[コラム,ブルワー]2019.4.30

酵母で魅せていくブルワリーへ! 【ブルワリーレポート 石見麦酒3周年記念インタビュー】

ブルワリーレポート山口巌雄氏島根県石見麦酒

冷蔵庫に特別仕様のビニール袋を入れて、発酵・貯蔵を行う「石見式」と言われる方法で、一躍名前を広めた島根県にある「石見麦酒」。今までにないアイデアで、ビールづくりの概念を覆してきた彼らが3周年を迎えた。これまでの歩みと、この先に何を見ているのか。江津市にある醸造所に話を聞きに行ってきた。

★石見麦酒の過去記事 新たな挑戦を通じて造られるビール【ブルワリーレポート 石見麦酒編】

試行錯誤を重ね、成長した3年間

-:お久しぶりです。醸造を始めてから3年が経ちました。最初にこの3年間の感想を教えていただきたいと思います。

山口巌雄工場長:はい。醸造免許を取得するにあたり、今までにない醸造工程での申請でしたから税務署とのやりとりにとても労力を費やしました。ビールづくりの前から大変でした。

-:ビニール袋で発酵・貯蔵される手法は斬新でした。

山口工場長:実際に水を使って試験醸造をしてデータを取って、税務署に提出して申請が降りたわけですが、周囲からは「本当にビールがつくれるのか?」というところからのスタートでした。醸造開始の数ヶ月は、ご祝儀的に売れていきましたが、知名度がないので一生懸命営業をしながら、1年目はバタバタと過ぎていきましたね。

-:反応は様々でしたか?

山口工場長:この町自体は喜んでくれましたが、「ちゃんとつくれるのか?」とか「ビジネスとして成立するのか?」と、色々な反応がありましたね。業界内外から疑問を投げかけられることもありました。私は、まずは小さな田舎町から小さくはじめて、石見式の実績を積み重ねて大きくしていこうと考えていました。でも思っていた以上に早く周知されましたし、ポジティブな評価もしていただけたことで、今があるのかなと思っています。

3年間を振り返る山口巌雄工場長。

-:初年度の醸造量はどのくらいだったのでしょうか?

山口工場長:1年目は15KLでした。2年目は、石見式と呼んでもらっている当社の醸造方法に注目してもらえるようになり、21KLまで増産できました。

―:昨年の醸造量は、どのくらいだったのでしょうか?

山口工場長:27KLです。

-:ビールの種類もすごく増えています。確かはじめは3種類だったと記憶しています。

山口工場長:そうですね。今は年間で50種類くらいつくっています。

-:50種類!?

山口工場長:マイナーチェンジも含めてですけど(笑)。銘柄だと70〜80くらいじゃないでしょうか。

醸造したビールラベルの一部。

-:副原料も色々なものを使われています。どのくらいの数になっていますか?

山口工場長:いやぁ〜。毎日、どこからか送られてくるので把握しきれなくなっています(苦笑)。

インタビュー中も依頼の電話がきていた。依頼者との打ち合わせも山口醸造長が担当するので、スケジュール調整も大変そうだ。

山口工場長:オリジナルビールの依頼を受けるときは、一度必ず一緒に飲むようにしています。石見麦酒のビールを飲みながら「こんなビールがつくりたい」と依頼者の要望を聞いています。最近、オリジナルビールは、毎月数回必ず仕込んでいますよ。

-:レギュラービールはありますか?

山口工場長:ありますよ。スタートしたときの3種類と新たに3種類、石見神楽シリーズの3種類で全9種類です。あと果実酒が2種類あります。

レギュラービールの6種類。

-:新しいレシピが多いですから税務署への提出書類作業も大変ですね。

山口工場長:そうそう。でも、私たちより税務署の職員さんの方が大変だと思いますよ。毎週のように提出してくるからチェックの量が半端ない(笑)。

-:税務署の方も慣れてきているのでは?

