[コラム,ブルワー]2018.12.22

3L飲めるビール。それが私たちのビールです!【ブルワリーレポート 田沢湖ビール編】

1997年、秋田県第1号の地ビールメーカーとして誕生した「田沢湖ビール」。定番シリーズの1つであるピルスナーは、「WORLD BEER AWARD」において2014年、2017年、2018年の3度「ドルトムンダー部門」で世界一を獲得した実力派ブルワリーだ。この度、工場長が醸造開始より務めてきた小松勝久氏(現支配人)から佐々木純一氏に交代。田沢湖ビールの今昔について話を聞きたく現地を訪れることにした。

美味いか不味いかは3L飲んで決めてくれ

「田沢湖ビールの特徴は、すっきりとたくさん飲めるビールです」。

特徴を聞くと佐々木氏はこう答える。

これは小松氏がビールを学ぶため、研修で滞在していたドイツのビアパブで言われた言葉がきっかけになっている。「店員から『美味い、不味いは、まず3L飲んでから決めてくれ』と言われました。不味いビールは3Lも飲み続けられません。美味しければ気づかないうちにそのくらい飲んでしまうと。私たちもそんなビールを目指しています」と小松氏。

飲めば飲むほど、喉が渇いて飲みたくなるようなビール。小松氏のドイツでの体験が田沢湖ビールの原点になっている。

小松前工場長(右)と佐々木現工場長(左)。小松氏は現在、支配人という立場であるが、補助的に醸造にも関わっている。

「すっきりとしたビールをつくるために雑味をどうやって無くすかを常に考えています。そのために仕込みの時間を工夫しています。仕込みの時間は、長くなるほどモルトが水分に触れている時間が長くなり、モルトの殻に含まれているタンニンをはじめとする成分から雑味や渋味が出てきます。ろ過においても脂肪酸といった余計な成分が出ないようにきれいに麦汁を抽出しています。使っている水は、超軟水の和賀山塊の伏流水です。これによりすっきりとした味になります。ただミネラルが少ない分、酵母の活性は弱くなるので醸造工程を工夫しています」。

すべての作業で無駄をなくし、余分な成分が出ることを防ぐことで、何杯も飲みたくなるビールづくりをしている。

レシピは、「外気温でも状況が変わりますから、使用するモルトの配合やホップの分量を変えています。特にホップは収穫年によってα酸(苦み成分)の数値が異なるので、同じビールでも使う量を調整しています」とレシピ自体を変えるのではなく、状況に応じて調整をすることで安定した品質を提供できるよう努めている。

醸造所内の様子。現在、貯蔵タンクは1KLが10本、2KLが12本、4KLが2本。近年は、醸造量が増加し、タンクの数が不足傾向だという。

ここでしか使われないアルト酵母と低温熟成へのこだわり

定番ビールは、「アルト」「ケルシュ」「バイツェン」「ピルスナー」「桜こまち」「ブナの森」の6種類。ジャーマンスタイルを多く揃えている。これは小松氏がドイツで学んできたことをベースにしているからだ。季節限定ビールも「ダークラガー」「W Chocolate bock」「ラオホ」とドイツ発祥のスタイルと徹底している。最近のクラフトビールをみると派手さがないように感じるが、それだけこのラインナップに自信をもっている。特にフラッグシップビールである「アルト」は「ピルスナー」に負けないくらい海外のコンペティションで評価を得ている。

左からアルト、ケルシュ、バイツェン、ダークラガー、ピルスナー、ブナの森。ダークラガーは季節限定商品。ケルシュは専用グラス「シュタンゲ」で提供されるのが嬉しい。
ピルスナーは、ビアスタイル的にはドルトムンダー。一般的に伝えやすくするためピルスナー表記にしている(受賞カテゴリーもドルトムンダー)。

「軽過ぎず、重過ぎず、飲みやすいビールです。料理とも合わせやすいと思います。なによりも私が1番好きなビールです(笑)。アルトやケルシュは上面発酵酵母を使いながらラガーリング(低温熟成)するのが特徴で、ここでは約1ヶ月熟成させています。酵母は、国内では田沢湖ビールでしか使っていないアルト酵母でつくっています」。

ホップやロースト麦芽による苦味は弱く、麦芽由来の甘味はソーセージをはじめとするお肉料理との相性が良く、佐々木氏が言うように食事と一緒に楽しめる。

「EUROPEAN BEER STAR」においては、2013年、2016年、2017年の3回に渡り金賞を受賞。2018年も銀賞を獲得。世界の流行りからすると地味かもしれないが、伝統的なビアスタイルで世界から評価されているのが田沢湖ビールだ。

レストランに飾られているトロフィーたち。この他にも多くの賞状が飾られている。

余裕をもたせた世代交代

冒頭に記した通り、2018年10月より工場長が交代した。2020年5月に小松氏が定年退職を控えているためだ。新工場長に就任した佐々木氏にビールづくりへの思いと小松氏から学んだことを聞いてみた。

「身内にお酒を飲む人が多かったので、中学生のころから興味がありました。高校の生物工学科で酵母や培養を学び、卒業後は新潟工科専門学校の醸造科でビールをはじめ、お酒について学びました」。

勉強していく過程で、原料に水、麦芽、ホップ、酵母を使い、多種多様な製品がつくれるところに魅力を感じ、「ビールがつくりたい」と思うようになる。就職活動中に田沢湖ビールの求人をみて入職。11年間、小松前工場長の下で醸造に携わってきた。

「小松さんは、言葉で伝えるタイプではなく行動で見せる方。設備の故障だったり、ガスが漏れていたり音で判断できるので、トラブルを防ぐために『音に注意しなさい』と指導を受けました。あとは、『作業を無駄なく行えるようにしなさい』と教えられましたね」。

無駄をなくすことで製品のクオリティを高く維持することは、小松前工場長から受け継がれた精神なのだ。

ラベルも2018年4月から「なまはげ」がデザインされたバージョンも発売。新たな歩みが始まっている。

ホップではなく、酵母でキャラクターを魅せる!

この先について佐々木氏に聞くと、「今のラインナップは、シンプルなものが多いですが、これを極めていきたいと考えています。具体的には、酵母の特性を1番活かしたいです。私たちのビールは、ホップは全てザーツホップのみ。酵母でアロマやフレーバーに違いを出しています。ぜひ、繊細な香りの違いを楽しんでください」といい、ホップのキャラクターを活かしたビールが流行るなか、ジャーマンスタイルのビールをいかにお客さんに飲んでもらい、広めていけるかを考えていきたいと語る。

シングルホップでビールをつくることは、他社でも試みているが、定番ビールすべてにおいてシングルホップのみで醸造していることには驚いた。

最近は東北のブルワリーが集まって技術を向上し合う『東北魂プロジェクト』もあり、「新しいビールに挑戦していくことも大事なこと」と刺激をたくさん受けている。クラシカルなビールのなかに新しい技術がどのように使われていくのか。田沢湖ビールにこれからに注目していきたい。

田沢湖ビールの外観。同じ敷地には、母体会社である「株式会社わらび座」の劇場や温泉宿泊施設がある。温泉に入った後にビールを堪能することができる最高の空間だ。

◆田沢湖ビール Data

住所:〒014-1192 秋田県仙北市田沢湖卒田字早稲田430

TEL:0187-44-3988

FAX:0187-44-3983

E-mail:beer@warabi.or.jp

Homepage:https://www.warabi.or.jp/beer/index.php

Facebook:https://www.facebook.com/tazawakobeer/

Twitter:https://twitter.com/tazawakobeer

ブルワリーレポート佐々木純一氏小松勝久氏田沢湖ビール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

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