くなっていたのです。松井さん、そして「60人ビール」を一緒に企画した橘さんとお話をしているうちに「それならいっしょにやりましょう!」ということになりました。

※1.忽布古丹醸造のクラウドファンディング記事(2016年):https://www.jbja.jp/archives/16409

※2.「60人ビール」の記事(2019年):https://www.jbja.jp/archives/23753

-:橘さんは現役の大学院生ですね?

橘史子氏:北海道大学の農学院に通っています。また学生に対して、お酒文化を入り口に食の選択肢を広げてもらうための団体「酒類研究会 醸鹿 Kamo-shiKa」を運営しています。活動をする中で若い世代が手に取る情報としても、札幌のビアマップがあればいいのにと思っていたところ、お二人の話を傍らで聞いていてもう堪らなくなってしまいました(笑)。

-:その3名が発起人となり、吉田さん、吉野さんが加わるわけですね。

吉田敏幸氏:実は掲載された40店のうち、38店へすでに行っていました(笑)。それで白羽の矢が立ったのだと思いますが、この企画に松井さんから誘われてすごく嬉しかったです。自分の楽しんできたことがみんなの楽しみに生かせる、と思って二つ返事で引き受けました。

吉野隆司氏:私も吉田さんと同じくビール関係の仕事ではない者なのですが、喜んで引き受けて各店への交渉を担当しました。交渉していて、これだけの数のお店一つ一つがビールに対して強い思い入れを持っていることを感じました。いわゆる「ビール専門店」ではないお店も何店も載っているのですが、そういうお店からも「ビールを美味しく飲んでもらいたい」という思いが伝わってきたのが、とても印象的でした。

-:札幌は、市自体が「ビールのまち さっぽろ」を名乗り、日本最大級のビアガーデンと言われる大通公園のビアガーデンがあり、また「Sapporo Craft Beer Forest」などのビアフェスティバルがあります。松井さんは期待に胸を膨らませて札幌へ帰ってきたのに、こちらで感じたのはむしろ「違和感」だったそうですね?

松井氏:お客様が「クラフトビールをもっといろいろ飲みたいけど…でもどこで飲めるの?」と訊くんです。つまり、総体としての知名度は高いが、個別の各店ごとの知名度が低い。8000人近くを動員する「Sapporo Craft Beer Forest」なども手伝って札幌の盛り上がりを体感しているだけに、そのことがショックでした。

それが委員会発足の動機でもあるのですが、日本各地で発行されているビアマップが札幌にもあれば、すぐ身近にあるビール店の存在を簡単に知ってもらえるのでは?と思いました。

-:「クラフト」という言葉がマップのタイトルにありませんが、それには意図がありますか?

松井氏:はい、意識してのことです。2015年版を踏襲してもいますが、いわゆる「クラフトビール」の専門店でなくても、個性豊かなビールを楽しめるお店が札幌にはあちこちにあることを強調したかったのです。

また、酒販店も載せましたので買って家で飲んでもらってもいいですし、あるいは食事がメインのお店も多く載っていますのでグルメマップとして活用することもできると思います。

-:札幌市民以外や北海道外の方の使用もイメージされていますか?

大阪氏:もちろんビアツーリストの使用も想定しています。おもなターゲットを以下のように定めて、デザインの各所に工夫を凝らしてわかりやすくしたつもりです。

  1. ビールに興味を持ちはじめ、これからいろんなお店に行ってみたいと思っている札幌市民
  2. もう少し行くお店の幅を広げたい、または生活圏内の店を発見したいと思っている地元のビアラバー
  3. 市外・道外・海外から札幌へ遊びにきたビアラバー

都心部は「歩いて巡る」、広域部は「乗って巡る」デザイン

-:デザイン面のことを詳しくお伺いします。表面が札幌中心街地図、裏面が広域地図となっています。

Sapporo Beer Map 表裏

松井氏:街の中心部にビール専門店が多いのは当然なのでそこは「都心エリア」としました。裏面の広域地図は小樽まで拡大して「広域エリア」としました。都心エリアで飲んでいる人でも、自宅は郊外という方が普通なので、自分の家の近くに「あ、ここにも良いビールを出しているお店があるんだ」と知ってもらえることを強く意識しました。

橘氏:”まちなか”中心部は「自分の足で歩いて巡る」、”えきちか”広域部は「交通機関に乗って巡る」、と使い分けてくれると嬉しいです!

