村とともに “創る”。東京・檜原村発のクラフトビール『鬼源兵衛の力石』誕生!(後編)
“東京”を忘れるような場所「檜原村」に惹かれ、村人に喜んでもらえるビールをつくろうと立ち上がった ”バンビリボッチ”の仲間たちは、村人が飲みたいと思うビールをつくろうと、2025年5月、村の方々の協力を得て『クラフトビール総選挙』を実施した。

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村とともに “創る”。東京・檜原村発のクラフトビール『鬼源兵衛の力石』誕生!(前編)
彼らが村のさまざまな人たちから話を聞いてきた中で印象に残っていたいくつかの「民話」、村の名産で、村のキャラクター”ひのじゃがくん”にもなっている「じゃがいも」、村の名であり村を包む緑や空気を生み出している「檜」をキーに、それぞれからイメージする4種の候補ビールを設定している。
お待ちかねの投票結果は・・・?
投票期間は、2025年5月5日から23日までの19日間。村の広報紙「広報ひのはら」にも折込チラシを封入した。投票箱は村役場をはじめ、村内の飲食店や土産物店など13カ所が設置協力し、村民の他に観光で檜原村を訪れていた人も投票した。そして、短期間ながら、338票が集まった。
結果、選ばれたのはペールエールの『鬼源兵衛の力石』だ。
「どれが選ばれるかは、僕たちも本当に予想がつきませんでした。ですが、鬼源兵衛は檜原村に実在した人物の民話で、村の人々は世代問わず、子供の頃からこの民話を伝え聞いてきたと話す人が多かったのです。まさに檜原村の英雄として心に刻まれていることが選ばれた理由にもなっているようです」と吉沢翔平さん。
村の宝=水を大切に汲み、いよいよビールづくりへ
いずれ村内での醸造を目指しているが、今回は長野のブルワリーの協力でビール醸造を行うことになり、早速、郷土資料館で調べた鬼源兵衛の歴史を改めて洗い出し、ビールの最終レシピをメンバーで話し合った。民話で伝わる鬼源兵衛という人物のどっしりとした静かなる力強さを表現するために、原料のホップは華やかなアメリカ系ではなく、ヨーロッパ系のホップを選択。発酵度を調整することで厚みのある麦汁に仕上げるなど、ブルワリーとも相談しながらレシピを確定した。
初めから決めていたのは、必ず檜原村の湧水で仕込むこと。村の人からもぜひそうしてほしいという声もあり、村の協力を得て、村内の集落水道と呼ばれる水源(※)から600リットルの水を汲み上げることになった。そして当日、メンバー全員が手作業で採水することから、いよいよビールづくりが始まった。
用意したポリ容器に汲んだ水を車に積み込むと、すぐに檜原村を出発。揺れなどに注意しながらおよそ230km、その日のうちにブルワリーまで運び入れ、翌日は朝から早速仕込み作業に取り掛かった。
※この水源の水は「檜原村の水」としてペットボトルで販売している
https://yamabukiya.net/shop/products/detail/90
いよいよ完成のビールが払沢の滝ふるさと夏まつりに登場!
”鬼源兵衛”は鬼とついているが、重い石を動かせる彼の力を、人のため、村のため、社会のために役立てた人物と言われている。そんな静かなる力強さをラベルデザインにも込めた。
「全体に施したこの色彩は“檜原村の地に差す午後の陽”を表現しました。そして、村に生きる人たちの暮らしの軌跡や営みの揺らぎを線で表現し、その線の流れと響き合うように、名前を“鬼源兵衛”と置き、それ以外は極力削ぎ落としています。このビールを手に取ったとき、また、誰かと分かち合うときに、自然と語りたくなるような余白を持たせています」と丸尾さん。
このビールは、現在檜原村のやまぶき屋で先行販売をスタートしている。
そして、このビールを味わう絶好の機会となるのが、8/16(土)開催の「払沢の滝ふるさと夏まつり」だ。当日は、日本の滝100選の払沢の滝のライトアップや、観光大使の玉袋筋太郎さんも登場し「檜原音頭」も披露される。そして、クラフトビール『鬼源兵衛の力石』は会場の「ひのじゃがくん&やまぶき屋」で販売予定だ。人々の役に立とうと大石を運んだという源兵衛を思い、檜原村の自然とともにビールを味わうことこそ格別な味わいになるに違いない。
ビールがメディアとなり、伝え、広めていく
バンビリボッチのメンバーは、これからも村のためになりたいと切に願い続けている。今回の総選挙では、外出もままならない高齢者などの声を受け止めづらかったことを反省し、今後は介護サービスなどの協力を得て、彼らが足を運び、話を聞くつもりだと話す。
「私達の活動の根幹にあるのは、檜原村に、都会の生活ではついつい忘れられがちな大切な何かがあると感じていることなのです。昔から語り継がれてきた伝承や文化・歴史、自然と調和する暮らし方、村民同士が良い意味で競い合いながらも助け合うカルチャーなどと言語化に挑戦し、それらを”村民の日常”と表現し、それを”ビール”というメディアに載せてカタチにし、それが村にも村以外にも受け入れられていくことで、”村民の方々が、自分達(村民)の(あたり前にしてきた)日常に誇りを持つ”状態を創りたいというのが私達の願いとしてあります。 総選挙を通して村の誇りを教えもらい、外からは一見過疎地域で課題が多くみえるかもしれないこの地域から、中に入って初めて感じた”東京都の陸続きの唯一の村”が持っている数々の大切なことを、ビールというメディアを使って発信していきたいと思っています。このビールに触れる瞬間は、人によって異なると思いますが、結果として、檜原村を知る機会となり、現地に足を運んでみようかなという動きが、自然に生まれると良いなと思っています。 そして、その変化を見た時に、檜原に住んでいる人や、檜原出身の方々が、生まれ育ったこの土地への愛着が深まったりすると、今よりさらに豊かな地域になるかなと考えています」
社名の由来は、ある日、丸尾さんの子供たちがソファーでジャンプしながら歌う「バンビリボッチ、バンビリボッチ♪」という言葉がきっかけだという。「それって何?どんな意味?」と聞くと「意味なんてないよ、踊るんだよ〜」と笑顔で楽しそうにしている子供たちの姿に、村の課題などを頭でっかちに考えすぎるよりも、それを一旦脇に置いて、まずは楽しんで動くことから始めることが大切ではないかと気づき、この言葉を社名にしたという。そんな彼らの姿勢が村の人たちとのコミュニケーションを円滑にし、協力し合う関係を生み出している。
今後『鬼源兵衛の力石』の取り扱い先も増える予定で、そして、総選挙で選外となったビールもいずれ登場する日もそう遠くないかもしれない。
彼らはビールを造っているのではなく、ビールで紡ぐ村の未来をともに創ろうとしている。それはゆっくりと穏やかに進んでいくに違いない。
しっかりと地道に檜原村に根付いていく姿を、これからも注目していきたい。
バンビリボッチ公式HP
YouTube 檜原村のビールができるまで(バンビリボッチ)
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

















