[ビアバー]2020.11.9

大手4銘柄×7種類を注ぎ分け! BEER STAND MINATO【大船】

2020年10月14日、鎌倉市大船に「BEER STAND MINATO(ビールスタンドミナト)」がグランドオープンしました。

ビールメニューは28種類(4銘柄×7種類の注ぎ分けで)

こちらのお店に設置されているのは4台の「スイングカラン」。名だたる注ぎ名人達も愛用する昭和の復刻サーバーで、大手の4銘柄をそれぞれ7種類に注ぎ分けてくれます。

提供されるビールは、アサヒ生ビール[通称:マルエフ]キリンラガービールサッポロ生ビール黒ラベルサントリー・ザ・モルツ。この4銘柄それぞれに、下記の注ぎ分けメニューがあります。

1)一度つぎ 1)の泡替え➡ 5)OFUNAつぎ
2)二度つぎ 2)の泡替え➡ 6)MINATOつぎ
3)三度つぎ 3)の泡替え➡ 7)マイルド
4)ミルコ

【一度つぎ】【二度つぎ】【三度つぎ】と、それぞれの泡を入れ替えた【OFUNAつぎ】【MINATOつぎ】【マイルド】に加えて、グラスの底まで泡で満たすチェコ式の注ぎ方【ミルコ】の全7種類。価格は、ミルコ以外の6種類は590円、ミルコは390円(いずれも税込み)です。

オーナーの木村明宏さんは、「長年生産されている大手各社のスタンダードのビールも、しっかりと美味しい」ということを伝えたくて、【プレミアム】ではなく【スタンダード】を揃えたのだと言います。ザ・プレミアム・モルツではなく、ザ・モルツがラインナップに入っている理由はそういうことなのですね。ほかも、サッポロ生ビール黒ラベル以外は、現在の看板商品とは微妙に異なる銘柄ですが、これらには、何か理由があるのでしょうか?

「スイングカランでサービングするのに向いている銘柄であることがポイントです。スイングカランは勢いよく適度に炭酸を抜きながら注ぐことで、ビールの炭酸と苦味を少し和らげる効果があります。甘味が特徴的な一番搾りでは味が飛んでしまう懸念があったため、元の苦味がしっかりしているキリンラガーを。炭酸を抜くと辛口の良さを殺してしまいかねないスーパードライではなく、コクもキレもあるマルエフを選びました。黒ラベルは現在主流のサーバーでもスイングカランでも、どちらでも美味しく注げるバランスの良いビールだと思います」(木村さん:以降青字は木村さん)

さらに、1人1セット限りですが【つぎ分け体験セット】(税込み890円)をオーダーすることもできます。こちらは通常のグラスよりやや小さめサイズのグラスで、対極の味わいとなる【一度つぎ】と【マイルド】の2杯を飲み比べられるお得なセット。どの銘柄でもOKですが、2杯は必ず同じ銘柄での提供となります。

オーナー木村明宏さんの前職は、スイングカラン製造元の技術者

店舗正面の窓から覗くと、金色に輝く4本のスイングカランが見える。

ここで、このお店の要となるスイングカランの話題に触れたいと思います。スイングカランは、昭和初期~40年代のビアホールで主流となった設備でした。配管の径が大きくビールの出る勢いが強いのでサービングにはコツがいり、注ぎ手の技術が試されます。当然ながらビールの“ロス”も多く出ます。そのため、後年泡出し機能がついた「コック式」が流通するようになってからは、スイングカランは自然淘汰されていきました。

しかし、誰にでも美味しく注げるというのは、裏を返せばビールの味に注ぎ手の個性が出ないということでもあります。

「スイングカランの技術を途絶えさせてはいけない」と立ち上がり、その魅力を広く伝えている“ビール注ぎ名人”重富寛さんのことは、ビアLover多くがご存知かと思います。実は木村さんは、重富さんのお店『ビールスタンド重富』で愛用されている復刻版スイングカランの製造元『ボクソン工業』創業者のお孫さんなのです!

