[コラム,ブルワー]2019.5.25

町に愛され長く楽しんでもらえるBreweryを目指して 【ブルワリーレポート KAISEI HANDMADE BEER GARAPAGO RACING編】

神奈川県小田原市の北に位置する開成町。総面積6.55km2は神奈川県の町として最小のこの地に、2018年4月「KAISEI HANDMADE BEER GARAPAGO RACING(以下、GARAPAGO)がオープンした。 以前よりSNSで亀のロゴとロケーションの良さが気になっており、どんなブルワリーなのか知りたく話を伺いに現地を訪れることにした。

ビールを飲んでみんなが長く元気でいられるブルワリーになりたい

「ブルワリーのコンセプトは、ビールはもちろん料理やお店の雰囲気を含めてお客様に楽しんでもらうことです。ビール文化が楽しいものだということを知ってもらえる場になれば嬉しいですね」と、醸造責任者の長山一隆氏は話す。この「楽しんでもらう」という思いは、ブルワリーの名前にも込められている。

「ガラパゴは、ガラパゴス諸島のリクガメが由来になっています。地上で1番長生きすると言われているリクガメにあやかり、当社のビールを飲んだお客様が長生きしてくれたらいいなという思いから取り入れました」と、楽しく飲んで長く元気にいてほしいという願いを込めている。

GARAPAGOのロゴ。亀のブルワリーとしてイメージが定着していくか?

レーシングについては、「亀が速いとか遊び心からです。〇〇醸造所という名前より楽しいかなと。それとビールの泡の軌跡、レーシングにもかけています。レーシングは、品質が良い状態でないとできないもので、『品質の良いビールを提供しよう!』という決意も含められています」。こうした遊び心も楽しんでほしいと長山氏はいう。

ブリューパブの外観。外からも醸造所の様子が伺える。

オーソドックスなビールで地元の人にクラフトビールを周知していく

「定番ビールは、セゾンとアンバーエールですね。1番最初につくったのがセゾンで2番目がアンバーエール。最初につくった2つを1年間ブラッシュアップし続けた結果、定番として残っています。ここはブリューパブですから料理との相性を考えたときに、白いパンと黒いパンというイメージ。夏にさっぱりとした料理と合わせるならセゾン。肉々しい料理と合わせるならアンバーエールが良いと思います」。

長山氏自身も好きなスタイルだというセゾンとアンバーエールをレギュラービールとし、その他はオーソドックスなスタイルを中心に醸造をしている。流行りのビールはつくらないのかを聞くと「まだクラフトビールに馴染みのない地域ですから流行の最先端をいくようなビールよりもオーソドックスなスタイルを揃えるようにしています」と答える。

セゾン、アンバーエールを中心にオリジナルビールが8種類程度ラインナップされている。

「ここでビールには色んな種類があることを知ってもらって、周りのブルワリーさんにも飲みに行ってくれたら最高です」と、自分たちが入口となり、様々なところへ飲みに行ってほしいと思いを語る。

しかし、ラインナップ以上に意識していることが長山氏にはあるという。

「丁寧につくるということです。そして、それ以上に洗浄をはじめとする衛生管理を強く意識しています」と、ブルワーとして当然のことと思われるかもしれないが、高い品質を提供するために当たり前のことを適切に行うことを大事にしている。

「これはブルワリーを始めるにあたり、お話を聞きにいったブルワーさんたちから言われたことで、ものすごく重要だと教えられました。意識としては、80%は衛生管理ですね」。

醸造設備の一部。1回の仕込みは150L程度。品質が悪くなることがないよう、洗浄は念を入れて行う。

積極的に行動し、ネットワークをつくり醸造を学ぶ

「もともと当社は、隣町でイタリアンのお店をしていまして、そこにソムリエのような役割を担当していました。オーナーが2店舗目を始めるときに『ビールを自分たちでつくって売りたい』と。そこで自分に『つくってみないか?』と言われました。『そんな簡単なことじゃないだろう』と、何度か断っていたのですが、根負けして……」。オーナーの思いがブルワリー設立のきっかけになったという。

開成町は、小田原駅から電車で約10分。駅周辺にもまだ空地が目立つ新興住宅地だ。立地としては恵まれた環境ではないこの地にブリューパブを設けたのは何故なのだろうか?

