[イベント]2010.11.29

不幸な出会いは避けるべきだ

先日、ある会合の食事会に参加した。
食材は、蟹や寒ブリ、クロアワビなどを使った豪華な和食だった。
そして、供じられたのは、ピルスナー(淡色系下面発酵ビール)だった。

残念ながら淡色系下面発酵ビールは魚介類との相性があまり良くない。
なぜか?
ビールの中にはアルコールと二酸化炭素以外に多彩で複雑な香味成分が含まれている。これらは、香りや味わいとして私達を楽しませてくれるのだが、量が多いと人間が不快に感じるものもある。
その中のひとつに硫黄系の不快臭がある。これは、「蟹を食べた後に殻や甲羅を放置した臭い」と表現される。

実は、このフレーバーは淡色系下面発酵ビールには微量ながら含まれている。
もちろん、日本の大手ビール会社の造るビールには閾値を超える硫黄臭は残っていないので、普通に飲んでも不快には感じることはない。私は常々、日本の淡色系下面発酵ビールは世界でもトップクラスのクォリティーだと思っている。

しかし、蟹や生魚や貝などの魚介類とともに口にするとどうなるだろうか? 
本来は感じないほど微量の「蟹を食べた後に殻や甲羅を放置した」硫黄臭が”かけ算”となってしまうことがある。
皆さんも、刺身とともに淡色系下面発酵ビールを口にして、生臭さく感じた経験があるのではないだろうか?

このような組み合わせは、最も不幸なことであり、ビールにも料理にも悪い印象を与えてしまう。本来は素晴らしい味わいである料理とビールなのに、「どちらも不味い」と思ってしまうのだ。

私の今までの経験では、魚介類には濃色から黒色の下面発酵ビールか上面発酵ビール全般のほうが素晴らしいペアリングであり、素晴らしいハーモニーを奏でる。
今回の料理もシュバルツやスタウト、ドライホッピングされたペールエールやスパイシーなベルジャンエールなどで楽しめば両者の魅力は何倍にも広がったと確信している。

ビールと料理を組み合わせることは今後のビール文化発展のために必要不可欠のテーマである。
その際、幸福なベスト・ペアリングを考えることが最も重要だが、まず第一歩として「不幸な出会いを避けるという考え方も必要だ」と感じた食事会であった。

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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