[コラム,テイスティング,ブルワー]2023.11.9

【スペインビール探訪記】五感で楽しむビールの世界:Mund Estrella Galiciaミュージアムに行ってきた!

こんにちは。スペイン・バルセロナ在住のカナコです。

普段はバルセロナでビールを飲んでいる私ですが、先日、スペインの北西に位置するガリシア州、ア・コルーニャに行ってきました。

お目当ては、Mund Estrella Galicia(MEGA)ミュージアム(通称MEGAミュージアム)。スペイン初の、ビールやビールにまつわる文化に特化したミュージアムです。

外から見たミュージアムの様子。

五感を刺激する仕掛けが散りばめられており、ビール初心者〜玄人まで楽しめる場所だと感じたので、紹介させてください。

Mund Estrella Galicia(MEGA)ミュージアムとは

ガリシア地方を代表するビール・Estrella Galicia1906などを醸造するHijos de Riveraが手掛けるミュージアム。2019年6月にオープンしました。

ミュージアムの名前に冠されている”Mund”とは、スペイン語で”世界”という意味。ビールの知識を得るだけでなく、思わずビールの世界に没入してしまうような場所を目指しているそうです。

訪問の手引き

MEGAミュージアムでは、様々なガイドツアーを提供しています(生ハムやチーズとのペアリングや、ガイドなしで自由に観て回れるプランも。詳しくは公式ホームページをご覧ください)。

ガイドツアーは、基本的にはスペイン語で行われますが、事前に問い合わせすると英語でのご対応も可能とのこと。私は、ガイドツアー+缶詰とビールのペアリング体験(英語、35€*申し込み時)をお願いしました。

いざビールの世界へ!

MEGAミュージアムは、ア・コルーニャ駅から徒歩で20分ほど、ア・コルーニャ空港からバスで1時間ほどの場所にあります。私は飛行機が遅れたため、空港からタクシーで向かいました(15〜20分程で、18€でした)。

時間になると、受付までガイドの方が迎えに来てくれます。今回、英語のガイドツアーの参加者は私のみでした(なんという贅沢)。スペイン語のツアーの方は15人程度参加者がいたようで、賑わっていました。

歩きながら工場をパシャリ。

ガイドの方に連れられ、中へ。

中の様子がチラッと見えて、ワクワク。

ガイドツアー開始!

ミュージアム内は8つセクションに分かれており、順番にガイドいただきました。それぞれのセクションについて、特に印象的だった部分を紹介します。

01:起源 02:原料 03:醸造 04:ボトル 05:ビールと流通 06:広告とスポンサー 07:テイスティングとビールカルチャーのワークショップ 08:ショップ

起源

ここでは、ビールの歴史やEstrella Galiciaというブランドがどのように生まれたのかを知ることができます。特に圧巻だったのが、巨大スクリーンに映し出されるEstrella Galiciaの歩み

部屋に入ると、スクリーンに囲まれます。

創業者のホセ・マリアは、ア・コルーニャで生まれ、14歳でキューバに移住(1870年)。その4年後にメキシコに移り、食料雑貨店を営んでいました。その後コルーニャに戻り、1906年にLa Estrella de Galiciaを設立します。

1906年の設立当時は、ビールだけでなく氷の製造もしていたそうです。

それ以来、今日までリベラ家が家族経営を続けています現在の経営陣は4代目で、すでに5代目の方々も入社されているそうです

各世代の映像や写真が次々と映し出されます。試行錯誤しながら、Estrella Galiciaを成長させてきた様子が目に浮かびます。

原料

次に、ビールに欠かせない水・ホップ・麦芽・酵母の役割や特徴について学びました。Estrella Galiciaや1906シリーズには、地元・ガリシア地方の水やホップ、麦芽を積極的に使っているそうです。

ア・コルーニャの水は軟水。ラガースタイルのビールに最もマッチするそうです。

特に印象的だったのがホップ麦芽のセクション。なんと!実際に味見することができました。

ホップ
ビールの苦味と香りの源であるホップ。かつてガリシア地方でのホップ栽培を支援していた創業者のホセ・マリアに敬意を表し、2004年からガリシア地方でのホップ栽培を再開したそうです(自社のホップ畑も所有)。現在では10品種以上のホップを栽培しているとのこと。

5種類のホップ(PEOPLE、SLADEK、ADIMAL、MAGNUM、NUGGET)を手に取ることができました。

それぞれ少しだけ食べてみましたが、とっっっても苦かったです!ガイドの方にも「匂いを嗅ぐのはいいと思うけど、食べても美味しくないよ」と言われました。

「WE RECOMMEND SMELLING, NOT EATING(匂いを嗅ぐのはおすすめですが、食べるのはお勧めしません)」というシールが貼ってあります(笑)

