[コラム,ビアバー,ブルワー]2023.9.28

【ビールを通して感じる韓国⑩】ソウルとその近郊でクラフトビールを飲む(5) 聖地でクラフトビールを飲む@梨泰院周辺

韓国の「梨泰院」という地区名は、韓国に詳しくなくても聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか?

梨泰院とは…

梨泰院(이태원・Itaewon)は、韓国のソウル特別市龍山区にある地区で、ソウル地下鉄6号線の梨泰院駅を中心に広がっています。
この地域は近隣にアメリカ軍基地があったため早くから外国人の住居地として定着し、外国人好みの飲食店や居酒屋が並ぶことで知名度が高まっていった場所です。今でもナイトクラブやバーなどが多い繁華街で、アメリカ軍人や外国人観光客が多く訪れています。

夕暮れ時の梨泰院(2018年撮影)

梨泰院という地域名が知られるようになった理由のひとつは、2020年1月から3月まで放送された韓国のテレビドラマ「梨泰院クラス」。梨泰院を舞台に、飲食業界での成功を目指して仲間と共に奮闘する若者たちを描いていて、日本でも話題になったドラマです。2022年7月には、日本でもその翻訳漫画を元にテレビドラマ「六本木クラス」が放送されています。
また、梨泰院は日本の渋谷と同様に、ハロウィンの時期に仮装した若者が多く訪れる場所としても有名です。まだ記憶に新しいのが、2022年10月29日の夜に梨泰院でハロウィンを前に集まった若者らによるソウル梨泰院雑踏事故。転倒などで死者160名弱、負傷者100名以上の惨事となり、日本でも大きなニュースになりました。

梨泰院と経理団通り

梨泰院周辺は、下調べなく歩いていてもクラフトビールを提供する様々なお店を見つけることが簡単にできる、ビール好きにとっても特別な場所です。私が韓国のクラフトビールを初めて飲んだのもこの地域でした。

最初の頃によく通った梨泰院のCRAFT HANS(2017・2018年撮影)

特に、梨泰院に隣接している経理団通り(경리단길)は、韓国のクラフトビール発祥の地。2010年前後からこの地でビールを自家醸造するお店が出始めて、それが徐々に人気を集め全国に広まったとされています。クラフトビールのお店だけでなく、個性的なカフェや飲食店も並び、こちらも若者や外国人の姿が多いところです。

「経理団通り」というちょっと変わった名称は、通りの入口付近に「陸軍中央経理団(韓国陸軍の財政を担当する部)」があったことからその名がついたそうです。最初は、中心の大通りが「経理団通り」と呼ばれていましたが、近年では近くの路地にも次々と新しいお店が生まれ、大通りを中心とした周辺エリア全体が「経理団通り」として認識されています。

経理団通りにある韓国クラフトビールの元祖「マグパイブリューイング」

梨泰院にあるお店は夜になってから開店するお店が多いですが、カフェなども多い経理団通りにあるタップルームは夕方になる前から開店するところもいくつかあります。その中から今回は元祖韓国クラフトビール専門店といわれる「マグパイブリューイング(Magpie Brewing)」へ行ってきました。地下鉄6号線の梨泰院駅の隣駅、緑莎坪駅から徒歩7~8分です。

マグパイブリューイングは、まだ韓国でクラフトビールが広く知られていなかった2012年にオープンしました。済州島にある自社醸造所で作られた新鮮なクラフトビールが人気を集め、現在では韓国クラフトビールの元祖といわれるほどの有名店になっています。
平日の15:00過ぎに着きましたが、何と先客がすでに2組いらっしゃいました。



アメリカンペールエールを注文。サイズを言わないでいたら、当たり前のように大きいパイントサイズで出てきて7000ウォン(約770円)でした。アルコール分4.8%、IBU33となっていましたが、苦味はそれほど強く感じず、程よい感じ。ややフルーティな味わいでした。

他の定番ビールや何種類かあったミッケラーとのコラボビールも気になりましたが、この日は一杯だけで終了しました。

◎マグパイブリューイング所在地:서울특별시 용산구 녹사평대로 244-1(244-1, Noksapyeong-daero, Yongsan-gu, Seoul)
営業時間 15:00~23:00
定休日:毎月第一水曜日

すぐ近くには、「The booth brewing」という別の韓国のクラフトビールのお店もやはり15:00から営業中。この一帯で次の機会に訪問したいお店がまた出来てしまいました。

皆さまも、もしソウルで気軽にクラフトビールのお店に行って出来ればハシゴもしてみたいと思ったら、梨泰院と経理団通り周辺を歩いてみることをお勧めします。お店が多いので、くれぐれも飲みすぎには注意してくださいね。

ソウル梨泰院雑踏事故の現場へ

最後に、改めてソウル梨泰院雑踏事故について触れておきたいと思います。
2022年10月29日の夜、梨泰院でハロウィンを前に集まった若者らが。梨泰院駅の1番出口付近からこの地域のランドマークのハミルトンホテルの西側を通り丁字路へと南北につながる幅3.2メートル、傾斜度10%の狭い坂に集中。駅から坂の上に向かう人と逆に駅に向かう人で身動きの取れないほどの大混雑となり、転倒が発生、さらに坂の上側にいた人々が事故を把握できず前進を続けてしまい、圧迫を受ける形で被害がさらに拡大しました。結果、死者160名弱、負傷者100名以上の惨事となっています。
私は事故の現場の急坂はそれまでに何度か通ったことがあり、坂道の横にあるハミルトンホテルはこの地域で飲み歩くのに泊まりたいと思ったことがあったホテルでした。
今年4月にソウルを訪問した際にはこの地域でビールは飲まなかったのですが、それでも現場で手を合わせてきました。

現場には多くのメッセージが残されていました…

私は事故についてはあれこれ言える立場ではありませんが、事故があったということは忘れずに、それでもこれからも機会があれば、クラフトビールの聖地でもある梨泰院周辺でビールを味わいたいと思います。

*参考文献:「CRAFT BEER KOREA(KOREAN CRAFT BREWERY GUIDE BOOK 2020)」BEER POST PUBLISHING
*100ウォンを約11円として換算しています

Magpie Brewing梨泰院経理団通り韓国クラフトビール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

きただ ともこ

ビアジャーナリスト

ビールと旅と野球観戦が大好きです。
主に、ビールがどんな土地で造られてどんな感じで飲まれているかに関心があり、気になるビールが出来るとその地元を訪ねたくなります。日本全国たまには海外にも足を運び、特に国内は岩手、海外は韓国のクラフトビールに注目してきました。
ビール好きがきっかけで岩手にどっぷりはまり、2019年4月から岩手沿岸の仮設住宅に住みながらの仕事を経験。現在も岩手に拠点を置き、得た情報を実際にこの目で確かめながら、岩手中心に東北地方のビール事情を発信してきました。最近は、日本語での情報が少ない韓国のビールについても、現地に足を運んで手に入れた情報をもとに記事にしています。

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