大阪氏:仕様に関しては、都心エリアと広域エリアに分けることや、携帯のしやすさ、コスパのよさなどを考慮してA3判の両面印刷、外6つ折+2つ折に行き着きました。そのうえで、マップ枠と店舗情報枠のバランスを考え、表裏に各エリア20店ずつを掲載することに決めました。たまたま発行年の2020年とも重なったため、表紙の「2020」は、都心エリアの「20」店と、広域エリアの「20」店をイメージしたデザインになっています。

結果としては「横浜クラフトビアマップ」とまったく同じ形態となりました。途中でそのことに気が付き、「ビアマップの元祖」と同じであれば間違いないという安心感を抱きました(笑)。

-:各店のデータはアイコン中心でシンプルになっています。そして大胆にも、住所と営業時間を記載していないことに驚きました。

どのくらいの種類のビールを出しているのかが数字でわかるようになっている。お店の特長は簡潔な紹介コメントで表現。ポートランド市出身のアメリカ人による英語訳がありインバウンドにも配慮している

松井氏:札幌の住所はいわゆる「碁盤の目」となっていて、例えば「南3条西4丁目」なら「S3W4」と表現できます。実際に札幌の人は「南3の西4」というように場所を案内するわけです。ビル名などの細かい住所は、QRコードを貼って各店が指定した店舗情報へリンクしています。

またお店の営業時間については、最近は各店がネット検索を前提としているのか、曜日ごとにきめ細かく営業時間を変えているケースが増えてきています。さらに個人経営のお店は営業時間が変更されることが多く、また不定休のお店もあります。それならば、そのつどネットで確認した方が確実にお店に行けるだろうと考えました。

-:QRコードをメインにデザインすることに関しての意見交換はありましたか?

松井氏:もちろん、「携帯端末を持っていない人に優しくないデザインなのでは?」という意見がありました。しかし現実として、ビールを飲み歩く方で携帯端末を持っていないという人をめったに見ません。QRコードを積極的に活用することで、限られた紙面の情報量を増やすことができ、お店の魅力をよりダイレクトに伝えられるようになったと思っています。

橘氏:QRコードをスキャンするときは、スマホを持っていないほうの手がポイントです。人差し指と中指を大きく広げて、それぞれの指先でターゲットの上下にあるQRを隠すと、スムーズにスキャンできます。

大阪氏:他の紙媒体と比べると、マップは同じ面積あたりの情報量が多く、その分、制作にもものすごく時間がかかります。ぜひ隅々までご覧いただけると嬉しいです。

Sapporo Beer Map 拡大

吹き出し付きのイラストは観光案内にもなっていて眺めているだけでも楽しめる

「ビール好き」が作ったマップ

-:2015年版のビアマップは、私を含めてお店の経営者が制作したので「公平性」を保つことにいくらかの腐心がありました。今回の掲載店の選定はどのように行ったのでしょうか?

大阪氏:私が2019年に企画した「60人ビール」の参加者にネット投票で推薦店を挙げていただきました。そして推薦店の中から、制作委員会メンバーが投票数を参考にしつつ、企画・趣旨に合うよう、ビールのジャンル、スタイル、雰囲気などのバランスも考えて掲載候補店を決めました。

松井氏:もちろん候補店のすべての掲載は不可能で、常連のお客様を大事にしたいという趣旨で掲載できなかったお店もありました。

-:新しい「Sapporo Beer Map」では、熱心なビールファンである吉田さんと吉野さんが制作委員会に加わることで、フラットな立場からの制作であることを強調することができたのではないかと思っています。

吉田氏:マップは自分でも欲しかったものですし、周りでも「欲しい」という話をしょっちゅう聞いていました。そのお手伝いができる機会が来たのはラッキーでした。イタリア人がマスターのお店があって、なんとほとんど日本語が喋れずにやり取りが大変だったのも良い思い出です(笑)。ビールの世界は幅の広さが魅力だと改めて思いました。

吉野氏:日本酒がメインなのにビール愛の強いお店の存在を知ることができたなど、札幌の飲食店の懐の深さを実感できたのがうれしかったです。紹介文の校正もしたのですが、店主の強い気持ちのある文章が多くて、文字数制限が厳しい中でその思いを削がずに載せるのがとても大変でした。

-:そういえば、代表の松井さんを除けば「ビールを生業」としていないメンバーで制作されていますね。まだ学生である橘さんは、制作委員会に携わってみていかがでしたか?

