[コラム,ブルワー]2018.2.18

和食と合うビールを追求するブルワリー 【ブルワリーレポート シンキチ醸造所編】

シンキチ醸造所ブルワリーレポート和食堀澤宏之氏高崎市

「美味しかったよ。今度、行ってみたら?」

昨年夏ごろ、とあるビアパブのオーナーから群馬県高崎市にある「シンキチ醸造所」のことを聞いた。ここは2016年11月に醸造免許が交付された高崎で初めてのブルーパブ。個人的には地方でクラフトビールが定着していくには、関東だと高崎、宇都宮、水戸付近(都心より100km圏)の盛り上がりがポイントと考えている。どんなコンセプトがあるのか知りたく、現地を訪れてみることにした。

和食に合うビールを提供したい

オーナー兼ブルワーである堀澤宏之氏は、和食の板前として活躍をしている。そのなかで「日本酒や日本のワインには和食を意識したものがあると感じていました。しかし、ビールには和食を意識したものがないと思ったことが動機の1つですね。食中酒としてあってもいいと思いました」ときっかけを話す。

料理家としての顔をもつ堀澤氏。出版もしていて、美味しそうなレシピがたくさん載っている。興味のある方は検索してみてほしい。

「ビールは炭酸があり、苦味があるというのはアイデンティティだと思いますが、相性が良くないとも思っていました。だとしたら今までのイメージを変える食中酒としての『麦の酒』も面白いと考えています」と弱い炭酸と苦味を抑えたビールを特徴にしている。

現に「ビールは飲めなかったけど、ここは飲める」という声を多くいただき、リピートされると話す堀澤氏の顔は嬉しそうであった。

「グラスロード」(左)と「柚子のばかたれ」(右)。グラスロードはマンダリン・ババリアを使用。柑橘を思わせる軽い苦味だが「これでも今までで1番苦味が強い」とのこと。

ガス圧を抑えるため二次発酵を取り入れている。これは他のブルワーに聞くと酵母の状態、糖分の種類・量、温度などで発酵が変わるため一定にすることは難しい技術だという。この辺りは「どのようにしたらより和食に合う食中酒となるのか」を考えており、2年目を迎えた今年の課題だという。

料理も絶品。小皿で提供されるので色々食べられるのが嬉しい。美味しくて食べることに夢中になってしまい「もくもくと食べていましたね」と言われてしまった……。

「長く続けていきたい」との思いから名付けた店名

堀澤氏は4年前から同地区でザブンというお店でクラフトビールを提供している。そこでの経験から「この土地ならクラフトビールが受け入れられる土壌があるのではないか」と感じたこと、お客さんが飲むお酒を自分たちで造れたら楽しいだろうと思い、栃木マイクロブルワリーで醸造研修を重ね、設備関連についても同ブルワリーの横須賀貞夫氏に相談をしながら立ち上げた。

と、ここで疑問が湧いてきた。「シンキチ」という店名だ。てっきり醸造所立ち上げに関連のある方かと思っていたが、そうではないようだ。

JR高崎駅西口から徒歩約10分。理髪店だった店舗を改築した。

「店名ですか? とある飲食店のスタッフさんから『うちのお爺さんに似ている』と言われて。そのお名前が『シンキチ』だったんですよ。で、『シンキチ』ってちょっと昔の名前っぽいですよね。そこで年をとっても長くビール造りができたらいいなという思いを込めて名付けたんです」と由来について教えてくれた。

まさかこのような理由とは思いもよらなかった。

店内の風景。レトロ感のあるところがまた良い雰囲気を醸し出している。

もっと追求し、高崎でしか飲めないビールを!

1年が経過し、見えてきた課題にも触れてもらった。それはやはり醸造技術の向上だという。

「まだ何もわかっていないという感じですね。他のブルワーさんにとって当たり前のことがまだまだ理解できていないと思います。洗練されていくポイントがたくさんあるはずで、そういうところを身につけていかないといけないですね」と改めてビール造りの奥深さを痛感している。

具体的にはどんなところだろうか。

「味と香りに透明感を出したいですね。今は水質調整を行っていないのですが、調整をして明らかに変わったとの声も聞きます。挑戦してみる価値はあると思っています。他には酵母の取り扱いと糖化技術の向上です。これはもっと追求して、研ぎ澄まされた感覚を身につけたいです」と語る。

堀澤氏にとってこの1年は多くの課題がみつかったとともに充実感も得られた時間となった。「1年前はオドオドしていました。今は落ち着いて話せるようになりましたね」と経験したことは自信となっている。

しかし、その一方でリピートしてくださるお客さんを見て、免許交付当時は祝福を受けても「きちんと造れるのだろうか」と不安ばかりだったことから「1年でよくここまでやったなぁ」と感慨深いという。

現在、醸造所近隣の飲食店でも提供していて「取り扱っていただけることはとてもありがたいです」と話す。遠方の飲食店からも問い合わせがあるというが「高崎に来ないと飲めないけど、高崎にきたら飲めるという形が理想」と語る。こうした形が全国に広がっていくことで地方に「根付いた」といえるのではないだろうか。

将来はサワーエール特化型に!?

密度の濃い時間を過ごしてきたなか、どんな夢を描いているのだろうか。

「私自身は酸っぱいビールが好きなので、乳酸菌を使ったビールは挑戦したいです。サワーエール特化型でもいいと思っているくらいです」と今とは真逆の構想が飛び出てきたのには驚いた。

「それに食中酒としては絶対に合うと思います」と発酵食品の多い和食とも相性が良いと力強く語る。「でも、まずは『日本人にとっての麦の酒』を考えていきたいです」と醸造はとても楽しいという。

最後になるが、ファンへの思いを訊ねると「飲んでくださる方がいるからこそ造れているので。『俺のビールを飲んでみろ』という気持ちはなく、『いつも飲んでくれてありがとう』。それしかありません」と感謝の気持ちを噛みしめるように話す姿がとても印象的だった。名前の由来には驚いたが、高崎のブルーパブのパイオニアとしてこれからどんな展開を私たちにみせてくれるのか。期待したいと思う。ぜひ高崎へ味わいに行ってほしい。絶品の和食とともに。

醸造所内にて。1回の仕込みは150L。昨年は週1回のペースで50回の仕込みを行った。

★SPECIAL THANKS 高橋朗子

◆シンキチ醸造所 Data

住所:〒370-0836 群馬県高崎市若松町2-11

電話:080-6629-2017

Facebook:https://www.facebook.com/1705574396327041/

営業時間:金曜日・土曜日17:00~21:00 日曜日12:00~17:00

定休日:月曜日~木曜日

※営業についてはFacebookページをご確認ください。

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05007木暮 亮

この記事を書いたひと

木暮 亮

ビアジャーナリスト

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは2000種類以上。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

【メディア出演】
テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」

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