[コラム,ブルワー]2018.5.11

ビール醸造への道 〜ビールファンがビールの造り手を目指すとき〜  身近にある豊かさを描きたい! 幕張ブルワリーの挑戦

ビール醸造幕張ブルワリー海浜幕張

一介のビールファンがビールを楽しむ立場から、ビールを造る立場に変わっていこうとする果敢な姿、チャレンジャーを、このシリーズではお伝えしたいと考えている。
何が彼らをビール醸造に向かわせ、どのように向かっていったのか……。
その姿は、我々にビールへの関わり方へのある示唆を与えてくれる。
これまで、武蔵野、三多摩エリアから「Cool air one(2018年4月よりOGA BREWINGに変更)」というビールブランドを発信している小笠原恵助氏、東京都狛江市に「和泉ブルワリー」をオープンさせた和泉俊介氏を紹介した。
今回紹介するのは、昨年9/14、海浜幕張に「幕張ブルワリー」をオープンさせた、富木(とみき)氏の物語である。

「幕張ブルワリー」を立ち上げた富木氏

キッカケは街づくりプロジェクト

幕張ブルワリーの社長でもある富木氏は、現在も某IT企業の社員である。会社には、ある条件のもと許可されており、2足の草鞋(わらじ)を履いた形を取っている。「和泉ブルワリー」の和泉氏と同じ副業という形である。2018年度は、副業元年とも言われており、働き方改革の好例として、未来の仕事のロールモデルになり得る事例である。

そんな富木氏がビール醸造に向かったキッカケは、千葉市の「街づくりプロジェクト」である。ボランティアでプロジェクトに参加するうちに、地元の千葉市には多くの田畑があり、豊かな食材があることに驚く。
―― 地元の食材を使って何かできないか……。
また、各地の街づくり成功事例を見ていくと、活動のあとにビールで乾杯をして、活動メンバー同士がより親密な関係を持ち、それが活動の持続性につながっていることに気付く。
IT企業で働く中で、アメリカへ頻繁に出張していた富木氏は、アメリカのクラフトビールに触れる機会も多く、特に富木氏が気に入っているオレゴン州のポートランドでは、地元でとれた麦やホップを使ったクラフトビールに多く出会った。
―― ビールと地元の食材を使った街づくり……。
地元を盛り上げたいと思う富木氏の中にひとつのコンセプトが生まれた。

予想外の連続!?

ビール、地元食材による街づくりというコンセプトを思いついた後、富木氏がすぐに幕張ブルワリーを立ち上げたわけではない。このときはまだ、ブルワリーを経営するようになるとは思っていなかったそうだ。
富木氏は、まず、ビールと地元食材による街づくりの可能性を、小さな試みにより、確認した。委託醸造を使って、自らビールを造り、それを、地域のお祭りで売ってみたのである。(継続的な商売としてビールを販売するわけではない場合、免許がなくとも、委託醸造で造ったビールを販売することができる)
その時造ったビールは、幕張産のイチゴと人参を副原料に使った2種類のビールだったそうだ。ビールは好評となり完売する。
この試みをキッカケに、富木氏の予想を超えたことが起こる。
日本経済新聞の千葉県版に、地元の食材を使ったビールを売る富木氏のことが記事として紹介されたのである。この記事は多くの地元の方に読まれ、富木氏に声をかけてくれる地元の方々も現れ始めた。
そして、予想外の出来事はここで終わらない。
幕張を開発するデベロッパーの方が、街づくりで活躍しそうな人材を探しており、新聞記事を読んだ担当者が、富木氏にコンタクトしてくるのである。
ポートランドのような街づくりがしたいのですが、富木さんも手伝って貰えませんか?」
デベロッパーの方のオファーに対して富木氏は提案する。
「ポートランドといったらクラフトビールです。クラフトビールを軸に、街づくりをしませんか?」
ポートランドはビールファンならお馴染のビールの街である。市内だけで75以上のブルワリーがあるクラフトビールの街だ。既に何度かポートランドに訪問していた富木氏は、人と人が心を開いて交流し、楽しい街が出来上がる重要な要素のひとつとして、ビールがあることを体感していた。
デベロッパー側には当初、ポートランドというコンセプトはあったが、ビールを軸にという考えはなかったそうだ。しかし、デベロッパーの方は、富木氏の提案に賛同する。
こうして、デベロッパーとタッグを組んだ富木氏は、「幕張ブルワリー」設立に向けて動き出すのだ。
まさに、予想外の連続が新しい試みを生み出したのだ。

動いて、動いて、動きまくる!

予想外の連続が生み出したとも言える富木氏の幕張ブルワリー。
だが、これは偶然なのだろうか。
著者はそう思わない。
取材から見えてきたことは、富木氏は、実に様々なことを仕事以外でやっているということだ。経営学、バイオテクノロジー(富木氏はバイオの博士号を持っている)、街おこしプロジェクトのボランティア、野菜作り、トライアスロン、自転車旅行、そしてビールの飲み歩き……。
深夜、東京駅発の最終バスで富木氏はいつも眠りこけている。最終バスに乗れればいいが、一日中動き続けた結果、帰宅時の電車で眠ってしまい、家から離れたとんでもない駅で立ち尽くすことも多いらしい。
起きている時間、富木氏は、「動いて、動いて、動きまくっている」のである。
富木氏自身は、動きまくっているとの認識はないとのことだが、著者はこの行動こそが、予想外の連続を生み出したと考えている。このバイタリティー溢れる行動が、人々を刺激し、刺激された人々が富木氏と仕事をしたいと思う。この連鎖が起きているのだろう。
―― 何かをやりたいとき、考えすぎず、まず動いてみよう。
考えるだけでは何も生まれないし、誰も気づかない。富木氏は、行動する意味を、身をもって我々に教えてくれているのかもしれない。