麦芽
ビール醸造において、最も重要な原料といっても過言ではない麦芽。現在は、ガリシア地方の農家の方々と協力しながら、大麦の栽培を進めているそうです。ここでは、発芽・焙燥前の大麦と5種類の麦芽が展示されていました。

必ず2種類以上の麦芽を使用しているそうです。

大麦・麦芽も全て味見しました。白くてほんのり甘い、パンのような味がするものもあれば、ココアのような味がするものなど様々。「これがビールに変身するのか!!!!」と改めて衝撃を受けました。

写真左が焙燥前の大麦。写真中央・右が黒ビール(1906 BLACK COUPAGE)用の4種類の麦芽が混ざったもの。

続く展示では、暗闇から2代目のラモン・リベラが浮かび上がり、私たちに話しかけてくる仕掛けもありました。

最初は、何も映っていません。

2代目のラモン・リベラは、1920年にフランスのニースでマスターブリュワーの資格を取得。スペインで初めてマスターブリュワーの資格をとったうちの一人です。彼のおかげで工場の近代化が進み、ビールの生産量が3倍以上に、ビールの種類も4種類に増えたそうです。

美味しいビールを造るための秘密を語りかけてくるラモン・リベラ。

醸造

次に、醸造の流れを解説いただきました。ビールの種類に応じて、最短25日、最長90日で全てのプロセスを行うそうです。

  1. Adjunct Grains:副原料の前処理
  2. Grinding:麦芽の粉砕
  3. Maceration:麦芽、水、副原料を混ぜ、45℃〜78℃で加熱。麦汁の精製
  4. Filtration:麦汁を濾過
  5. Boiling:102℃で加熱。ペレット状のホップを追加
  6. Clarification:麦汁をワールプールタンクに入れ、不用物を除去
  7. Fermentation:発酵(7日間)
  8. Maturation:熟成(12〜20日間)
  9. Conditioning:コンディショニング

実際に使われていた5つのタンクが展示されています。

近づくと、年季が入っているのがわかります。

また、発酵前の麦汁(Brewing Wort)と発酵後・熟成前の若ビール(Young Beer)を飲むことができます。麦汁は、香り・味とともに蜂蜜のような甘さが印象的で、苦味はほとんどありませんでした。一方、若ビールは雑味があるものの、ビールらしい苦味を感じました。

蛇口を捻ると麦汁や若ビールが出てくる仕掛けになっています。こちらの写真は若ビールの蛇口と注いだ様子。

ボトル

Estrella Galiciaシリーズや1906シリーズを中心に、歴代のボトルやラベル、その特徴が紹介されています。

1906年から現在までのボトル・ラベルが展示されています。100年を超えて変化し続けるビールがずらりと並ぶ様子は、圧巻でした。

原料の一部にタコの煮汁を使ったビールもあるそう(写真中央)。飽くなきクリエイティビティの探求に脱帽です。

ビールと流通

ここでは、稼働している工場の一角を見られます(瓶詰めや、ラベリングなど)。私がツアーに参加した際は、従業員の方が作業されていたため、写真撮影はNGでした。

工場の広さは圧巻でした。スーパーマーケットや小売店向けの瓶を1時間に56,000本、レストランやバル向けのリサイクル可能な瓶を1時間に72,000本出荷できるキャパシティがあるそうです。

広告とスポンサー

これまでの広告やスポンサー活動が紹介されています。

なんと、Estrella Galicia 0.0(ノンアルコールビ)が公式スポンサーとなっている、スズキ・GSX-RRやF1で活躍するフェラーリの実物が展示されていました。

スズキ・GSX-RR。実際に跨ってもOK。写真も撮れます。

フェラーリ(私は実物を初めてみました)。こちらは触れてはいけないとのことでした。

音楽イベントの協賛もしているそう。VRゴーグルを装着し、音楽フェスを擬似体験できる場所もありました。

ゴーグルをかけると、目の前にバンドが現れ、演奏開始。まるで本当にフェスに参加しているような気分です。

ここまでのセクションでは、歴史や農業、科学技術や文化など、様々な分野を横断しながらビールについて理解を深めていきました。

テイスティングとビールカルチャーのワークショップ

ビアホールに移動し、いよいよビールを飲む時間!

