[コラム]2019.6.15

ホップの産地をビールの里にするための司令塔【Beerに惹かれたものたち 14人目 株式会社BrewGood田村淳一氏】

Beerに惹かれたものたちBrewGood田村淳一氏

田村淳一。この名前を聞いて「遠野醸造」と思い浮かべる人も多いだろう。実際に取締役を務めているので正解である。しかし、彼の仕事はそれだけではない。もともと彼は、ローカルベンチャーを育成する事業を立ち上げるために遠野にやってきた。前職はリクルート社に務め、新規事業の立ち上げや不動産関係の仕事をしていた田村氏がどのようにビールに惹かれていったのか? そして「株式会社BrewGood(以下、BrewGood)」という会社をなぜ立ち上げたのか? 話を聞いてきた。

クラフトビールが盛り上がっているって知らなかった

「大学時代にバーテンダーのバイトもしていたくらいお酒は好きでした。でもビールが特別好きというわけではなくて、最初の数杯で、あとはウイスキーを飲んでいました。遠野に移住してきたのもビールが理由ではなく、地方で起業する人をサポートするところに惹かれてです。こちらに来てから『遠野にはホップがあるんだ』『クラフトビールって盛り上がりをみせているんだ』と初めて知りました」と、遠野に来るまでビール事情はまったく知らなかった。

「2016年の春に遠野に移住してきましたが、それまでほとんどクラフトビールを飲んだことなくて、『今、こんなことが起きているんだ』って。起業支援やカフェの立ち上げなどをしているなかで、クラフトビールやホップに凄く可能性を感じました。『遠野はこの部分にフォーカスするともっと面白くなるのでは』と思いましたし、趣向品で有名なビールという産業に対して、『自分が未来に向けて何かできるかもしれない』と楽しそうに感じました。ビール業界のわけ隔てなく仲間で情報を共有するところにも面白さがあります。仲間がどんどん増えていって、コミュニティとしても心地良くなってきまして、ビール関係に集中しようと2017年の夏くらいから考えるようになりました」とホップやクラフトビールがもつポテンシャルが田村氏をビールの世界に惹きこみ、現在、遠野での仕事はビール関係のみに携わるようになった。

10代のころから関心を抱いた地域活性

田村氏が地域の携わる仕事に興味をもつようになったきっかけは何だったのだろうか?

「和歌山県の大塔村(現 田辺市)という小さな村で生まれ、高校まで過ごしました。大学に進学し、就職活動しているときに『過疎化が進んでいる地元のような地域に貢献できる仕事がしたい』と、リクルートの人事に相談したら『うちで3年くらい頑張って修行してから戻れば』って言われてリクルート社に入職しました。最初の4年間は、地方での新規事業立ち上げに関わり、その後の2年間は首都圏で地場大手不動産会社に対し広告を軸とした経営コンサルティングなどをしていました。事業を通じて何か社会に良いインパクトを与える仕事で楽しかったのですが、『そろそろ自分で何かをしなくては』と、2015年だったと思いますが、震災復興関係のフィールドワークで初めて東北を訪れました。そこから『そろそろ地域に行かなきゃいけない』と色々な地域を見て回り、自分の次のフィールドを探しました」。

事業について説明をする田村氏。

地域を元気にしていきたいという姿勢は、故郷のような過疎化が進む地方の役に立ちたいという思いが根底にあった。地域を巡るなか地元に戻り挑戦することも考えたが、2015年の末に遠野でローカルベンチャーを育成するプロジェクトの見学に誘われる。「来てみたら『面白そうだな』と、1週間後くらいに会社に退職の意思を伝えて4か月後くらいから遠野での活動をはじめました」と移住の経緯を話す。

遠野醸造はビールの里を実現するために重要な拠点

遠野のビールプロジェクトにおいては、ディレクターとして立ち上げの進行を任された。

「遠野に来た時点で街中にブルワリーをつくるプロジェクトとしてスタートすることが大枠で決まっていました。お酒の好きな自分が担当になって、ビールプロジェクトの詳細を練り上げていきました」。

その後、ブルワリー事業を進めるにあたり、仲間を集めるため求人を募集。数多くの応募のなかから醸造を担当する太田睦氏、経営・営業を担当する袴田大輔氏を採用し、醸造所を立ち上げる計画を一緒にスタートさせた。

