さくらんぼ生産者としてビール作りに係わった感想
3年ほど前から株式会社帯広ビールにお願いをしてさくらんぼビール作りを手がけたいと思い、ポールズ・カフェのオーナーのポール・デ・コーニング氏とさくらんぼビールの試作を初めています。この体験を通して学んだ事を少しまとめてみたいと想います。
さくらんぼについて
さくらんぼには多様な品種があります。高価なさくらんぼとして南陽や佐藤錦は広く知られていると思います。さくらんぼは、例えば南陽の木だけがあってもさくらんぼは実りません。他の違うさくらんぼの花粉を付けなければ南陽の実は成りません。そのため、南陽の木に別な種類のナポレオン等を接ぎ木するか、そばにナポレオンの木を植えて花粉付けをする必要があります。佐藤錦も同様です。私達のサクランボは全て接ぎ木で行っています。

赤い印がナポレオン佐藤錦に接ぎ木
そのため、ナポレオンは花粉付けが終わり実が成ると実を落とす作業をしなければなりません。ナポレオンは甘みと酸味のバランスは良いのですが製品としては南陽の2割程度の値段しかならないあるいは加工用のジャムとして使用される程度なので、価値は低いため南陽や佐藤錦の実を成熟させるために落とさなければならないさくらんぼです。
私は、ベルギービールを飲むようになって、さくらんぼビールが沢山ある事を知りました。しかし、日本のさくらんぼは、南陽も佐藤錦も甘味が強く酸味が少ない事、製品にしてもハネ(傷や形の悪鋳物)品でもナポレオンの製品より高く売れるため使用できないと判断しました。そしてビール使用はナポレオンにしました。
ナポレオンを使い一昨年と昨年ビールがそれぞれ完成しました。

一昨年のサクランボビール
さくらんぼビールについて
一昨年と昨年のビールを飲んで感じたのは同じさくらんぼの種類と同じ基礎ベースのビールを使っても味が異なりますが、ビール自体が美味しい事でした。
ベルギービールのランビックの様にビンテージをつける必要があると思うほどの違いです。さくらんぼ自体の出来がビールに出てくると感じました。
一昨年は平年並みの収穫でした。佐藤錦がが終了し南陽が終了し最後にナポレオンの収穫。
昨年は雪解けが速く、枝切りが十分でなかったため、実のなりすぎと葉による日光遮断があり、全体的に小さめで色薄でした。

枝切りと花粉付け
しかも、雨不足のため(さくらんぼ農家には良い)路地ものの収穫が長引き、さくらんぼシーズンが終わっても佐藤錦や南陽が残っている状態のため、さくらんぼの一部が腐って収穫が少ない状況でした。

左昨年右一昨年
農家としては、毎年、農作物同じように育てるのは難しいと感じました。しかし、その農作物を使い美味しいビールににしていくための醸造家の経験と感は素晴らしの一言だと思います。
今年は昨年の末からの大雪のためハウスの半分が倒壊してしまい、さくらんぼの枝もかなり折れてしまいました。現在のところ、今年はナポレオンを使ったビールは、高級さくらんぼのために花粉付け専用にする予定です。しかし、路地のさくらんぼが半数で成熟して雨に当ると割れてしまい俗に言うハネ品になってしまい長く保存が効かない事、とハウス物が市場に出たら格安になるため、佐藤錦あるいは南陽の路地のハネ品を使ってビールを作る方向で考えています。来年度にはまたハウスを建てまたナポレオンを使ったビールを作って行きたいと思います。

倒壊したハウス
最後に
農作物(麦やホップやその他の副原料)は、毎年天候によって収穫物の出荷量や味や色が全て変わります。毎年一定にするには生産者の感や知識が必要となってきます。農作物を一定にしようと努力します。それでも、天気には勝てません。ビール作りをする人は、美味しいビールを作っています。それでも、農作物の出来によって味は変わってしまいます。また、ビールは長期保存が出来ないものもあります。もし、保存ができるのなら飲み比べも良いと思いますが、毎年味が変わるのを感じて頂くのも良いかと思います。
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