橘氏:交渉事はオトナの方々にほとんどお任せしました(笑)が、私は校正を頑張りました。たくさんの情報を間違えずに伝えることにプレッシャーがありましたが良い経験となりました。

あと、お店が選定されていくうちに、私だけがひとりで「良いビール店」と思っているのかな?というお店のことを、実はみなさんも「良い」と思っていることがわかってきました。イメージがちゃんと共有できていたことを知れたのが大きな収穫です。

-:配布をしてみて反応はいかがだったのでしょうか?

吉田氏:大阪さんと二人で参加店に納品に行ったときのことです。そのままお店で飲んで(笑)、スタッフや連さんとマップの話をしていると、男性1名がご来店。訊くと、なんとマップを見て初めてこのお店に来たそうです。さらにその後、すぐ近くの別のお店に納品に伺ったら、スタッフさんから「さっきビアマップを持って、初めての方が来てくれたんですよ」と。大阪さんと「ああ、作ってよかったねー」とカンパイしました。

-:まるで「仕込み」があったかのようですね(笑)。きっとビール好きのみなさんの強い思いが引き寄せたのですね。素敵なエピソードをありがとうございます。

「北海道ビアマップ」まで広がるといい

-:長いブランクを開けて復活した「Sapporo Beer Map」。生まれ変わったことによって新しい展開があるでしょうか?

松井氏:ペースは分からないけれども、更新発行はしていきたいと考えています。誰にでも気軽にみられるようにPDF版での公開も視野に入れています。ゆくゆくは「北海道ビアマップ」まで拡大できたら嬉しいですね(笑)。また、SNSメインですが更新情報を発信しています。ぜひ今後もチェックをお願いしたいです。(末記参照)

-:では最後に、代表である松井さんから「Sapporo Beer Map」への「思い」を改めてお願いします。

松井氏:クラフトビールを中心として、「Sapporo Beer Map」に載ったお店で提供している多種多様なビールは、ある意味ではまだまだ「非日常的」なのかもしれません。でも、日常的にそういった「ビール」をもっと楽しんでもらいたいです。その「日常」は、実はすぐそこにあったんだと、このマップをきっかけに気づいてもらえたら最高です。

-:皆さんのこの熱い気持ちがたくさんのビール好きに伝わってくれれば、「前任者」としても(笑)本望です。みなさん本日はありがとうございました。

「Sapporo Beer Map 2020」は、札幌市内のビアバーを中心に配布されています。

SPECIAL THANKS:BEER CELLAR SAPPORO

 

「Sapporo Beer Map」へのお問い合せは以下までお願いします。

E-mail:sapporo.beer.map@gmail.com

Facebook:https://www.facebook.com/sapporobeerMAP2020/

Twitter:https://twitter.com/MapSapporo

Instagram:https://www.instagram.com/sapporobeerMAP/

 

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

坂巻 紀久雄

ビアジャーナリスト

東京都葛飾区出身。1998年ビアテイスターを取得。2000年に北海道札幌市へ移住。ビール専門店勤務で経験を積み、2013年にビールとモルトウイスキーの専門店「Maltheads(モルトヘッズ)」を開店。
https://maltheads.net/

店は「クラフトビールのお店」でも「世界のビールのお店」でもなく、「ビールの広い世界を実感できる店」をコンセプトとしている。

ビアジャーナリストとしては、北海道の記事を中心に執筆しているが、国内外を問わずビール全般を追っている。

札幌は、日本のビールの発祥地のひとつ。さらに「ビールの都」ドイツ・ミュンヘンと「ビール天国」アメリカ・オレゴン州ポートランドと姉妹都市でもある。そこを「日本のビールの首都」として盛り立てるべく奮闘中。

ビア検(日本ビール検定)1級(2013-14 初の2年連続合格者・2022年3度目の合格)/クラフトビアアソシエーション(CBA)認定ビアテイスター/ウイスキー検定2級

「サッポロ・クラフト・ビア・フォレスト」実行委員
http://www.sapporo-craft-beer-forest.com/

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