木村さん自身も、後継者になることを目指して今年6月までの約9年間ボクソン工業に勤めていました。ここでビールサーバーを“作る側”の立場から携わっている間に、得意先である重富さんの“スイングカラン愛”に触れ、「使う側の立場でもスイングカランを扱ってみたい」と強く思うように。しかし、いざ実行に移してみようとしても、その機会はなかなか訪れません。「ならば自分でお店を構えてみよう」と思い立ったことが、BEER STAND MINATOオープンのきっかけとなりました。

“一度つぎ”をしてみせてくれる木村さん。

ボクソン工業時代はメンテナンスの合間にスイングカランを操作し、これを使って社員向けにビールサービングする機会にも恵まれ、扱いには慣れていた木村さん。本格的にサービングの勉強がしたいと思うようになってからは、重富さんや『ビアライゼ’98』の松尾光平さん、『麦酒大学』の山本祥三さんを訪ねてレクチャーを受けるなどして、木村さん独自のサービング技術を確立していったそうです。

「重富さんがおっしゃるには『一度注ぎができれば、他の注ぎ方もできるようになる』と。設備の構造については熟知している自負もあったので、一度注ぎは個人練習でマスターしました。そのうえで、注ぎ分けについては諸先輩を訪ねて技を観察したり教わったり……。お客さんの反応なんかも見ながら勉強させていただきましたね」

注ぎ分けをきっかけに、ビールの楽しさを伝えたい

フードメニューは「豚肉のビール煮込み(600円)」「合鴨の味噌漬け(400円)」「枝豆のビール漬け(300円)」など、独り飲みでも気軽につまめるものが揃っている。 ※全て税込み

BEER STAND MINATOについて紹介していきましたが、ビアLoverの皆さんは、このお店を訪ねたらまず何をオーダーしますか? 迷ったら、率直に相談してみて下さい。木村さんはそういった場合、普段どの銘柄を飲んでいるのかをお客さんに聞いてみるのだそうです。

「例えば『アサヒスーパードライです』という方は、のど越しの良いビールが好みだと思うので、あまり炭酸が抜けない一度つぎや二度つぎを勧めます。スーパードライ自体は置いていないので、銘柄としては黒ラベルマルエフで。また全般的には、冬は二度つぎや三度つぎを、夏は一度つぎをお勧めしたいと思っています」

単純計算で4銘柄×7種類=28通り。試せるだけ試すのもアリですし、「この銘柄のこの注ぎ方が好み♪」と思ったら、それをリピートするのもアリ。楽しみ方は自由です。

「同じビールでも注ぎ方によって味わいが異なってきますし、ビールが苦手な方にも飲みやすい注ぎ方もあるので、飲むことで印象が変わったらいいなと思います。先日いらしたお客さんには『黒ラベルってこんなにおいしかったんですね』と言われて、確かな手ごたえを感じました。今日本では“このビールは、この注ぎ方でこの味”という固定観念ができてしまっているので、もうちょっと自由に楽しんでいただいて、皆さんの視野を広げることができたらいいなと思っています。それで一人でもビール好きが増えれば、こんなに嬉しいことはありません。そのためにはビールの楽しさ、面白さを伝えていかないとけないのかなと思いますね」

基本的に、お店で提供するのは前述の4銘柄ですが、今後4タップを“1メーカー縛り”にしたり、注ぎ師を招いたりするイベントも考案中とのこと。

それにしても、ビアバーオーナーには飲食業経験者が多いなか、サーバーメーカーから転身した木村さんは希少な存在です。大船近辺を訪れた際には是非BEER STAND MINATOに立ち寄って、ビールの注ぎ分けを存分に味わいつつ、サーバーについての“マニアック”なトークを楽しんでみてはいかがでしょうか?

〇店舗データ〇
BEER STAND MINATO(ビールスタンドミナト)
住所:神奈川県鎌倉市大船 1-8-3 天正ビル1F(JR/ 湘南モノレール 大船駅東口 徒歩 3 分)
電話:0467-39-5989
https://www.beer-minato.com
https://twitter.com/Beer_Minato
https://www.instagram.com/beer_minato/
営業:平日 15〜21時/土日祝 14〜21時(LO20時30分)※定休日未定
スイングカランボクソン工業大船注ぎ分け重富寛氏鎌倉

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

くまざわ ななこ

ビアジャーナリスト/ビアライター

ビールとカレーと小田急線をこよなく愛するライター/エディター。数多くのインタビュー経験を活かして、ビールに携わる人たちの思いを伝えようと邁進中。最近、健康のために始めた「ランニング&ビール」イベントにはまっている。

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