[コラム]2021.9.24

ビールの物流について思う

暑さ寒さも彼岸まで。だいぶ過ごしやすい季節になってきました。酒屋の店頭には日本酒の「ひやおろし」が並んでいます。「ひやおろし」とは、春先に出来上がった酒を暑い夏の間は涼しい蔵の中で熟成させて、秋に出荷する酒のことです。新酒のフレッシュな味わいとは対照的に、まろやかな味わいが特徴で、日本酒ファンの秋の楽しみです。

ビールファンの皆様はいかがでしょうか。つい先日までの暑い日々はライトなビールをゴクゴク飲んでいましたが、涼しくなってくると、ややボディのある濃色系のビールを、秋の味覚に合わせてゆっくりと楽しむようになるのでは。秋限定のビールも店頭に所狭しと並んでおり、目移りしてしまいます。

小売店

さてこの時期、特に夏の終わりから秋にかけて小売店で買ったビールを飲んでいると、たまに気になることがあります。それは、劣化したビールに時々あたってしまうのです。秋の新製品などではほぼ心配ないのですが、定番銘柄や、夏の季節商品などで時々あります。

最近のスーパーやコンビニはビールの品揃えが豊富になってきていると感じます。大手メーカーの主力商品から季節商品、多様なスタイルのクラフトビールも。ビールファンにはうれしい限りですが、それらの製造日は早くても半月~1カ月前くらいに製造された商品です。

ところが何らかの理由で、一部の商品が2~3カ月前、あるいはもっと古いものが店頭に並んでいることもあります。店舗のバックヤードに残っていたのか、物流会社かメーカーの倉庫で滞っていたのか。たまたま売れ筋から外れてしまったのか、生産が過剰だったのか。

9月下旬の3カ月前は6月下旬。そこからの3か月間、日本の多くの地域は梅雨から猛暑の季節です。日本酒のひやおろしは涼しい蔵のなかでじっくり熟成され美味しくなりますが、暑さの苦手なビールは、真夏の倉庫やバックヤードではすぐに品質は大きく劣化してしまいます。

大手メーカーのビールは常温保存を前提に賞味期限が設定されており、半年以上先の日付となっていますが、それは冷暗所に保管した場合のことです。このことは、大手ビールメーカー各社のホームページにも掲載されています。我が国の夏の気温は「常温」とは程遠いものでしょう。

クラフトビールがブームと言われ、大手メーカーも負けじと新商品をどんどん発売し、小売店が扱う商品アイテム数は増えています。その中にはどうしても売れ筋から外れてしまう商品も出るでしょう。メーカーはいつでも美味しいビールを消費者のニーズを読みながら製造し、物流業者はできるだけハイスピードとローコストで運搬し、小売店は私たちに選ぶ楽しみを提供してくれています。

ならばビールファンの私たちはビールを買うときに缶の裏やビンのラベルをチェックして、古いビールは買わないようにすればいいのではないか。それはそうですが、そのビールはどうなるのでしょう。知らずに飲んだ人が「うわ、このビール、まずい!もう買わない!」という感想を持ったとしたら、ビールメーカーにとっても飲んだ人にとっても不幸でしかありません。

ビールは他の酒よりも、温度変化や振動に対して非常に弱い酒です。私たちが美味しいビールを口にするために、物流の果たす役割は非常に大きいのです。根本的にに解決するのは難しい問題だと思いますが、せめてもの対策としては、小売店は品ぞろえを絞って商品の回転に気を配る、物流業者は倉庫の風通しを確保するなど。諸外国に負けず劣らず美味しいビールにあふれたわが国ですが、物流面ではまだ課題が多いと考えます。いつでもどこでも劣化した商品にあたる心配なくビールを選べるようになったときに、わが国のビール文化はワンランク上がるのではないでしょうか。

クラフトビールビール小売店物流酒販店

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

津田 敏秀

ビアジャーナリスト

1972年、東京都出身。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。
外食チェーン企業に15年間勤務の後、独立。串揚げとクラフトビールの店を7年間経営。今までの経験を活かし、飲食店の経営に関する記事を得意とする。
好きなビールはスタウト。趣味は乗り鉄。

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