[テイスティング,ブルワー,新商品情報]2023.4.27

蔵付き酵母と麹の出会い!自然の力が生み出す「Ambient Ale」

酵母、それは自然界のありとあらゆるところに存在している微生物。ビールを好きになり、空中を浮遊する酵母の姿を妄想することが趣味になりました、どうもルッぱらかなえです。目に見えない生き物たちが、「かもすぞー」と動くことで、いろどり豊かでおいしいビールが生まれるという事実……最高にわくわくしますよね!

写真提供:unsplash


現在のビール造りでは、安定したビールを醸造するため、多くの場合培養された酵母(上面発酵酵母や下面発酵酵母)を使用しますが、かつてのビール造りは自然界に存在する酵母を使用したものでした。この「野生酵母」を使用した代表的なものが「ランビック」!約500年以上もの歴史を持ち、今なお多くのビールラバーたちを惹きつけてやまないビアスタイルです。

そんな「ランビック沼」にハマり、独自のビアスタイル「麹ビール」の自然発酵に挑戦を始めた、とオリゼーブルーイングさんから聞いたのは約2年前。麦芽を一切使用せず、麹によって醸した自然発酵ビール。それは一体どんな味わいになるのか……期待しながら待ち続けたそのビールの完成形がついに出来上がったとのことで、早速オリゼーブルーイングのオーナーブルワー木下さんにインタビューをさせていただきました。

自社のラインナップの中で最高峰の出来になったという、蔵付き酵母ビール「Ambient Ale」。その魅力をたっぷりとお伝えしていきたいと思います!

画像提供:オリゼーブルーイング

じっくり手間暇かけたあとは「菌まかせ」!「Ambient Ale」の裏側とは

――「Ambient Ale」完成おめでとうございます!このビールはどんなビールなのでしょうか?

木下さん:酵母無添加、蔵付き酵母が醸すスペシャルな自然発酵ビールです!うちの他のビールと同じく、麦芽は一切使用せず麹によって醸しています。オリゼーブルーイングHP

オリゼーブルーイング

画像提供:オリゼーブルーング


――蔵付き酵母に麹!まるで日本酒のようでおもしろいですね。なぜこのようなビールを醸造しようと思ったのでしょうか?

木下さん:自分がランビックにハマり、自然発酵に興味を持ったことがきっかけです。あとは時を同じくして、憧れだった「酒造りの神様」の異名を持つ杜氏のお弟子さんと出会い、生酛づくり(自然の力を活用した、昔ながらの日本酒の造り方)の話を聞くことができるようになったのも大きいですね。

そのお弟子さんである女性杜氏がいうんですよ。「毎年の生酛づくりの味はその年の菌次第。自分達がしているのは『環境づくり』だけであり、自分達の仕事はそこまで」と。もちろん、そこに至るまでに全力で人事を尽くされている、にも関わらず、ご自身で造った毎年の生酛づくりの話をするときも、「あの子はあんな子で、この子はこんな子になった」とひと事のように話していて、自然発酵ってすごくおもしろいなと思いました。

自然発酵によるお酒は、「自分の子ども」に似ているんですよ。産んだことには違いがないけれども、自分とは異なる個人であり、いつの間にか教えたこともないようなことを身に着け、自分の道を進んでいる。そんな感じです。

オリゼーブルーイング

オーナーブルワー木下さん


――環境を整えてあげることで、あとは菌たちに任せる、という感じなのですね。興味深いです。実際「Ambient Ale」はどのようにして醸造したのでしょうか?教えていただける範囲でお話を聞かせてください。

木下さん:「Ambient Ale」はお米を磨くところから始まります。使用したお米は山田錦。
清酒と異なり、磨きすぎると飲み口がツルツルになってしまうため、輪郭を残すため精米歩合80%にしました。

精米したら次は麹造り。麹菌を振りかけ三日間かけて米麹にしていきます。米麹ができたら今度は蒸した米と一緒にお湯に入れ、甘酒にし一晩かけて糖化していきます。

麹菌,オリゼーブルーイング

麹菌を振りかけ、麹をつくっているところ 写真提供:オリゼーブルーイング

――三日かけて麹をつくり、一晩かけて糖化!ものすごく手間暇かかったビールなのですね。

木下さん:オリゼーブルーイングのビールはすべてそうなんです。麦芽を使った糖化の場合は60分~90分程度で終わるのですが、麦芽を使用せず、麹で糖化する場合はすごく時間がかかるんです。温度を段階的に調整しながら糖化するのですが、一晩(20時間)手間暇かけることでコクのある深い味わいのビールになるんですよ。このあたりは日本酒醸造の技術を応用して行っています。

――そうなのですね…!そのあと醸造はどのように進んでいくのでしょうか?