幕張ブルワリー設立に向けて動き出した富木氏は、まず仲間づくりを始める。そのときもこの「動いて、動いて、動きまくる」という行動が仲間を呼び込むのである。
共同経営者の大塚絵美氏とは、2012年の徳之島で行われたトライアスロンの大会で出会っている。トライアスロンで出会ったときは、帰りの空港で30分ほど話をして、フェイスブックで友達となっただけであった。しかし、フェイスブック上に大塚氏が上げるビール話と綺麗な料理がとても印象に残った。そして、時は流れ、2016年。幕張ブルワリーを一緒に経営できる人は誰が良いかを考えたとき、大塚氏のことが思い浮かんだそうだ。
―― ビールが好きで、センスの良い料理が作れる大塚さんにお願いしよう。
富木氏は、大塚氏に、幕張ブルワリーの共同経営者になってくれないかとオファーを出す。大手飲料メーカーでも実績を出していた大塚氏は想定外のオファーに驚くとともに悩むこととなる。色々なことを考えると、そう簡単に答えがでるものでもない。だが、悩んだ末、一大決心をする。大塚氏は、大手企業を飛び出し、幕張ブルワリーの共同経営者となるのである。
さらに、ビール醸造設備は、ポートランドで訪問したビアパブ「Labrewatory」を経営している、ビール醸造設備メーカー「Portland Kettle Works」から輸入した。ポートランドに何度か訪問して打ち合わせを行い、さらにLabrewatoryに併設されている醸造所で、ビールの仕込みを何度か行い、ビール造りも勉強した。
「動いて、動いて、動きまくる」富木氏の行動の果てに集まったとも言える共同経営者とビール設備メーカー。「幕張ブルワリー」は、富木氏と大塚氏を中心に運営している(大塚氏は専業)。

左から、Portland Kettle WorksのPatlick氏、幕張ブルワリーの大塚氏と富木氏、LabrewatoryのブルワーのJeb氏。Labrewatoryの醸造所にて。

幕張ブルワリーが創り出すもの

17.5haという首都圏最大級の新開発地域と、そこに建設された「幕張ブルワリー」。
富木氏は、コンセプト通り、アメリカのポートランドのような街とブルワリーになることを期待している。
「ポートランドの人たちは、地元にある沢山のビアパブで気軽にビールを楽しんで、豊かに生活されています。幕張ブルワリーも、地元の方が気軽にビールを楽しんでいただける空間になれば良いと思っています。地元の食材も沢山使っていきます」

『身近にある豊かさ・幸せを感じる世界を描く』

これが、幕張ブルワリーのコンセプトである。

幕張ブルワリー外観。いくつかの施設が入る建物の中に居を構える。木材の質感を感じさせるその造りは、周りの自然との一体感を感じさせる。

店内の様子。内部も非常にシックで落ち着きがあり、心安らぐ空間となっている。

パブの奥に醸造設備があり、ガラス越しに醸造設備がしっかり見えるようになっている。

今回の記事は、幕張ブルワリー設立までの経緯をかなり集約して記載したものとなっている。ここに書ききれなかった話も沢山ある。幕張ブルワリーに興味を持っていただけたなら、ぜひ飲みに行って、いろいろな話を富木氏らに聞いてもらいたい。ビール醸造だけでなく、普遍的な仕事への対峙の仕方のヒントがもらえるはずだ。
幕張ブルワリーは、2018年3月に醸造免許を取得。まもなく、自らでビール醸造を開始する。ビアパブは、10タップである。
醸造に向けて、ポートランドに研修に行くなど、技術の向上にも抜かりはない。バイオの博士号を持つ富木氏にとって、ビール酵母との格闘はかつての研究の延長線上にあるとも言える。
―― バイオの知見を総動員して、美味しいビールを造りあげる!
富木氏は熱い思いを抱いている。
幕張ブルワリーの今後が楽しみだ。

【幕張ブルワリー情報】
幕張ブルワリーの素敵なところのひとつに、音楽などのイベントを積極的に開催していることがある。
――音楽に身をゆだね、至高の一杯に浸る。
家の近くに、音楽とビールが楽しめるパブがあったら……、何ともうらやましい話である。

営業時間
平日  11時30分~15時、17時~21時30分 (L.O. 20時30分  ※水曜定休(祝日の場合を除く)
土日祝 11時30分~22時 (L.O. 21時)

住所 〒261-0014 千葉市美浜区若葉3-1-21(最寄駅:JR海浜幕張駅)
Facebook https://www.facebook.com/makuharibrewery/
E-mail info@makuharibrewery.com
電話 0433071962

音楽イベントの様子 その1。醸造装置を前にしたバンドがカッコいい!

音楽イベントの様子 その2。店内に常設のピアノを用いたライブもある。

幕張ブルワリーで至福の時間を!

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09001小川 雅嗣

この記事を書いたひと

小川 雅嗣

ビアジャーナリスト/ビール研究家

1966年、東京生まれ。これまでずっと企業の研究員として過ごしている。
ビールの好きなところは、美味しいところ、自由で多様で何でもありな懐の深いところ、そして、飲むとみんなが笑顔になるところ。そんなビールには、まだまだいろいろな楽しみ方、美味しさがあるのではないかと思っていて、ビールについて疑問に思ったことを調べたり、思いついたことを試したりする中で、ビールの楽しさが伝えられるといいなと思っている。
人生やりたいことは、とにかく全部やろうと思い、ビアジャーナリストに。その他、音楽、映画、小説などの活動も、大したレベルではないが、いろいろやっている。

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