山口工場長:多分。

-:果実酒の免許も今年の3月に取得しました。

山口工場長:ブルワリーも増え、競争が激しくなっていますから、3年目は「何か行動を起こしていかないといけない」ということで、期限付きの醸造免許から永久免許になるこのタイミングで果実酒を始めることにしました。

-:他のブルワリーとの差別化として果実酒への取り組みがあったわけですね。

山口工場長:そうですね。昨年から既存のビール事業も拡張しながら試験的に行ってきました(※1)。果実酒をつくるにあたり、設備も投資しましたので、来年の醸造量は30KLを超えていきたいと思っています。

※1 果実酒免許が交付されるまでは発泡酒扱いで対応

全国で広まる「石見式」醸造法

-:現在、石見式を取り入れているブルワリーはどのくらいの数になりますか?

山口工場長:石見麦酒でサポートしているブルワリーは、現在25件です。サポートしている醸造所から学んで、石見式を取り入れているところになるともっと多いです。

-:かなり増えていますね。

山口工場長:チェストフリーザーで発酵させる方法は、ホームブリューの世界には以前からありました。それをベースに効率を高めるため、ビニール袋を使った手法を開発しました。これは友人のブルワーと飲んでいるときに彼が言った話から生まれたもので「一緒にやろう」とはじめ、私が先に開発したので石見式という風に広まっただけです。

-:そうでしたか。

石見式醸造設備の代名詞ともいえるチェストフリーザーでの発酵・貯蔵システム。

山口工場長:今は、皆さん石見式をベースに創意工夫しながらされています。この技術は特許を取っているわけではないので、取り入れていただけるなら積極的にやってもらえればと思います。

-:太っ腹ですね。

山口工場長:私たちが苦労したことを後から取り入れる方はわざわざしなくても良いと思っています。その分をお互い切磋琢磨して性能を高めていければと。そう考えると最も進歩したのは、交流できるネットワークが増えたことだと思います。原料やボトルを近隣のブルワリーさんと共同で購入することで、送料などのコストを抑えられるようになりました。

-:それは大きいですね。

山口工場長:私たちのところで設備技術を学んだところとはつながっているので、お互い補い合いながら進めることができています。色んな選択肢が増えました。

-:いい関係が築けていますね。

山口工場長:協力し合えるところは、どんどん助け合っていければ良いと思います。

-:設備の性能は、以前と比べて良くなったところはありますか?

山口工場長:良くなったのは、より細かく温度管理が可能になりましたね。以前よりもリアルタイムで詳細を確認できますし、温度差が生じない仕組みもつくることができました。他には、人海戦術でしていた工程に機械を使うことで生産性が向上しました。機械も自作しています(笑)。小さい醸造所ですが、生産量は負けないように頑張っています。

-:温度管理がより詳細にできるようになったということは、品質の向上にもつながりましたか?

山口工場長:もちろん。ヒーターとクーラーを使うことで、発酵の状況に合わせた温度管理が可能になりました。通常の設備ですと下がり過ぎた温度を変えるのは難しいですが、この設備なら簡単に調整できます。

-:その辺りは、前職からの経験がとても活きていますね。Facebookでも書かれていましたが、まさしく「石見麦酒はモノづくりの総合メーカー」ですね。他のブルワリーから「こういう設備が欲しい」と要望を受けることもありますか?

山口工場長:ありますね。例えば、最近ですと車に搭載できる冷蔵庫がそうですね。昔は、温度管理の性能も良くなくて、結露ができてしまうことがありました。でも、それはお客様側からしたら失礼な話ですし、きちんと温度管理して届けられるようにしたいと。しかし、冷蔵車を購入すると多額の費用がかかってしまいます。工夫を重ね、1/10の費用で済む冷蔵庫を開発しました。自分たちで開発した設備は、公開してアドバイスや指導もさせてもらっています。

-:これからイベントシーズンに入ります。冷蔵機能がしっかりとしていると安心ですね。

車に積み込むことができる冷蔵庫。付け外しも簡単にできるとのこと。

酵母に特化した新工場を構え、新たなステージに挑戦

山口工場長:今年はまた、面白い仕掛けを試みています。

-:それはなんでしょうか?