木下さん:糖化が完了したら袋で搾り、甘い汁を取り出していきます。ボイルした後にホップを入れて、クールシップ(麦汁冷却槽)に広げ、一晩かけて冷却していくのですが、この際に醸造所内にいる「蔵付き酵母」が降りてくるのを待つんですよ。

クールシップ 写真提供:オリゼーブルーイング


――醸造所内には酵母がいるのですか?そして酵母が降りてきたかはどのようにしてわかるのでしょうか!?

木下さん:目には見えませんが、オリゼーブルーイングでは麹を作っていますし、コンブチャも醸造しているので、様々な菌たちがいるはずで。その中に酵母がいて、彼らが降りてくれると信じて待つんです。

そして実際に酵母が降りてきたか否かは……発酵するまでわかりません!クールシップの後はバレルに移すのですが、その中でブクブクと発酵が始まれば「酵母が降りてきていた」、始まらなければ「酵母は降りてこなかった」ということになるんです。

――なんと……信じて待ち続けるって大変そうですね。発酵が始まるまでには、どのくらいの時間がかかるのでしょうか?

木下さん:「Ambient Ale」は発酵までに10日程度かかりました。発酵が始まらなければ、ビールは出来上がらずに腐ってしまいます。なので毎日どきどきしながら待ち続けていましたね。発酵が始まった時には「やっと始まった!」と大喜びしました。

バレルの中で発酵している様子 写真提供:オリゼーブルーイング


発酵が開始してから一次発酵が終わるまでに約40日間。その後はおり下げをし、瓶詰めをしていきます。オリゼーブルーイングは瓶内二次発酵のビールなので、瓶詰めしてから30日程度で完成となります。

――先ほどの同じコメントになってしまいますが……本当にものすごく手間暇かかったビールなのですね!自然発酵に挑戦してみていかがでしたか?

木下さん:めちゃくちゃ楽しかったです!先の女性杜氏が言っていたように、自然発酵によるお酒造りは「菌まかせ」なのだなと改めて実感しました。「Ambient Ale」は、酵母やホップについてたくさん勉強し、醸造してきた過去のビールたちをサッと抜き去っていったんですよ。自然の力が上をいく。「Ambient Ale」はオリゼーブルーイングラインナップの中で過去最高の出来となりました。

オリゼーブルーイング史上最高の出来!その味わいとは

お話を聞くことで、ますます深まる「Ambient Ale」への興味!麹、そして蔵付き酵母によるビールとは一体どのような味わいなのか、実際にいただいてみました。
オリゼーブルーイング
グラスに注いだ瞬間に広がる、マスカットやメロンを思わせるフルーティな香り。柔らかな飲み口にうっとりとしていると、鼻から抜ける日本酒のような香りにぐっと引き込まれます。喉奥に残るあまみに、ゆっくりと長く、深く続くうまみ。そしてくっきりと感じる米の存在感。

表情が豊か、というよりも厚みある個性に目を瞬かせてるうちに、酔いが身体を包んでいる。「Ambient Ale」は、日常から優しい非日常に案内してくれるような、そんな印象的なビールでした。
オリゼーブルーイング

出会いから生まれたビール

「Ambient Ale」のラベルに描かれているのは、歌川国貞による浮世絵「夜の吉原」。大戸が降ろされ、店じまいとなった吉原を描いた絵です。閑散とした吉原の夜に佇む人物と、窓から顔を出している人物。彼らがどんな関係性なのかは定かではありませんが、木下さんはこの絵に「Ambient Ale」と似た面白さを感じ、ラベルに使用したといいます。

画像提供:オリゼーブルーイング

自らの生み出した麹と、蔵に存在していた酵母が夜の醸造所でこっそりと出会う。そしてその出会いから1本のビールが紡がれる……

「Ambient Ale」は目で見ることは出来なくとも、しっかりと舌で感じることができる物語そのものなのです。

そんな想像力を掻き立ててくれるビール「Ambient Ale」は、現在オリゼーブルーイングオンラインショップで発売中です!数量限定のビールなので、興味がある方はお早めに。
オリゼーブルーイング オンラインショップ

Craftbeerオリゼーブルーイングクラフトビールルッぱらかなえ自然発酵蔵付き酵母

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

ルッぱらかなえ

ビアジャーナリスト

ビールに心臓を捧げよ!
お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター。
和樂webや雑誌「ビール王国」など様々な媒体での記事執筆の他、クラフトビール定期便オトモニでの銘柄選定、飲食店等へのビール提案などといった業務も行っています。
朝から晩まで頭の中はいつだってビールでいっぱい!

ビールの面白さをより多くの人に伝えるため、ビールをテーマにした小説「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗」を連載中。小説内で出来上がる「江戸ビール」は、実際に醸造、販売予定なので、ぜひオンタイムで小説の世界を楽しんでいただきたいです!

その他、ビールタロット占い師としても活動中(けやきひろばビール祭り、ちばまるごとBEERRIDE等ビアフェスメイン)
占い内容と共に、開運ビアスタイルをお伝えしております。

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