立ち上げから注目を集めた遠野醸造。しかし、その裏では悩みや葛藤があった。

「遠野醸造の設立時にはビール業界や地元から『小さな街でつくってもビールは売れない』と相当反対されましたよ(苦笑)。クラフトビールの認知度も低い地域です。『どんなに良いビールをつくっても、地域の人たちに飲んでもらえなかったら意味がないよね』と、袴田さんや太田さんもすごく悩んでいました。でも、そこに挑戦をしようと」。

彼らの努力は実を結び、開業1年目は当初の事業計画を超える収益を出すことに成功。その成果もあり他の地域でも「コミュニティに目を向けたブルワリーが少しずつ増えてきている印象があります。最近は、ブルワリー立ち上げの相談を良く受けるようになりました」。

遠野醸造の役割として、「どうやったら日本のビアカルチャーが前進していくかを考えた時、醸造量の多いところがプロダクトで広めていく必要性はもちろんありますが、小さな街でも地域の人が飲んでいる状況がつくれないと、全体的には本当に面白い状態にならないと思っています。アメリカなどの海外のように小さな村でもビールをつくり、地元だけで飲まれるようになるとカルチャー的なところが1つのパーツとしてできるのではないかと。私たちはそこにチャレンジしています」と、ローカルコミュニティブルワリーのお手本になることを挙げている。

「ビールの里構想全体の話でみると、遠野醸造をつくって、『ビールには、こういうコンテンツや役割があったらいいよね』という絵を描きながら当てはめて会社をつくっていて、仲間たちと『仲間が増えたね』と、毎年チームが大きくなっている実感があります。ブルワリーができたことで、色々なことが起こり始めていて良い流れだなと感じています」と遠野醸造は、ビールの里構想を進めていくうえで重要な役割を果たしている。

オープンして1年で成功というのは早いが、多くの人が来店した理由を聞くと「『美味しさ』『ブルワリー以外の楽しさ』と、コミュニティを意識して『地域内、地域外で仲間やファンをつくり続けた』ことが噛み合ったからでしょう。昨年は、遠野醸造の製造したビールの消費は93%が遠野でした。ということは、『外から飲みきた』か『地元の人が飲んだ』しかありません」と田村氏は分析する。「自信になりましたが、人口が少ない遠野の地からみたら、もっと人の多い地域がうらやましいですし、『もっとできるのでは?』って思います」と続ける。

遠野醸造のメンバーと。

成長したことで芽生えた危機感

「『BrewGood』という会社をつくったのは、BEER EXPERIENCE株式会社(※1)や遠野醸造とビールの里構想に関わる人たちの新しい組織が色々できあがっていくなかで、今まで一緒にやってきたメンバーがそれぞれの持ち場に散った形で仕事をする形ができあがってしまうと『このままだとこれで進展せず終わってしまうのではないか?』と私のなかに危機感が湧き上がってきたからです。私たちの真の目的は、ビールの里構想の実現であり、地域や日本のビアカルチャーの前身に貢献することです。その時、全体を誰が指揮したりマネジメントしたりしていくのかと。全体をまとめる組織が必要だと感じたので立ち上げました」。

※1 高度なビール農業の実践とともに人生最高の一杯を楽しむ体験を提供し、日本のビアカルチャーの発展に貢献することを理念にしている。

小さなチームで最初はまとまりやすくても、チームが大きくなり役割が増えていくと個々の負担が大きくなり全体をまとめる力が弱くなる。それを防ぎ全体をつなげていく役割を担うため2018年10月にBrewGoodを立ち上げた。現在も遠野醸造に関わるが、「今は代表の2人が頑張っているので、私の役目はお店で出すカレーを仕込むことと経営会議に参加することくらいです」と笑う。

「『Brew』には、醸造するという意味もありますが、『悪いことを企てる』とマイナスな意味もあります。これに必ず使おうと考えていた『Good』を付けて、ビールを通じて『良いことを企てていく』という意味に。そういったチームが遠野に存在するとなれば、物事がうまく回り始め、きっとビールの里構想が実現すると考えて名付けました」と名前の由来を説明する。