まずはビールの注ぎ方のレクチャー。ガイドの方が手本を見せてくださった後、自分でも注いでみます。手順は以下の通り。

  1. グラスを斜めに傾け、液体のみを注ぐ。
  2. 徐々にグラスを垂直にし、液体がグラスの”30ml”の線まで達したら、一度レバーを閉める。
  3. レバーを少しだけ開け、泡のみが出る状態にする。グラスいっぱいに泡を注いだら完成。

ほぼ注ぎ終わりの時の写真。泡のみを注いでいます。

自分で注いでみたビール。少し飲んだ後に写真を撮ったので、泡が減っています。不器用な私は少し苦戦しました(笑)

教えていただいた手順に従って注いでみると、驚くほど泡がきめ細かく、ビールの味わいを閉じ込めてくれていました。また、常に決まった向きから飲むと、最後までビールの風味を損なわずに飲めるとのことでした。

続くペアリング体験では、5種類のビールと缶詰が準備されていました。ガリシア地方はスペインの中でも特に魚介が有名なので、嬉しいポイントでした。

缶詰はすべてガリシア地方のもの。

左から:
①La Estrella De Galiciaとマグロのオリーブオイル漬け
②Estrella Galicia de Bodegaとオイルサーディン
③1906 de Bodegaとタコのオリーブオイル漬け
④1906 Red Vintageとホタテのソース漬け
⑤1906 Black Coupageとムール貝のピクルス

La Estrella De Galiciaは、創業当時のオリジナルレシピで作られたジャーマン・ピルスナー。ものすごく軽やかで、ジューシーなツナとの相性がバッチリでした。

Estrella Galicia de Bodegaと③1906 de Bodegaは、低温殺菌されておらず、フレッシュな味わいが特徴のスペシャル・ラガー。専用の車両とタンク、配送ネットワークを使い、工場から直接レストランやバルに届けているそうです。ちなみに”de Bodega”とは「貯蔵庫から(そのままお届け)」というようなニュアンスです。

スペイン巡礼の最終地点、サンティアゴ・デ・コンポステーラのレストランで見つけたEstrella Galicia de Bodega。ア・コルーニャから電車で45分ほどで訪れることができます。

ラガー特有のキレの良さがありつつも、きめ細かい泡のおかげで口当たりがまろやか。限られた場所でしか味わうことができないので、レストランやバルで見かけたらぜひ飲んでみてください!

1906 Red Vintageは、琥珀色をしたドッペルボック(アルコール度数8%)。カラメルのような香ばしさと麦芽の芳醇な味わいがあり、軽やかな苦味が舌に残ります。ホタテのソースは、トマトの酸味と甘味が効いており、ビールの苦味との対照的な味わいを楽しめました。

1906 Black Coupageは、4種類の麦芽と2種類のホップを使ったデュンケル・ボック。コーヒーのようなコクがありつつも、喉越し爽やか。また、私はムール貝のピクルスを初めて食べたのですが、衝撃的な美味しさでした。ムール貝のパンチのある酸味と1906 Black Coupageのまろやかな味わいが、見事なバランスでした。

ア・コルーニャの街を眺めながらビールを楽しめます。

ショップ

ペアリングを満喫したら、最後はミュージアムショップへ。ここでも五感を刺激するサプライズが。どんなサプライズかは、みなさんが訪れた際のお楽しみです。

ビールだけでなく文房具やペアリング用の缶詰、衣服など、充実していました。

私はオリジナルトレーナーを買いました!また、ツアーの参加特典として、ナップサックとグラスがもらえます。

終わりに

最終的には、2時間30分ほどミュージアムに滞在しました(あっという間でした)。

今回ご紹介できたのは、MEGAミュージアムのほんの一部です。様々な仕掛けが散りばめられているので、ぜひみなさんも訪れてみてください!

参考

・Museo Estrella Galicia, https://mundoestrellagalicia.es/, 6 Nov 2023.
・Estrella Galicia Beer, https://estrellagalicia.es/, 6 Nov 2023.
・Beers 1906., https://cervezas1906.es/, 6 Nov 2023.
・Corporation Hijos de Rivera, https://corporacionhijosderivera.com/, 6 Nov 2023.

スペインビールビール工場見学フードペアリング

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

タケウチカナコ

ビアライター

学生時代にドイツに留学したことをきっかけにビールにハマる。現在は、気軽に訪れやすいクラフトビールバー・居酒屋開拓に夢中に。2023年9月からスペインに渡航。スペインのブリュワリーやクラフトビアバー、ビール工場を沢山訪れるべく、スペイン語の習得に励んでいます。ブログ:ビールと世界と暮らしと(https://beerworldlife.com/)にて情報発信中

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