[コラム,ブルワー]2018.6.23

過去から脱却し、ビアギークに一目置かれるBREWERYに 【ブルワリーレポート WIDMER BROTHERS BREWING編】

Thomas Bleigh氏WIDMER BROTHERS BREWINGブルワリーレポートポートランド

今回、紹介する「WIDMER BROTHERS BREWING(以下、WIDMER)」は、オレゴン州で小規模醸造が解禁となった1984年に創業した老舗のブルワリー。少し前までは人気の低迷もあり、売り上げが伸び悩んでいたが、2016年に設立した「Innovation Brewhouse」部門により人気が再興している。どのような取り組みをして復活を果たしたのか。醸造責任者であるThomas Bleigh氏に話を聞いてきた。

既存に捉われず、創造性を伸ばす

「アメリカもナショナルブランドの売り上げは低下してきていますし、中間層クラスのブルワリーの売り上げは横ばいです。WIDMERもフラッグシップであるヘーフェヴァイツェンが、以前は売り上げの80%を占めていました。以前はこのようなビールをつくるブルワリーもなく、人気のビールでした」。しかし、時代とともに趣向に変化がみられ、IPAのような華やかなアロマと強い苦味が特徴のビールが好まれるようになった。クリエイティブなビールをつくる小規模醸造所が増えてきたことで人気が低迷した。

WIDMER BROTHERS BREWINGの外観。1990年より現在の場所で醸造を行っている。道路を挟んで反対側にInnovation Brewhouse部門とパブ、ストアがある。

その理由として、「新しいスタイルのビールをつくることを好むブルワーが多くなりました。日本にも似たような傾向があるかもしれませんが、飲み手が新しいスタイルのビールを求めるようになってきたからです。ラガースタイルやサワービールもそうです。その結果、ナノブルワリーやマイクロブルワリーの売り上げは上がっています」。

Innovation Brewhouse部門の醸造設備。

実は「Innovation Brewhouse」自体は2006年から立ち上がっていたが、その時点では社内での取り組みとしての存在だった。新しいビアスタイルに挑戦し、創造性を伸ばす「楽しく、面白い試み」を一般向けに行うことで、インフルエンサーであるビアギークたちを通じて、広く知られるようになった。それにより「定番ビールにも良い影響が表れた」という。

ビールのラインナップはとても豊富。ピルスナーからサワーエール、バレルエイジと幅広いビールを楽しむことができる。

「オ州酒ブログ」のRed氏によると、それまでのWIDMERの戦略は退屈だったという。「楽しく、面白い試み」によりファンが拡大してきたといい、「2年足らずで、評判が変化して今ではビアギークの方たちからも一目置かれる存在になっていることは凄い」と話す。

訪問時には26種類ものビールを飲むことができた。次の取材予定がなければ、色々飲んでみたかった……。

ドイツビールから影響を受けたWIDMER兄弟

ここで歴史を簡単におさらいしよう。創業者は名前にあるようにKurt氏とRob氏のWIDMER兄弟。1970年代にホームブリューが解禁になったころより自分たちでビールをつくるようになった。1984年に趣味であったビールつくりを職業にする決心をし、ブルワリーを立ち上げた。2人の姉がドイツ国籍の方と結婚していた縁もあり、ドイツへ行った際にアルトビールの酵母を持ち帰り最初のビールをつくった。2人はドイツスタイルのビールに大きく影響を受け、創業からほとんどドイツスタイルのビールをつくってきた。フラッグシップは、アルトビールとヘーフェヴァイツェン。ヘーフェヴァイツェンは、レシピにアルト酵母を組み込んだところ「美味しい」と評判になり、人気のビールになった。この2つは1984年からレシピがずっと変わっていない。

