[コラム,テイスティング]2020.12.22

VIVA!PepeRosso!イタリアンが仕掛けるイタリアンに合う麹のビール

日本で感じられる本格的イタリア郷土料理の風

京王井の頭線渋谷駅から4分、そんなアクセス便利な世田谷区池ノ上にイタリアの風が吹いています。
イタリアのマンマ(おふくろ)の作る愛情たっぷりの手打ちパスタを数多く揃え、郷土色豊かな手作り料理が気軽に味わえるイタリアンの名店『ペペロッソ』。

駅から30秒、温かい光が出迎えてくれます。

総料理長は立派な髭をたくわえた今井和正氏。イタリア料理の有名店での勤務を経て、6年前からペペロッソでその腕を振るっています。元々イタリア料理店には珍しく、数十種類のイタリアンクラフトビールを味わえる稀有なレストラン。今井氏のクラフトビールへの愛情は相当なもの。その思いが彼を新たなステージに昇華させたのです。

イタリアンとクラフトビール

「ペペロッソのクラフトビールを作りますよ!」

今井氏からその話を聞いたのは、日本にもコロナの影響が出始めた2020年1月末。
イタリアンクラフトビールを溺愛する彼が作るビールがどんなものか、とても興味を持ちました。

その後、コロナ禍の影響が飲食業界に広がり、場所を変えてスタートしたばかりのペペロッソにとっても甚大な影響が出ているだろうと心配していました。ビールの話も無くなってしまったんじゃないだろうか、そう思い始めた矢先、第一弾完成の知らせ。歓喜して取材に向かいました。

第一弾『麹ビール』三種のご紹介

今井氏が手掛けた第一弾オリジナルビールは『麹ビール』。(麦芽を使わないスタイルなので、厳密にはビールから外れる範疇ではありますが、ここではあえて麹ビールと呼ばせて頂きます。)全て和歌山の気鋭のブルワリー「オリゼーブルーイング」とのコラボレーションによるもの。日本の米ではなく、イタリア米『ヴィアローネナーノ』を使った、恐らく世界初の麹ビール。第一弾にも関わらず、料理とのペアリングを意識して、いきなり三種類をリリースするあたり、その本気度が伝わってきます。まずは、実際にテイスティングさせて頂きました。

Vialone Nano(ABV: 5%)

米と米麹メインで、小麦、ホップ、清酒酵母を使用。大麦麦芽は不使用 。
アロマからはフルーティーな吟醸香、林檎のような香りも感じられます。
口に含むとアタックはジューシー、ミネラルウォーターのような清涼感。
温度が上がると米の旨味が顔を出し始め、軽い酸を帯びた白ワインのよう。
ドリンカブルな飲み口で 野菜や海鮮系の料理にぴったりの仕上がり。

Pomodoro(ABV: 5%)

米、米麹、オーツ麦、ホップ、エール酵母を使用。大麦麦芽は不使用。
更にトマト専門農家「FARM YARD いしの」さんのフルーツトマトを使用。
トマトの青臭さは全く無く、旨味が凝縮されたような味わい。
甘味と酸味のバランスも良く三本の中で最もイタリアンらしさを感じるスタイル。

Vialone Nano tostato(ABV: 5%)

米と米麹メインで、小麦、ホップ、清酒酵母を使用。大麦麦芽は不使用。
焙煎ヴィアローネナーノ麹を使い、肉に合う黒ビールを狙った意欲作。
初めて耳にするアプローチで、フワッと軽いロースティな甘味が面白い。
三種類の中ではまだまだ粗削りながら、オリゼーブルーイングが1年間研究を繰り返した、ロースト麹とロースト米を使用した初仕込みの麹スタウトは今後の進化が楽しみなスタイル。

イタリアンに合う麹ビール誕生秘話

とても興味深いイタリアン麹ビールについて、早速その誕生秘話を伺ってみました。

――なぜイタリアンで自社ブランドのビールを? いつ頃から構想があったのですか?

今井氏:若いころからビールが好きで、そこからクラフトビールに出会い、23歳の時、ベルギービールに嵌りました。そして、イタリアンを志す者として、当然の如くイタリアンクラフトの世界へ。しかし、当時はまだイタリアンクラフトは黎明期でトラピストビールくらいしかない状態。そんな中、ワイン王国イタリアにおいても、ワインが重いといった理由から若者のワイン離れが進み、クラフトビールが流行り始めました。イタリアンクラフトビールの先駆け「Birrificio Italiano」に電話を掛けまくり、かなりの種類があることを知り、そこから輸入代理店としてイタリアンクラフトを扱う中で、次第に自分のビールを作りたいという思いが募っていきました。

麹ビールへの思いをアツく語る今井氏。料理より真剣(笑)

――なぜ麹ビール?

今井氏:イタリアでは栗とかスモモとか伝統的な食材の消費量が減っていて、なかなか陽が当たらない食材に原点回帰する動きがあります。自分がビールを作るなら、同じく原点回帰、日本ならではのビールを作りたいという漠然とした思いがありました。そんな折、オリゼーブルーイングの麹ビールのチラシが入っていて、和歌山のイベントのことを知りました。しかも、偶然一週間後にそのイベントにペペロッソも参加することになっていて、現地で料理に合わせたビールを出すような話になり、そこから現地で会ってトントン拍子に話が進みました。偶然って怖いもので、ペペロッソで使っているイタリア米『ヴィアローネナーノ』を作って貰っていた農家さんも和歌山。これは運命だと思いました。米で行こう、麹で行こうと。

麹ビールのスタイルに合わせて、専用のグラスに注ぎ分ける。

――目指した味わいは?