業務は、ビールの里関連のプランニング、マーケティング、ブランディングなどのプロデュースとブルワリーを起点としたハイパーローカルな地域への支援である。実際に遠野以外の地域の支援も始めている。それらを進めることで、ハイパーローカルから日本のビアカルチャーのアップデートに貢献することがミッションだ。

視察にきたツアー客に遠野の取り組みについて説明する田村氏。【2018年8月撮影】

数年後の遠野を見据えて

「遠野の街自体が衰退してしまうとホップ栽培を続けていくことが難しくなるとも思っています。そうなると国産ホップの一大生産地が衰退するということですから、日本のビールの未来に悪い影響があるかもしれません。まず、ここを守らないといけない」とホップ産業を起点にビール産業や他の街づくりを含めて支援をしていく方針だ。しかし、それだけだと日本のビアカルチャーとしては点にしかならないという。「私たちが先陣を切ってチャレンジをして、その成功も失敗も他の地域に共有して支援することで、ローカルでの文脈のビアカルチャーはもっと面白くなっていくと考えています」と語る。

話を聞いていてゴールのない事業だと思った。

「この取り組みは確かにわかりやすいゴールはありません。なので、まずは3年先の中長期のプランを描いています。遠野が面白いのは様々な事業者が集まって、みんなが分担し合いながら行っているところ。チームがきちんと機能できれば色んなことにチャレンジしていけます。今、計画しているのが新しいブルワリーの立ち上げ、ビアツーリズムの多様化、ゲストハウスやホップミュージアムの建設、ビールの里ファンドの設立など。これを実現することができれば、この後は自走していけると思っています。もちろん、やってみて3年後にまた違うプランを立てる必要性があるかもしれませんけど。今はとにかく着実に歩みを進めながら、大きなビジョンを語り続けています。人やお金が少しずつ集まってきていて、夢みたいな話が実現しつつありますが、もっと仲間が必要です」。

ビールだけ。農業だけ。地域だけ。どれか一方が良ければいいという考えはない。それぞれが良い結果を出せる理想の形を実現するためにこれから何をしなくてはいけないのか。常に今ある課題に向き合い、未来を見ている。

現在、BrewGoodは田村氏の他に1名がメンバーに加わり進めている。今後、関わる内容が増えていけば増員もありうるという。「今はいい流れができていますけど、これが3年後と先をみたときにビールの里構想に関わっている人たちがきちんと儲けて事業を継続していけるかが大事。ブランディングをしながら協力してくださるファンを増やしていきたい」と地道に取り組んでいく。「冬の寒さは厳しいですが、夏にホップ畑をみると『ここで頑張って良かったなぁ』と感じます。そういう仲間がもっと増えたら嬉しいですね。

今後はどのように仕事をしていきたいかと聞いてみると「結果的に自分も周りの人も楽しくなる仕事をしていきたいですね。ビールにはその可能性があります。遠野醸造のビールを飲んで楽しいとかビアツーリズムを体験して楽しいとか仲間ができて楽しいとか、そういったことが仕事になるって素晴らしいことだと思います。そして、ビールという大きな産業に対して、自分たちが何かできるなら面白いと感じますよね」。

これからも遠野のビール産業をまとめるキャプテンとして力を発揮してくれることだろう。

田村氏の話を聞いていると「この人なら本当に実現してしまうのでは」という気持ちになる。それだけ内容が具体的であり、説得力がある。理想の形になるまでは遠く険しい道のりだが、数年後、彼のキャプテンシーによって創りあげられるビールの世界が楽しみでならない。8月24日(土)と25日(日)には田村氏が実行委員長をつとめる「遠野ホップ収穫祭2019」が開催される。会ってみたい方は、足を運んでみてほしい。

◆株式会社BrewGood Data

住所:岩手県遠野市中央通り10-15(遠野醸造内)

E-mail: info@brewgood.jp

Homepage:https://note.mu/tamjun

Twitter:https://twitter.com/tam_jun

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この記事を書いたひと

木暮 亮

ビアジャーナリスト

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは2000種類以上。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

【メディア出演】
<TV>
●テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」
<ラジオ>
●TBSラジオ「鈴木聖奈LIFE LAB~○○のおじ様たち~」
<雑誌>
●週刊プレイボーイ ●DIME
<Web>
●SUUMOジャーナル(https://suumo.jp/journal/2019/08/29/166678/)

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