ストアに飾ってあるWIDMER兄弟の写真。

「80年代はクラフトビールが盛り上がる前でしたので、ヘーフェヴァイツェンくらいの苦味がちょうどよく受け入れられていました」。

創業当時からレシピが変わっていないアルトとヘーフェヴァイツェン。量が少なくなってしまっているのは、美味しくて写真を撮るのを忘れてしまったから。

斬新なアイデアで古きイメージを取り払う

短期間での人気回復。具体的にはどのような取り組みをしたのだろうか。

「飲み手に対して、会社の古いイメージを変えるため、新しいビアスタイルで、かつ美味しいビールを示さなければなりませんでした。それと『FAN(ここでは楽しみ・ユニークを意味する)』を設けておく必要がありました」。

こちらはWIDMER BROTHERS BREWING部門の醸造設備。規模がけた違いに大きい。

その1つにドーナツを副原料として用いたビールがある。飲み手が「えぇ~」と思うが、飲んでみたら「美味しい!」と感動するビールをつくっている。このユニークさが受け入れられれば、イメージチェンジは可能だという。

「幅を広いビールをつくるため、他のお酒の要素を取り入れています。日本酒にもとても興味があります。多くのクラフトブルワリーは、ドイツ、ベルギー、イギリスのビールからの影響を受けていますが、私はワインや日本酒の要素を取り入れてつくってみたいです」。

ドーナツを使ったビール。ドーナツ味がするわけではないが、ほんのり砂糖の甘味がローストによる苦味と絶妙に合わさり、とても飲みやすかった。

失敗を恐れず、チャレンジすることを重要視する姿勢があるからこそ飲み手の予想を超えるビールが次々に登場してくるのだ。飲み手も美味しいと感じないビールだったとしても挑戦する姿勢を評価するのがポートランドのクラフトビールシーンだ。

大切なのは味のバランスとユニークさを兼ね備えること

Thomas氏は、以前はWIDMERよりも規模の小さいブルワリーで働いていたが、現在の方が自由にビールをつくれるという。

「仕事時間の40%くらいは定番になりそうなビールの開発ですが、残りは遊び心をもったビールつくりに割いています。「レシピの発想はとても楽しいです。このプロジェクトが始まったころは『そんなにアイデアはないなぁ』と思っていましたが、今では1つのビールに対して、複数のアイデアが浮かんできます。アイデアは、仲間同士でのディスカッションや違うブルワリーのビールから生まれることもあります。お酒とは関係のない飲みものからひらめくこともありますよ」。

パブからもInnovation Brewhouseの設備をみることができる。

これまでもドーナツをはじめ、想像もしかなかったビールを生み出している。しかし、珍しい原料を使えばいいわけではなく、「品質が高くて、美味しいビールでないといけない」といい、原料よりも誕生するまでのストーリーを飲み手が楽しめるようにすることが重要と語る。大切なのは「味のバランスとFAN」なのだ。

最後にビールつくりで大切にしていること聞くと、「やはり品質と美味しさは欠かすことができません。数多くのビアスタイルを提供していくなかでお客さんから『みんな好き』と言ってもらえるようなビールつくりを心がけています。それと常に向上心ですね」。特にピルスナーとIPAはどこにも負けないものをつくりたいと熱く語っていた。

Innovation Brewhouse醸造責任者のThomas Bleigh氏。4月に開催された「Fuji to Hood」では、SPRING VALLEY BREWERYとすだちを使ったコラボレーションビールをつくっている。

伝統にとらわれ過ぎず、失敗を恐れずに新しいことへ挑戦していく。彼らの姿勢は、日本にとって参考になる部分がたくさんあった。ちなみに今でもアルトもヘーフェヴァイツェンも現役であり、伝統的な部分も進化させている。クラシカルから創造性に満ちたビールまで幅の広さ、奥深さを味わうことができるWIDMER。ポートランドを訪れた際には足を運んでみてほしい。

◆WIDMER BROTHERS BREWING Data

住所:929 N.Russell St. Portland,OR 97227

電話:+1 503-281-2437

Homepage:https://widmerbrothers.com/

Facebook:https://www.facebook.com/WidmerBrothersBrewing/

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05007木暮 亮

この記事を書いたひと

木暮 亮

ビアジャーナリスト

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは2000種類以上。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」、「うちの逸品いかがですか?」、「Beerに惹かれたものたち」、「ビール誕生秘話」、「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

【メディア出演】
テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」

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