「この場所を選んだのは、私とオーナーの居住地から近いこと、ブリューパブができる立地ということで開成町を選びました。駅から近いのも理由の1つです。2階のオープンデッキからのロケーションは皆さんに喜んでもらっています。私もすごく気に入っていて、デッキで飲むのは気持ちがいいと思います」と話す。

2階のテラス席。天気が良ければ富士山も望める絶景スポットだ。

飲食店勤務の長山氏。当然、ビールをつくった経験はなく、「都内のブリューパブで研修させてもらったり、様々なブルワリーに電話をして見学やお話を聞かせてさせてもらったりしました。皆さん、隠さずに色々と教えてくださったおかげで、この1年やってこられたと思います」と、感謝の気持ちを語る。

「業界では1番下だと思うので、追いつけるように頑張らないと」。謙虚な姿勢でビールと向き合っている。

この1年間について改めて振り返ってもらうと、「まずは準備期間が大変でしたね。醸造経験も浅かったですし、お店のこともやらなくちゃいけなかったので。オープン後は、多くのお客様に来ていただいたことやビールシーズンになり、在庫が間に合わない状況になりました。嬉しかった半面、『品質が悪いものは出せないぞ』という使命感も生まれました」と、販売するビールは少なくなったが、質の良いビールを飲んでもらえるよう心がけたという。

「フードメニューの野菜は、できる限り地元のものでつくっています。メニューの種類を多めにしているのは、色々楽しんでほしいからです。毎月イベントをやって、そのなかで人気だったメニューをレギュラー化しています。人気のラム餃子もイベントメニューからレギュラー化した1つです。これからもフードメニューもブラッシュアップしていきます」。

街の誇りになるブルワリーに

これからについてどんなことを考えているのかを長山氏に聞いてみた。

「ポートランドへ行ったときに衝撃を受けたブルワリーがあって。『UPLIGHT BREWING』なのですが、行ってみたらすごく美味しくて! 今ではすごくお気に入りのブルワリーです。彼らに出会わなければ、オーソドックスなビアスタイルをラインナップに並べようと思わなかったかもしれません。いつか彼らのようなビールをつくってみたいですね」と、ベルギーやフランスで生まれたファームハウススタイルを基本とし、1つひとつにユニークな個性を出すことを大事にしたビールづくりをしている「UPLIGHT BREWING」のビールが目標だという。

長山氏が目標としている「UPLIGHT BREWING」創始者のAlex Ganum氏。伝統的スタイルに独自の考えを組み込み、オリジナリティ溢れるビールを生み出している。【2018年3月撮影】

「もっと地域のみなさんに楽しんでもらえるようにしていきたいですね。ブリューパブは地元に根付いてこそだと思うので、家族連れでも楽しんでもらいたいです。町の人に誇りに思ってもらえるような場所を目指したい。それと業界の発展に貢献していけるよう若い世代のブルワーも育成していきたいです。若い子たちがものづくりに興味をもって、表現できる場をつくりたいです」と、ブルワリーについて思いを語り、「これからもっとクラフトなお店が増えてポートランドのような町になったらと思います。ブルワリーもあと3つくらい欲しいですよ(笑)。小田原城とかでビールフェスもやってみたいです。あとは審査会で金賞を目指したい。そうなれば、この町のアピールポイントにもなるはずです」と、開発段階の町や地域に色々な可能性をみている。

これを読んで興味をもった方、自然に囲まれた風景を見ながら飲むビールは最高なので、ぜひ足を運んでみてほしい。

ビールに派手さはないかもしれないが、ひたむきにビールと向き合う「GARAPAGO」がどのような形で進化していくのだろうか。また1つ楽しみなブルワリーができた。

明るい雰囲気でお店を盛り上げてくれるスタッフさんと。

◆KAISEI HANDMADE BEER GARAPAGO RACING Date

住所:〒258-0029 神奈川県足柄上郡開成町みなみ1-3-4

電話:0465-44-4552

Facebook:https://www.facebook.com/Garapago-Racing-Kaisei-Handmade-Beer-166706270725376/

Instgram:https://www.instagram.com/garapagoracing/

営業時間:月〜金 15:00〜22:00 LO 土 11:30〜22:00 LO 日 11:30〜21:00 LO

定休日:火曜定休

KAISEI HANDMADE BEER GARAPAGO RACINGブルワリーレポート神奈川県足柄上郡開成町長山一隆氏

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

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【メディア出演】
<TV>
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<雑誌>
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<Web>
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