今井氏:とにかくイタリアを表現したかった。そして勿論、日本人が考えるイタリアのビールであること。麹ビールのプロであるオリゼーブルーイングとの出会いもあり、欲張って三種類の麹ビールに挑戦。ノーマルタイプ、黒ビールタイプ、そして夏をイメージしたもの。ノーマルタイプはほんのり吟醸香があって時間が経つと白ワインのような爽快な味わい。黒ビールタイプは肉にも合うようなメイラード効果やエスプレッソのような刺激的で力強いイメージ。そして、夏と云えばトマト、千葉の仲の良いトマト専業農家の旨味が凄い完熟トマトを使ってみようと考えました。

――難しさについて

今井氏:オリゼーブルーイングさんは麹ビールのプロでしたが、イタリア米は初体験。せっかくなので製造していただいたオリゼーブルーイングさんの奮闘記もお話しさせていただきますね。イタリア米は割れが多く、そのままでは品質が安定しない。篩を掛けてから使うことにしたと。大きさを揃えることでこの問題は解消しましたが、新たな問題が発生。粘りがない特性によって、発酵が思うように進まない。ここは理詰めで解決していってくださいました。特に黒ビールタイプに使った焙煎麹については未知の世界で、何度も試行錯誤して完成に漕ぎ着けていただきました。

三種類の麹ビール。左から、Pomodoro、Vialone Nano、Vialone Nano tostato。

――お客さんの反応は?

今井氏:自信を持って出しているので、思った通り評判は良かったです。特に嬉しかったのは、イタリア人に喜んでもらえたこと。「アメージング!」と英語で大絶賛(笑)

――今後の展開は?

今井氏:第一弾はお陰様で完売。次は更なる改良と、クリスマス向けに新たにインペリアルなものに挑戦したいと考えています。

この取材記事を校正している時に、取材時にはまだ形になっていなかった第二弾の麹ビールがようやく完成したとの知らせが届きました。クリスマスイヴの12/24にお披露目のようです。

Xmasに向けて登場した新作、Beeno rosso。

ワクワクするようなブルワーズノートも届いています。

原材料:米麹、ワイン、米、ホップ、小麦
酵母:協会九号酵母
アルコール度数:4%
米にはすべてヴィアローネナーノを使用 日本の米と異なる後味のすっきりとした酒質になるのが特徴のお米。米麹と米で日本酒のような味わいを表現した前作Vialone Nano Birraをベースにしつつも、清酒の仕込みの際に清酒を使用するという貴醸酒という手法を取り入れ、今回は清酒ではなく製造途中に赤ワインを加えました。 仕込みの際の赤ワインのバランスが重要で、米麹の香りもワインの香りもどちらも感じられる事を目指しました。 発酵することで融合したワインと米麹ビールは、カクテルなどでは表現できない柔らかな味わいとなりました。葡萄由来の酸味、ふくらみのある香りと米麹の優しい香りの出会い。イタリアと日本の酒の融合をぜひお楽しみください。

完売する前に、美味しいイタリアンを食べながら、是非第二弾の麹ビールを味わってみてはいかがでしょうか。
筆者も早速予約したいと思います。

勿論、イタリア料理に対しても真剣。和気藹々と絶妙なチームワーク。

◆今井和正氏略歴
株式会社ペペロッソ 総料理長 36歳
高校卒業まで千葉県四街道市にて育つ。
東京国立エコールキュリネール辻調理師専門学校入学のために18歳で上京。
卒業後、広尾にあるトスカーナ料理店イルブッテロにて自身のイタリア郷土料理の歴史をスタートさせる。 約5年半愉快なイタリア人と共にイタリアのトスカーナの食文化とは何たるかを学ぶ。
その後、イタリア全土の食文化に魅了されて、トスカーナ料理専門店からイタリア全土の郷土料理店「インカント」にてより深くイタリア食文化に対して言及する。約5年半、師である小池教之氏のもとで学びを続けた後にイタリア郷土料理の裾野を増やすために独立。
30歳の時にかつて三軒茶屋にあった(現在は池ノ上)ペペロッソの総料理長に就任。現在は料理人でありながらビール醸造所の知人と共にイタリアのクラフトビール文化を詰め込んだオリジナルビール製作の活動に取り組んでいる。

 

【レストラン情報】
店名:イタリア郷土料理ペペロッソ Pepe Rosso
住所:〒155-0032 東京都世田谷区代沢2丁目46−7 エクセル桃井 1階(京王井の頭線池ノ上駅から徒歩0分)
電話番号:03-6407-8998
営業時間:
テイクアウト 11:00~24:00
モーニング 11:00~12:00(L.O 12:00)
ランチ 11:30~16:00(L.O 15:00)
ディナー 18:00~24:00(L.O 23:00)
定休日:日曜日と第一月曜日
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
店舗URL:https://www.peperosso.co.jp/

 

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

Phantom Zebra

ビアジャーナリスト/ビアジャッジ/出張料理人

福岡県生まれ、饂飩県育ち、東京で麦酒覚醒
30年間趣味で饂飩を打ち続けてきた元サラリーマン
現在、出張料理人 Phantom Zebra として活動中
ビール × 食 × ? = 楽しさ!を追及
ビアジャッジを取得し、日々ビールを勉強中
イベリア半島、映画、ラーメン、スパイス、行脚
城、滝、高層ビル、ドライブ、動物、虫、等々
大好きなことが一杯で体が三つ欲しいです
特技、麦芽カス饂飩、麻婆豆腐、カレー、神出汁
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