山口工場長:新工場ですね。昨年は、ブルワリーにクリーンルームをつくり、顕微鏡を購入しました。新しい野生酵母を使った取り組みもしています。新工場では、酵母の培養に特化していきます。野生酵母や様々な酵母を培養して、ストックしていく予定です。他のブルワリーさんの使っている酵母も希望があれば培養していきたいと考えています。そのためには酒母(酵母)の免許が必要なので、その取得を目指しています。

-:酵母ですか。

山口工場長:まぁ。自分たちが色々と使ってみたいというのが1番なんですけど。果実酒がラインナップに加わったので、色々な酵母でつくってみたいです。

-:さらにバリエーションが豊富になりますね。

山口工場長:そうなりますね。これまでは3種類の酵母だけでつくっていました。なぜかというと素材で味がどの程度変わるのかを把握したかったから。それを今度は、酵母の種類を変えることで、無限大といえるくらいバリエーション豊かにつくれるようになります。

-:今は味や香りの違いをホップで表現するのが流行りですが、石見麦酒は酵母で表現していくと。

山口工場長:酵母の影響は大きいと思います。鳥取大学と共同で研究しているラカンセア・サーモトレランス(以下、ラカンセア)という酵母は、ものすごい特徴があるので面白いビールができると期待しています。酵母の培養から他社にお譲りするところまで自社で行います。

―:酵母を手がけるとなると、今までとは異なる流れが生まれそうですね。

山口工場長:変わりますね。サッカロマイセスセレビシエ(以下、サッカロマイセス)という酵母というは、アルコールを発生させるときにエステル香が出てきます。ラカンセアは、アルコールも発生させますが、乳酸も同時に生み出してくれます。サワービールは、通常乳酸菌を入れますが、醸造所にとって汚染の原因にもなる大敵となる菌です。菌が繁殖しないように火にかけて乳酸菌を殺菌して、酵母を入れるのが通常の方法です。乳酸菌の強さとしてもラカンセアの方が弱く、サッカロマイセスを加えるとラカンセアは発酵を止めてしまうので、酸味の調節がしやすく、汚染のリスクも少ない酵母です。

将来は酒づくりの総合メーカーに?

―:現在、ビアバーなどへの出荷はしていますか?

山口工場長:今は圧倒的にボトルでの外販が多いです。でも今年は、樽での販売量を増やしていこうと言っています。ただ、価格は決して安くはないので、どのくらいいけるか……。島根県内ですと、当社でサーバーを設計・設置をしているので県内の樽販売は増えています。

―:出荷量も増えていくと、人手も足りなくなりそうですね。

山口工場長:そうですね。スタッフは私も含めて3人なので、イベントは最大で2ヶ所しか出られない状態なので、もう1人はほしいです。

―:最後にこの先にやってみたいことを教えてください。

山口工場長:まずは酵母の事業を進めるために酒母免許の取得ですね。それができるようになったら昔からの夢である日本酒をつくってみたいです。日本酒を超小ロットでつくる挑戦をしたい。まぁ、これは法律が変わらないといけないので。

―:実現したら、石見麦酒は「酒づくりの総合メーカー」になりますね。でもそうなったら会社名も変える?

山口工場長:いや、会社名はそのままでいいんじゃないですか(笑)。

―:これからも活躍を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

現在、醸造は山口工場長と安達豊ブルワー(右)の2人で行っている。

石見麦酒のビールがゴールデンウィークに飲めるチャンス! 2019年5月2日(木)~5月6日(月)に神奈川県横浜市上大岡にある京急百貨店で開催される「京急ビアフェスタ in 上大岡」に石見麦酒も出店。「まだ飲んだことがない」という方がいたら飲みに行ってみるのはいかがだろうか。

◆石見麦酒 Data

住所:〒695-0016 島根県江津市喜久志町イ405番地

電話:0855-22-2048

FAX:0855-22-3664

E-mail:i-yamaguchi@iwami-bakushu.com

Homepage:http://www.iwami-bakushu.com/

Facebook:http://www.facebook.com/iwamibeer

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この記事を書いたひと

木暮 亮

ビアジャーナリスト

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは2000種類以上。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

【メディア出演】
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●テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」
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